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1話~19話
9:「音楽」 開演
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「お先に失礼します」
階段を軽快に踏み鳴らして降りると、タイムカードに打刻する。そのままの勢いでエントランスまで行くと、ワンテンポ遅れて自動ドアのモーターが唸り音を上げ半分ほど開けた隙間をすり抜け雑踏の中に飛び込んだ。
そう、今日は金曜日だ。今日の為に一週間がある。金曜日だけは一番に帰る僕の事に同僚は興味があるみたいだけど、それは内緒だ。でも一度だけ答えた事がある、コンサートに行くと。
駅に向かう道は仕事帰りの人々で溢れかえり、ビジネスシューズやヒールの音が響き渡る。間を縫う様にランニングシューズが駆け抜けていく。荷物を軋ませながら走るトラック。バイクの甲高い音もすり抜けていく。
地下道に入ると、低い音に包まれる。地下道の換気扇の音、地下水を汲み出すポンプの音、地下鉄の走る音、人の声、地上を走る車の音が入ってくる。そして、低い音だけがいつまでも残り幽霊の嘆きの様な音になっている。
改札機にカードをかざすと確認音が鳴る。あちらでも鳴る、こちらでも鳴る。たまに警告音も鳴る。でも、直ぐに低い音に搔き消されてしまう。エスカレーターの車輪の擦れる音とリズミカルな音に乗るとホーム階に到着する。ホームは亡霊のうめきの様な低い音と一緒に風が吹いている。無機質な女性の声と無機質な男性の声が電車のアナウンスをしている。そして、亡霊のうめきが一段と大きくなると轟音の塊が目の前で停車した。
車内では、イヤホンから漏れ出る音、架線をこするパンタグラフの音、鉄の車輪と鉄のレールが擦れる音、トンネルと車体の僅かな隙間を風が捩れながら抜けていく音。
駅に着けば、車内のアナウンスの声とホームのアナウンスの声、階段を昇る音、改札の確認音、駅前に留まる人々の声とは言い難い音の塊、店外まで漏れ出る売り込みの声、スクランブル交差点の音、自転車の音。
自宅の近くでは、バスの重い音、コンビニの配送トラックの音、原付バイクの甲高い音、室外機のうなる音。そう言えば、テレビの音、ピアノの音、家族団欒の音は聞かなくなった。街の音も変わっていくんだ。
あと、もう少し。自宅が見えて来た。
自宅のガレージの電動シャッターがきしみ音を上げながらゆっくり開いていく。愛車のトランクにはアウトドアチェア、助手席にはコーヒーを淹れたポット。
「さぁ、出発だ」
街中の細い道から国道に出ると、信号の度に巨体を軋ませて停まるトラック。そして、地面から岩を引きはがす様に動き出して行く。暗黙の了解の様にファミリーカーもトラックも軽自動車もスポーツカーも列をなして走って行く。その間をバイクがけたたましい音を上げすり抜けていく。
高速に入ると車内でアナウンスが流れる。本線に入りスピードを上げていくと周りの音が遮断されていく。今ここには愛車のエンジン音とタイヤが路面を掴む音しかない。
そして・・・、
あぜ道を踏みしめる様にゆっくり進む。小石同士が押しつぶされて擦れて、軋む音を上げる。いつもの場所に愛車を止めた。
街の雑踏も、エンジンの音もない静寂が訪れた。見渡す限りの青田。風の動きが目に見える、葉先の揺れが表しているからだ。
アウトドアチェアに腰かけると、ポットからコーヒーを注いだ。
暫くすると静寂に慣れた耳に音が溢れてくる。
「さぁ、今日は何を聴かせてくれる?」
階段を軽快に踏み鳴らして降りると、タイムカードに打刻する。そのままの勢いでエントランスまで行くと、ワンテンポ遅れて自動ドアのモーターが唸り音を上げ半分ほど開けた隙間をすり抜け雑踏の中に飛び込んだ。
そう、今日は金曜日だ。今日の為に一週間がある。金曜日だけは一番に帰る僕の事に同僚は興味があるみたいだけど、それは内緒だ。でも一度だけ答えた事がある、コンサートに行くと。
駅に向かう道は仕事帰りの人々で溢れかえり、ビジネスシューズやヒールの音が響き渡る。間を縫う様にランニングシューズが駆け抜けていく。荷物を軋ませながら走るトラック。バイクの甲高い音もすり抜けていく。
地下道に入ると、低い音に包まれる。地下道の換気扇の音、地下水を汲み出すポンプの音、地下鉄の走る音、人の声、地上を走る車の音が入ってくる。そして、低い音だけがいつまでも残り幽霊の嘆きの様な音になっている。
改札機にカードをかざすと確認音が鳴る。あちらでも鳴る、こちらでも鳴る。たまに警告音も鳴る。でも、直ぐに低い音に搔き消されてしまう。エスカレーターの車輪の擦れる音とリズミカルな音に乗るとホーム階に到着する。ホームは亡霊のうめきの様な低い音と一緒に風が吹いている。無機質な女性の声と無機質な男性の声が電車のアナウンスをしている。そして、亡霊のうめきが一段と大きくなると轟音の塊が目の前で停車した。
車内では、イヤホンから漏れ出る音、架線をこするパンタグラフの音、鉄の車輪と鉄のレールが擦れる音、トンネルと車体の僅かな隙間を風が捩れながら抜けていく音。
駅に着けば、車内のアナウンスの声とホームのアナウンスの声、階段を昇る音、改札の確認音、駅前に留まる人々の声とは言い難い音の塊、店外まで漏れ出る売り込みの声、スクランブル交差点の音、自転車の音。
自宅の近くでは、バスの重い音、コンビニの配送トラックの音、原付バイクの甲高い音、室外機のうなる音。そう言えば、テレビの音、ピアノの音、家族団欒の音は聞かなくなった。街の音も変わっていくんだ。
あと、もう少し。自宅が見えて来た。
自宅のガレージの電動シャッターがきしみ音を上げながらゆっくり開いていく。愛車のトランクにはアウトドアチェア、助手席にはコーヒーを淹れたポット。
「さぁ、出発だ」
街中の細い道から国道に出ると、信号の度に巨体を軋ませて停まるトラック。そして、地面から岩を引きはがす様に動き出して行く。暗黙の了解の様にファミリーカーもトラックも軽自動車もスポーツカーも列をなして走って行く。その間をバイクがけたたましい音を上げすり抜けていく。
高速に入ると車内でアナウンスが流れる。本線に入りスピードを上げていくと周りの音が遮断されていく。今ここには愛車のエンジン音とタイヤが路面を掴む音しかない。
そして・・・、
あぜ道を踏みしめる様にゆっくり進む。小石同士が押しつぶされて擦れて、軋む音を上げる。いつもの場所に愛車を止めた。
街の雑踏も、エンジンの音もない静寂が訪れた。見渡す限りの青田。風の動きが目に見える、葉先の揺れが表しているからだ。
アウトドアチェアに腰かけると、ポットからコーヒーを注いだ。
暫くすると静寂に慣れた耳に音が溢れてくる。
「さぁ、今日は何を聴かせてくれる?」
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