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40話~59話
48:「着地」 地雷。そして、託された希望
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右足の靴底が捉えた硬い物体、微かに聞えたスイッチ音。
今、自分の置かれている状況の全てを理解した。国境までの二百メートル、追っ手を撒いたのではなく果てしなく広がる地雷原に追い込まれたのであった。
この幅五百メートルの地雷原は国際社会には国防を謳っているが住民が逃げ出さないようにするために敷設したものだった。
右足に体重を掛けながら足元を見ると、やはり地雷だった。しかも、もっとも普及している対人地雷だった。このタイプは埋もれている側に印字してある型式を見なければ、子供の体重でスイッチの入る物、片足で済む物、命を奪う物。どのタイプか分からない。地雷の陰湿なところは、意図的に殺さないと言う事だった。負傷者がいる事で恐怖が知れ渡り、死亡者が出る事で近づく者がいなくなる。地雷の真の恐ろしさである心理的ダメージによる支配。今の時代は鉄条網など必要なくなった。
子どもであれば、本能的に後ずさり爆発している。二つ目の地雷を考える事もなく逃げ帰る事が出来る。大人の場合は質が悪い。踏んだ事に気がつき立ち止まってしまう。そして、恐怖の泥沼に引きずり込まれてしまうのであった。
この土地の噂は以前から囁かれていた。その土地の留学生の両親が音信不通になった。両親を探しに帰国したら彼も音信不通になった。隣国の貿易商が逮捕された。新区画には別の言語の看板が並んでいる。旧地区が開発目的で破壊され住民が行方不明になっている。
仲間内では誰が最初に真実を暴いて来るのかが話題になっていた。しかし、絶望的現実が家族や友人にまで伝わると、
「大切な友人を失う俺たちの気持ちを考えて事があるのか」
「写真一枚で世界を変えられるなんて思い上がりもいい加減にしろ」
「住民の自己責任だろ? そんな事に何の意味があるんだ」
でも、弱者の小さな声を拾うのが報道を担うものの使命。プロとして危険に対する備えは万全で立ち向かえば大丈夫。
そう、危険に対する備えは万全の筈だった。隣国に渡航した後、エージェントと入念な打ち合わせを行った。幾つかある地雷原の情報も得ていた。潜入先の協力者も得ていた。それなのに、この様だった。
命を懸けて使命を果たす覚悟で潜入したのに、身動きが取れない。このフィルムに収めた真実が何万人もの命を救うのに、命がけで協力してくれた住民がいるのに、足を失った子供に託されたのに、命を落とすかもしれない、足が吹き飛ぶと思うと動けない。
覚悟を決めていたのに、涙しか出てこない。来た事さえ後悔している自分がいる。なんていい加減な覚悟だったのだろう。先進国の安全の中での覚悟なんてこの程度なのかもしれない。家族や友人に切った啖呵など、この程度だったのかもしれない。
でも、圧倒的な力の前に尊厳を剥奪され、死にしか希望を見いだせない彼らから託された希望に比べれば、足を失う痛みなど・・・
車の音が聞こえる。
警備隊が笑いに来たのかも知れない。
「おい、生きているか? 爆発音が聞こえて場所が分かった。遅れてすまん」
その声は、エージェントだった。
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