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40話~59話
56:「庭」 スケッチブック
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「たしか、この辺に夏物を詰めた段ボールをしまったはず・・・」
袋詰めの古着をどかすと、見覚えのない段ボールがあった。中腰のまま持ち出そうとすると重くて持ち上がらない。
「腰が・・・・」
気持ちを切り替えて慎重に引き出す。この重さ只者ではない、私の力で動くところを見ると残念ながら金塊ではない様だ。そうなると札束に違いない。うちの押し入れだから諭吉はないとして英世か。記憶にないほどだから漱石もしくは博文もありそうだ。
期待を膨らませて段ボールのテープをはがすと、出てきたのはスケッチブックだった。
「あ! なつかし~」
中学の頃はよく絵を描いていた。公園に行って描いたりもしていたけど、受験勉強に行き詰まると空想の庭を描くようになっていた。公園のような大きな庭、ベランダのプランターのような小さな庭、同じ庭を十二か月分描いたりもしていた。
考えるだけで楽しくなり、ノートの隅に描いたりもしていた。そして、大きくなったら素敵な庭のある家で生活したいと思っていた。いや自分の庭でなくても公園の管理でも良いと思っていた。そんな夢もあったが工場の事務の仕事に安アパートで独り住まい。窓を開けると隣の家の壁しか見えない。
段ボールからスケッチブックを一冊抜き出すと、ページを開いてみる。
「あ、なつかしい・・・・、下手だな」
イングリッシュガーデンのシンボルツリーとして存在感を示すオークの巨木。アーチ状に飾るクレマチス。料理のために植えてあるローズマリーに午後のひと時を楽しむカモミール。
「色々な種類があるけど、紫色の花を咲かせるクレマチスが好きなんだよな」
別のスケッチブックを開いてみると、日本庭園が描かれていた。枯山水に小さな滝のある庭、鹿とおぼしきものが描かれている庭。修学旅行の帰りの新幹線で描いていたスケッチブックだった。あの頃は夢を見ていれば、叶うと思っていた。
全部のスケッチブックを段ボールからだすと通し番号が打ってあるのが分かった。順番に並べていくと番号のないスケッチブックが出てきた。欠番の数だけ番号のないスケッチブックがあるのは、単に振り忘れなのかもしれない。描かれている絵を見れば、どの欠番のスケッチブックか分かるはずだ。
ページを開いてみると、荒れ地が広がる風景だった。
「え? こんな絵を描いた事があったかな・・・・」
悪寒が走る。
他のページを開くと、
砂漠が広がっている。 黒く塗りつぶされている。
茨に覆いつくされている。
「こんな絵、描いた事がない。 こんなの私の絵じゃない。 こんなの私の夢じゃない!」
黒い影が、大きな鎌で花を刈り取っている・・・・
そのスケッチブックを部屋の隅に投げつけた。
「私の夢を奪わせない!」
残りのスケッチブックに覆いかぶさった。
~ * ~
目覚ましタイマーで点いたテレビが、今日の天気を解説している。
「こんなところで寝ていたなんて・・・・」
沢山のスケッチブックの上に覆いかぶさるように寝ていた。開いていると色々描いてあった。
「思い出せない。昨日、飲んでないと思うけどなんでこんなに散らかっているのか?」
丁度良くあった段ボールに詰め込んでいく。
「ゴミの日に出すか。それにしても、こんなものを持ってくるなんて何考えているんだ。私」
通勤途中にある広い庭のある家。垣根に咲く紫の花。
「クレマチスの花の季節か」
急に涙が溢れてきた。
「どうした私・・・、花粉症は終わったぞ」
断片的に夜の事が蘇ってくる。
「そうだ。私の夢を奪わせない」
クレマチスに誓うと、一歩を踏み出した。
「頑張れ、私」
袋詰めの古着をどかすと、見覚えのない段ボールがあった。中腰のまま持ち出そうとすると重くて持ち上がらない。
「腰が・・・・」
気持ちを切り替えて慎重に引き出す。この重さ只者ではない、私の力で動くところを見ると残念ながら金塊ではない様だ。そうなると札束に違いない。うちの押し入れだから諭吉はないとして英世か。記憶にないほどだから漱石もしくは博文もありそうだ。
期待を膨らませて段ボールのテープをはがすと、出てきたのはスケッチブックだった。
「あ! なつかし~」
中学の頃はよく絵を描いていた。公園に行って描いたりもしていたけど、受験勉強に行き詰まると空想の庭を描くようになっていた。公園のような大きな庭、ベランダのプランターのような小さな庭、同じ庭を十二か月分描いたりもしていた。
考えるだけで楽しくなり、ノートの隅に描いたりもしていた。そして、大きくなったら素敵な庭のある家で生活したいと思っていた。いや自分の庭でなくても公園の管理でも良いと思っていた。そんな夢もあったが工場の事務の仕事に安アパートで独り住まい。窓を開けると隣の家の壁しか見えない。
段ボールからスケッチブックを一冊抜き出すと、ページを開いてみる。
「あ、なつかしい・・・・、下手だな」
イングリッシュガーデンのシンボルツリーとして存在感を示すオークの巨木。アーチ状に飾るクレマチス。料理のために植えてあるローズマリーに午後のひと時を楽しむカモミール。
「色々な種類があるけど、紫色の花を咲かせるクレマチスが好きなんだよな」
別のスケッチブックを開いてみると、日本庭園が描かれていた。枯山水に小さな滝のある庭、鹿とおぼしきものが描かれている庭。修学旅行の帰りの新幹線で描いていたスケッチブックだった。あの頃は夢を見ていれば、叶うと思っていた。
全部のスケッチブックを段ボールからだすと通し番号が打ってあるのが分かった。順番に並べていくと番号のないスケッチブックが出てきた。欠番の数だけ番号のないスケッチブックがあるのは、単に振り忘れなのかもしれない。描かれている絵を見れば、どの欠番のスケッチブックか分かるはずだ。
ページを開いてみると、荒れ地が広がる風景だった。
「え? こんな絵を描いた事があったかな・・・・」
悪寒が走る。
他のページを開くと、
砂漠が広がっている。 黒く塗りつぶされている。
茨に覆いつくされている。
「こんな絵、描いた事がない。 こんなの私の絵じゃない。 こんなの私の夢じゃない!」
黒い影が、大きな鎌で花を刈り取っている・・・・
そのスケッチブックを部屋の隅に投げつけた。
「私の夢を奪わせない!」
残りのスケッチブックに覆いかぶさった。
~ * ~
目覚ましタイマーで点いたテレビが、今日の天気を解説している。
「こんなところで寝ていたなんて・・・・」
沢山のスケッチブックの上に覆いかぶさるように寝ていた。開いていると色々描いてあった。
「思い出せない。昨日、飲んでないと思うけどなんでこんなに散らかっているのか?」
丁度良くあった段ボールに詰め込んでいく。
「ゴミの日に出すか。それにしても、こんなものを持ってくるなんて何考えているんだ。私」
通勤途中にある広い庭のある家。垣根に咲く紫の花。
「クレマチスの花の季節か」
急に涙が溢れてきた。
「どうした私・・・、花粉症は終わったぞ」
断片的に夜の事が蘇ってくる。
「そうだ。私の夢を奪わせない」
クレマチスに誓うと、一歩を踏み出した。
「頑張れ、私」
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