時空モノガタリ

風宮 秤

文字の大きさ
61 / 62
60話~短編

61:「時空」 空間圧縮装置

しおりを挟む
「報道機関の皆さん、本日は空間圧縮装置の発表にお集まり頂きありがとうございます。お手元の『空間圧縮装置の開発と展望』と題した資料に沿って説明を行い、最後に質問を受け付ける予定となっています」
 トラックほどの大きさの実験装置が並ぶ実験棟に、溢れるほどの報道陣が詰めかけていた。
「それでは、空間圧縮装置を開発された石塚尊教授、宜しくお願い致します」
 室内の照明が落とされると、紹介を受けた石塚教授は報道陣が並ぶ後方から現れスポットライトを受けて立っている。舞台俳優の登場のような趣向に苦笑いする者もいたが、石塚教授は苦笑いに向けて手を振りそれに応えていた。
 そのパフォーマンスを遮るように置かれたパーティションの陰に隠れた瞬間、10メートル先のパーティションの陰から現れた。パーティション側の報道陣の間に緊張が走った。今、目の前で起きた事が理解できないからだ。

 石塚教授は、状況に気がつかない振りをしたまま壇上に上ると会場を見わたした。
「本日は、空間圧縮装置の記者会見にお越し頂きありがとうございます。空間圧縮理論は今から30年前の2105年に発見されました。その実証として進めてきた実験装置が完成したので社会に報告したいと思います。空間圧縮理論から始まり最後は空間圧縮の実演を行います。大学の講義のようになりますがご容赦ください。
 さて、空間の圧縮は歪みと言う形で天文学では以前より観測されていました。百年ほど前からは重力波と言う形で地球に到来する空間の歪みの観測も始まっています。この話は高校の教科書にも出てくる現象です。重力波の観測原理は、x軸とy軸を往復した光を重ねた時に干渉縞の出方を観察する事で重力波つまり空間の歪みの飛来方向と強さを計算する事が出来ます。
 ここでのポイントは空間が歪んで縮んでいる状態だと早く光が到達する事です。縮んでいる空間内での1メートルは1メートルですが、外から観測すると1メートルより短く見え、短くなった分速く進む事になります。光に着目すると、光速は絶対速度を持っているので通常空間で秒速30万キロメートルの光が、空間が二倍に圧縮されていればその空間内では秒速30万キロメートルでも通常空間から観察すると秒速60万キロメートルになります。そう説明すると、光速に近いロケット内部で進行方向に光を放った時の速度の話と同じと思われますが結論から言うと別になります。これはローレンツ変換になるので、光速を超える事はないのです。
 さて、三次元のこの世界では、先ほどの通り歪みと言う形だと観測が可能です。しかし、均等に圧縮された空間だと観測者も同じ空間にいるために観測できなくなります。これは基準軸x軸y軸z軸の軸自体が可変するためです。ゴム紐で長さを測る事と同じ事になります。この軸が可変する世界とは四次元に相当する世界と考えて良いものです。
 そこで話が最初に戻ります。三次元の世界にあって四次元世界に影響を及ぼす現象は何か? それが重力です。物理学者の間では重力の弱すぎる力が問題となっており別の次元に漏れ出ているのではなないかと考えられていますが、そこにこの空間圧縮理論の解があった訳です。それにより開発された重力発生装置を応用して今回の空間圧縮装置に至りました」
 石塚教授の合図でパーティションが退かされた。
「これが開発した、ゲートウェイ式空間圧縮装置です。本日は空間を20倍に圧縮しています」

 10メートルを隔てて直径3メートルのリングが向かい合っていた。圧縮された円柱状の空間を横から見ても、その向こう側にある実験装置群が普通に見えていた。リング越しに向こう側を見るとその空間だけ10メートル近づいて見えていた。
「圧縮空間を横切るとどうなりますか?」
 記者が質問した。
「では、やってみましょう」
 石塚教授は圧縮空間を横切るようにボールを投げた。向こう側で構えていた学生がキャッチした。
「圧縮空間の中から外に出るとどうなりますか?」
 石塚教授は質問の記者にボールを投げ渡し、学生に合図した。
 学生はキャッチャーのポーズをとり、記者に投球を促した。
 記者は頷くと、振りかぶり直球を投げた。ボールがリングに入りキャッチャーめがけて圧縮空間を斜めに抜け出た瞬間、

 爆音とともに会場の窓ガラスが粉々に割れ、記者が持っていたタブレットの画面も割れた。
 圧縮空間で時速100キロメートルの速球が、通常空間に出た部分は時速2000キロメートルで音速を超えたからだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...