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日食
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新月の観測は地球の昼の面にしか出来ない。しかし、大気の乱反射により月面の観測が出来ない。観測の難しさと必要性の低さから新月の観測はされてこなかった。近年、月探査機を周回させる事で月の夜の部分の観測の機会が増え新月の時の観測データの蓄積も進んだ。その結果、地球からの放射熱が月の夜の地表温度に影響を及ぼす事が分かった。観測の有用性が得られると宇宙ステーションから新月の観測も行われるようになった。
年に数回起きる日食で地球からの放射熱量が変わる。それに伴う月面の温度変化に関心が高まっていた。
今年の日食は、宇宙ステーションが月の影に入るタイミングがあり地上から昼間の宇宙ステーションを観察出来るチャンスでもあった。また、宇宙ステーションからは地上に広がる月の影を正面から観測出来、普段の新月とは違う地表温度を観測出来るチャンスでもあった。
ライブで配信されるのは地表の映像、日食の映像、月の夜の部分の映像の三本立てだった。天文愛好家と言え三択の中で月の夜の部分の映像を見る者はいなかったがネット民の中には『何か』を期待する逆張りもいた。そして、『何か』を期待している者には『何か』が見えるようになる。
『月に龍がいる』
一つの呟きに、ネット民が食いついた。月面のライブ映像の視聴者数はうなぎ上りになったが反応は等しく『釣られてしもうた』だった。が、直ぐに呟き時間前後の録画映像が出回った。そこには確かに数秒のだけ薄らと仄かに龍の姿が浮かび上がったかもと言える映像だった。北斗七星が大熊座のしっぽ、北極星が小熊座のしっぽと同じぐらいに不確かな姿だった。確かに龍が見えると呟くのが三割ぐらいいたが七割は否定的な意見が並んだ。ネット民の民意が固まりかけた時に映像職人がコントラストを調整した映像を流した。直ぐに民意が動いた。確かに龍が見えると。
ネット民は歓喜して犯人捜しを始めた。ナスカの地上絵を上回るスケールの龍の絵。ギネス認定間違いない偉業。数時間後には犯人が特定された。お決まりのエイリアン説もでたがジェネレーションギャップの壁が広がりを阻止した。
太陽光を太陽にお返しするひまわりシステムなら軸線上にある月面に反射光が当たる。設置の規模を考えれば他者に出来るはずがないと結論になった。地球上のひまわりシステムが龍の形になるような配置なのか? 疑問点がゼロではなかった。声明がでれば解決すると公式声明を求めるうねりが高まった。
ネット民の求めに直ぐに応じる必要はない。期待を高めてから応じる方が喜ばれる。と言って忍耐力のないネット民が他の話題に気持ちが動く前に出す必要があった。ひまわり計画サイトと映像投稿サイトにリチャード・ワンのコメントが出たのは翌日になってからだった。リアタイのネット民の情報が地球を一周するのを待ったからだ。
映像は深々と頭を下げているリチャード・ワンの姿で始まった。
『世間を騒がした事をお詫び申し上げます。皆既日食のニュースを知りました。学校では日食観察のフィルムが配られる話。天文愛好家が日食観察の為に海外遠征する話。どれもこれも心が高鳴る話題ばかりでした。僕の参加したい思いをスタッフが叶えてくれました。月に浮かぶ龍の姿を見た時、子どもの様に歓喜しました。しかし、世間で騒がれている事を知り我に返りました。賛否があると思いますがお詫びに、僕たちが入手した皆既日食時の月面映像を添付します』
再度深々と頭を下げるリチャード・ワンの姿の後に、太陽が映り込まない様にズーミングした月面画像が映し出された。太陽が映り込まない様に月面を画面の中心からずらしてあったので隅に星が映り込んでいた。三十秒ほどの映像の中間付近で湧き上がるように龍の姿が現れると五秒ほどで突如消えた。
リチャード・ワンの皆既日食映像はライブ配信されていた月面映像より画質が良かった。龍のアングルは宇宙ステーションの物と比べると傾いて見えた。違和感を覚えるネット民がいた。三十八万キロメートル先に龍を浮かび上がらせられる程にひまわりシステムの反射鏡の精度が高いのか。リチャード・ワンの皆既日食映像のオリジナルは宇宙ステーションの撮影か? 核心を突くような投稿が出たが、皆既日食の話題は終わっていた。
~・~・~
ドクター・ワンに上層部からの電話があった。
「先延ばしになっていた衛星打ち上げが最優先に変更になった。来月予定の観測衛星を外して我々の人工衛星を打ち上げると言ってきた。百ページの報告書は一分の映像に如かずのようだ」
エンジニア担当は呆れた様子だった。計画は計画通りに進める事で最大の効果を発揮するものを、上層部の政治的判断で説明もなく後回しにされ、今度は説明もなく最優先にされる。
「新月の度に天宮宇宙ステーションで観測して貰ったデータを上げていましたよね? それはスルーして龍の絵に感動するとは・・・・。言葉は呑み込んでおきます」
全員の気持ちはエンジニア担当と同じだった。
「最優先のお墨付きを最大限に利用しようと思う。関係部署への周知を依頼してある。これで軌道高度別のユニット数を確定が出来るようになる」
ドクター・ワンは反射面側に軌道をずらす大気の層がある事を心配していた。
「大丈夫です。各人工衛星の軌道安定性は確認済みです。重力の影響での浮き沈みも確認済みです。後は演習を通して連携の向上と不測の事態の確率を減らしていきます」
エンジニア担当は部署間の連携の方を心配していた。
どちらの心配も先延ばしになっていた衛星が軌道に投入されれば解決できる。その為に耐熱タイルで表面を覆い、熱電対を方眼上に取り付けリアルタイムでデータ送信が出来るように送信アンテナは静止衛星を向くように取り付けられていた。
「長期の出張になるが宜しく頼む」
~・~・~
ドクター・ワンはフォローアップの為に辺境に出張していた。中東諸国の防衛装備品の支援要請は関係者が想像する以上に国益に帰するからだ。
支援する防衛装備品は前世紀の旧式の物ばかりで電子制御も何もない黒煙を撒き散らすディーゼルエンジンの戦車。命中精度が半径数百メートルの慣性誘導ミサイル。高度にネットワーク化された防衛システムを突破する能力がない無害な防衛装備品ばかりである事が重要だった。
月面の龍の効果はここにも表れた。我々の真意を上層部が理解していた。旧式防衛装備品のメンテナンスを要請国の人員でするように手配がされていた。彼らが真意を理解しなくても即戦力の形で譲渡される事を歓迎した。操作パネルの表示は全て書き換えられた。部品の交換方法もマンツーマンで指導が行われた。旧式防衛装備品に対する不満は残ったが動かない物を押し付けられる不安は消えたようだった。
旧式防衛装備品の管理を担っていた部署が怪訝に思っているようだ。錆の出た防衛装備品を使える形にしてから引き渡す。更に、メンテナンスの指導も行う。旧式防衛装備品で打開できるほど相手の防衛装備品は貧弱ではないのは常識だからだ。
言葉の端端に探りを感じさせる。
「友好国ロシアの上客を奪う訳にはいかないと思わないか?」
彼らは答えが得られるとは思っていないが、どう答えるかは見ている。それをヒントに何かを得たいとも思っている。だからヒントに聞こえる嘘で十分だ。次はこちらの番だ。答えを引き出すために彼らの口が軽くなるかだ。
「確かにロシアの面子を潰す訳にもいきませんよね。即戦力になるように指導しますよ」
「これが終ったら配置転換だな。決定した上層部の面子に泥を塗らない様にお願いする」
仕事をしただけで栄転がある訳ではないが、夢を見せるのも仕事の一つ。もし栄転だと感じれば、それはそれで良しなのだ。マウントを取って無駄に敵を増やす必要はないのだ。
中東諸国ではスリングで戦車に立ち向かうよりはマシとは受け取らなかった。侮辱と感じた市民が暴走を始めた。
事の発端はエルサレムの報道官だった。新兵訓練の為の標的を提供して貰ったとの発言だった。エルサレムを守る為の緩衝地帯は着々と広がっていた。約束の地を手中に収めるのは時間の問題だった。意識は『出エジプト記』に向いていた。数千年を経て『目には目を歯には歯を』を達成できる日が見えていたからだ。その状況での中国の譲歩は実質敗北宣言だった。その傲慢が報道官の声明で明らかになった。
中東諸国では漢字の看板には投石され、大使館に石を投げ込む者もいた。
中国の報道官は脅しを交えて諭す声明で応戦した。火に油を注ぐ展開になったが、旧式防衛装備品の引き渡しは淡々と進められた。
年に数回起きる日食で地球からの放射熱量が変わる。それに伴う月面の温度変化に関心が高まっていた。
今年の日食は、宇宙ステーションが月の影に入るタイミングがあり地上から昼間の宇宙ステーションを観察出来るチャンスでもあった。また、宇宙ステーションからは地上に広がる月の影を正面から観測出来、普段の新月とは違う地表温度を観測出来るチャンスでもあった。
ライブで配信されるのは地表の映像、日食の映像、月の夜の部分の映像の三本立てだった。天文愛好家と言え三択の中で月の夜の部分の映像を見る者はいなかったがネット民の中には『何か』を期待する逆張りもいた。そして、『何か』を期待している者には『何か』が見えるようになる。
『月に龍がいる』
一つの呟きに、ネット民が食いついた。月面のライブ映像の視聴者数はうなぎ上りになったが反応は等しく『釣られてしもうた』だった。が、直ぐに呟き時間前後の録画映像が出回った。そこには確かに数秒のだけ薄らと仄かに龍の姿が浮かび上がったかもと言える映像だった。北斗七星が大熊座のしっぽ、北極星が小熊座のしっぽと同じぐらいに不確かな姿だった。確かに龍が見えると呟くのが三割ぐらいいたが七割は否定的な意見が並んだ。ネット民の民意が固まりかけた時に映像職人がコントラストを調整した映像を流した。直ぐに民意が動いた。確かに龍が見えると。
ネット民は歓喜して犯人捜しを始めた。ナスカの地上絵を上回るスケールの龍の絵。ギネス認定間違いない偉業。数時間後には犯人が特定された。お決まりのエイリアン説もでたがジェネレーションギャップの壁が広がりを阻止した。
太陽光を太陽にお返しするひまわりシステムなら軸線上にある月面に反射光が当たる。設置の規模を考えれば他者に出来るはずがないと結論になった。地球上のひまわりシステムが龍の形になるような配置なのか? 疑問点がゼロではなかった。声明がでれば解決すると公式声明を求めるうねりが高まった。
ネット民の求めに直ぐに応じる必要はない。期待を高めてから応じる方が喜ばれる。と言って忍耐力のないネット民が他の話題に気持ちが動く前に出す必要があった。ひまわり計画サイトと映像投稿サイトにリチャード・ワンのコメントが出たのは翌日になってからだった。リアタイのネット民の情報が地球を一周するのを待ったからだ。
映像は深々と頭を下げているリチャード・ワンの姿で始まった。
『世間を騒がした事をお詫び申し上げます。皆既日食のニュースを知りました。学校では日食観察のフィルムが配られる話。天文愛好家が日食観察の為に海外遠征する話。どれもこれも心が高鳴る話題ばかりでした。僕の参加したい思いをスタッフが叶えてくれました。月に浮かぶ龍の姿を見た時、子どもの様に歓喜しました。しかし、世間で騒がれている事を知り我に返りました。賛否があると思いますがお詫びに、僕たちが入手した皆既日食時の月面映像を添付します』
再度深々と頭を下げるリチャード・ワンの姿の後に、太陽が映り込まない様にズーミングした月面画像が映し出された。太陽が映り込まない様に月面を画面の中心からずらしてあったので隅に星が映り込んでいた。三十秒ほどの映像の中間付近で湧き上がるように龍の姿が現れると五秒ほどで突如消えた。
リチャード・ワンの皆既日食映像はライブ配信されていた月面映像より画質が良かった。龍のアングルは宇宙ステーションの物と比べると傾いて見えた。違和感を覚えるネット民がいた。三十八万キロメートル先に龍を浮かび上がらせられる程にひまわりシステムの反射鏡の精度が高いのか。リチャード・ワンの皆既日食映像のオリジナルは宇宙ステーションの撮影か? 核心を突くような投稿が出たが、皆既日食の話題は終わっていた。
~・~・~
ドクター・ワンに上層部からの電話があった。
「先延ばしになっていた衛星打ち上げが最優先に変更になった。来月予定の観測衛星を外して我々の人工衛星を打ち上げると言ってきた。百ページの報告書は一分の映像に如かずのようだ」
エンジニア担当は呆れた様子だった。計画は計画通りに進める事で最大の効果を発揮するものを、上層部の政治的判断で説明もなく後回しにされ、今度は説明もなく最優先にされる。
「新月の度に天宮宇宙ステーションで観測して貰ったデータを上げていましたよね? それはスルーして龍の絵に感動するとは・・・・。言葉は呑み込んでおきます」
全員の気持ちはエンジニア担当と同じだった。
「最優先のお墨付きを最大限に利用しようと思う。関係部署への周知を依頼してある。これで軌道高度別のユニット数を確定が出来るようになる」
ドクター・ワンは反射面側に軌道をずらす大気の層がある事を心配していた。
「大丈夫です。各人工衛星の軌道安定性は確認済みです。重力の影響での浮き沈みも確認済みです。後は演習を通して連携の向上と不測の事態の確率を減らしていきます」
エンジニア担当は部署間の連携の方を心配していた。
どちらの心配も先延ばしになっていた衛星が軌道に投入されれば解決できる。その為に耐熱タイルで表面を覆い、熱電対を方眼上に取り付けリアルタイムでデータ送信が出来るように送信アンテナは静止衛星を向くように取り付けられていた。
「長期の出張になるが宜しく頼む」
~・~・~
ドクター・ワンはフォローアップの為に辺境に出張していた。中東諸国の防衛装備品の支援要請は関係者が想像する以上に国益に帰するからだ。
支援する防衛装備品は前世紀の旧式の物ばかりで電子制御も何もない黒煙を撒き散らすディーゼルエンジンの戦車。命中精度が半径数百メートルの慣性誘導ミサイル。高度にネットワーク化された防衛システムを突破する能力がない無害な防衛装備品ばかりである事が重要だった。
月面の龍の効果はここにも表れた。我々の真意を上層部が理解していた。旧式防衛装備品のメンテナンスを要請国の人員でするように手配がされていた。彼らが真意を理解しなくても即戦力の形で譲渡される事を歓迎した。操作パネルの表示は全て書き換えられた。部品の交換方法もマンツーマンで指導が行われた。旧式防衛装備品に対する不満は残ったが動かない物を押し付けられる不安は消えたようだった。
旧式防衛装備品の管理を担っていた部署が怪訝に思っているようだ。錆の出た防衛装備品を使える形にしてから引き渡す。更に、メンテナンスの指導も行う。旧式防衛装備品で打開できるほど相手の防衛装備品は貧弱ではないのは常識だからだ。
言葉の端端に探りを感じさせる。
「友好国ロシアの上客を奪う訳にはいかないと思わないか?」
彼らは答えが得られるとは思っていないが、どう答えるかは見ている。それをヒントに何かを得たいとも思っている。だからヒントに聞こえる嘘で十分だ。次はこちらの番だ。答えを引き出すために彼らの口が軽くなるかだ。
「確かにロシアの面子を潰す訳にもいきませんよね。即戦力になるように指導しますよ」
「これが終ったら配置転換だな。決定した上層部の面子に泥を塗らない様にお願いする」
仕事をしただけで栄転がある訳ではないが、夢を見せるのも仕事の一つ。もし栄転だと感じれば、それはそれで良しなのだ。マウントを取って無駄に敵を増やす必要はないのだ。
中東諸国ではスリングで戦車に立ち向かうよりはマシとは受け取らなかった。侮辱と感じた市民が暴走を始めた。
事の発端はエルサレムの報道官だった。新兵訓練の為の標的を提供して貰ったとの発言だった。エルサレムを守る為の緩衝地帯は着々と広がっていた。約束の地を手中に収めるのは時間の問題だった。意識は『出エジプト記』に向いていた。数千年を経て『目には目を歯には歯を』を達成できる日が見えていたからだ。その状況での中国の譲歩は実質敗北宣言だった。その傲慢が報道官の声明で明らかになった。
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