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リモートコントロール
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嫁から買い物に誘われた。近くのスーパーなんだから一人で十分でしょと思うけど、妙に圧が強い。何かやっちまったか? いや、心当たりはない大丈夫だ。動揺してトラップに嵌まるのが一番拙い。ここは素直に、偶には買い物に行くのもインスピレーションがあるかもしれない。偶には優しさのアピールをしておくのも悪くないかも。と言うスタンスで行くのに限る。
秋の日は釣瓶落としと言うけれど暑い暑いと言っている間にこんなに暗くなっている。星が見えるにはまだ早い茜色の空だ。音もなく羽ばたくのはコウモリだ。あいつらアブラコウモリって言うらしい。前はペットにして何かあったら黄金バットを呼ぶんだ! なんて思っていたけど狂犬病の宿主と言う話を聞いてからは空飛ぶウイルス爆弾ぐらいの怖さがあるんだな。人に近づく事はないから大丈夫だけど・・・・
「ひっ・・・」
いきなり腕を掴まれたと思ったら嫁だった。
「空ばかり見ていると、躓くよ。この辺は凸凹しているし」
嫁の息が弾んでいる。そうでした、小走りに付いて来たんだ。自分はユックリ歩いているつもりでも、30cmを超える身長差は慎重に歩かないとこうなってしまう。
「さすが、毎日買い物で通っている方は違うね」
と言うと嫁の手をしっかり繋いだ。相変わらず小っちゃくて可愛い手。カサツキは年の所為かな?
「どうかしたの?」
と、不思議そうに聞いてくる。
「ちゃんとに、指輪を付けているなって、思っていたの」
気がつくと、嫁が小走りで付いてくる。と言うより手を繋いでいるから引っ張っていた。ユックリ歩かなきゃ。
「俊くんって、小説家になる夢、今も頑張っているの?」
唐突に? 出かける前の圧を考えると前哨戦か?
「そうだね。なりたいけど現実的には趣味かな? 会社の仕事も好きだし収入とか色々考えるとね」
「ふーん・・・。でも、上手く書けていると思うよ」
「え!・・・・、何で知っているの?」
嫁が料理をしている時とか風呂の時ぐらいしか家では書いていない。隠してはないけど書いている姿を見せた事はないと思うし・・・・。いやいや、そこじゃない。投稿先は言っていない。と、立ち止まっていた。
つぎの瞬間、嫁に引き摺られるように歩いていた。
「マイページを開いたまま寝落ちしていたら、見て下さいと言っている様なものじゃない? 風宮くん」
「あはははは・・・・、隠してはいないけど、ちょっと恥ずかしいよね。読んだなら感想をつけてくれると嬉しいけど」
おっと、迂闊にも感想クレクレ君になってしまった。読まれて困るものは書いていないけど、身内に読まれるのは、ちと恥ずかしい。
「そうね・・・、『買い物』は良く書けていたと思うよ。特に映美さんの気持ちを察してゴンドラから商品を取って上げるところは、豊彦くんの優しさが出ていて思わず涙してしまうシーンだったよ。あれ、私への当てつけ?」
下を向いて誤魔化したいのに、下から睨まれてしまったら逃げ場がないじゃないですか。
「真理子さん、そんな事はございません」
これか・・・・、やっちまった事は。全作品にポイントが付いていたから、ついにファンがついたかと思っていたけど、SFやホラー好きなのに恋愛カテゴリーの『買い物』とは、よっぽど印象深かったのね・・・・。
気がつくとカゴを持たされ引っ張られている。圧とともに一瞥される。
「はい」
黙って後ろをついて行く。食卓に並ぶ豆腐、納豆がカゴに入っていく。
「あれ!」
指さした先のナスの袋を取ると、手が伸びてきた。
「はい」
と渡すと鮮度チェック・・・。合格のようだ。カゴに入った。
「あれ!」
ジャガイモの袋を掴むと、視界の端っこで指が横に動いている。
「隣ですか?」
OKサインに変わった。鮮度チャックの後でカゴに入った。手元に良さそうな物があれば自分でカゴに入れている。手の届かない物は指示が飛ぶ。次々とカゴに入れていく。どれもこれも食卓で見ている物ばかりだ。
これでレジに向かうのかな? と思っていたら、調味料のコーナーに連れて行かれた。醤油ってこんなに種類があるの? ソースもマヨネーズも。これはネタに使えると思わずニタニタしてしまったが、隣を見ると最上段を見ながら思案している。なるほど! 豊彦くんが最上段の食材を取ってあげるシーンが当てつけにしか見えない。これで全ての謎が解けた。
カゴを持つ右手にそっと手を添えてきた・・・あ!
僕は左手を頭の高さに上げた。横で頷いている。
人差し指を軽く押してくる。右に動かす。頷いている。
薬指を軽く押す。左に動かす。頷いている。
手を前に押す。上に動かす。頷いている。
手を引く。下に動かす。頷いている。
ピアノを弾くように指を押えてくる。それに合わせて完璧に左手を動かして見せる。目を丸くして見上げている。ドヤ顔で応えていると、クスクス笑いながら通り過ぎる店員さん。お互いの手が汗ばんでいるのが分かる。
また、ピアノを弾くように操作してくる。そして止まった手の先には見慣れないドレッシングがあった。一番高い所にあるけど欲しがりそうな商品だった。確かにこの場所だと欲しくても買えない。
左手を伸ばすとその商品の隣を取った。
「痛たたた・・・・」
「豊彦くんは、あんなに優しいのに、俊くんは腐りきっているわね。あのドレッシングは美味しんだよ。友だちの家で御馳走になったけど俊くんにも食べさせたくて一緒に買い物に来てもらったのに」
今度こそ、全ての謎が解けた。最初から僕のためなんだ。
「お詫びに、ショートケーキを買いますから許して下さい」
2個入り300円のシリーズ。他にもモンブランとかミルクレープとか色々あるけど、基本はショートケーキだよね。
「私はアレルギーないのは、分かっているよね?」
新たな謎の始まりか?
「はい、もちろん」
「つまり?」
そう言う事か・・・・。
「シートの生クリームだけで十分です」
「うふふ、イチゴを一つ上げるわよ」
と言いながら無邪気に笑う。可愛いな。
「僕も豊彦くんみたいに料理頑張ろうかな?」
「買い物もね」
と言いながら腕を掴んできた。
スーパーの帰り道、嬉しそうな横顔に見惚れていた。
秋の日は釣瓶落としと言うけれど暑い暑いと言っている間にこんなに暗くなっている。星が見えるにはまだ早い茜色の空だ。音もなく羽ばたくのはコウモリだ。あいつらアブラコウモリって言うらしい。前はペットにして何かあったら黄金バットを呼ぶんだ! なんて思っていたけど狂犬病の宿主と言う話を聞いてからは空飛ぶウイルス爆弾ぐらいの怖さがあるんだな。人に近づく事はないから大丈夫だけど・・・・
「ひっ・・・」
いきなり腕を掴まれたと思ったら嫁だった。
「空ばかり見ていると、躓くよ。この辺は凸凹しているし」
嫁の息が弾んでいる。そうでした、小走りに付いて来たんだ。自分はユックリ歩いているつもりでも、30cmを超える身長差は慎重に歩かないとこうなってしまう。
「さすが、毎日買い物で通っている方は違うね」
と言うと嫁の手をしっかり繋いだ。相変わらず小っちゃくて可愛い手。カサツキは年の所為かな?
「どうかしたの?」
と、不思議そうに聞いてくる。
「ちゃんとに、指輪を付けているなって、思っていたの」
気がつくと、嫁が小走りで付いてくる。と言うより手を繋いでいるから引っ張っていた。ユックリ歩かなきゃ。
「俊くんって、小説家になる夢、今も頑張っているの?」
唐突に? 出かける前の圧を考えると前哨戦か?
「そうだね。なりたいけど現実的には趣味かな? 会社の仕事も好きだし収入とか色々考えるとね」
「ふーん・・・。でも、上手く書けていると思うよ」
「え!・・・・、何で知っているの?」
嫁が料理をしている時とか風呂の時ぐらいしか家では書いていない。隠してはないけど書いている姿を見せた事はないと思うし・・・・。いやいや、そこじゃない。投稿先は言っていない。と、立ち止まっていた。
つぎの瞬間、嫁に引き摺られるように歩いていた。
「マイページを開いたまま寝落ちしていたら、見て下さいと言っている様なものじゃない? 風宮くん」
「あはははは・・・・、隠してはいないけど、ちょっと恥ずかしいよね。読んだなら感想をつけてくれると嬉しいけど」
おっと、迂闊にも感想クレクレ君になってしまった。読まれて困るものは書いていないけど、身内に読まれるのは、ちと恥ずかしい。
「そうね・・・、『買い物』は良く書けていたと思うよ。特に映美さんの気持ちを察してゴンドラから商品を取って上げるところは、豊彦くんの優しさが出ていて思わず涙してしまうシーンだったよ。あれ、私への当てつけ?」
下を向いて誤魔化したいのに、下から睨まれてしまったら逃げ場がないじゃないですか。
「真理子さん、そんな事はございません」
これか・・・・、やっちまった事は。全作品にポイントが付いていたから、ついにファンがついたかと思っていたけど、SFやホラー好きなのに恋愛カテゴリーの『買い物』とは、よっぽど印象深かったのね・・・・。
気がつくとカゴを持たされ引っ張られている。圧とともに一瞥される。
「はい」
黙って後ろをついて行く。食卓に並ぶ豆腐、納豆がカゴに入っていく。
「あれ!」
指さした先のナスの袋を取ると、手が伸びてきた。
「はい」
と渡すと鮮度チェック・・・。合格のようだ。カゴに入った。
「あれ!」
ジャガイモの袋を掴むと、視界の端っこで指が横に動いている。
「隣ですか?」
OKサインに変わった。鮮度チャックの後でカゴに入った。手元に良さそうな物があれば自分でカゴに入れている。手の届かない物は指示が飛ぶ。次々とカゴに入れていく。どれもこれも食卓で見ている物ばかりだ。
これでレジに向かうのかな? と思っていたら、調味料のコーナーに連れて行かれた。醤油ってこんなに種類があるの? ソースもマヨネーズも。これはネタに使えると思わずニタニタしてしまったが、隣を見ると最上段を見ながら思案している。なるほど! 豊彦くんが最上段の食材を取ってあげるシーンが当てつけにしか見えない。これで全ての謎が解けた。
カゴを持つ右手にそっと手を添えてきた・・・あ!
僕は左手を頭の高さに上げた。横で頷いている。
人差し指を軽く押してくる。右に動かす。頷いている。
薬指を軽く押す。左に動かす。頷いている。
手を前に押す。上に動かす。頷いている。
手を引く。下に動かす。頷いている。
ピアノを弾くように指を押えてくる。それに合わせて完璧に左手を動かして見せる。目を丸くして見上げている。ドヤ顔で応えていると、クスクス笑いながら通り過ぎる店員さん。お互いの手が汗ばんでいるのが分かる。
また、ピアノを弾くように操作してくる。そして止まった手の先には見慣れないドレッシングがあった。一番高い所にあるけど欲しがりそうな商品だった。確かにこの場所だと欲しくても買えない。
左手を伸ばすとその商品の隣を取った。
「痛たたた・・・・」
「豊彦くんは、あんなに優しいのに、俊くんは腐りきっているわね。あのドレッシングは美味しんだよ。友だちの家で御馳走になったけど俊くんにも食べさせたくて一緒に買い物に来てもらったのに」
今度こそ、全ての謎が解けた。最初から僕のためなんだ。
「お詫びに、ショートケーキを買いますから許して下さい」
2個入り300円のシリーズ。他にもモンブランとかミルクレープとか色々あるけど、基本はショートケーキだよね。
「私はアレルギーないのは、分かっているよね?」
新たな謎の始まりか?
「はい、もちろん」
「つまり?」
そう言う事か・・・・。
「シートの生クリームだけで十分です」
「うふふ、イチゴを一つ上げるわよ」
と言いながら無邪気に笑う。可愛いな。
「僕も豊彦くんみたいに料理頑張ろうかな?」
「買い物もね」
と言いながら腕を掴んできた。
スーパーの帰り道、嬉しそうな横顔に見惚れていた。
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