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「え? 鑑定?」

 お父様が帰ってきたと思ったら、私に加護があるのか鑑定をすると言う。マズイ。鑑定とは何か。何をするかわからないが、加護があるとは思えない。

 不安げな様子がバレたのか、お父様はにっこり微笑むと頭を撫でてくれた。素直に撫でられているが、心の中は盛大に慌てている。

「大丈夫だよ、マリアンヌ。鑑定といっても水晶に手をかざすだけ。痛いことも怖いこともないから」

 小さい子どもに言って聞かすように優しく言われる。余計に不安が募ってくる。

「魔法省に行くだけだから。そこの人は変わった人だけど、悪い人ではないからね」

 魔法省とか、経験したことがないところである。恐怖を感じはするが、行かないという選択肢はないのだろう。

 料理を作っているから加護がある。それがこの世界の人の言い分であるが、加護は関係ない。単に料理の知識があるだけである。しかしそんなことを言うわけにいかない。

    私のからだはマリアンヌ12歳ですが、心は異世界の人間真理子32歳です。

    加護がないばかりか、そんなことを言う人間は信用されないだろう。みんなからどう思われるか。想像するだけでも恐ろしい。

 もし加護がないと分かればどうなるのだろう。

    お父様がセバスチャンと別の部屋に行ったあと、キッチンで昼食の準備をしながら考えてみた。加護があると言ってみんなが喜んでいる。天才だの女神の再来だの、好き勝手に褒めてくれている。

    騎士の人たちは忠誠まで誓ってくれた。冗談かと思ったけど、料理を美味しいと言ってくれた。

    そうだ、加護はともかく料理はできる。それは変わらない。

 考えても仕方がないので、昼食の準備に勤しむことにする。

 今日の昼はパスタである。食糧棚にパスタが大量にあるのを見つけたのだ。この世界にパスタがあったのだ、使わないわけにいかない。

 一番好きなパスタはナポリタンなのだが、受け入れてもらえるだろうか。多少心配ではあるが、まあ大丈夫であろう。材料を用意し、粉チーズはないかと食糧棚へ向かった。食糧棚には色々な者が雑多におかれている。醤油や味噌などの調味料もあるし、フードプロセッサーやハンドミキサーなどの調理道具も置いている。

 粉チーズを探しながらふと見ればドアがあった。こんなところにドアがあっただろうか。不思議に思う。何度かここで色々探した。見るたびに発見がある。食材などが増えるのは魔法のおかげで、食材も自動的に搬入されるのだ。だからいちいち気にしてなかった。

 このドアは何だろう。何か別の部屋に繋がっているのだろうか。もしかしたらもっと色々な食材を置かれた部屋かもしれない。私はなんとなくドアを開けた。



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