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「父上の葬儀をしないというのか!」
マグヌスは怒りのあまり、近くにあった花瓶を床に叩き落とした。そばにいた者たちの肩がビクッと震えたが、マグヌスは気にしなかった。花瓶は粉々に砕け、その上をマグヌスはわざと乱暴に歩いた。
「何を考えているんだ!」
マグヌスがいくら怒鳴ろうと、誰かが答えを出してくれるわけではない。
インディアル王国の国王が亡くなったが、第1王子のアジャールはそれを公にしなかった。彼は自分の父が亡くなったというのに、自分が即位することしか考えていなかった。いや、正確に言えば即位を気にしていたわけではなく、自分が国を自由にできるということしか考えていなかったのである。
アジャールは葬儀もしないまま王の冠を頭に乗せ、ご満悦のまま玉座に座った。そして義弟のマグヌスへ自分の家来になるか、国外に出るかの二択を迫ったのである。
「殿下、いかがなさるおつもりで?」
父の時代に大臣や側近をしていた者たちが集まっていた。彼らもまた、同じ選択を迫られていた。アジャールに何かができるとは思えない。おそらく近いうちに国は滅びるであろう。そのことをアジャールは気づいていない。
「国を出る」
マグヌスは口にした。父が存命中には決して口にしない言葉であった。ずっと躊躇っていた言葉だったのに、いざ口にするとあっけないくらいに簡単に口から出た。
「殿下」
彼らは一様に大きくうなづいている。
「聖女様も追放され、今はレートレース帝国におられるそうです」
「無事なのか」
聖女のアリスはずっと儀式を続け国を守り続けてきたと聞く。アジャールにはその恩恵が全く理解できなかったようだ。父が亡くなったら、すぐに追放したと聞く。無事であると報告を受け、マグヌスは安心した。
「我らもレートレースに向かおう」
受け入れてもらえるかは別にして、国をすぐにでも出ていかねばならない。アジャールはこの気配に気づいていないようだ。同じ父の息子のはずなのに、なぜ気づかないのであろうか。
マグヌスは側妃が産んだ子である。側妃となっているが、実際は陛下と正式に婚約をしていた。しかしアジャールの母が陛下に一目惚れをし、強引に正妃の座を求めた。彼女はインディアル王国より遠く離れたメアニストという国の姫であり、当時メアニストは軍国主義の国。逆らったらインディアルに兵を出すと脅され、やむなく正妃として迎えた。
側妃となったが2人は仲睦まじく、やがて男児を出産した。それを面白く思わなかった正妃が主犯と思われているが、生まれて間もないその男児は死亡した。そしてアジャールが生まれ、2年後マグヌスが誕生した。
正妃に警戒をしていたため、マグヌスは王都から離れた土地で過ごしていた。父である陛下は頻繁にその場を訪れていたのだが、側妃が急な病で亡くなった。毒を盛られたとか、呪いの力が作用したなど言われたが、真相はわからない。
マグヌスの安全を考え、陛下は王都から離れることを控えるようになった。そして亡くなってしまったのである。
死に目に会えなかったばかりか、最後のお別れも言えない。マグヌスは悔しい思いをしているが、アジャールのことを考えたらすぐに離れたほうがいいと判断した。
「レートレースなら迎え入れてくれるはずです」
大臣たちの声に早速出ていく準備をする。この国にこれ以上いる必要はもうないのだ。
マグヌスは怒りのあまり、近くにあった花瓶を床に叩き落とした。そばにいた者たちの肩がビクッと震えたが、マグヌスは気にしなかった。花瓶は粉々に砕け、その上をマグヌスはわざと乱暴に歩いた。
「何を考えているんだ!」
マグヌスがいくら怒鳴ろうと、誰かが答えを出してくれるわけではない。
インディアル王国の国王が亡くなったが、第1王子のアジャールはそれを公にしなかった。彼は自分の父が亡くなったというのに、自分が即位することしか考えていなかった。いや、正確に言えば即位を気にしていたわけではなく、自分が国を自由にできるということしか考えていなかったのである。
アジャールは葬儀もしないまま王の冠を頭に乗せ、ご満悦のまま玉座に座った。そして義弟のマグヌスへ自分の家来になるか、国外に出るかの二択を迫ったのである。
「殿下、いかがなさるおつもりで?」
父の時代に大臣や側近をしていた者たちが集まっていた。彼らもまた、同じ選択を迫られていた。アジャールに何かができるとは思えない。おそらく近いうちに国は滅びるであろう。そのことをアジャールは気づいていない。
「国を出る」
マグヌスは口にした。父が存命中には決して口にしない言葉であった。ずっと躊躇っていた言葉だったのに、いざ口にするとあっけないくらいに簡単に口から出た。
「殿下」
彼らは一様に大きくうなづいている。
「聖女様も追放され、今はレートレース帝国におられるそうです」
「無事なのか」
聖女のアリスはずっと儀式を続け国を守り続けてきたと聞く。アジャールにはその恩恵が全く理解できなかったようだ。父が亡くなったら、すぐに追放したと聞く。無事であると報告を受け、マグヌスは安心した。
「我らもレートレースに向かおう」
受け入れてもらえるかは別にして、国をすぐにでも出ていかねばならない。アジャールはこの気配に気づいていないようだ。同じ父の息子のはずなのに、なぜ気づかないのであろうか。
マグヌスは側妃が産んだ子である。側妃となっているが、実際は陛下と正式に婚約をしていた。しかしアジャールの母が陛下に一目惚れをし、強引に正妃の座を求めた。彼女はインディアル王国より遠く離れたメアニストという国の姫であり、当時メアニストは軍国主義の国。逆らったらインディアルに兵を出すと脅され、やむなく正妃として迎えた。
側妃となったが2人は仲睦まじく、やがて男児を出産した。それを面白く思わなかった正妃が主犯と思われているが、生まれて間もないその男児は死亡した。そしてアジャールが生まれ、2年後マグヌスが誕生した。
正妃に警戒をしていたため、マグヌスは王都から離れた土地で過ごしていた。父である陛下は頻繁にその場を訪れていたのだが、側妃が急な病で亡くなった。毒を盛られたとか、呪いの力が作用したなど言われたが、真相はわからない。
マグヌスの安全を考え、陛下は王都から離れることを控えるようになった。そして亡くなってしまったのである。
死に目に会えなかったばかりか、最後のお別れも言えない。マグヌスは悔しい思いをしているが、アジャールのことを考えたらすぐに離れたほうがいいと判断した。
「レートレースなら迎え入れてくれるはずです」
大臣たちの声に早速出ていく準備をする。この国にこれ以上いる必要はもうないのだ。
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