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「は?メアニスト?」
「君はメアニストの人間なのか?」
クラントの告白に俺は驚いて立ち上がった。ギルバートさえ目を見開いている。メアニストの人間がどうしてマグヌスの近くにいられたのだ?
「私の母はメアニストの人間です。ですが、ごく小さい時に国を出ました。母の両親は母が生まれてすぐに死にました。メアニストでは呪いの力が強いものが優位に立ちます。母の両親は弱かったので、誰かの呪いに勝てなかったのです。こんな国で生活することはできないと親戚のものが母を連れて国を出ました。そしてインディアルにたどり着いたのです」
クラントの目は何を見ているのだろうか。宙を彷徨うように動き、時々は俺を見るのだが何も見ていないようだ。
「母は何も知らずインディアルで成長し、やがて結婚して私を産みました。私も何も知らないまま成長し陛下の側近の仕事を得ました。そして、メアニストの姫君が陛下と結婚したいという話を耳にしました」
誰も何も言えず、クラントの話をただ聞いていた。クラントの話し方は抑揚もなく、ただひたすら本を朗読しているようにも聞こえた。それが妙な説得力を感じた。
「陛下が結婚に了承しなければ軍を差し向ける、陛下は迷惑そうにしておられました。私はそれを側で見聞きするたびに贅沢な悩みだと思いました。女性にそんなに恋焦がれられるなんて、男冥利に尽きると思ったのです。陛下はやむなく結婚を了承されました。
メアニストの姫君は大変な美貌の持ち主でした。そして情熱的で陛下のことを心から愛されておられました。しかし陛下はそれに応えることなく、元から婚約されていたという理由で側妃として娶られました。そして妊娠され王子を出産されました。
王妃より先に側妃が出産などあり得ない話です。言葉の端々にも陛下がメアニストを侮辱していると感じることが多々ありました。私は陛下の側近をやめようと何度も考えました。陛下は国のために私情を捨て王妃を第一に思いやるべきだと思いました。
そんなことを考えていたら、生まれて間もない王子が亡くなりました。ちょうどその頃、私の母も亡くなりましたが、親戚から母がメアニストの人間と聞いたのです。
メアニストの人間は人を呪うことができる。それまでに何度か聞いていました。王子が亡くなったのは、王妃の呪いではなく私が呪ったからではないかと思いました。
その後アジャール様が生まれ、マグヌス様が生まれました。陛下はマグヌス様を守るため王宮から離れた場所に城を建て、頻繁に通いました。王妃様やアジャール様を蔑ろにし、国の長としての責任を果たしていないように私には感じられました。
そして即妃様が亡くなられました。人々は王妃様の呪いの力だと言いましたが、私の力だと思いました。全てが王妃様のせいにされてしまい、申し訳ないと思いました。
だからこそ私はマグヌス様の側にいて、マグヌス様を幸せにはしないと心に誓いました。王妃様もアジャール様もマグヌス様も等しく幸せになれない。それは陛下のせいだからです」
クラントの言ってることは本当なのか?思い過ごしであり、単なる勘違いではないか?
「アリス様はゲートに行かれましたね。ここにはもういない」
クラントが立ち上がった。青白い顔をして痩せ細っている。口元が薄く笑っている。
「ずっと王妃様のせいになっていますが、そうではありません。全て私、私のせいなのです」
クラントの足元から黒い影が伸び出てきている。瘴気だ。気がついたら部屋中が瘴気で満ちている。何も見えない。
「アリス!」
答えが返るわけはないのに、俺は名を呼んでいた。
「君はメアニストの人間なのか?」
クラントの告白に俺は驚いて立ち上がった。ギルバートさえ目を見開いている。メアニストの人間がどうしてマグヌスの近くにいられたのだ?
「私の母はメアニストの人間です。ですが、ごく小さい時に国を出ました。母の両親は母が生まれてすぐに死にました。メアニストでは呪いの力が強いものが優位に立ちます。母の両親は弱かったので、誰かの呪いに勝てなかったのです。こんな国で生活することはできないと親戚のものが母を連れて国を出ました。そしてインディアルにたどり着いたのです」
クラントの目は何を見ているのだろうか。宙を彷徨うように動き、時々は俺を見るのだが何も見ていないようだ。
「母は何も知らずインディアルで成長し、やがて結婚して私を産みました。私も何も知らないまま成長し陛下の側近の仕事を得ました。そして、メアニストの姫君が陛下と結婚したいという話を耳にしました」
誰も何も言えず、クラントの話をただ聞いていた。クラントの話し方は抑揚もなく、ただひたすら本を朗読しているようにも聞こえた。それが妙な説得力を感じた。
「陛下が結婚に了承しなければ軍を差し向ける、陛下は迷惑そうにしておられました。私はそれを側で見聞きするたびに贅沢な悩みだと思いました。女性にそんなに恋焦がれられるなんて、男冥利に尽きると思ったのです。陛下はやむなく結婚を了承されました。
メアニストの姫君は大変な美貌の持ち主でした。そして情熱的で陛下のことを心から愛されておられました。しかし陛下はそれに応えることなく、元から婚約されていたという理由で側妃として娶られました。そして妊娠され王子を出産されました。
王妃より先に側妃が出産などあり得ない話です。言葉の端々にも陛下がメアニストを侮辱していると感じることが多々ありました。私は陛下の側近をやめようと何度も考えました。陛下は国のために私情を捨て王妃を第一に思いやるべきだと思いました。
そんなことを考えていたら、生まれて間もない王子が亡くなりました。ちょうどその頃、私の母も亡くなりましたが、親戚から母がメアニストの人間と聞いたのです。
メアニストの人間は人を呪うことができる。それまでに何度か聞いていました。王子が亡くなったのは、王妃の呪いではなく私が呪ったからではないかと思いました。
その後アジャール様が生まれ、マグヌス様が生まれました。陛下はマグヌス様を守るため王宮から離れた場所に城を建て、頻繁に通いました。王妃様やアジャール様を蔑ろにし、国の長としての責任を果たしていないように私には感じられました。
そして即妃様が亡くなられました。人々は王妃様の呪いの力だと言いましたが、私の力だと思いました。全てが王妃様のせいにされてしまい、申し訳ないと思いました。
だからこそ私はマグヌス様の側にいて、マグヌス様を幸せにはしないと心に誓いました。王妃様もアジャール様もマグヌス様も等しく幸せになれない。それは陛下のせいだからです」
クラントの言ってることは本当なのか?思い過ごしであり、単なる勘違いではないか?
「アリス様はゲートに行かれましたね。ここにはもういない」
クラントが立ち上がった。青白い顔をして痩せ細っている。口元が薄く笑っている。
「ずっと王妃様のせいになっていますが、そうではありません。全て私、私のせいなのです」
クラントの足元から黒い影が伸び出てきている。瘴気だ。気がついたら部屋中が瘴気で満ちている。何も見えない。
「アリス!」
答えが返るわけはないのに、俺は名を呼んでいた。
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