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ドナ
46 カフェでのひととき
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お店の中に入り窓辺の席に案内された。店員さんはどこか浮き足立っている感じだし、店内に進むとすでにいたお客たちから小声で何か言っているのが聞こえる。店中の注目を浴びている感じがして落ち着かないが、スティーブ様もヴィンス様も気にしていない様子だ。
しかも案内された席は外から丸見えの席だった。道行く人も足を止めて見ている。相変わらず、スティーブ様とヴィンス様に夢中のようだ。店内の装飾は全体的に女性が好みそうな感じで、白い丸テーブルに椅子も白くて背もたれが高くオシャレな感じ。私はいいが、男性2人は居心地が悪いのではないか。気にして2人の様子を観察すると、2人ともメニューをガン見していた。
「すごいな」
メニューから顔を上げ、スティーブ様が呟く。
「こんなにお茶の種類が豊富なお店は珍しい」
お茶好きのスティーブ様が感心するくらいだから、よほどの品揃えのようだ。
「フード類も充実してるぞ」
同じくヴィンス様が興奮した様子で言った。
「ドナは何を頼む?」
スティーブ様に聞かれ、私もメニューを開いて真剣に見てみる。確かにメニューは分厚かった。お茶だけで2ページあるし、ケーキも2ページ、サンドイッチなどの軽食は3ページに渡っている。これでは選べない。
「そうだなぁ」
スティーブ様は自分が見ていたメニューを私に見せてきた。
「このあたりのお茶なら、ドナの好みに合うと思うよ」
と、メニューの一部分を指で指してくれた。
「それならケーキだな」
と、ヴィンス様もメニューを広げる。
「ドナはアルコールが入ったケーキはダメだからな。この辺はやめといて、無難に生クリーム系にしとくか」
「それなら、このお茶が合うね」
と、ぼんやりしているうちに注文が決まりそうだった。
「お客様、よろしければシェアできるように、こちらのよくばりセットはいかがでしょうか」
いつの間にか来ていた店員さんがニッコリと笑いながら、メニューの一番最後のページを開いて見せてくれた。小さめサイズのケーキが数種類と好きなお茶を何種類か選べるセットがあるようなのだ。
「いいね、これにしようか」
スティーブ様は店員さんに笑顔を見せる。キャーという小さな叫び声が店内のあちこちから上がった。そしてケーキとお茶をスティーブ様とヴィンス様に選んでもらい、店員さんは笑顔のまま去っていった。
「スティーブ様に笑ってもらえるなんて、良かったわね」
「本当、素敵よねぇ。お2人とも」
店員さんたちがそんなことを言っているのが聞こえてきた。確かに2人ともかっこいいのだ。スティーブ様もヴィンス様も結婚したい独身男性として有名だ。しかし私が知る限り女性と付き合っている様子はない。実際女性と付き合っているなら、私のエスコートができるわけがないのだが。
まったく知らない人にエスコートされるのは困る。だから私は2人がエスコートをしてくれると聞いて有り難かった。でも2人は迷惑ではないだろうか。そんなことを考えながら、2人の様子をみる。ヴィンス様は窓の外を眺めているし、スティーブ様は壁にかかっている絵を見ているようだった。
「この店はなかなかセンスがいいね」
スティーブ様がにこやかに私を見て話しかけてくれた。
「あの絵はルアールだろうね。初期の作品だと思う」
そう言われて私も絵を見た。
「バラ園の君を描いた頃、でしょうか?」
図書館で美術史の本を読んだ知識でしかないが、ルアールはタセル国では有名な画家である。『バラ園の君』はルアールの初期の作品でとても有名な絵画だ。本物は国立美術館に展示されていて、行ってみたいと思っているが実現していない。
「さすがドナだ、よくわかったね」
スティーブ様に褒めてもらえ、私は子どものように純粋に嬉しくなった。
「本で読んだだけです」
私が正直に言うと
「ドナは本物を見たことがなかったっけ? じゃあ、近いうちに一緒に見に行こうか」
ニッコリ笑ってスティーブ様が言ってくれる。お誘いに私は嬉しくなって、思わず頬が緩んでしまう。私も同じようにニッコリ笑ってスティーブ様に
「いつ、いつにしますか?」
と、気が急いて言ってしまった。途端にスティーブ様が目を見張り、驚いたように動きが止まってしまった。どうしたのだろう。私は不安になる。もしかして、こんなふうに笑うのは下品な行為だったのかも。私は反省し、俯いた。
「ドナ・・・」
するとスティーブ様が私の耳元でそっと話しかけた。内緒話をしなくてはいけないくらいにマナー違反を犯したのだ。スティーブ様がそんな態度に出るとは思わず、私は顔を上げられない。
「そういう可愛い顔は外ではしないほうがいいよ」
恐る恐るスティーブ様をみると、赤い顔をしていた。遠回しに注意を受けたのか。可愛い顔という言い方、さすがスティーブ様は優しい方だ。
「ハァァ~」
横にいたヴィンス様が大きなため息をつき、テーブルに突っ伏した。どうしたのだろうかと私は思わずヴィンス様を見た。ヴィンス様はテーブルに突っ伏したまま、顔を私の方に向けている。
「何もわかってねえな。ドナは」
「え?」
悪いことや極端なマナー違反をしたつもりはない。でもやはりタセルの常識は私の持っている常識とは違うのだろうか。私はもう一度マナーをお母様に教えてもらわないといけないと心に決めた。
「ドナ」
もう一度スティーブ様に言われる。
「可愛い顔は家の中だけにしようね」
可愛い顔とは何かよくわからない。私はどうしていいかわからず、涙目になってスティーブ様を見るしかない。
「兄上、ドナは分かってないし、言っても無駄じゃね?」
ヴィンス様に言われ、私は本当に途方に暮れてしまった。わからないことは仕方ないが、言っても無駄なんて言われるのは辛かった。
「ヴィンス、言い方に気をつけろ」
スティーブ様がキツい目つきになっていた。
「ごめんね、僕が悪かったよ」
ついにスティーブ様に謝られてしまった。私のことを諦めてしまったようだ。いつものようにスティーブ様から頭を撫でられる。大丈夫、と言われながら。ちっとも大丈夫ではないということはわかっている。でも何がいけないか教えてもらえないのだ。可愛い顔とは何か。可愛くない私にわざわざ言うなんて、きっとよっぽど私は酷かったのだろう。そう思うと悲しくなってしまい、私はここに来たことを後悔し始めていた。
しかも案内された席は外から丸見えの席だった。道行く人も足を止めて見ている。相変わらず、スティーブ様とヴィンス様に夢中のようだ。店内の装飾は全体的に女性が好みそうな感じで、白い丸テーブルに椅子も白くて背もたれが高くオシャレな感じ。私はいいが、男性2人は居心地が悪いのではないか。気にして2人の様子を観察すると、2人ともメニューをガン見していた。
「すごいな」
メニューから顔を上げ、スティーブ様が呟く。
「こんなにお茶の種類が豊富なお店は珍しい」
お茶好きのスティーブ様が感心するくらいだから、よほどの品揃えのようだ。
「フード類も充実してるぞ」
同じくヴィンス様が興奮した様子で言った。
「ドナは何を頼む?」
スティーブ様に聞かれ、私もメニューを開いて真剣に見てみる。確かにメニューは分厚かった。お茶だけで2ページあるし、ケーキも2ページ、サンドイッチなどの軽食は3ページに渡っている。これでは選べない。
「そうだなぁ」
スティーブ様は自分が見ていたメニューを私に見せてきた。
「このあたりのお茶なら、ドナの好みに合うと思うよ」
と、メニューの一部分を指で指してくれた。
「それならケーキだな」
と、ヴィンス様もメニューを広げる。
「ドナはアルコールが入ったケーキはダメだからな。この辺はやめといて、無難に生クリーム系にしとくか」
「それなら、このお茶が合うね」
と、ぼんやりしているうちに注文が決まりそうだった。
「お客様、よろしければシェアできるように、こちらのよくばりセットはいかがでしょうか」
いつの間にか来ていた店員さんがニッコリと笑いながら、メニューの一番最後のページを開いて見せてくれた。小さめサイズのケーキが数種類と好きなお茶を何種類か選べるセットがあるようなのだ。
「いいね、これにしようか」
スティーブ様は店員さんに笑顔を見せる。キャーという小さな叫び声が店内のあちこちから上がった。そしてケーキとお茶をスティーブ様とヴィンス様に選んでもらい、店員さんは笑顔のまま去っていった。
「スティーブ様に笑ってもらえるなんて、良かったわね」
「本当、素敵よねぇ。お2人とも」
店員さんたちがそんなことを言っているのが聞こえてきた。確かに2人ともかっこいいのだ。スティーブ様もヴィンス様も結婚したい独身男性として有名だ。しかし私が知る限り女性と付き合っている様子はない。実際女性と付き合っているなら、私のエスコートができるわけがないのだが。
まったく知らない人にエスコートされるのは困る。だから私は2人がエスコートをしてくれると聞いて有り難かった。でも2人は迷惑ではないだろうか。そんなことを考えながら、2人の様子をみる。ヴィンス様は窓の外を眺めているし、スティーブ様は壁にかかっている絵を見ているようだった。
「この店はなかなかセンスがいいね」
スティーブ様がにこやかに私を見て話しかけてくれた。
「あの絵はルアールだろうね。初期の作品だと思う」
そう言われて私も絵を見た。
「バラ園の君を描いた頃、でしょうか?」
図書館で美術史の本を読んだ知識でしかないが、ルアールはタセル国では有名な画家である。『バラ園の君』はルアールの初期の作品でとても有名な絵画だ。本物は国立美術館に展示されていて、行ってみたいと思っているが実現していない。
「さすがドナだ、よくわかったね」
スティーブ様に褒めてもらえ、私は子どものように純粋に嬉しくなった。
「本で読んだだけです」
私が正直に言うと
「ドナは本物を見たことがなかったっけ? じゃあ、近いうちに一緒に見に行こうか」
ニッコリ笑ってスティーブ様が言ってくれる。お誘いに私は嬉しくなって、思わず頬が緩んでしまう。私も同じようにニッコリ笑ってスティーブ様に
「いつ、いつにしますか?」
と、気が急いて言ってしまった。途端にスティーブ様が目を見張り、驚いたように動きが止まってしまった。どうしたのだろう。私は不安になる。もしかして、こんなふうに笑うのは下品な行為だったのかも。私は反省し、俯いた。
「ドナ・・・」
するとスティーブ様が私の耳元でそっと話しかけた。内緒話をしなくてはいけないくらいにマナー違反を犯したのだ。スティーブ様がそんな態度に出るとは思わず、私は顔を上げられない。
「そういう可愛い顔は外ではしないほうがいいよ」
恐る恐るスティーブ様をみると、赤い顔をしていた。遠回しに注意を受けたのか。可愛い顔という言い方、さすがスティーブ様は優しい方だ。
「ハァァ~」
横にいたヴィンス様が大きなため息をつき、テーブルに突っ伏した。どうしたのだろうかと私は思わずヴィンス様を見た。ヴィンス様はテーブルに突っ伏したまま、顔を私の方に向けている。
「何もわかってねえな。ドナは」
「え?」
悪いことや極端なマナー違反をしたつもりはない。でもやはりタセルの常識は私の持っている常識とは違うのだろうか。私はもう一度マナーをお母様に教えてもらわないといけないと心に決めた。
「ドナ」
もう一度スティーブ様に言われる。
「可愛い顔は家の中だけにしようね」
可愛い顔とは何かよくわからない。私はどうしていいかわからず、涙目になってスティーブ様を見るしかない。
「兄上、ドナは分かってないし、言っても無駄じゃね?」
ヴィンス様に言われ、私は本当に途方に暮れてしまった。わからないことは仕方ないが、言っても無駄なんて言われるのは辛かった。
「ヴィンス、言い方に気をつけろ」
スティーブ様がキツい目つきになっていた。
「ごめんね、僕が悪かったよ」
ついにスティーブ様に謝られてしまった。私のことを諦めてしまったようだ。いつものようにスティーブ様から頭を撫でられる。大丈夫、と言われながら。ちっとも大丈夫ではないということはわかっている。でも何がいけないか教えてもらえないのだ。可愛い顔とは何か。可愛くない私にわざわざ言うなんて、きっとよっぽど私は酷かったのだろう。そう思うと悲しくなってしまい、私はここに来たことを後悔し始めていた。
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