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第5話 避けて通れぬ衣装・服装の資料『中国服装史』『中国服飾史図鑑』+”日本の古代”
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*****
2023年3月11日追記
4月18日にマール社から『中国の服飾史入門』(1980円)という本が発売されるのだそうです。
速報をこの連載の第11話として書きました。
↓
https://kakuyomu.jp/works/16817139556995512679/episodes/16817330654305621060 「第11話 速報!『中国の服飾史入門』という書籍が発売されるそうです!」
*****
中華ファンタジー、中華後宮モノ……いや、こういったジャンルに限らず、およそ小説の中で登場人物の服装に全く触れないのは難しいでしょう。
むしろ、衣装の描写は、中華モノであることをアピールしたり、登場人物のポジションを説明するのに重要だったりします。
小野不由美さんの『十二国記』でも陽子が粗末な服から王のゴージャスな礼装(大裘)に身を包むようになり、その立場の変化が物語のキーとなります。また、白河紺子さんの『後宮の烏』では、烏妃の衫襦や裙は黒づくめなのですが、そこに布の質感や華麗な刺繍の描写が加わることで神秘的な雰囲気が伝わってきます。
このように、物語で上手く活用できるように服装について知っておきたい……ですよね。
今回は、資料本として『中国服装史 五千年の歴史を検証する』と『中国服飾史図鑑』をご紹介します。
どちらも基本的な資料であり、たいていの図書館にも所蔵されていると思います。
ただ……どちらの本も学術的な価値は高いかと思いますが、「ファンタジー小説を書きたい」というクリエイターの願いからは、ちーとばかし距離はあります。
それを埋めるのに日本の古代を参考になさってはどうでしょうかというご提案を最後に書かせていただきます。
『中国服装史 五千年の歴史を検証する』(華梅著 施 潔民訳 2003 白帝社
https://www.hakuteisha.co.jp/books/588-2.html)は、この分野では欠かすことのできない基本文献のようです。
鷲生がこのエッセイの第1回、第2回、第4回で取り上げた書籍の全てが、「参考文献」として、この本を挙げています。
ただ……。この本に限らず、また、中国の服装に限りませんが……三次元を生きる人間が身に着ける立体的な衣装を「文字だけで」理解するのは難しい……。
私は平安ファンタジー小説を書いたことがありますが、平安時代のいわゆる十二単についても文章の資料でイメージするのは大変でした。
そして、それは研究をする専門家にとっても同じです。
平安装束の「細長」は実物が今に伝わっておらず、当時の文献で想像するしかないので、現代の研究家の間にも諸説があって「謎の装束」とされています(Wikipedia「細長」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E9%95%B7)
この『中国服装史』も文字で実物をイメージするのはかなり困難です。
ここで「あれ。図版とか載ってないの?」とお思いの方も多いでしょう。
あります、ありますよ……。数だけでいうならわりとたくさん掲載されています。
ただ、ここが! 歴史の学術書である本書と、我々の「創作の参考にしたい」という思惑とのズレが大きい所なんです。
本書は学術書として、一次史料として存在している図版を掲載しています。
秦の統一前とかなどの古い時代だと「陶器の模様」くらいしかなかったりします。
その図版が掲載されていますが、もう、服を着たピクトクラムにしか見えないw
トイレのピクトクラムで、男性と女性とが服の違いで分かるようになってますよね。ああいう感じです。
もう少し時代が下って秦漢時代の服装。
頭巾について解説されている箇所には、「成都近くで出土した画像煉瓦」が図版として紹介されています(50頁)。
鷲生の目にも「なんかアジア風の冠を被っているのは分かる」のですが、それが文中の「幅巾」の説明とどう結びつくのか分からない……。
(「幅巾」の説明としては「頭巾の一種」「細幅の絹で作られた」という文言があるくらいでどこがどうなってそういう形なの?というのが分からないです……)。
つまり図版はありますが、説明文を図で解説するようなイラストでは決してないのです。
既にある程度知識がないと、その図像から何を読み取っていいのか分からない……。なんか、読んでて凄くもどかしいです(泣)。
あと白黒なので色が分かりません。
人形などの写真も、白黒の点描なのでさらに分かりづらいです。
……とまあ、不足を述べましたが。
この『中国服装史』、10頁からの序文によれば1987年に書かれたものを1998年に改訂したものだそうです。
当時はインターネットなどもほとんどなく(ダイアルアップ回線の頃で、小説サイトなんかもなかったかと)、日本の一般人が中華ファンタジーを書くなんて著者も翻訳者様も全く想像していなかったでしょう。
一次資料を掲載している点だって学術書としてはとても誠実な姿勢です。
また、2003年にの日本で発売された時の価格は2200円。
オールカラーの写真をふんだんに載せていたら、とてもこの価格で収まらなかったでしょう。
現代の我々の創作に使いたいというニーズとは距離はありますが、しかし、そもそもの出版の趣旨と価格設定からすると、それも致し方ないかと。
もちろん利点もあります。
文字でしか分かりませんが、文字としてどう表現するのかは参考になるんですよw
この本では、服装の美しさを讃えた古代の漢詩などが紹介されています。
歴史上の詩人たちがどんな言い回しで服装を語っていたかを知ることができますから、ここは現代の我々が中華ファンタジー小説を書くのに活かせるところかと思います。
一例として、92頁の孟浩然が裙の長さを描写した「座る時は衣の帯がまるで細い草のよう、歩く時は裙が長くてまるで落花を掃いているいるよう」という詩句を挙げておきます。
現在プレミア価格で高額になっており、そして初学者がその価格で買うのは「うーん」という感じですが……。
ただ、後に出版された本がこの本を参考に挙げていますから、機会があれば図書館でご覧になってはいかがでしょうか。
そして、ある程度知識やイメージが身に着いたうえで、ご自身に必要だと思われたら購入なさってもいいかと思います。
さて。
今回ご紹介する2冊目が『中国服飾史図鑑』(2018 黄 能馥, 陣 娟娟, 黄 鋼 著
古田 真一訳 国書刊行会http://www.sptokyo.co.jp/list/?p=778 )です。
ふうう、大きなページにオールカラーの写真がたっぷりで美麗です。受ける印象もとてもヴィヴィッド!
図書館で見つけて頁を繰って、思わず見とれてしまいましたw
鷲生は耳飾りの写真を見て「コレ、私が欲しい!」と思いましたね。
繊細な金細工に青い石がぶら下がっていて、エキゾチックで華やかで。日本で売ってたら買いたくなるほど素敵ですw。
……という風に、眺めている分にはとても楽しい本ですが。
問題は重さと価格。
そう、これはあくまで「図鑑」です。
オールカラーで大判で、1冊が30,800円! 三万円越えです(某ネット書店で22000円台で中古が出品されていますが、この金額でもうーーーん)。
しかも、「1冊」と書きましたように、これは「4巻」に分かれているのです……。
どの時代を参考にしたいか人によると思いますが、鷲生の場合は漢から唐くらいを考えています。すると、第1巻と第2巻にまたがってしまいます。古書で手に入ったとしても2冊も買うなら4万円以上の出費……。ますます購入のハードルが高くなってしまう……。
っていうか、出版する側も、この図鑑は図書館の参考図書の棚に並べるもので個人が購入することはあまり考えてないのかもしれません。
でも……家に欲しいなあ……。
うーーん。
カクヨムでリワードを稼げるようになったら購入したい本リストに入れておこうと思いますw
(皆様よろしくお願いいたしますw)
文献としては、あまりコレ!というものが現在の鷲生にはないのですが……。
それでも中華ファンタジー・後宮モノを書くのに、イメージを膨らませる術を別途ご紹介したいと思います。
それは、日本の奈良時代から平安時代の初期の衣装を探ってみることです。
鷲生は京都に住んでおり、平安ファンタジーを書いておりました。
その作品では、平安時代でも初期の頃、すなわち中国風の衣装と、後代に十二単と呼ばれる国風文化の装束とが併存しているような時期を舞台にしています。そして、この服装の違いも物語の展開の重要な要素になっています。
実を言えば、上述の中国の服装の歴史の書籍の記述を読みながら、鷲生が頭の中で思い浮かべていたのは、この平安ファンタジー執筆中に見た平安初期の中国風の衣装でした。
(あ、タイトルは「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」でカクヨムでのURLはこちらです→https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393 よろしければお読みいただければ嬉しいです!)。
鷲生がどこで何を見たのかは後述しますが、日本の文物から中国古代を探るのは、中国に行けないとか中国発の資料がないから「仕方なく」という消極的な意味よりも、日本に住んでてラッキー♡と積極的にとらえるべき事態ではないかと思います。
なぜなら、中国の古いものが、意外と日本に残っているからです。
言語の話になりますが、東大名誉教授のエライ先生の世界史の本によると「当の中国では使われなくなった漢字の古い音というのは、漢字が伝わった周辺国である日本や朝鮮半島、ベトナムに残っているケースが多いのです」とあります。「ですから、古い中国の音を再現していこうと思ったら、日本語や韓国朝鮮語、ベトナム語(中略)を比較しながらやっていくと、かなり正確なものができる」のだそうです。
(鈴木董2019『大人のための「世界史」ゼミ』山川出版社)
同じようなことを、鷲生が昔、中国の方に言われたことがあります。
平安時代初期に空海が創建した東寺(教王護国寺)に子どもを連れていき、宝物館で、唐で制作された仏像を子どもに説明しておりましたら、中国の方が話しかけてこられました。
その方が仰るには「このようなものは今ではChinaには残っていない。とてもとてもprecious。中国では王朝dynastyがchangeするたびに前の王朝のものを destroyしてしまうので何も残っていない。このような貴重なものが見られてあなた方 Japaneseは本当に luckeyなのだ」とのこと。
(そして小学生だった豚児に「特に君のような youngな世代にはね。君はluckyなのだよ」と念を押されました)。
現代中国に残っていないモノが、ある程度日本に伝わっている……。この中国の方のご指摘通り、中華モノを書くのに日本に住んでいるのはluckyな面もあるのではないでしょうか。
そして。具体的に鷲生が何を目にしたかといいますと。
京都の西本願寺の近くに「風俗博物館」というミュージアムがあります。風俗ったってエロじゃないですよ、もちろん。
平安時代の風俗を示す、とても時代考証の行き届いた装束を着た人形たちのドールハウスのような展示です。
ここの一角が「竹取物語」の場面なんです。
竹取物語が平安初期なので、着ている服が奈良時代に近く……後の時代から比べるとぐっと中国風の装いです。
雲の上に天界から輝夜姫を迎えに来た天界の人々がいますが、その中心にいるのは中国の皇帝風の衣装を着た男性で、冕冠を被っているんですよ!
この一角だけと言えばそれだけなんですが、入場料だって500円ですし、展示期間中の平安時代の展示(源氏物語の一場面)は本当に気合の入ったものです(京都の隠れた風物詩と言えるかも)。
東アジアの衣装に興味がある方は一度ご覧になられてもいいのではないかと。おススメです!
(風俗博物館:https://www.iz2.or.jp/)
また。
京都三大祭りの時代祭(10月22日)では、平安時代の初期の百済王明信がお付きの女官たちと共に登場します。
ばっちり中国風の衣装で、唐の女性たちを現実に見ているように思えました!
(2022年の明信役の女性はサービス精神が旺盛な方で、沿道の環境客に、にこやかに笑顔を振りまいて下さいました。鷲生もカメラ目線の写真が撮れましたよw)。
あと、奈良ですね……。
京都駅から近鉄電車で4,50分くらいです。
今はもう無くなってしまったんですが、平城宮の朱雀門近くにあったミュージアムで天平時代の衣装を着付けてもらうという催しがありまして。
家族で出かけて、着せてもらいましたよ~。
印象深かったのは、袖が指先より長いので、裙の膝をつまむことが出来ず、階段を降りるのが怖かったという点です。
この衣装を着て、復元された遣唐使船に乗っている鷲生の写真がありますので、よろしければご覧ください(『錦濤宮物語』を書いている時のカクヨム近況ノートです https://kakuyomu.jp/users/washusatomi/news/16816927861731294193)
2022年の夏には「衣装でみる、壬申の乱」展が平城宮跡のミュージアムで開催されており、当時の鷲生は「中華ファンタジーの役に立つかも」と思って見に行きました。
上記2つは常設展示ではありませんが、モノはあるので、どこかで類似の催しがあるのではないかと思います。
京都、奈良から離れたところにお住まいの方も。
例えば東京国立博物館などに、唐など中国から伝来したものがあるのではないでしょうか。
あと、鷲生は京都住まいなので上記の例を挙げましたが、九州の方なら大宰府関連であるかもしれませんし、沖縄の琉球王朝から辿っていくこともできるかもしれません。
人によっては韓国の資料がアクセスしやすい方もいらっしゃるかも。
すると、唐だけでなく、明とか清とかもイメージできそうですね!
また、こういった方面の研究をされている方がツイッターで動画を上げていらっしゃることもあります。
(鷲生は一度、天平衣装に身を包んだ女官たちが近代ビルディングのエスカレーターに列をなしている動画を見かけたことがあります)。
あと、漫画で中国風と国風の過渡期を絵で見せてくれる「応天の門」(2014~ 灰原薬 新潮社)もあります。
ああ、これを上げるなら、「天上の虹」などの里中満智子さんの漫画もありますね。
もっとも。
ここまで来ると、中国時代劇を見るのが手っ取り早いのかもしれません。
鷲生がドラマを見る習慣がなく、なまじ京都・奈良が近くて博物館の展示の方が身近なので話題が偏ってしまいました。スミマセン。
さらに。
中国ドラマや中華ファンタジーのコスプレをする人が身近にいれば最強かとw
鷲生が十二国記の二次創作をしていたときに、レイヤーさんをネットでお見かけしたことがありました。
私はリアルでもネットでも人見知りするので、直接お知り合いにはなれなかったのですが、知人にいたら服装関係で助かるなあ~と思います。
鷲生は裁縫の心得がないのですが、皆さまは如何でしょう?
手芸や縫物がお好きでしたら、こういう沼にハマってみるのも楽しい人生なのではないかと思いますw
もし、そのような界隈にお住まいになられることがありましたら、ぜひ鷲生にご一報くださいねw
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回は日常史の書籍をご紹介しようかと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
2023年3月11日追記
4月18日にマール社から『中国の服飾史入門』(1980円)という本が発売されるのだそうです。
速報をこの連載の第11話として書きました。
↓
https://kakuyomu.jp/works/16817139556995512679/episodes/16817330654305621060 「第11話 速報!『中国の服飾史入門』という書籍が発売されるそうです!」
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中華ファンタジー、中華後宮モノ……いや、こういったジャンルに限らず、およそ小説の中で登場人物の服装に全く触れないのは難しいでしょう。
むしろ、衣装の描写は、中華モノであることをアピールしたり、登場人物のポジションを説明するのに重要だったりします。
小野不由美さんの『十二国記』でも陽子が粗末な服から王のゴージャスな礼装(大裘)に身を包むようになり、その立場の変化が物語のキーとなります。また、白河紺子さんの『後宮の烏』では、烏妃の衫襦や裙は黒づくめなのですが、そこに布の質感や華麗な刺繍の描写が加わることで神秘的な雰囲気が伝わってきます。
このように、物語で上手く活用できるように服装について知っておきたい……ですよね。
今回は、資料本として『中国服装史 五千年の歴史を検証する』と『中国服飾史図鑑』をご紹介します。
どちらも基本的な資料であり、たいていの図書館にも所蔵されていると思います。
ただ……どちらの本も学術的な価値は高いかと思いますが、「ファンタジー小説を書きたい」というクリエイターの願いからは、ちーとばかし距離はあります。
それを埋めるのに日本の古代を参考になさってはどうでしょうかというご提案を最後に書かせていただきます。
『中国服装史 五千年の歴史を検証する』(華梅著 施 潔民訳 2003 白帝社
https://www.hakuteisha.co.jp/books/588-2.html)は、この分野では欠かすことのできない基本文献のようです。
鷲生がこのエッセイの第1回、第2回、第4回で取り上げた書籍の全てが、「参考文献」として、この本を挙げています。
ただ……。この本に限らず、また、中国の服装に限りませんが……三次元を生きる人間が身に着ける立体的な衣装を「文字だけで」理解するのは難しい……。
私は平安ファンタジー小説を書いたことがありますが、平安時代のいわゆる十二単についても文章の資料でイメージするのは大変でした。
そして、それは研究をする専門家にとっても同じです。
平安装束の「細長」は実物が今に伝わっておらず、当時の文献で想像するしかないので、現代の研究家の間にも諸説があって「謎の装束」とされています(Wikipedia「細長」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E9%95%B7)
この『中国服装史』も文字で実物をイメージするのはかなり困難です。
ここで「あれ。図版とか載ってないの?」とお思いの方も多いでしょう。
あります、ありますよ……。数だけでいうならわりとたくさん掲載されています。
ただ、ここが! 歴史の学術書である本書と、我々の「創作の参考にしたい」という思惑とのズレが大きい所なんです。
本書は学術書として、一次史料として存在している図版を掲載しています。
秦の統一前とかなどの古い時代だと「陶器の模様」くらいしかなかったりします。
その図版が掲載されていますが、もう、服を着たピクトクラムにしか見えないw
トイレのピクトクラムで、男性と女性とが服の違いで分かるようになってますよね。ああいう感じです。
もう少し時代が下って秦漢時代の服装。
頭巾について解説されている箇所には、「成都近くで出土した画像煉瓦」が図版として紹介されています(50頁)。
鷲生の目にも「なんかアジア風の冠を被っているのは分かる」のですが、それが文中の「幅巾」の説明とどう結びつくのか分からない……。
(「幅巾」の説明としては「頭巾の一種」「細幅の絹で作られた」という文言があるくらいでどこがどうなってそういう形なの?というのが分からないです……)。
つまり図版はありますが、説明文を図で解説するようなイラストでは決してないのです。
既にある程度知識がないと、その図像から何を読み取っていいのか分からない……。なんか、読んでて凄くもどかしいです(泣)。
あと白黒なので色が分かりません。
人形などの写真も、白黒の点描なのでさらに分かりづらいです。
……とまあ、不足を述べましたが。
この『中国服装史』、10頁からの序文によれば1987年に書かれたものを1998年に改訂したものだそうです。
当時はインターネットなどもほとんどなく(ダイアルアップ回線の頃で、小説サイトなんかもなかったかと)、日本の一般人が中華ファンタジーを書くなんて著者も翻訳者様も全く想像していなかったでしょう。
一次資料を掲載している点だって学術書としてはとても誠実な姿勢です。
また、2003年にの日本で発売された時の価格は2200円。
オールカラーの写真をふんだんに載せていたら、とてもこの価格で収まらなかったでしょう。
現代の我々の創作に使いたいというニーズとは距離はありますが、しかし、そもそもの出版の趣旨と価格設定からすると、それも致し方ないかと。
もちろん利点もあります。
文字でしか分かりませんが、文字としてどう表現するのかは参考になるんですよw
この本では、服装の美しさを讃えた古代の漢詩などが紹介されています。
歴史上の詩人たちがどんな言い回しで服装を語っていたかを知ることができますから、ここは現代の我々が中華ファンタジー小説を書くのに活かせるところかと思います。
一例として、92頁の孟浩然が裙の長さを描写した「座る時は衣の帯がまるで細い草のよう、歩く時は裙が長くてまるで落花を掃いているいるよう」という詩句を挙げておきます。
現在プレミア価格で高額になっており、そして初学者がその価格で買うのは「うーん」という感じですが……。
ただ、後に出版された本がこの本を参考に挙げていますから、機会があれば図書館でご覧になってはいかがでしょうか。
そして、ある程度知識やイメージが身に着いたうえで、ご自身に必要だと思われたら購入なさってもいいかと思います。
さて。
今回ご紹介する2冊目が『中国服飾史図鑑』(2018 黄 能馥, 陣 娟娟, 黄 鋼 著
古田 真一訳 国書刊行会http://www.sptokyo.co.jp/list/?p=778 )です。
ふうう、大きなページにオールカラーの写真がたっぷりで美麗です。受ける印象もとてもヴィヴィッド!
図書館で見つけて頁を繰って、思わず見とれてしまいましたw
鷲生は耳飾りの写真を見て「コレ、私が欲しい!」と思いましたね。
繊細な金細工に青い石がぶら下がっていて、エキゾチックで華やかで。日本で売ってたら買いたくなるほど素敵ですw。
……という風に、眺めている分にはとても楽しい本ですが。
問題は重さと価格。
そう、これはあくまで「図鑑」です。
オールカラーで大判で、1冊が30,800円! 三万円越えです(某ネット書店で22000円台で中古が出品されていますが、この金額でもうーーーん)。
しかも、「1冊」と書きましたように、これは「4巻」に分かれているのです……。
どの時代を参考にしたいか人によると思いますが、鷲生の場合は漢から唐くらいを考えています。すると、第1巻と第2巻にまたがってしまいます。古書で手に入ったとしても2冊も買うなら4万円以上の出費……。ますます購入のハードルが高くなってしまう……。
っていうか、出版する側も、この図鑑は図書館の参考図書の棚に並べるもので個人が購入することはあまり考えてないのかもしれません。
でも……家に欲しいなあ……。
うーーん。
カクヨムでリワードを稼げるようになったら購入したい本リストに入れておこうと思いますw
(皆様よろしくお願いいたしますw)
文献としては、あまりコレ!というものが現在の鷲生にはないのですが……。
それでも中華ファンタジー・後宮モノを書くのに、イメージを膨らませる術を別途ご紹介したいと思います。
それは、日本の奈良時代から平安時代の初期の衣装を探ってみることです。
鷲生は京都に住んでおり、平安ファンタジーを書いておりました。
その作品では、平安時代でも初期の頃、すなわち中国風の衣装と、後代に十二単と呼ばれる国風文化の装束とが併存しているような時期を舞台にしています。そして、この服装の違いも物語の展開の重要な要素になっています。
実を言えば、上述の中国の服装の歴史の書籍の記述を読みながら、鷲生が頭の中で思い浮かべていたのは、この平安ファンタジー執筆中に見た平安初期の中国風の衣装でした。
(あ、タイトルは「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」でカクヨムでのURLはこちらです→https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393 よろしければお読みいただければ嬉しいです!)。
鷲生がどこで何を見たのかは後述しますが、日本の文物から中国古代を探るのは、中国に行けないとか中国発の資料がないから「仕方なく」という消極的な意味よりも、日本に住んでてラッキー♡と積極的にとらえるべき事態ではないかと思います。
なぜなら、中国の古いものが、意外と日本に残っているからです。
言語の話になりますが、東大名誉教授のエライ先生の世界史の本によると「当の中国では使われなくなった漢字の古い音というのは、漢字が伝わった周辺国である日本や朝鮮半島、ベトナムに残っているケースが多いのです」とあります。「ですから、古い中国の音を再現していこうと思ったら、日本語や韓国朝鮮語、ベトナム語(中略)を比較しながらやっていくと、かなり正確なものができる」のだそうです。
(鈴木董2019『大人のための「世界史」ゼミ』山川出版社)
同じようなことを、鷲生が昔、中国の方に言われたことがあります。
平安時代初期に空海が創建した東寺(教王護国寺)に子どもを連れていき、宝物館で、唐で制作された仏像を子どもに説明しておりましたら、中国の方が話しかけてこられました。
その方が仰るには「このようなものは今ではChinaには残っていない。とてもとてもprecious。中国では王朝dynastyがchangeするたびに前の王朝のものを destroyしてしまうので何も残っていない。このような貴重なものが見られてあなた方 Japaneseは本当に luckeyなのだ」とのこと。
(そして小学生だった豚児に「特に君のような youngな世代にはね。君はluckyなのだよ」と念を押されました)。
現代中国に残っていないモノが、ある程度日本に伝わっている……。この中国の方のご指摘通り、中華モノを書くのに日本に住んでいるのはluckyな面もあるのではないでしょうか。
そして。具体的に鷲生が何を目にしたかといいますと。
京都の西本願寺の近くに「風俗博物館」というミュージアムがあります。風俗ったってエロじゃないですよ、もちろん。
平安時代の風俗を示す、とても時代考証の行き届いた装束を着た人形たちのドールハウスのような展示です。
ここの一角が「竹取物語」の場面なんです。
竹取物語が平安初期なので、着ている服が奈良時代に近く……後の時代から比べるとぐっと中国風の装いです。
雲の上に天界から輝夜姫を迎えに来た天界の人々がいますが、その中心にいるのは中国の皇帝風の衣装を着た男性で、冕冠を被っているんですよ!
この一角だけと言えばそれだけなんですが、入場料だって500円ですし、展示期間中の平安時代の展示(源氏物語の一場面)は本当に気合の入ったものです(京都の隠れた風物詩と言えるかも)。
東アジアの衣装に興味がある方は一度ご覧になられてもいいのではないかと。おススメです!
(風俗博物館:https://www.iz2.or.jp/)
また。
京都三大祭りの時代祭(10月22日)では、平安時代の初期の百済王明信がお付きの女官たちと共に登場します。
ばっちり中国風の衣装で、唐の女性たちを現実に見ているように思えました!
(2022年の明信役の女性はサービス精神が旺盛な方で、沿道の環境客に、にこやかに笑顔を振りまいて下さいました。鷲生もカメラ目線の写真が撮れましたよw)。
あと、奈良ですね……。
京都駅から近鉄電車で4,50分くらいです。
今はもう無くなってしまったんですが、平城宮の朱雀門近くにあったミュージアムで天平時代の衣装を着付けてもらうという催しがありまして。
家族で出かけて、着せてもらいましたよ~。
印象深かったのは、袖が指先より長いので、裙の膝をつまむことが出来ず、階段を降りるのが怖かったという点です。
この衣装を着て、復元された遣唐使船に乗っている鷲生の写真がありますので、よろしければご覧ください(『錦濤宮物語』を書いている時のカクヨム近況ノートです https://kakuyomu.jp/users/washusatomi/news/16816927861731294193)
2022年の夏には「衣装でみる、壬申の乱」展が平城宮跡のミュージアムで開催されており、当時の鷲生は「中華ファンタジーの役に立つかも」と思って見に行きました。
上記2つは常設展示ではありませんが、モノはあるので、どこかで類似の催しがあるのではないかと思います。
京都、奈良から離れたところにお住まいの方も。
例えば東京国立博物館などに、唐など中国から伝来したものがあるのではないでしょうか。
あと、鷲生は京都住まいなので上記の例を挙げましたが、九州の方なら大宰府関連であるかもしれませんし、沖縄の琉球王朝から辿っていくこともできるかもしれません。
人によっては韓国の資料がアクセスしやすい方もいらっしゃるかも。
すると、唐だけでなく、明とか清とかもイメージできそうですね!
また、こういった方面の研究をされている方がツイッターで動画を上げていらっしゃることもあります。
(鷲生は一度、天平衣装に身を包んだ女官たちが近代ビルディングのエスカレーターに列をなしている動画を見かけたことがあります)。
あと、漫画で中国風と国風の過渡期を絵で見せてくれる「応天の門」(2014~ 灰原薬 新潮社)もあります。
ああ、これを上げるなら、「天上の虹」などの里中満智子さんの漫画もありますね。
もっとも。
ここまで来ると、中国時代劇を見るのが手っ取り早いのかもしれません。
鷲生がドラマを見る習慣がなく、なまじ京都・奈良が近くて博物館の展示の方が身近なので話題が偏ってしまいました。スミマセン。
さらに。
中国ドラマや中華ファンタジーのコスプレをする人が身近にいれば最強かとw
鷲生が十二国記の二次創作をしていたときに、レイヤーさんをネットでお見かけしたことがありました。
私はリアルでもネットでも人見知りするので、直接お知り合いにはなれなかったのですが、知人にいたら服装関係で助かるなあ~と思います。
鷲生は裁縫の心得がないのですが、皆さまは如何でしょう?
手芸や縫物がお好きでしたら、こういう沼にハマってみるのも楽しい人生なのではないかと思いますw
もし、そのような界隈にお住まいになられることがありましたら、ぜひ鷲生にご一報くださいねw
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回は日常史の書籍をご紹介しようかと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
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