京都に住んで和風ファンタジー(時には中華風)の取材などする日記

washusatomi

文字の大きさ
46 / 59

冥界への井戸を見てきました!

しおりを挟む
 平安時代を舞台にするファンタジーでは陰陽師の安倍晴明が有名ですが。
 不思議な能力の持ち主と言えば、小野篁(おののたかむら)という人もいます。

 同じ平安時代でも、安部清明よりずっと世代は上で、平安京が都と定められてからそう時間が離れていない頃の人です。

 よく知られている通り桓武天皇が平安京に遷都したわけですが(794年、鳴くよウグイス平安京ですね)。
 桓武天皇の次に平城天皇、その次に嵯峨天皇の代となります。小野篁は嵯峨天皇の時代の人です。

 安倍晴明の色んなエピソードは、後年、子孫が先祖に箔をつけるために流布したという性格が強いものです。
 岡野玲子さんの漫画「陰陽師」(夢枕獏さん原作ですが、だいぶかけ離れてますよね)では安倍晴明はかなり奇矯な人物ですし、2024年大河ドラマ館「光る君へ」でもユースケ・サンタマリアさんがいーい感じに胡散臭く演じてらっしゃいましたがw 史実の安倍晴明は意外と手堅い理系(天文学)官僚だったかもしれません。

 一方、小野篁という人は同時代の人々から見ても強烈な個性の持ち主だったようで、「野狂」とも呼ばれていたとか。

 平安時代の初期ですからまだ遣唐使が派遣されており、その副使に選ばれていたのですが、トラブルがあって乗船拒否(Wikipediaなどで詳細をご覧いただければと思いますが、筋から言うと篁の言い分ももっともではあります)。

 その後、激烈に朝廷を風刺する漢詩を作り、激怒した嵯峨天皇により隠岐国へ流罪(才能ある人なので2年ほどで赦免されて帰京しますが)。

 皆さまもどこかで聞かれたことがあるかもしれないこのクイズ。「子子子子子子子子子子子子」をどう読むかという質問は、嵯峨天皇が、どんな字でも読めると豪語した篁に出題したものです(答は※1)。

 さて。
 この小野篁には昼間は朝廷の官人をつとめつつ、夜は冥界で閻魔大王の下で働いていたという話が伝わっています。

 当時の有力貴族がいったん死んで閻魔大王のところに行ったところ、篁がとりなして生き返らせたのだとか。

 その、篁が冥界と行き来していたという井戸が六道珍皇寺(※2)というお寺にあります。清水寺の近くですね。

 この辺の事情と六道の辻をまとめて説明したのが以下の文章です(六道珍皇寺のウェブサイトの説明を引用します)。

 *****

 六道珍皇寺本堂と「六道の辻」
「六道」とは、仏教の教義でいう地獄道(じごく)・餓鬼道(がき)・畜生道(ちくしょう)・修羅(阿修羅)道(しゅら)・人道(人間)・天道の六種の冥界をいい、人は因果応報(いんがおうほう)により、死後はこの六道を輪廻転生(りんねてんせい)する(生死を繰返しながら流転する)という。 この六道の分岐点で、いわゆるこの世とあの世の境(さかい)(接点)の辻が、古来より当寺の境内あたりであるといわれ、冥界への入口とも信じられてきた。

 このような伝説が生じたのは、当寺が平安京の東の墓所であった鳥辺野に至る道筋にあたり、この地で「野辺の送り(のべのおくり)」をされたことより、ここがいわば「人の世の無常とはかなさを感じる場所」であったことと、小野篁が夜毎(よごと)冥府通いのため、当寺の本堂裏庭にある井戸をその入口に使っていたことによるものであろう。この「六道の辻」の名称は、古くは「古事談」にもみえることよりこの地が中世以来より「冥土への通路」として世に知られていたことがうかがえる。

 *****

 平安京の葬送の地、鳥辺野は2024年大河ドラマ「光る君へ」でも出てきましたね。
 オリキャラの盗賊・直秀が亡くなった場所であり、一条天皇の皇后定子が葬られた場所です(※3)。

 鷲生は30年ほど前から京都に住んでいますが、友人がこの辺りに下宿しており、その大家さんにお嬢さんの家庭教師を頼まれ、その雑談でお嬢さんから「この辺りは幽霊が出るんですよ~」という話を聞いたそうです。
 友人が「怖~い」と言うと、「大丈夫ですよ、先生の部屋って6階じゃないですか。そこまで幽霊はのぼってきませんよ」という返事だったそうですよw

 その頃から鷲生も六道珍皇寺の小野篁の冥府通いの井戸を一度見てみたいな~と思ってはいたのですが。
 京都に住んでいると「いつでも行けるわ」と思うので、ずっとそのままでした。

 近年になってこうしてカクヨムに小説を投稿するようになって、平安ファンタジーの取材であちこち巡るようになり、次回作では小野篁も登場させようかと思うのでいよいよ六道珍皇寺に行こうとしたのです……ですが!

 京都がすっかり観光地なのでいつでも観光客として見られると思いきや。
 原則的には見られないんですよ……その井戸。
 京都のお寺の全てが観光地化されているわけでないんですよね……。
 安倍晴明神社が結構アツイ観光スポットになっているのとはだいぶ違いますね。

 でも、六道珍皇寺も特別拝観で見る機会を設けてくださいます。
 これが先日、11月23日、24日にありました。で、お出かけした次第です。

 写真はnoteに投稿しております(※4)。

 まあ、ただの井戸と言えば井戸ですが……。
 井戸というものを、こう間近で見た経験があまりないので、じっくり見せていただきました。

 そういえば。昔ずっと京都に住んでる人からきいた話では、その人の自宅は100年以上経過した町屋で庭に井戸があり、ときどき使っていたそうですが、保健所の指導で使わなくなったんだそうです。
 鷲生は神戸育ちで生まれた時から水道オンリーですが、井戸が身近な人は京都に多いかもしれませんね。

 この六道珍皇寺。近年、隣接民有地(旧境内地)から井戸が発見され、六道珍皇寺では古くからある井戸を「冥途通いの井戸」、新しい方を「黄泉かえりの井戸」と名付けていらっしゃいます。
(この新しい井戸が発見されるまで、六道珍皇寺の古い井戸が冥途への往路である一方、復路は嵯峨野の大覚寺にあるとされていました。今でもこちらのほうが有名かもしれません)。

 京都に住んでてもいつでも見られるわけではないものを、ちゃんと見逃さずに見られて良かったです。
 次回作に上手く行かせればエエなあ~と思っております!

*****

※1 答えは「猫の子仔猫、獅子の子仔獅子」です。
Wikipediaに「子子子子子子子子子子子子」という項目があり、解説もありますよ。

※2 六道珍皇寺ウェブサイト
http://www.rokudou.jp/guide/

※3 「光る君へ紀行 第28回 鳥戸野陵」
https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0004090128_00000

※4 今回の写真のnote記事のURLはコチラ↓ 「note」「鷲生智美」の検索ワードでも出てくるかと思います。
https://note.com/monmonsiteru/n/n4dfd084e1726



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...