京都に住んで和風ファンタジー(時には中華風)の取材などする日記

washusatomi

文字の大きさ
54 / 59

平安時代の「唐物」についての本を読んでいます。

しおりを挟む
 鷲生は次回作で、平安時代に宋の海商から独自に唐物を仕入れて都で売りさばく辣腕女商人を登場させようかと思っています。

 それで、平安時代の貿易情報などを扱った資料本を読んでいます。

 以前に、河添房江さんの『光源氏が愛した王朝ブランド品』という本を読み、この日記にも書きました(※1)。

 今回はさらに、同じ河添房江さんの単著『源氏物語と東アジア世界』(※2)と、河添房江さんと皆川雅樹さん編著の『唐物と東アジア』(※3)という本を借りてきました。

 河添房江さんご自身がおっしゃるように2007年の『源氏物語と東アジア』と2008年『光源氏が愛した王朝ブランド品』とはだいぶ内容が重なっています。前者の方が範囲が広く(源氏物語以外への言及も多い)学術的で、後者の方が一般向けですね。モノについての説明は後者の方が分かりやすいかと思います。

 これらの本とと、2016年の『唐物と東アジア』におさめられている論文(特にシャルロッテ・フォン・ヴェアシュア「平安時代と唐物」)から平安時代の交易をざっくりまとめると……。

 博多・大宰府に宋船が来ると、京の朝廷にそれが伝えられ、まずは朝廷(帝)から「唐物使」(あるいは買いたいもののリスト)が送られ、帝に先買権があったとのこと。
 そして、帝が「唐物御覧」したものを、近しいミウチや臣下に分配しており、そこでは「唐物」が帝の王権を示す威信財として機能したようです。

 一方、貴族たちの唐物への需要も非常に高く、上記のルート以外で購入しようとしたりすることも多く、たびたび禁令が出されています。

 それでも博多・大宰府で公的ルート以外で入手した品物が大貴族の手にわたることも多かったようです。
 大宰府の官人や、近辺の国司なんかが時の権力者に贈ったり、時の権力者が自分の息のかかったものをそういった役職に送り込んだりしてたとか。

 鷲生が自分の小説に登場させようとする女商人は、これらのルートからさらに逸脱したルートを持っているという設定にしないといけなさそうです。

 具体的にどんなものが輸入されたかについては、三冊とも一次史料『新猿楽記』から香料・薬品・顔料・書籍・鳥獣類・文房具などなどを挙げています。

 河添房江さんの著作では、『源氏物語』の中、つまりは貴族の生活の中でどのように「唐物」が使われ、認識されていたかについても、書かれています。

 その中で、舶来品の「文化ジェンダー」について述べられています(※4)

「平安文化においては、唐の文化を体現する漢詩・漢字(真名)・唐絵と、和の文化を体現する和歌・仮名・やまと絵といった和漢の対照がしばしば指摘されることはいうまでもない。千野香織は、それらが公と私の世界で使い分けられることから、男性性/女性性のジェンダーメタファーで、その現象を説明している」

「ところが、『源氏物語』でさらに特徴的なのは、「和」と「唐」ばかりでなく、「高麗」という「唐」の男性性に対しては女性性に傾き、「和」の女性性に傾く、中間項ともいうべき文化的ジェンダーを押し出す現象ではないか」

 鷲生も漢学=男性文化、仮名=女性文化という前提でお話を書こうとしていますので、まずは千野香織さんの論文を読んでみようと思います(※5)。

 あと、鷲生は藤原実資を登場させる予定なので、111ページの「藤原実資の唐物狂い」も興味深く読みました(※6)

 鷲生の次回作と直接の関係はないんですが、『唐物と東アジア』でいくつか興味深い指摘がありました。

 島尾新さんの論文の中にこんなエピソードが出てきます。

「『日本の美術館なのに、日本の美術はどこにあるのですか』 唐物のコレクションで知られる美術館の館長が欧米からの賓客にまま聞かれることがあるという」

 たしかにギャラリーに並んでいるのは「唐物」。
 だけど、それらは日本の歴史の中で、日本美術の一つの種類として長く存在しており、その館長さんだって「中国の美術品」を展示しているというつもりはないのだと思います。

 日本の中に取り込まれて日本文化の一部となった「唐物」と、その時点で現実に海を渡った中国に存在する「唐物」とは少し違う……。

 島尾さんは、この辺の機微を近代以降の「西洋画」に例えてくださいます。
 近代以降に西洋画が日本に入ってきて(そして近代以降の「日本画」が成長して)、黒田清輝のような「洋画家」が誕生します。でも、現実に西洋で活動したレンブラントなどを私たちは「洋画家」とは言いません。「日本の洋画」と「西洋美術」とはちょっと違うんですよね。
(鷲生の思いつくところでは「洋食屋」と「レストラン」の違いとか。「街中華」と「ガチ中華」。 「家系ラーメン」と「(中華レストランの)拉麺」とか)。

 島尾さんは以下のようにお話をまとめてくださいます。

「いったん話を単純化すれば、「唐物」には三つのもの──異国の美術としての唐物、「和」の世界に取り込まれた「唐物」、そして日本で造られる「唐物」があった」。

 また、皆川雅樹さんの論文では、先行研究に以下のような文章があると指摘しておられます。

「唐物は、唐船から日本の港町に荷揚げされた瞬間に、和の物の価値体系に組み込まれて、新しい重宝として生を受けるかのようである」

 この辺で鷲生が連想するのは、「日本人にとって『中華』とは何か」という問いです。

 鷲生は以前中華ファンタジーを書いていますし(※7)、そのときに参考に読んだ本を紹介するエッセイもカクヨムに投稿しております(※8)。

 ですが……。
 中国の史実がそのまま中華ファンタジーの舞台に使えるわけではないということも感じます。

 とある商業作家様(中華後宮モノを書いてらっしゃる方)がXで以下のようなポストをされたことがあります。

「私にとっての『調べ物』とは、『古代中国に唐辛子は存在しなかった(唐辛子は南米原産、四川料理が辛くなったのは19世紀以降)』という事実を突き止め、虚無顔になり、天を仰ぎ、腕を組み、眉間を揉み、「でも唐辛子あったほうがそれっぽいしな、唐辛子描写は残すものとする!」と結論する作業のこと」
 https://x.com/satsuki_nkmr/status/1854835970522100188


 日本のエンターテイメントが「中華っぽい」と感じる要素と、史実との距離。

 中華だけでなく、いわゆる「ナーロッパ」もそうです。
 中世ヨーロッパが基になっているんだろうけれど、「なろう」系小説では、史実とは別に「世界観」が読み手・書き手に共有されているという現象。

 不思議だなあ……と前から思っていました。
 今回、『唐物と東アジア』を読んでみて、少しだけぼんやりした思考に手がかりが得られた気がします。

 この『唐物と東アジア』は通史なので、古代までしか興味のない鷲生が即購入に踏み切るかは微妙ですが、面白い本ですのでちゃんと記憶にとどめてせっせと図書館で借り出すようにしようと思います。

 *****

 ※1「京都に住んで和風ファンタジー(時には中華風)の取材などする日記 河添房江さんの『光源氏が愛した王朝ブランド品』を読んでます。」
 
https://www.alphapolis.co.jp/novel/161111112/900876435/episode/9156995
 なお、この記事に書きましたように、河添房江さんについては以下の本も読んでます。
『唐物の文化史 舶来品からみた日本』 河添房江 2014 岩波新書 https://www.iwanami.co.jp/book/b226264.html


 ※2『源氏物語と東アジア世界』 河添房江 2007 NHKブックス No.1098
 https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000910982007.html?srsltid=AfmBOooZxxijG8zHjTmwz46uDMq9RDqfaUYm9dFWHtyWoVobEUFJVdQB

 ※3『新装版 唐物と東アジア 舶載品をめぐる文化交流史』河添房江・皆川雅樹 編 2016 勉誠社
 https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100561

 ※4 『源氏物語と東アジア』178-179ページ。

 ※5 千野香織 1994 「日本美術のジェンダー」『美術史』百三十六号

 ※6 『源氏物語と東アジア』111ページ

 ※7 「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」
   https://www.alphapolis.co.jp/novel/161111112/878803039

 ※8 「中華ファンタジー・中華後宮モノを書きたい人への資料をご紹介!」 
 https://www.alphapolis.co.jp/novel/161111112/529799972

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...