目隠しは赤い糸

雪野 千夏

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二齢

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「先生ふつうの言葉話している」

先生でいる間は子供相手でも丁寧に話すようにしていたのに。隼人の蚕への愛に素が出てしまった。
隼人は、蚕は全身全霊で向き合ったのだ。自分はといえば、柔らかい葉を適当にかぶせてきただけだ。急に自分が恥ずかしくなった。
先生としてそれはどうかと思い、つとめて冷静に声を出す。

「どうして二つに分けたのですか」
「赤ちゃんと、種は分けないと危ないやろ?それに口が小さいうちは小さいほうが食べやすいかと思って」

なんてことだ。
斬新だった。彼はこれを人間と同じに考えているのだ。自分の小さな弟にしてきたように、一生懸命考えたのだろう。
おばあさんは何も言わなかったのかと聞けば、笑って見とった、と彼は拗ねたように言った。きっと、小さな賓客を彼ら家族が一緒に見守ってきたのが目に見えるようだった。

「でもさ、端っこから食べないの。好きなところから好きなだけ食べて。もったいないよな」
「それはさ、甘やかしてるからやって。俺小さい葉っぱやったけどそれ一枚だけやもん。そしたらほら」

隼人と仲のよいカケルがやってきた。手のひらには見事に葉脈だけになった小さな桑の葉があった。工芸品のようなそれに、歓声があがった。皆が注目した。

「どうやったの?」
「この一枚だけ入れたんや。これ食べ終わるまで次のはないよ、ってな」

お調子者のカケルは見かけによらず、スパルタだったらしい。蚕に対する接し方は、子供たちが家族にどう接してもらっているかと同じだった。彼らは彼らの人生で学んだすべてで生きているのだ。

「でも、じいちゃんも蚕が見えなくなるくらい桑をかけとくもんやって」

隼人のプライドがまた傷ついたらしい。彼にとって桑の葉は食べ物であると同時に布団でもあったようだ。

「カイガだってそのほうが嬉しいと思ったのに」
「カイガって何?」

静かに傷つく隼人などおかまいなくカケルは皆に葉脈を見せびらかしながらきいた。

「……名前。カッコいいだろ。仮面ライダーみたいで」
「名前!」

カケルは天井高く葉脈を踊るように振りながら固まった。
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