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第2章 嘘を暴く女
午後七時。
雨上がりの街が、アスファルトに残る光を反射していた。
ネオンが滲み、息が白くなる。
ナギはカフェの二階、奥のブースで依頼人の話を聞いていた。
依頼人は小さな声で言った。
「西園寺笙子を、社会的に終わらせてほしい。」
ハンカチを握る手が震えていた。
ナギはただ頷いた。声の抑揚、まばたきの間、
“本気の涙かどうか”を確かめながら。
笙子。
その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
どこかで見た。どこかで、聞いた。
恋愛カウンセラー、自己啓発、フォロワー十万人。
画面越しの“言葉の女王”。
だがナギは知っている。
「癒し」を語る者ほど、心を弄ぶことができるということを。
「笙子に、何をされたの?」
「全部、奪われたんです。お金も、恋人も、友達も。」
女性の目が泳ぐ。
その中に、わずかな光が見えた。
怒りではない。羨望だ。
ナギは気づいてしまった。
――この依頼人、被害者を演じている。
笙子の“信者”だったのだ。
今も心のどこかで、彼女を愛している。
沈黙が落ちた。
ナギはゆっくりと立ち上がる。
「今日はここまでにしましょう。答えは、もう出てる。」
カップの中のコーヒーが、黒く静かに揺れた。
その夜、ナギは笙子の過去を追った。
旧アカウント、削除された動画、匿名掲示板の断片。
どれも完璧に操作されていた。
だが、ひとつだけ残っていた。
“ナイトメア”というハンドルネーム。
そこには、人の心を「解体」するような文章が並んでいた。
まるで刃物のような、冷たい美文。
――“悪夢は、あなたを救う”
その文を読んだ瞬間、ナギの背中を電流が走る。
これは、かつての自分の言葉に似ていた。
翌日。
ナギはある講演会場に足を踏み入れた。
壇上に立つのは、西園寺笙子。
黒いスーツにバーガンディの口紅。
照明を浴びるその姿は、まるで舞台女優のようだった。
「心はね、正義よりも“快楽”を信じるの。
だから、癒しを求める人ほど、痛みに惹かれるのよ。」
観客は息を呑む。
笙子は微笑みながら、まっすぐナギを見つめた。
まるで、最初から知っていたかのように。
拍手が終わった後、控室の扉が開いた。
笙子が一人、ワインを注ぎながら言った。
「あなたが来ると思ってた。
ねぇ、“詐欺師”さん。」
ナギの喉がひりついた。
笙子は笑い、グラスを傾ける。
「悪を暴くのは簡単よ。でも、愛を暴ける?」
その言葉に、ナギは何も返せなかった。
自分の心の奥で、何かがゆっくりと目を覚ました気がした。
外ではまた、雨が降り始めていた。
世界が再び、黒く塗り替えられていくように。
雨上がりの街が、アスファルトに残る光を反射していた。
ネオンが滲み、息が白くなる。
ナギはカフェの二階、奥のブースで依頼人の話を聞いていた。
依頼人は小さな声で言った。
「西園寺笙子を、社会的に終わらせてほしい。」
ハンカチを握る手が震えていた。
ナギはただ頷いた。声の抑揚、まばたきの間、
“本気の涙かどうか”を確かめながら。
笙子。
その名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
どこかで見た。どこかで、聞いた。
恋愛カウンセラー、自己啓発、フォロワー十万人。
画面越しの“言葉の女王”。
だがナギは知っている。
「癒し」を語る者ほど、心を弄ぶことができるということを。
「笙子に、何をされたの?」
「全部、奪われたんです。お金も、恋人も、友達も。」
女性の目が泳ぐ。
その中に、わずかな光が見えた。
怒りではない。羨望だ。
ナギは気づいてしまった。
――この依頼人、被害者を演じている。
笙子の“信者”だったのだ。
今も心のどこかで、彼女を愛している。
沈黙が落ちた。
ナギはゆっくりと立ち上がる。
「今日はここまでにしましょう。答えは、もう出てる。」
カップの中のコーヒーが、黒く静かに揺れた。
その夜、ナギは笙子の過去を追った。
旧アカウント、削除された動画、匿名掲示板の断片。
どれも完璧に操作されていた。
だが、ひとつだけ残っていた。
“ナイトメア”というハンドルネーム。
そこには、人の心を「解体」するような文章が並んでいた。
まるで刃物のような、冷たい美文。
――“悪夢は、あなたを救う”
その文を読んだ瞬間、ナギの背中を電流が走る。
これは、かつての自分の言葉に似ていた。
翌日。
ナギはある講演会場に足を踏み入れた。
壇上に立つのは、西園寺笙子。
黒いスーツにバーガンディの口紅。
照明を浴びるその姿は、まるで舞台女優のようだった。
「心はね、正義よりも“快楽”を信じるの。
だから、癒しを求める人ほど、痛みに惹かれるのよ。」
観客は息を呑む。
笙子は微笑みながら、まっすぐナギを見つめた。
まるで、最初から知っていたかのように。
拍手が終わった後、控室の扉が開いた。
笙子が一人、ワインを注ぎながら言った。
「あなたが来ると思ってた。
ねぇ、“詐欺師”さん。」
ナギの喉がひりついた。
笙子は笑い、グラスを傾ける。
「悪を暴くのは簡単よ。でも、愛を暴ける?」
その言葉に、ナギは何も返せなかった。
自分の心の奥で、何かがゆっくりと目を覚ました気がした。
外ではまた、雨が降り始めていた。
世界が再び、黒く塗り替えられていくように。
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