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第5章 ナイトメアの涙
ビルの屋上。
夜風が髪を揺らす。
街の明かりが遠くで滲んでいた。
ナギは笙子のファイルを開いていた。
封印された記録。削除されたデータ。
そこに、“ナイトメア”が生まれた日の痕跡があった。
十年前、笙子は心理カウンセラーとして新人だった。
ある依頼者を救おうとして、
その人を“壊して”しまった。
相談者は恋人に裏切られ、自殺未遂を繰り返していた。
笙子は必死に支えようとした。
だがその“依存”が強くなるたび、
彼女自身も疲弊していった。
そしてある夜、相談者が残した最後のメッセージ。
──《先生、あなたの声だけが本物だった。
でも、それを聞くと死にたくなる。》
笙子は崩れた。
救おうとした声が、人を殺した。
それ以来、彼女は“癒し”を捨てた。
> 「救えないなら、壊してしまえばいい。
壊せば、苦しみも一緒に消える。」
そうして彼女は“ナイトメア”を名乗った。
その記録を見つめながら、ナギは震えていた。
笙子が犯した罪は、
ナギ自身の過去と同じだった。
同じ“嘘の優しさ”で人を惑わせた。
同じ“罪悪感”で生き延びてきた。
夜風が頬を撫でる。
その冷たさが涙の跡を乾かす。
背後から声がした。
「探るの、上手ね。」
笙子が立っていた。
黒いコートの裾が風に揺れる。
その瞳は、泣いていた。
「あなた、泣いてるの?」
ナギが問うと、笙子は微笑んだ。
「ナギ。私ね、最初は人を救いたかったの。
でもね、救いの言葉って、使えば使うほど空っぽになるのよ。」
ナギは黙っていた。
笙子はゆっくりと近づき、手を差し出す。
「あなたも同じでしょ?
“正義”なんて、いつの間にか自分を守るための嘘になってた。」
ナギはその手を見つめた。
その指先に、血が滲んでいた。
笙子は誰かを傷つけたわけじゃない。
自分を責めていたのだ。
「もう、壊してもいいのよ。
私たち、似てるもの。」
その言葉が夜風に消える。
ナギはゆっくりと笙子の頬に触れた。
冷たい。けれど、その奥に、微かな温もりがあった。
「似てる。でも、私はまだ救いたい。」
笙子の目が揺れる。
月光がその涙を照らしていた。
「救いなんて、もう信じてない。」
「それでも、誰かを救いたいと思えるのが、人間よ。」
沈黙。
遠くで夜汽車の音が鳴る。
笙子は微笑み、涙を拭った。
「悪夢も、涙くらいは流すのね。」
ナギは答えなかった。
その夜、二人の間にあったのは、
罪でも正義でもなく、ただの“哀しみ”だった。
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