午前零時のタイムループ

赤松帝

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-1日目-

「円環」

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朝6時45分。わたしのスマートフォンの目覚めのアラームを手厳しくかき鳴らす。
本当は7時に起きれば良いのだけれど、低血圧のわたしにとって、それまでの15分は体調を整える大切な準備期間となる。
スヌーズ機能によって、鳴ったり、止めたりを繰り返すことで、脳の動きを活性化させ、ようやく心身ともに正常な状態へと引き上げるのだ。
車で喩えるならば、暖機運転とでも言えば判りが良いだろうか。
この15分というほんの短い時間での鳴っては停めての繰り返しの出来事が、わたしが人生の中の今日という1日を生きていく上での、重要な儀式と言えた。


ピピピ ピピピ ピピピ ピピピピピピピピピピピピ・・・・・・。
痺れを切らしたのか、アラーム音の音量と回転速度が速まった。

機械のくせにせっかちだなぁ。
漠然と頭の中で呟きながら、わたしはいよいよ起きるしかないかと覚悟を決めると、利き手である右手を伸ばした。
あれ、無い?いつもある場所のサイドテーブルの上にスマートフォンが無かった。でも、苛立ちを覚え起こさせるお馴染みの機械音は、いつも通り聴こえている。
下にでも落っことしたかしら?
億劫しながら、右手で床下を探ってみるが見当たらない。
仕方が無い。いよいよ起きるしか無いらしい。
意を決して(本当にそんな感じ)、眼を見開き、身体を起こした。
在った。スマートフォンは左手に握られていた。
変なの。よく解らないが、その時ほんのちょっとだけ違和感を感じた。いつもの朝とは何かが違う感じ。でもまあそう大した事じゃない。わずかな戸惑いを頭の中から振り払ったわたしはアラームを停めると、いつもの朝のルーティンを続ける為に、熱いシャワーを浴びにバスルームへと直行した。



朝のルーティンは大切だ。くどい様だが低血圧なわたしにとって、午前中の間は大概意識が朦朧としている。ところどころ、記憶も定かでは無い。だから、出来うる限り、自分自身で行動する内容は変化させる事なく、同じ事を繰り返し、脳や身体の細胞一つひとつにまで、覚え込ませておきたかった。
そうすることで、昼までにはいつものわたしを取り返す事が出来るからだ。
だが、その日に限っては勝手が違った。
熱いシャワーを頭から浴びる筈が、突然、冷水が降り注ぎ、悲鳴を上げる羽目になったり、設定時間で素敵な小麦色のトーストが焼き上がる筈が、黒焦げになっていたりと散々だった。
今にして思えば、スマートフォンのくだりからして、違和感の始まりに過ぎなかったのに違いない。
わたしはその不協和音に気づかなかったのだ。いや、気づかなかったのではなく、気づこうとしなかった。もっと言うならば、本能的に気づくことを敢えて拒否していたのかも知れない。
だがそれも致し方あるまい。今になって思えばそれも手に取る様によく解る事だが、その時のわたしにとってみれば、起きている物事の本質を理解するにはまだまだ程遠い。
何故ならその違和感とは、ボタンの掛け違えの様な些細なことの連続でしかなかったからである。
しかし、こうして因果律の円環の輪はまだ廻り始めたばかりだった。


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