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第1章 異世界からの帰還、現代への再適応
1.9 ミサイル撃墜法の確立
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ハヤトは、朝霞駐屯地の中を身体強化なしで走っている。この駐屯地にのみならず、自衛隊の基地は隊員が運動するためのシステムが整っているが、今彼が走っている外部と隔てる塀の内側を巡る道路もその一つであり1周で3kmを上回る。
ハヤトの、強化無しで中距離を走る速度は大体100mを16秒であり、1万mの世界記録並みの速さであり、これを4周走るつもりで走っている。彼は、食事が美味しかった昨夜の会食を思い出している。
自衛隊の基地には来賓用の食堂があり、高級レストランなみの飾りつけをして、コックもそれなりの腕である。
昨夜は、駐屯地司令官天野陸将補、司令官補佐の矢野1佐、教練隊長村越1佐、香川2佐、広報班長西谷2佐、紅一点で風間1尉が出席したうえで、洋食のフルコースであった。
もっとも、ハヤトは、ラーナラでは5か国の国王や貴族を交えた会食はちょくちょくしていたため、この程度の食事には慣れていたが、日本では中学生であったため、それをフルコースだろうと思っただけで良くは知らない。
異世界のラーナラの場合には、食べるのに使うのはナイフとフォークに似たものであっため、その席で用意された地球のナイフとフォークは別に違和感はない。
その席ではハヤトが、ナーナラに召喚され、3年間の訓練の後4年の旅をして遂に人と血なまぐさい争いをしていた魔族とその指導者魔王を滅ぼした話をしている。その席の人々は、流石に戦争の専門家でありハヤトが経験した数々の戦闘を興味深く聞き、専門家らしい内容の質問を適宜して内容を把握に努めていた。
そう感じたハヤトは『たぶん、嘘か真かの判断は置いておいて、とりあえず信じるということにしたのだろうな』そう思い、それはそれで要らない説明が省けるので有難い話だと考えている。また、ハヤトの求めに応じて、自衛隊として何をハヤトに求めているかについて、まだ自衛隊として全体の意思統一はされていないとの留保の上で一通りの説明があった。
現在、KT国が核ミサイルの開発を続けていることは日本をはじめとする近隣諸国のみならず世界にとって深刻な脅威になりつつある。何よりの問題は、条約破りで核兵器を開発した国は数多くあるが、他国の反対を押しのけての核開発を実施してきた国々は、少なくとも相手の国に打ち込むなどとの言葉を国の発表として行ったことはなく、あくまで表向きは自衛手段として位置付けてきた。
それに対して、KT国は平気で他国を火の海にしてやるなどという挑発を平気で続けている。核兵器というものは、持っている国そのものにある程度の信頼がおけないと、その攻撃を受ける可能性のある国からすれば、物騒で放置できないということになる。
その意味で、KT国はその核兵器を持とうとする目的が自国の人々の安全を守るためでなく、明らかに指導者の金一族の支配を永続化するためのものであることから、極めて危険なのである。一方で、KT国が持っている兵器で有効なのは、ミサイルとソウルに向けた長距離砲やロケット弾のみであるとされ、戦車や戦闘機、戦闘艦等をもっているものの燃料がなく、殆ど訓練もされていないと見られる。
従って、こうしたミサイル、長距離砲、ロケット弾を打ち尽くせば終わりで、全く継戦能力はないと見られている。一方で、指導者の金正成は人民のことなど全く考えておらず、自分と一族が今の地位を保てればよいと考えていることは明らかである。
従って、仮に核あるいは他国に向けた武器を相手に使えば、間違いなく国は滅び自国民の多くが報復によって死ぬことが判っていながら、自分の政権を保つためのみに相手を滅ぼすという脅しを使っているのだ。実際に、自分の政権を倒すような動きを他国がすれば、そうした武器を使いかねないのが実際であり、自国が核ミサイルシステムを完成した暁には、周辺国をそれで脅しかねないのがKTという国なのだ。
「そういうことで、我が国もそのようなKT国に核ミサイルを持たすわけにはいかない、というはっきりした方向をだしています。しかし、ここで危険な点は、アメリカがその危険を軽視していることです。つまり、彼らはKT国のミサイルには再突入能力が無いと見ています。
つまり、アメリカには核が届かないと見ていて、自分の問題として捉えていないということです。そして、スペード大統領ははっきり日和見主義で、敵視していた中国のはっきりした落日を見て、東アジアに積極的に関わろうとはしていません」
しゃべっていた天野司令官は一旦言葉を切り、ハヤトを見つめさらに続ける。
「KT国は、中国の経済の落ち込みもあって、中国からの支援が明らかに細って焦っています。我が国に対する露骨な脅しなどはその表れでなのですが、国内で相当反政府運動が起きているようですので、金総書記の暴発があり得ます。それこそ、あの指導者は自分の国の反乱を防ぐために核を使いかねません。その意味では、日本にミサイルを撃ちこむなどはずっと高い確率であり得ます」
再度、天野司令官は言葉を切りまた続ける。
「その場合、アメリカのスペード大統領は自分の失態を糊塗するために、核をKT国に撃ち込む可能性があります。
KT国は、航空機、ミサイルもそうですがこれらの探知能力は比較的低いですから、アメリカ軍の初撃は殆ど妨害無しに成功するでしょう。これらは、指導者を含めて、多くのKT国の兵器を破壊できると思います。しかし、かなりのミサイル及び長距離砲、ロケット砲が生き残るでしょう。
その時点では、金正成は生き残っていないでしょうが、その残した命令によって、それらは、アメリカ軍の攻撃に応じて全力発射されるものと考えらます。それが、KT国の人々の多くの死を意味するにもかかわらず。その場合にはK国は無論のこと、我が国も甚大な被害を受ける可能性が高いのです。
現状で、KT国が実戦配備しているミサイルは射程1000kmのスカッドと1300㎞のノドンがそれぞれ数百基、またカタログ上の射程だけであればアメリカ本土に届くテポドン10基ほどがすでに配備されています。
生き残った長距離砲とロケット砲は、ソウルを射程内にある高層アパートなど住居群を徹底的にたたくでしょう。また、スカッドの多くはK国の都市部を叩き、ノドンは我が国の西日本めがけて飛んできますが、これは殆ど迎撃できると踏んでいます。
最悪なのは核弾頭の小型化もある程度進んでいて、テポドンには積んでいるという情報です。成層圏に上がって加速を付けて降って来るテポドンの迎撃は非常に難しい。これを何とかしなくてはならないというのが、現在の我々自衛隊が与えられた使命なのです」
司令官の話にハヤトは頷いて口を開く。
「わかりました。KT国のミサイルは問題ないでしょう。しかし、最近のインターネットを見ていると、中国の軍備拡張の脅威という話も多く出ていますし、尖閣列島ですか、そんな名前のところでかなり露骨に挑発をされているようですね」
それを聞いて、今度は司令官補佐の矢野1佐が答える。
「KT国には中国も手を焼いていて、共同で何かを仕掛けてくることはないと見ています。しかし、中国は別の意味で危険です。皇帝になろうとした周は結局アメリカとの経済戦争に敗れたことで排除されました。その結果の、陵政権ですが、西側の総スカンが効いていて経済は落ち込んだ状態で回復の兆しが見えません。
そのような場合に、独裁者の考えることは敵をつくることで、今はまた国民を盛んに日本への敵意を煽っています。一時期は治まっていた尖閣への挑発はまた激化していますし、KT国の次は中国、いや同時もありえます」
矢野1佐が一旦話を切ったところで、今度は香川2佐が引き継ぐ。
「そこで、我々自衛隊もそれに備えざるを得ないでしょうが、陸の我々としては我々が加わるような戦闘はまず生まれないように思います。結局、空と海と海中の戦いになっていくでしょうね。しかし、この戦いでは我が自衛隊に利があると見られています。ただ、犠牲がでるのは避けられないのでこの点が頭が痛いところです。
この場合には、戦に勝っても負けた同然に叩かれるでしょうね。とは言え、相手のよりどころ、また問題は核ミサイルになります。
二宮さんもご存知だと思いますが、中国はすでに核の大陸弾道弾を実戦配備しており、実用できるものは100基と推定されています。これは、アメリカまでに届くと考えられており、そう言う意味では日本へは確実に届きます。
これに対する策としては、いわゆるアメリカの核の傘になるわけですが、仮に中国がアメリカに弾道ミサイルを撃ち込むと脅した場合には、自らの危険を犯してアメリカが日本を守るかどうかは甚だ怪しいと言わざるを得ません。
従って、仮に尖閣近辺で戦闘が行われ、わが自衛隊が勝った場合、我々はそう思っていますが、中国が核をもって屈服を迫る可能性が高く、それに対してアメリカの核の傘も怪しいということになります。結局問題はミサイルなのですよ」
香川の話に、自衛官の皆は頷いている。
「じゃあ、いいじゃないですか。要はミサイルを撃墜できればいいのだから。ミサイルの大体の構造さえわかれば撃墜は十分可能ですよ。それに、仮に私が軍艦、いや護衛艦ですか。護衛艦に乗っていれば、相手の艦の撃つミサイルは撃墜できるかも。どれだけ、その撃墜までの時間が短縮するかにもよりますが」
ハヤトが平静に言うのに対して、今度は女性士官風間1尉が考えながら聞く。
「今日、二宮さんは火魔法ということでコインを溶かしましたよね。それで、ミサイル内でああいう風に局部的に高熱を出すことができますか?」
ハヤトは、少し考えたのちに答える。
「ええ、出来ますよ。ただ範囲は狭いですが。そうか、ミサイルの燃料を熱することが出来て爆発あるいは燃焼すれば、コースを変えたり爆発させたりできますね」
「ええ、でもそれは固体燃料の推進剤の場合で、この場合は、酸化剤が最初から混じっているので、熱さえあれば爆発または異常燃焼させることは可能です。ただ液体燃料の場合は燃料と酸化剤は別になっているので発火させるのは時間がかかるでしょうね。
でも、液体燃料のミサイルでも多段の場合には切り離しの炸薬、あるいは通常は異状飛行に備えて爆薬を使っていますから、これを発火させれば軌道が逸れるあるいは姿勢が崩れますから撃墜したと言えるでしょう。ですから、そうした炸薬を探して発火させれば、短時間で撃墜できると思います」
風間が言い、ハヤトが頷いて同意する。
「そうですね。扱える電線を探すよりそっちの方がうんと楽そうだ」
構内を走りながら昨夜の話を思い出し、今日の10時からの協議が少し楽しみになっているハヤトであった。
そうやって、ハヤトは考えながら同じペースで走っているが、すでに多くのランナーを追い抜いている。正門の近くで追い抜かれたランナーは、日本陸連の強化選手の葉山清太2曹であったが、後ろから迫ってあっという間に追い抜いていった、長身のハヤトを唖然として見送った。
『自分もまだフルスピードではないが、あっという間に抜いて行った彼は、初めて見る顔だが、どれだけ走るのだろう、あのスピードでは1㎞も持たないだろう』と葉山は考えたが、翌日改めて紹介されてなるほどと思ったものだ。
ハヤトが30分足らずのジョッキング(?)の後、シャワ―を浴びて「一緒に飯を食おうぜ」と安井を呼び出す。
安井は、ハヤトから離れるなと香川2佐から命令されているので、昨夜の来客用の食堂に用意された食事を一緒にとる。それは、品数も6品ある和食でよくホテルなどで供される比較的豪華なものであったが、ハヤトは食べながら安井に聞く。
「安井たちの食事はどうだい?」
「無論、朝飯はこんなに食器は種類たくさん使ってなくて、飯と汁茶碗にトレイにバイキングを取る形だが、種類はそれなりにあるものから選べるし、味は問題ないぞ」
安井の言葉にハヤトは言う。
「だったら、まあ泊まるところは折角だから今のものを使わせてもらって、飯は皆と一緒に食うよ」
そう言って、さらに安井に聞く。
「まだ8時だが、10時までだいぶ時間があるがどうする?」
安井は少し心配しながら答える。
「実は班長からロケットに使う推進剤を準備するので発火実験に付き合ってもらいたいということだ」
しかし、ハヤトはあっさり言う。
「いいよ」
香川2佐以下の班員が準備した、推進剤の3種類については、いずれもハヤトの火魔法で熱を発することでものの3秒以内に発火させることができた。一方、液体燃料については、実験ではボンベが爆裂して発火したが、高空のように空気のほとんど無いところでは発火しない。
また、タンクの容量が大きいとやはり時間がかかるということで、やはり固体燃料のみを狙うことになった。
ハヤトの、強化無しで中距離を走る速度は大体100mを16秒であり、1万mの世界記録並みの速さであり、これを4周走るつもりで走っている。彼は、食事が美味しかった昨夜の会食を思い出している。
自衛隊の基地には来賓用の食堂があり、高級レストランなみの飾りつけをして、コックもそれなりの腕である。
昨夜は、駐屯地司令官天野陸将補、司令官補佐の矢野1佐、教練隊長村越1佐、香川2佐、広報班長西谷2佐、紅一点で風間1尉が出席したうえで、洋食のフルコースであった。
もっとも、ハヤトは、ラーナラでは5か国の国王や貴族を交えた会食はちょくちょくしていたため、この程度の食事には慣れていたが、日本では中学生であったため、それをフルコースだろうと思っただけで良くは知らない。
異世界のラーナラの場合には、食べるのに使うのはナイフとフォークに似たものであっため、その席で用意された地球のナイフとフォークは別に違和感はない。
その席ではハヤトが、ナーナラに召喚され、3年間の訓練の後4年の旅をして遂に人と血なまぐさい争いをしていた魔族とその指導者魔王を滅ぼした話をしている。その席の人々は、流石に戦争の専門家でありハヤトが経験した数々の戦闘を興味深く聞き、専門家らしい内容の質問を適宜して内容を把握に努めていた。
そう感じたハヤトは『たぶん、嘘か真かの判断は置いておいて、とりあえず信じるということにしたのだろうな』そう思い、それはそれで要らない説明が省けるので有難い話だと考えている。また、ハヤトの求めに応じて、自衛隊として何をハヤトに求めているかについて、まだ自衛隊として全体の意思統一はされていないとの留保の上で一通りの説明があった。
現在、KT国が核ミサイルの開発を続けていることは日本をはじめとする近隣諸国のみならず世界にとって深刻な脅威になりつつある。何よりの問題は、条約破りで核兵器を開発した国は数多くあるが、他国の反対を押しのけての核開発を実施してきた国々は、少なくとも相手の国に打ち込むなどとの言葉を国の発表として行ったことはなく、あくまで表向きは自衛手段として位置付けてきた。
それに対して、KT国は平気で他国を火の海にしてやるなどという挑発を平気で続けている。核兵器というものは、持っている国そのものにある程度の信頼がおけないと、その攻撃を受ける可能性のある国からすれば、物騒で放置できないということになる。
その意味で、KT国はその核兵器を持とうとする目的が自国の人々の安全を守るためでなく、明らかに指導者の金一族の支配を永続化するためのものであることから、極めて危険なのである。一方で、KT国が持っている兵器で有効なのは、ミサイルとソウルに向けた長距離砲やロケット弾のみであるとされ、戦車や戦闘機、戦闘艦等をもっているものの燃料がなく、殆ど訓練もされていないと見られる。
従って、こうしたミサイル、長距離砲、ロケット弾を打ち尽くせば終わりで、全く継戦能力はないと見られている。一方で、指導者の金正成は人民のことなど全く考えておらず、自分と一族が今の地位を保てればよいと考えていることは明らかである。
従って、仮に核あるいは他国に向けた武器を相手に使えば、間違いなく国は滅び自国民の多くが報復によって死ぬことが判っていながら、自分の政権を保つためのみに相手を滅ぼすという脅しを使っているのだ。実際に、自分の政権を倒すような動きを他国がすれば、そうした武器を使いかねないのが実際であり、自国が核ミサイルシステムを完成した暁には、周辺国をそれで脅しかねないのがKTという国なのだ。
「そういうことで、我が国もそのようなKT国に核ミサイルを持たすわけにはいかない、というはっきりした方向をだしています。しかし、ここで危険な点は、アメリカがその危険を軽視していることです。つまり、彼らはKT国のミサイルには再突入能力が無いと見ています。
つまり、アメリカには核が届かないと見ていて、自分の問題として捉えていないということです。そして、スペード大統領ははっきり日和見主義で、敵視していた中国のはっきりした落日を見て、東アジアに積極的に関わろうとはしていません」
しゃべっていた天野司令官は一旦言葉を切り、ハヤトを見つめさらに続ける。
「KT国は、中国の経済の落ち込みもあって、中国からの支援が明らかに細って焦っています。我が国に対する露骨な脅しなどはその表れでなのですが、国内で相当反政府運動が起きているようですので、金総書記の暴発があり得ます。それこそ、あの指導者は自分の国の反乱を防ぐために核を使いかねません。その意味では、日本にミサイルを撃ちこむなどはずっと高い確率であり得ます」
再度、天野司令官は言葉を切りまた続ける。
「その場合、アメリカのスペード大統領は自分の失態を糊塗するために、核をKT国に撃ち込む可能性があります。
KT国は、航空機、ミサイルもそうですがこれらの探知能力は比較的低いですから、アメリカ軍の初撃は殆ど妨害無しに成功するでしょう。これらは、指導者を含めて、多くのKT国の兵器を破壊できると思います。しかし、かなりのミサイル及び長距離砲、ロケット砲が生き残るでしょう。
その時点では、金正成は生き残っていないでしょうが、その残した命令によって、それらは、アメリカ軍の攻撃に応じて全力発射されるものと考えらます。それが、KT国の人々の多くの死を意味するにもかかわらず。その場合にはK国は無論のこと、我が国も甚大な被害を受ける可能性が高いのです。
現状で、KT国が実戦配備しているミサイルは射程1000kmのスカッドと1300㎞のノドンがそれぞれ数百基、またカタログ上の射程だけであればアメリカ本土に届くテポドン10基ほどがすでに配備されています。
生き残った長距離砲とロケット砲は、ソウルを射程内にある高層アパートなど住居群を徹底的にたたくでしょう。また、スカッドの多くはK国の都市部を叩き、ノドンは我が国の西日本めがけて飛んできますが、これは殆ど迎撃できると踏んでいます。
最悪なのは核弾頭の小型化もある程度進んでいて、テポドンには積んでいるという情報です。成層圏に上がって加速を付けて降って来るテポドンの迎撃は非常に難しい。これを何とかしなくてはならないというのが、現在の我々自衛隊が与えられた使命なのです」
司令官の話にハヤトは頷いて口を開く。
「わかりました。KT国のミサイルは問題ないでしょう。しかし、最近のインターネットを見ていると、中国の軍備拡張の脅威という話も多く出ていますし、尖閣列島ですか、そんな名前のところでかなり露骨に挑発をされているようですね」
それを聞いて、今度は司令官補佐の矢野1佐が答える。
「KT国には中国も手を焼いていて、共同で何かを仕掛けてくることはないと見ています。しかし、中国は別の意味で危険です。皇帝になろうとした周は結局アメリカとの経済戦争に敗れたことで排除されました。その結果の、陵政権ですが、西側の総スカンが効いていて経済は落ち込んだ状態で回復の兆しが見えません。
そのような場合に、独裁者の考えることは敵をつくることで、今はまた国民を盛んに日本への敵意を煽っています。一時期は治まっていた尖閣への挑発はまた激化していますし、KT国の次は中国、いや同時もありえます」
矢野1佐が一旦話を切ったところで、今度は香川2佐が引き継ぐ。
「そこで、我々自衛隊もそれに備えざるを得ないでしょうが、陸の我々としては我々が加わるような戦闘はまず生まれないように思います。結局、空と海と海中の戦いになっていくでしょうね。しかし、この戦いでは我が自衛隊に利があると見られています。ただ、犠牲がでるのは避けられないのでこの点が頭が痛いところです。
この場合には、戦に勝っても負けた同然に叩かれるでしょうね。とは言え、相手のよりどころ、また問題は核ミサイルになります。
二宮さんもご存知だと思いますが、中国はすでに核の大陸弾道弾を実戦配備しており、実用できるものは100基と推定されています。これは、アメリカまでに届くと考えられており、そう言う意味では日本へは確実に届きます。
これに対する策としては、いわゆるアメリカの核の傘になるわけですが、仮に中国がアメリカに弾道ミサイルを撃ち込むと脅した場合には、自らの危険を犯してアメリカが日本を守るかどうかは甚だ怪しいと言わざるを得ません。
従って、仮に尖閣近辺で戦闘が行われ、わが自衛隊が勝った場合、我々はそう思っていますが、中国が核をもって屈服を迫る可能性が高く、それに対してアメリカの核の傘も怪しいということになります。結局問題はミサイルなのですよ」
香川の話に、自衛官の皆は頷いている。
「じゃあ、いいじゃないですか。要はミサイルを撃墜できればいいのだから。ミサイルの大体の構造さえわかれば撃墜は十分可能ですよ。それに、仮に私が軍艦、いや護衛艦ですか。護衛艦に乗っていれば、相手の艦の撃つミサイルは撃墜できるかも。どれだけ、その撃墜までの時間が短縮するかにもよりますが」
ハヤトが平静に言うのに対して、今度は女性士官風間1尉が考えながら聞く。
「今日、二宮さんは火魔法ということでコインを溶かしましたよね。それで、ミサイル内でああいう風に局部的に高熱を出すことができますか?」
ハヤトは、少し考えたのちに答える。
「ええ、出来ますよ。ただ範囲は狭いですが。そうか、ミサイルの燃料を熱することが出来て爆発あるいは燃焼すれば、コースを変えたり爆発させたりできますね」
「ええ、でもそれは固体燃料の推進剤の場合で、この場合は、酸化剤が最初から混じっているので、熱さえあれば爆発または異常燃焼させることは可能です。ただ液体燃料の場合は燃料と酸化剤は別になっているので発火させるのは時間がかかるでしょうね。
でも、液体燃料のミサイルでも多段の場合には切り離しの炸薬、あるいは通常は異状飛行に備えて爆薬を使っていますから、これを発火させれば軌道が逸れるあるいは姿勢が崩れますから撃墜したと言えるでしょう。ですから、そうした炸薬を探して発火させれば、短時間で撃墜できると思います」
風間が言い、ハヤトが頷いて同意する。
「そうですね。扱える電線を探すよりそっちの方がうんと楽そうだ」
構内を走りながら昨夜の話を思い出し、今日の10時からの協議が少し楽しみになっているハヤトであった。
そうやって、ハヤトは考えながら同じペースで走っているが、すでに多くのランナーを追い抜いている。正門の近くで追い抜かれたランナーは、日本陸連の強化選手の葉山清太2曹であったが、後ろから迫ってあっという間に追い抜いていった、長身のハヤトを唖然として見送った。
『自分もまだフルスピードではないが、あっという間に抜いて行った彼は、初めて見る顔だが、どれだけ走るのだろう、あのスピードでは1㎞も持たないだろう』と葉山は考えたが、翌日改めて紹介されてなるほどと思ったものだ。
ハヤトが30分足らずのジョッキング(?)の後、シャワ―を浴びて「一緒に飯を食おうぜ」と安井を呼び出す。
安井は、ハヤトから離れるなと香川2佐から命令されているので、昨夜の来客用の食堂に用意された食事を一緒にとる。それは、品数も6品ある和食でよくホテルなどで供される比較的豪華なものであったが、ハヤトは食べながら安井に聞く。
「安井たちの食事はどうだい?」
「無論、朝飯はこんなに食器は種類たくさん使ってなくて、飯と汁茶碗にトレイにバイキングを取る形だが、種類はそれなりにあるものから選べるし、味は問題ないぞ」
安井の言葉にハヤトは言う。
「だったら、まあ泊まるところは折角だから今のものを使わせてもらって、飯は皆と一緒に食うよ」
そう言って、さらに安井に聞く。
「まだ8時だが、10時までだいぶ時間があるがどうする?」
安井は少し心配しながら答える。
「実は班長からロケットに使う推進剤を準備するので発火実験に付き合ってもらいたいということだ」
しかし、ハヤトはあっさり言う。
「いいよ」
香川2佐以下の班員が準備した、推進剤の3種類については、いずれもハヤトの火魔法で熱を発することでものの3秒以内に発火させることができた。一方、液体燃料については、実験ではボンベが爆裂して発火したが、高空のように空気のほとんど無いところでは発火しない。
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