帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第6章 ハヤト国会議員になる

6.4 新人議員集団「日本新世紀会」の政策

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 日本新世紀会の旗揚げは、それなりに注目を集めたが、注目されたのは、ハヤトが代表になっていること、新人の会としては異例の55人もの団体であり、しかも会員がそれなりの若手専門家ぞろいであること等である。旗揚げの総会で提案された事項については、すでに開設されたホームページ(HP)に項目のみがすぐに挙げられた。

 しかし、余りにぶっ飛んだ内容に、インターネットに嘲笑した内容のコメントが最初はちらほら出た。しかし、間もなく、それぞれに関係しているらしき人物から、内容の裏付けの話が出てくるにつれて、将来については夢のある話であるだけに、期待の声が高まってくる。

 現状においては、ネットの多数の声は紙媒体・テレビ等のマスコミも無視できなくなってきている。その結果、ニノミヤ・カンパニーの一室を使った連絡事務所には、マスコミが取材に訪れるようになってきた。そのため、旗揚げがら1か月後に行われた総会において、前述した政策が決議され発表されたときには、多くのマスコミが訪れた。

 総会の様子及びその内容は、夕刻にはテレビ局はニュースとしてそれを流し、翌朝の新聞に、政策とそれぞれの詳しい解説のほぼ全文が掲げられた。これは、半分ほどは通常の政策としてあり得るものではあるが、半分ほどは夢としか思えないものが入っており、それを具体的政策として掲げたという点に、大きな反響があった。

 この日本新世紀会の政策の話は、政府にも伝わっており、発表の前日にはその草案は閣議の場で議論された。ハヤトたちは、政府としての意見を聞いておきたかったし、政府側も新人とはいえ、自民党の議員の作った政策が余りに非現実的には困るという考えがあった。

 閣議に出席している閣僚は、当然全員がすでに魔法の処方を受けている。その結果、自分が以前の自分とは違うレベルの有能さを発揮できることを認識しており、最近では閣議も極めてスムーズに進むようなっている。いくつかの定例の議題に関わる議論の後に、大泉官房長官が日本新世紀会の政策についての議題に切り替える。

「次は日本新世紀会の政策に関してですが、すでに皆さんには政策とその解説の資料はお配りしていますので、読んでこられたかと思います。内容的には、2年までだったら、夢物語りとしか思えない政策ですがそれなりの根拠はあるようです。
 しかし、いずれも政府として相当な投資を伴うもので、その予算が認められないと本当に夢物語りになります。しかし、私の見たところではいずれも投資へのリターンは十分あるように思えます。ここには、説明役として日本新世紀会の代表の二宮ハヤト議員、幹事長の水田議員に来てもらいました。
 内容についてご質問の方は、どうぞ彼らに聞いてください」

 大泉はそう言って、担当者に案内されて入って来たハヤトと水田を紹介する。
「代表の、二宮ハヤトです。明日発表する我々の会の政策について、問題点があればお聞きしたく、またできるだけ早く実現するため、内容をご理解頂きたく説明に参りました」
 ハヤトが言って頭を下げ、続いて水田が頭を下げて挨拶する。

「幹事長の水田良治です。私が呼びかけてこの会を作ったのですが、期待以上の素晴らしいメンバーが集まりました。そのメンバーに意見をくみ上げた結果、自信をもって政府に実現を呼びかける政策ができたと自負しています。ただ、閣僚の皆さんにも様々なご意見があろうと思いますので、それをお聞きしたいと思っております。
 さらに、官房長官が言われたように予算措置無くしては絵にかいた餅でありますので、是非ご理解頂きたいと思いまして、この場をお借りしました。よろしくお願い致します」

「それでは、順番に質問を募りましょうか。では、最初に法律・政治の分野について、法律を簡素化して、さらに電子化システムを構築することによって、普通の人が理解し使えるようにするという件です」

 大泉が質問を募るのに対し、阿賀法務大臣が手を挙げて質問する。
「すでに、法律および施行令、規則についてはデータベース化ができて、種別、目的別に整理されているのは承知している。また、現在の法体系が基本的に省庁別にできており、重複する部分も多いのはその通りだ。しかし、ここに書かれているように、法規制について、すでに整理・統合された素案ができており、その場合の必要な省庁の再編成までのものができているとは知らなかった。これは事実かね」

「はい、これは法体系・政治担当幹事の瀬川和美議員が、自分でもかなりの部分を担当したということです。しかし、省庁の利害の調整ができそうになく塩漬けになっていたそうで、それも彼女が議員に立候補する動機だったそうです」
 水谷が答える。

「うん、知力が大幅に伸びた職員が、これまた能力が大幅に上がっているAIを使いこなせば、そのくらいはできるだろうね。しかし、これの実行はその利害の中に身を置いている役人には無理だね。これこそ政治の役割りであり、是非やるべきだと思うな」
 最年長の山城総務大臣が渋い声で言う。

「やりましょう。私にも今の法体系は、言葉からして普通の日本語でなく、複雑かち入り組んでいて、普通の人に理解できないものになっているということで沢山の苦情は届いています。阿賀法務大臣、専門部会を作って進められませんか?」
 首相の篠山が賛同して進めるように言う。

「え、ええ、内閣の方針ということであればできます。しかし、ここにあるように電子化して誰でも使えるシステムになるということは、今の法曹界が成り立たなくなるのでは?」
 阿賀が困った顔で反問するのに、山城がコメントする。

「それは確かに、必要な人数は減るでしょうし、資格もどうなるかな。しかし、明文化した法として、すべてのことを完全に網羅するのは無理で、人が判断をする必要がある部分少なからず残ります。でも、どの場合にどの法が適用できて、法による規定はこうだということが、AIによって瞬時に検索して判断できれば、裁判も随分簡単になるよ。
 司法試験もしょうもない法律の条文、事例集などを覚える必要がなくなる。いい事じゃないですか?」

 その言葉に頷いて、首相がきっぱり言う。
「これは、進めましょう。国民の皆さんはもろ手を挙げて賛成します。皆さん、よろしいです?」
 出席者は皆頷く。

「さて次は、法律・政治の項目の2番目の”政策の策定とモニタリングのため開発された有機電子頭脳の活用“ですが、これはすでに、政策検討会議で、有識者から同じような提言がされています。むろん、どの程度のAIの関与をさせるかという問題はありますが、進めるということを閣議決定ということでよろしいのではないですか?」
 官房長官の言葉に首相も同意する。

「いいのじゃないですかね」
 これも、出席者の同意が得られた。

「さて、インフラについて、時速800km運行が可能な改良型リニア幹線の早期の九州福岡及び東北青森への延伸ですが、彼らは2年以内の名古屋~大阪、7年以内の大阪から福岡、東京~青森の完成を提案しています。
 改良型リニアは、あの地震の直後にすでに東京~名古屋間は運行していますが、大阪までが3兆円、さらに福岡までは8兆円、東京~青森までが9兆円ですね。合計20兆円で年間約3兆円の事業費ということです。これだけの投資を正当化する君たちの会の説明は?」

 大泉の問いに今度はハヤトが答える。
「まず、時速800kmの列車であれば、東京~福岡が1時間半、東京~青森が1時間ですから、今後より早い交通手段が開発されても、速度の面で国内の利用には十分でしょう。東京から7年というのは、3兆円/年の十分な投資があれば工期的に無理なくできること、また我々の政策の一つの今後10年間にGDPを倍の150兆円にする一助にすることという目的です。
 これには、半分程度以上は民間資金を求めたいと思っています。いずれにしても、この政策は遅かれ速かれ実施すべきと思います。ですから、議論すべきは完成時期だけの問題だと思います」

 これについてはいくつか質問・意見があったが、建設については皆、賛成ではあったが完成時期については継続審議ということになった。次に重力操作による浮上と推進法の開発が議題に挙げられた。

 これは、世紀の発明が、すでに自動車レベルの実験も成功して、実用域に達していることについては、先の自動車レベルの実験の成功の京大からの発表で皆が知っていた。そのことから、自動車・船舶・航空機の代替、さらに軍事利用として大々的に開発を進めることで閣僚は一致したが、具体的なそのための組織についてはさらに議論することになった。

 さらに、経済・産業分野として、現在建設中の核融合発電所(500万kW)の運転結果を見極めて、最短で現行の発電システムの転換をすることについては、すでに政府として既決の方針であり、建設に関する新技術の開発によって、核融合発電所の建設のスピードアップが具体化されつつあるとのことであった。

 次に、経済・産業分野の、ハヤトの探査能力を使った国内及びKT国の資源探査についてハヤトから説明された。
「これは、私の探査能力のより有効な利用法ということで、会の一人から提案があったのです。たしかに、彼女、加賀沙代里議員の言うように、私の探査能力を絞り込んでいくと地中や水中に潜らせることも可能なのです。これは探知能力によって、知っている金属などはその存在が感じ取れるこということです。
 ただ、精々半径100kmの範囲しか探れないので、とりあえず1週間ほどで、関東周辺の金属などの未発見の鉱石のマップを作ってみました。大したものはありませんでしたが、開発してもペイするレベルでは金が多分20トンほど山梨県に、タングステンとマンガンが栃木県のある位ですね。
 あと、飛行機を1機あてがってもらって、議会を休んで良ければ、2ヵ月あれば日本全国の調査は近海を含めて終わるでしょう」

 ハヤトがプロジェクターで見せた関東付近の鉱物の立体のマップは閣僚に大うけで、国益のためにハヤトに是非探査をやってほしいということになった。この話では、なぜKT国の探査を行うかということになって、水田が説明した。

「KT国では、近代的な資源探査はほとんど行われていません。基本的にKT国領内は資源の豊富な場所で、多くの資源が見つかる可能性が高いのです。また、一方であの国は世界で最も貧しい国であって、今後もそれを解消するためのインフラに多大の投資が必要です。

 だから首尾よく有用な資源を発見すれば、その投資の原資に充てられますし、日本にとっても近くに資源国があるのは悪い事ではありません。
 さらに、日系の安大統領がいること、さらに我が国の援助もあって、現状は非常に親日的で、今後うまく付き合えばK国ほど反日にはならないでしょう」この点の認識は、政府もほぼ同じであり、日本の資源探査が終わった後はKT国で実施ということになった。
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