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第6章 ハヤト国会議員になる
6.6 重力操作及び動力システムの開発1
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結局、新世紀日本会の政策の内で、重力操作の技術の応用に早急な実用化を目指して、新技術開発プロジェクトが急きょ立ち上げられた。リーダーは京大の工学部、生産工学科教授の仁科博士であり、彼は民間企業で様々な指揮してきた経験をもつ技術開発のエキスパートである。
重力操作の理論を確立したのは、同じく京大の物理学科の2人の若手准教授である。そこで、彼らを指導する立場にあった教授が仁科に早期の実用化を目指して相談した結果、僅か2年足らずで、ベンチレベルの試験の成功を経て、重力エンジン車の開発に成功している。
現状では、そのプロトタイプの車両はセダン程度の大きさであるが、地上30cmほど浮き上がり、時速100km程度までの走行が可能であるが、バッテリーの容量の限界で走行距離は100km足らずである。従って、画期的な原理に基づいて駆動するものではあるが、むしろ既存の自動車より能力が低いという結果になっている。
開発はベンチレベルの試験機を中高年の人々の魔力の処方に使えるように、頭の中の生器官を動かす仕組みを製品化することがテーマである。しかし、これはいまあるものの改良でことが足りるので、製品化としては3ヵ月の完成をターゲットにしている。
さらに、現在完成しているプロトタイプの車両から、飛行できる車両、重力操作による旅客及び貨物飛行機、さらに戦闘機、及び宇宙船まで進化させることが大きなテーマであった。しかし、このためには重力操作の出力を上げることが必要であり、そのための電力を力場に変換する高出力コンバータの開発がまず大きなターゲットである。ここで、なにより求められるのはコンパクトかつ高出力の電源である。
開発は4グループに分けられた。第1グループは、魔法処方士のM器官への魔力による働きかけを邪魔する膜を一時的に力場によって操作する装置“処方補助器”を開発するものである。この処方補助器と処方士の組み合わせで中高年の人の処方を行うことになる。
この補助器無しでは、処方が行える能力、探査及び念動力の3つの能力を持つ者しか、中高年の処方はできないのだ。この開発責任者は東大の只野博士であり、そのグループには京大の重力操作装置を開発したメンバー、さらに医者も含まれている。
第2グループは、重力操作のコンバータの出力アップのグループであり、リーダーは全体のリーダーである仁科が兼務しており、理論を確立した2准教授、さらに他大学から多数の研究者、加えて機械部分の開発のために多くの民間エンジニアが加わって最大のグループになっている。
さらに第3グループは発電機システムの開発グループであり、現在建設中の核融合発電設備の理論とシステムを開発した大阪大と東北大から、システム開発の実質的な指揮をとった大阪大の八木博士がリーダーについている。しかし、数百万kWの規模にしか適用できない、巨大システムである建設中の核融合発電機を、移動する航空機等に納めるのは困難だろうと見做されている。
第4グループは、電源としての高効率バッテリーの開発グループである。これについては、いわゆる電子の缶詰としてのバッテリーの理論解析が九大で行われ、実装置化の進行中ということで、そのリーダーである矢島博士が横滑りでリーダーになっている。
これらの研究開発のためには、関連する官庁、大学、民間の研究者及びエンジニアが総計156名招集され、博士号を持つ者だけで82名が加わっている。これに加えて、アメリカ合衆国から大統領との約束に基づいて、全て魔力発現の処方を受けた研究者の35名が来日して各研究グループに加わっている。
その他にも助手がほぼ同人数、さらに庶務的な役割の者もおり、総員で500人の大部隊になっている。プロジェクトの実施の場所は、未だに震災の傷跡が生々しく残っている関東地方を避けることになった。そこで、比較的被害の軽かった名古屋市の緑区に建設された、新技術開発研究所の新設の施設を使っている。
ここは、元々全国から研究者を集める予定で構内に宿泊施設も整っており、非常に都合の良い施設である。さらには、震災の騒ぎもあって、実際の運用は1年程遅れる見込みであったため、ちょうど良いということで使われることになった。
なお、これらのグループには、その年齢のために魔法の処方を受けていない者も20%ほど混じっていたが、全員がハヤトの妹のさつきにより処方を受けている。予算については、とりあえず予備費から日々必要な費用は支出し、最終的には補正予算として組むことになっている。
当面の暫定的な予算として、250億円が割り当てられているが、実施設建設に当たっては別途予算を組むことになっている。なお、研究の経費については日本とアメリカが2:1の割合で支出することで合意しており、開発したものの権利も同じ割合いで持つことになっている。
全員が従来であれば天才級の、研究者とエンジニアで構成された各グループは、驚異的な速度で様々な障害を打ち破り、ほぼ毎週のレベルで画期的なブレークスルーを成し遂げていった。当初予想された通り、第1グループの研究の進行が最も早く、わずか1ケ月後にはプロトタイプの装置が完成した。
直ちに、超音波探査機の監視のもとに、M器官の膜の操作の試験が行われて所期の能力が発揮できることが確認され、その状態で処方士による処方が行えることも確認できた。その確認は、医療関係者によっても行われ、文科省、厚労省の同意のもとにシステムの最終化が行われ、開発開始後2ヵ月後には1万セットの量産に入った。その開発初期の、第1グループ主要メンバーによるミーティングである。
「ええと、必要なシステムはそのブロックチャートにあるように、まず被処方者の頭を動かないように拘束する椅子と頭の拘束設備、それからモニタリングのためにM器官を映し出す透視システム、それとその透視システムで監視しながらM器官の前面に発達している膜をめくる力場装置ということですね」
リーダーの只野博士が皆の理解を確認するようにプロジェクターの図を指しながら説明する。アメリカ人も混じっているので、言葉は英語である。皆内容は理解していて、特に質問も出ないので、只野は続ける。
「固定装置は、この〇〇製作所のものでいいでしょう。高さは自由に変えられるし、頭の固定は圧力センサーの設定によって自動でできます。どうですか?」
これも特に異論は出ないので、只野はさらに続ける。
「さて、次は頭の中の透視はレントゲンは放射能の問題でオミット、MRIか超音波ですが、超音波でこの映像程度に見え、膜もはっきり出ているので、MRIを使うことはないでしょう。どうですか?」
只野は超音波による映像を見せたが、これも異論はないので最後に言う。
「では、最後の肝心な重力波による力場装置ですよね。これは、人間の脳内に力をかけるということから、万が一ということもあってはならないということを頭に置いて頂いて、岸村さんに説明をお願いします」
細身で小柄な京大の岸村が、只野に代わってプロジェクターの前に座って、装置の写真を写してから頭を下げて話し始める。
「岸村です。これがベンチテストに使った装置です。あまり、大きさには気を使っていませんので、ちょっと大きいですが、実装置は一辺30cmの箱程度には小さくなります。これは力の強さまた力の及ぶ範囲を限定するのは可能で、この開発の話を聞いてから、どの程度の精度で操作できるか確かめてみました。
その結果、今の装置では力の強さは最大5kgから0㎏までデリケートに調整可能ですが、位置としては5cmの範囲でしか絞れません。従って、M器官そのものが3cm位の楕円体ですから、必要な精度は出ていないと思いますが、どうでしょう?」
只野は首をかしげて答える。
「そうですね。すこし荒いですね。せめて2cmの精度は欲しいと思います」
「そうでしょうね。いや、幸いやり方はわかっているので、その程度かもう少し精度は高められるでしょう。1週間ほど下さい」
岸村が応じてその日のミーティングが終わる。
岸村は、5日後にメンバーを試験室に呼ぶ。そこには、試験台の上に不細工な50cm×50cmほどの鋼製の台に様々な機器を取り付けた装置をおいてある。
「さて、皆さん。この装置で必要な精度は得られたと思います。今からその実証試験をやってみましょう」
そう言って岸村は装置を指さし、さらに机の上の1mほど先においた小さな円筒を指さして言う。
「あの円筒には幅2cm、長さ4cmで厚さ1mmの軟質ゴムの膜を貼り付けています。あの膜をまくり上げてみます」
そう言って、装置を微妙にコントロールし始める。最初に膜が震え、次に下端がずり上がり中間が膨らむが、やがて下端が前面におしだされてきて膜がまくれ上がる。
「おお!綺麗にまくれた」
見ていたメンバーから拍手が巻き起こる。
「うん!これだったら十分でしょう。ありがとうございます」
只野が岸村に握手を求める。
「いや、認めて頂いてありがとうございます。これから、製品らしく装置化するわけですが、メーカーのエンジニアさんの出番です。よろしくお願いします」
岸村が只野と握手をして、皆の方を向いて話しかける。その後、医療機器メーカーのエンジニアが中心になって、CAD図を作成し、それをもとに何度も見直して、箱と部品を設計し、一部は内作し、一部は外部に発注して、塗装もしていない状態で組みあがったのが開発を始めて1ヶ月後だったのだ。むろん他のグループは第1グループのように順調にはいかなかった。
それでも、第2グループは、すでにできている電力から重力波のコンバータの大出力化ということであったので、すぐに原理を理解した優秀なメンバーから様々なアイデアが出された。それらのアイデアを整理分類して、効果・実現性などを評価した結果3つに対策を絞って、実験した結果、2つについては明らかで大きな効果が認められた。
さらに、アメリカからの研究者の提案で、機体を力場による膜で覆うことで、空気抵抗の減少という方法を実験した結果さらに大きな速度の上昇がみられた。これらの改良の結果、戦闘機程度の大きさで十分な動力が得られれば、マッハ5程度までの速度が得られ、旅客機程度であれば、マッハ2程度の速度を出すことが可能である。
核融合発電機の小型化は難航した。現状建設中の核融合発電機は、炉の中でトリチウム(3重水素)をプラズマ状態にして、核融合反応を起こすものである。これは、炉の中心で2千万度の温度を保つ必要上から炉は巨大にならざるを得ない。
さらに、この超高温で蒸気を作りだしてタービンを回して発電するためシステムは複雑で巨大なものとなる。この方式の特長は、核融合反応の理論の確立によって、水素をトリチウムに変換するシステムと1億度と言われていた、必要なプラズマ温度を低く抑えても核融合反応を起こすことができる点にある。
それでも、5百万kWの出力の建設中の設備は発電機本体のみで200m四方の面積を占め、初期の連鎖反応を起こすには100万kWの電力が必要になるなど、周辺の電源設備、発電した電力の送電設備などが概ね本体と同じ面積になっている。その建設費も膨大で、約7千億円の予算になっているが、出力110万kWで3千億円と言われる従来原発に比べれば大幅に低い。
その小型化への解決策は第4グループの成果で代用されるという意外なところにあった。これは、電磁の場にさらして、融点程度の熱をかけて、金属原子を原子的に励起することで電子を原子から分離させて、当該金属をいわば電子の缶詰にするものである。
この名付けて『原子励起発電方式』は、その段階で陽子が順次分解して電子に変換するので、物質が電気エネルギーに変換されることになる。言ってみれば、核融合において物質が熱に変わる代わりに電力に直接変換することになるのだ。
九大で行われていたこの研究は、すでに試験設備の組み立てが細々と始まっていたが、予算の制約で完成までに2年以上かかると見られていた。しかし、名古屋に移ってのプロジェクトの立ち上げに伴って、その研究の途方もない将来性から、日本新世紀会からの全面的な後押しもあって、予算については実質青天井になった。
さらに、奨励されている各グループの相互交流のなかで、当然第4グループの研究が知られることになった。その結果、第3グループの研究者は自分たちの熱核融合発電システムとの比較をして、自分たちの方式では、原子励起発電方式にどうやっても発電という点では敵わないという結論を得た。
しかし、熱を発生するという点では、電気を熱に変換するより効率面で優れているとの検討結果も得ている。そこで、この阪大・東北大グループは熱核融合機を用いた金属精錬などの大コンビナートを形成することを提案して、製鉄などの企業と共に3年後に実用化している。
6ヵ月後、原子励起の試験機が完成した。この励起装置の規模は大きく20m×20m×高さ10mの容積が必要であるが、1時間に100本の標準10㎏の銅シリンダーの励起が可能である。励起による蓄電された銅シリンダーは5000kW時の電力を出力できるので、この励起装置は50万kWの出力とも言える 。
しかし、発電機としては、同規模の励起装置によって、20基の1トンのシリンダーを励起と出力を繰り返して発電するもので、結果的には、100万kWの出力が可能であるということになる。
重力操作の理論を確立したのは、同じく京大の物理学科の2人の若手准教授である。そこで、彼らを指導する立場にあった教授が仁科に早期の実用化を目指して相談した結果、僅か2年足らずで、ベンチレベルの試験の成功を経て、重力エンジン車の開発に成功している。
現状では、そのプロトタイプの車両はセダン程度の大きさであるが、地上30cmほど浮き上がり、時速100km程度までの走行が可能であるが、バッテリーの容量の限界で走行距離は100km足らずである。従って、画期的な原理に基づいて駆動するものではあるが、むしろ既存の自動車より能力が低いという結果になっている。
開発はベンチレベルの試験機を中高年の人々の魔力の処方に使えるように、頭の中の生器官を動かす仕組みを製品化することがテーマである。しかし、これはいまあるものの改良でことが足りるので、製品化としては3ヵ月の完成をターゲットにしている。
さらに、現在完成しているプロトタイプの車両から、飛行できる車両、重力操作による旅客及び貨物飛行機、さらに戦闘機、及び宇宙船まで進化させることが大きなテーマであった。しかし、このためには重力操作の出力を上げることが必要であり、そのための電力を力場に変換する高出力コンバータの開発がまず大きなターゲットである。ここで、なにより求められるのはコンパクトかつ高出力の電源である。
開発は4グループに分けられた。第1グループは、魔法処方士のM器官への魔力による働きかけを邪魔する膜を一時的に力場によって操作する装置“処方補助器”を開発するものである。この処方補助器と処方士の組み合わせで中高年の人の処方を行うことになる。
この補助器無しでは、処方が行える能力、探査及び念動力の3つの能力を持つ者しか、中高年の処方はできないのだ。この開発責任者は東大の只野博士であり、そのグループには京大の重力操作装置を開発したメンバー、さらに医者も含まれている。
第2グループは、重力操作のコンバータの出力アップのグループであり、リーダーは全体のリーダーである仁科が兼務しており、理論を確立した2准教授、さらに他大学から多数の研究者、加えて機械部分の開発のために多くの民間エンジニアが加わって最大のグループになっている。
さらに第3グループは発電機システムの開発グループであり、現在建設中の核融合発電設備の理論とシステムを開発した大阪大と東北大から、システム開発の実質的な指揮をとった大阪大の八木博士がリーダーについている。しかし、数百万kWの規模にしか適用できない、巨大システムである建設中の核融合発電機を、移動する航空機等に納めるのは困難だろうと見做されている。
第4グループは、電源としての高効率バッテリーの開発グループである。これについては、いわゆる電子の缶詰としてのバッテリーの理論解析が九大で行われ、実装置化の進行中ということで、そのリーダーである矢島博士が横滑りでリーダーになっている。
これらの研究開発のためには、関連する官庁、大学、民間の研究者及びエンジニアが総計156名招集され、博士号を持つ者だけで82名が加わっている。これに加えて、アメリカ合衆国から大統領との約束に基づいて、全て魔力発現の処方を受けた研究者の35名が来日して各研究グループに加わっている。
その他にも助手がほぼ同人数、さらに庶務的な役割の者もおり、総員で500人の大部隊になっている。プロジェクトの実施の場所は、未だに震災の傷跡が生々しく残っている関東地方を避けることになった。そこで、比較的被害の軽かった名古屋市の緑区に建設された、新技術開発研究所の新設の施設を使っている。
ここは、元々全国から研究者を集める予定で構内に宿泊施設も整っており、非常に都合の良い施設である。さらには、震災の騒ぎもあって、実際の運用は1年程遅れる見込みであったため、ちょうど良いということで使われることになった。
なお、これらのグループには、その年齢のために魔法の処方を受けていない者も20%ほど混じっていたが、全員がハヤトの妹のさつきにより処方を受けている。予算については、とりあえず予備費から日々必要な費用は支出し、最終的には補正予算として組むことになっている。
当面の暫定的な予算として、250億円が割り当てられているが、実施設建設に当たっては別途予算を組むことになっている。なお、研究の経費については日本とアメリカが2:1の割合で支出することで合意しており、開発したものの権利も同じ割合いで持つことになっている。
全員が従来であれば天才級の、研究者とエンジニアで構成された各グループは、驚異的な速度で様々な障害を打ち破り、ほぼ毎週のレベルで画期的なブレークスルーを成し遂げていった。当初予想された通り、第1グループの研究の進行が最も早く、わずか1ケ月後にはプロトタイプの装置が完成した。
直ちに、超音波探査機の監視のもとに、M器官の膜の操作の試験が行われて所期の能力が発揮できることが確認され、その状態で処方士による処方が行えることも確認できた。その確認は、医療関係者によっても行われ、文科省、厚労省の同意のもとにシステムの最終化が行われ、開発開始後2ヵ月後には1万セットの量産に入った。その開発初期の、第1グループ主要メンバーによるミーティングである。
「ええと、必要なシステムはそのブロックチャートにあるように、まず被処方者の頭を動かないように拘束する椅子と頭の拘束設備、それからモニタリングのためにM器官を映し出す透視システム、それとその透視システムで監視しながらM器官の前面に発達している膜をめくる力場装置ということですね」
リーダーの只野博士が皆の理解を確認するようにプロジェクターの図を指しながら説明する。アメリカ人も混じっているので、言葉は英語である。皆内容は理解していて、特に質問も出ないので、只野は続ける。
「固定装置は、この〇〇製作所のものでいいでしょう。高さは自由に変えられるし、頭の固定は圧力センサーの設定によって自動でできます。どうですか?」
これも特に異論は出ないので、只野はさらに続ける。
「さて、次は頭の中の透視はレントゲンは放射能の問題でオミット、MRIか超音波ですが、超音波でこの映像程度に見え、膜もはっきり出ているので、MRIを使うことはないでしょう。どうですか?」
只野は超音波による映像を見せたが、これも異論はないので最後に言う。
「では、最後の肝心な重力波による力場装置ですよね。これは、人間の脳内に力をかけるということから、万が一ということもあってはならないということを頭に置いて頂いて、岸村さんに説明をお願いします」
細身で小柄な京大の岸村が、只野に代わってプロジェクターの前に座って、装置の写真を写してから頭を下げて話し始める。
「岸村です。これがベンチテストに使った装置です。あまり、大きさには気を使っていませんので、ちょっと大きいですが、実装置は一辺30cmの箱程度には小さくなります。これは力の強さまた力の及ぶ範囲を限定するのは可能で、この開発の話を聞いてから、どの程度の精度で操作できるか確かめてみました。
その結果、今の装置では力の強さは最大5kgから0㎏までデリケートに調整可能ですが、位置としては5cmの範囲でしか絞れません。従って、M器官そのものが3cm位の楕円体ですから、必要な精度は出ていないと思いますが、どうでしょう?」
只野は首をかしげて答える。
「そうですね。すこし荒いですね。せめて2cmの精度は欲しいと思います」
「そうでしょうね。いや、幸いやり方はわかっているので、その程度かもう少し精度は高められるでしょう。1週間ほど下さい」
岸村が応じてその日のミーティングが終わる。
岸村は、5日後にメンバーを試験室に呼ぶ。そこには、試験台の上に不細工な50cm×50cmほどの鋼製の台に様々な機器を取り付けた装置をおいてある。
「さて、皆さん。この装置で必要な精度は得られたと思います。今からその実証試験をやってみましょう」
そう言って岸村は装置を指さし、さらに机の上の1mほど先においた小さな円筒を指さして言う。
「あの円筒には幅2cm、長さ4cmで厚さ1mmの軟質ゴムの膜を貼り付けています。あの膜をまくり上げてみます」
そう言って、装置を微妙にコントロールし始める。最初に膜が震え、次に下端がずり上がり中間が膨らむが、やがて下端が前面におしだされてきて膜がまくれ上がる。
「おお!綺麗にまくれた」
見ていたメンバーから拍手が巻き起こる。
「うん!これだったら十分でしょう。ありがとうございます」
只野が岸村に握手を求める。
「いや、認めて頂いてありがとうございます。これから、製品らしく装置化するわけですが、メーカーのエンジニアさんの出番です。よろしくお願いします」
岸村が只野と握手をして、皆の方を向いて話しかける。その後、医療機器メーカーのエンジニアが中心になって、CAD図を作成し、それをもとに何度も見直して、箱と部品を設計し、一部は内作し、一部は外部に発注して、塗装もしていない状態で組みあがったのが開発を始めて1ヶ月後だったのだ。むろん他のグループは第1グループのように順調にはいかなかった。
それでも、第2グループは、すでにできている電力から重力波のコンバータの大出力化ということであったので、すぐに原理を理解した優秀なメンバーから様々なアイデアが出された。それらのアイデアを整理分類して、効果・実現性などを評価した結果3つに対策を絞って、実験した結果、2つについては明らかで大きな効果が認められた。
さらに、アメリカからの研究者の提案で、機体を力場による膜で覆うことで、空気抵抗の減少という方法を実験した結果さらに大きな速度の上昇がみられた。これらの改良の結果、戦闘機程度の大きさで十分な動力が得られれば、マッハ5程度までの速度が得られ、旅客機程度であれば、マッハ2程度の速度を出すことが可能である。
核融合発電機の小型化は難航した。現状建設中の核融合発電機は、炉の中でトリチウム(3重水素)をプラズマ状態にして、核融合反応を起こすものである。これは、炉の中心で2千万度の温度を保つ必要上から炉は巨大にならざるを得ない。
さらに、この超高温で蒸気を作りだしてタービンを回して発電するためシステムは複雑で巨大なものとなる。この方式の特長は、核融合反応の理論の確立によって、水素をトリチウムに変換するシステムと1億度と言われていた、必要なプラズマ温度を低く抑えても核融合反応を起こすことができる点にある。
それでも、5百万kWの出力の建設中の設備は発電機本体のみで200m四方の面積を占め、初期の連鎖反応を起こすには100万kWの電力が必要になるなど、周辺の電源設備、発電した電力の送電設備などが概ね本体と同じ面積になっている。その建設費も膨大で、約7千億円の予算になっているが、出力110万kWで3千億円と言われる従来原発に比べれば大幅に低い。
その小型化への解決策は第4グループの成果で代用されるという意外なところにあった。これは、電磁の場にさらして、融点程度の熱をかけて、金属原子を原子的に励起することで電子を原子から分離させて、当該金属をいわば電子の缶詰にするものである。
この名付けて『原子励起発電方式』は、その段階で陽子が順次分解して電子に変換するので、物質が電気エネルギーに変換されることになる。言ってみれば、核融合において物質が熱に変わる代わりに電力に直接変換することになるのだ。
九大で行われていたこの研究は、すでに試験設備の組み立てが細々と始まっていたが、予算の制約で完成までに2年以上かかると見られていた。しかし、名古屋に移ってのプロジェクトの立ち上げに伴って、その研究の途方もない将来性から、日本新世紀会からの全面的な後押しもあって、予算については実質青天井になった。
さらに、奨励されている各グループの相互交流のなかで、当然第4グループの研究が知られることになった。その結果、第3グループの研究者は自分たちの熱核融合発電システムとの比較をして、自分たちの方式では、原子励起発電方式にどうやっても発電という点では敵わないという結論を得た。
しかし、熱を発生するという点では、電気を熱に変換するより効率面で優れているとの検討結果も得ている。そこで、この阪大・東北大グループは熱核融合機を用いた金属精錬などの大コンビナートを形成することを提案して、製鉄などの企業と共に3年後に実用化している。
6ヵ月後、原子励起の試験機が完成した。この励起装置の規模は大きく20m×20m×高さ10mの容積が必要であるが、1時間に100本の標準10㎏の銅シリンダーの励起が可能である。励起による蓄電された銅シリンダーは5000kW時の電力を出力できるので、この励起装置は50万kWの出力とも言える 。
しかし、発電機としては、同規模の励起装置によって、20基の1トンのシリンダーを励起と出力を繰り返して発電するもので、結果的には、100万kWの出力が可能であるということになる。
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