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第8章 海外へ広がる『処方』
8.2 海外への処方援助
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二宮さつきは、バンコクの空港に到着した。日本政府の派遣で、タイに魔力発現の処方士を養成するために来たのだ。タイの人口は約75百万人、その内処方の対象になる年齢の人口は25百万人である。従って、処方士としては、その1万分の1を養成すればいいので、必要数は2500人であるが、余裕を見て3千人を育てるとしている。
タイ政府による、マリュー測定に基づく、魔力の強いものの対象者の選別は終わっており、明日から始まる処方と、処方士としての訓練に備えて3千人強の全員が主都バンコクに集められている。養成する処方士に供与するインプレッサーは、すでに3100セットが現地に到着している。
さつきのみは別の行動をするが、日本から来た他の30人の2級以上の処方士は、それぞれ自分が使うインプレッサーを全員が持参している。今回、千葉大博士課程の1年生のさつきが、タイ派遣の処方士に選ばれたのは2つの目的がある。
一つは、佐伯指導教授の研究室の研究内容を、バンコクのタマサート大学の教育学のルンジャーン教授に説明することである。これは、魔法の処方後の教育方針をタイ国として早急に確立する必要があり、大国の方針策定の任にある、ルンジャーン教授から佐伯教授へ資料提供依頼があったのだ。
そこで、さつきの研究課題である『魔法処方を受けた人々の教育手法』が、その依頼そのものであるので、すでに送付している資料の説明と、実践方法の訓練をすることになっている。もう一つは、特級処方士として、タイの選ばれた中高年の要人2500人に対して、処方を施すことである。
さつきは、日本にも僅か12人しかいない特級処方士の資格を持っている。特級処方士は、1級処方士以上の処方の人数及び処方の成果のレベルに加え、探査と念動力を使えて中高年の人へも機器の補助なしに処方が行えることが一つの要件になっている。
加えて、特級処方士は、魔力が低い白人等の人々へもインプレッサーによる魔力の増幅無しで、知力増強については100%の成果を得られる。つまり、さつきは機器の補助が一切なくても、すべての人に、知的増強については効果が100%の処方が可能なのである。
これは、中高年の人々への処方を可能にした東大に、さつきも加わった千葉大の共同研究の成果である。さつきを加えた処方士31名、外務省の随行員2名、及び護衛の3名の一行が、バンコクのスワンナプーム国際空港に着いて、イミグレーションを抜けた。
この時、日本大使館、タイ外務省の職員の他にもテレビ局のカメラが3台、またたまたま居合わせた者に加え、わざわざ出迎えに来た数百人が待っており、彼らが次々に姿を現した時、一斉に歓声と拍手が湧いた。列の先頭にいた、外務省の職員でもある、タイ派遣処方士団の団長である米田幸子と、さつきに対して、日本大使館の職員が日本語で呼びかけてくる。
「米田団長、それと二宮さつきさんは、お疲れのところを申し訳ありませんが、インタビューを受けて頂けませんか?」
米田もさつきも、出発前にすでにマスコミのインタビューのあることは聞いており否応もない。広いロビーの一角に設けられたインタビューのスペースで、2人はインタビューを受ける。
2人とも英語には困らないので、インタビューは英語で行われ、撮影しているテレビの視聴者向けにはタイ語に翻訳している。インタビュワーの中年の女性と米田団長との、歓迎とお礼の言葉のやり取りに続いて、米田団長への質問が始まった。
「今度の処方士の皆さんの御予定を簡単に教えて頂けますか?」
「はい、処方そのものはインプレッサーを用いて、私どもの処方士一人で1日50人は行えます。ですから、処方の対象の方が3千人ということですので、私どもの30人によって2日で終えることができます。この処方で、今回の処方の対象の方は、魔力を用いての身体能力強化については25%~30%増しになりますし、知力増強については平均で40%程度の上昇がみられるはずです。
しかし、ここまでは通常の処方ですが、今回の目的は処方士を養成することですから、処方を受けた皆さんには、別便で送ったインプレッサーを用いた処方の方法を訓練してもらいます。それらを合わせて、大体2週間を予定しています。ですから、今日が日曜日ですから、来週いっぱいで必要な訓練を終えます」
米田が答えるのに、インタビュワーが質問を続ける。
「はい、米田さん。ありがとうございます。今回の日本からの協力は、半分が日本の援助ということですね?」
「はい、お国のタイはすでに無償援助対象国を卒業されていますので、経費の半分を負担して頂くことになっています」
再度米田が答え、コメントの後に質問が続く。
「私も費用を聞いているのですが、僅か3千人の我が国の人々の処方士への養成をして頂くだけで、わが国の3分の1もの人々が、先ほど言われたような能力を持つようになるというのは夢のような話です。さて、次にお尋ねしたいのは、今回養成して頂ける3千人余りが、その後全国に散らばって処方を行っていくわけです。
日本においては、そうした処方を行っていく上での問題点は起きたと思うのです。ですから、私どもの国で備えなければならない問題点は、どういったことになるのでしょうか?」
米田はその質問に、さつきを見て回答を譲るという。
「その点の回答は、この二宮さつきさんが適当だと思います。彼女はあのハヤト氏の妹さんで、最も早く処方を受けた人であり、日本でもごく初期から処方を行ってきており、大学でも処方後の教育の研究を続けています。さらに彼女は、日本にもわずか12人しかいない特級処方士ですから、お国の選ばれた制限年齢以上の方々への処方を行うことになっています。では、二宮さん先ほどの質問に対する回答をお願いします」
さつきは、米田からマイクを渡されて説明を始める。
「はい、二宮さつきです。私は、あのハヤトの妹です。先ほどの質問ですが、日本で私が処方を始めたころは、ただ兄に教わるままに、やみくもに処方をしていったような状態でした。そして、その中で魔力の強い人を訓練して、処方ができる人を増やして、さらにその人が別の人を訓練して、さらに処方を受けた人を増やすという具合でした。
でも、全国に処方を行き渡らせるには、本格的には兄のハヤトが自衛隊の人を訓練して、処方士を一定数確保してからですね。その後、日本の文部科学省のプログラムに沿って、その処方士たちが学校や職場で順次処方を行っていきました。
その初期のころは、魔力を測るマリュー測定器もなく、処方を行う人の能力によっては、相当に効果が低い場合がありました。ですが、幸いにその場合は能力の高い人が再度処方を行うことで、十全の効果が出ますので、処方を数回行う人も結構沢山いました。
でも、処方の効果についての最大の問題は、十分な効果が出ても、人によってその効果に相当な差があること、さらに処方の時期によっては入学試験などの結果に不公平があるということですね。実際に、最初に私がまとめて処方を行った時は、処方を受けた人が良い学校に合格して、その結果をあとで強く非難されました。
良く知られているように、身体強化は魔力によって行いますが、その強化の度合いは必ずしも魔力に比例しません。しかし、平均的にはかなり高い相関があります。また、知力増強は、現在社会では最も重要であると考えられていますが、ほとんどの方の処方の目的はこちらです。
実際、皆さんもご存知のように、過去5年の日本における、科学技術を含めた、あらゆる分野の学問・実業の急激な進歩は全てこれによるものです。知力増強については、最初の頃は、魔力と大きな相関があると考えられていましたが、インプレッサーが開発されてからは、実はあまり相関がないことが解っています。
そうでないと、魔力が非常に小さい白人の処方の効果が、それに比べれば大幅に大きい日本人と差がみられない理由がわかりません。いずれにせよ、処方の結果として、身体能力強化と知力増強の効果は個人によって違いますが、これは処方しない場合と同じで訓練で相当程度に差を埋めることが可能です。要は頑張れば、処方当初は劣っていてもひっくり返すことも可能ということです」
さつきは一旦言葉を切って、カメラを見つめて再度話し始める。
「次の大きな問題は、人々の知的能力が急に上がった時の教育です。実は、私は今大学院で、その処方後の教育の研究をしています。日本では、身体能力強化に係わる体育はともかく、急に知力が上がった子供と若い大人をどう教育、再教育するかが大きな問題になりました。
これについては、大まかにいうと、自習時間の割合を大きくして、その勉強に使うソフトを充実させるということで対応しています。結局、知力が5割近くも上がると、しゃべることで知識を伝えるという方法では効率が悪いのです。私どもの研究室から、すでにこれらの研究成果は、タマサート大学の教育学教授のルンジャーン教授にお送りしています。私の今回の訪問の目的の一つは、それらについて説明して、実践してみせることも含まれています」
「ありがとうございます。あなたのお兄様が、日本に魔法の処方を持ち込んで以来、日本でもいろんなことがあったのですね。ところで、私どもの国でも、日本と台湾では35から40歳以上の人々の処方が可能なのに、今のところ他の国では可能でないいうことが話題になっています。
でも、あなたを含めて、特級処方士の方々は、私どもの国も含めて、そういう国の人にでも可能ということですね?」
再度の質問である。
「ええ、その通りです。今回私は、あなたの国の政府に頼まれて、2500人のそうした方の処方をすることになっています。でも、普通の処方士の場合には、お国のそうした人に処方するためには、インプレッサーによる処方と、力場と聴音波探知機を使った補助付き処方の両方を組み合わせる必要があります。
この両方を使うと機器による障害がでるので、今のところ魔力の高い人々で構成されている、日本と台湾のみにしか一定以上の歳の方の処方ができていません。しかし、その障害の原因はほぼ突き止められていますので、半年もすれば障害は除けると考えています。
ですから、そうした年齢の方も、遅くとも1年程度若い人から遅れて処方を受けられるはずです」
さつきの答えに、インタビュワーは喜色を浮かべて感謝する。
「そうですか。それは有難いです。私もその待っている一人ですから、出来るだけ早く実現することを祈っています」
そう言って、彼女は仏教徒らしく手を合わせてインタビューは終わった。
その2人のインタビューの最中、テレビカメラは、その他のメンバーも撮影して、大使館のスタッフを通訳に、個々に簡単なインタビューをしていた。その後、一行は予約していたバンコク市内のシャングリラホテルに宿泊して、その夕べは日本大使館の主催で、レストランで会食をした。
主催した鎌田日本大使の挨拶である。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。ここタイでは、親日的なこともあって、日本のことはよく知られています。もう、タイ人も5万人程度は、日本に渡って処方を受けていて、その効果も良く知られています。ですから、今回皆さんが来られるのを、タイの人々は1日千秋の思いで待っていました。
ほとんどの皆さんは2週間、二宮さんとその護衛の方は1ヶ月の予定ですが、できれば楽しく過ごして頂きたいと思います。常に大使館の職員にアテンドさせますので何かあれば、申しつけ下さい。また、二宮さんは王家の方々を始め、この国の要人の方々の処方を行って頂くことになります。
気疲れされることもあるかと思いますが、大変重要な役なのでよろしくお願い致します」
それに対して、団長の米田からの返しの挨拶があって、その後は会食に入った。近くに座っているさつきに対して、大使から気軽な口調で話しかけてきた。
「実は、私は5年以上前、その頃私はアフリカにいましたが、二宮さんの活劇をU-チューブで見させて頂きました。あれは、見事なものでしたね。動きが美しいというか」
さつきは、白い上下のスカートとノースリーブで、薄く化粧をした顔を赤らめて応じる。
「い、いえ、お恥ずかしい。兄に格闘技を少し習っていたものですから、つい出てしまいました」
「いや、私も4ケ月前に処方を受けさせて頂いて、身体強化ができるのが嬉しくなって、だいぶ体を動かしましたが、二宮さんのようにはいかないですね」
50歳台半ばの大使は柔和に笑って言う。
「その件は、その辺でお願いします。ところで、明日は王宮に行って、王様とお后様に合って処方をすることになるようですが、そのような人に合ったことがないものですから、どうふるまっていいか、困っています」
さつきは少し心配して言うが、大使は心配ないよと言う。
「心配ないですよ。今の陛下は割に気さくな方ですし、言ってみれば、あなたは医者の立場です。尊敬の気持ちを忘れず、自然に振舞えば問題はありません」
さつきは、それに頷いて、加えてもう一つ言う。
「それと、もう一つ、処方をするときには相手の気持ちというか、本音が伝わってくるのです。それで、兄からも『相手に嫌悪感を覚えたら、処方はするな』言われているのです。兄の経験では、そう言う人は邪悪な人が多いそうで世の中に悪をなすそうです。
私も、いままで延べで言うと1万人くらいは処方をしてきましたが、100人くらいそういう人がいましたので、処方がうまくいかないということで断っています。今回もそのようにしますので、ご承知おきください」
「なるほど、そういうものですか。処方士の方は皆あなたのように感じ入るのですか」
大使がそれを聞いて反問する。
「いえ、処方士でも1級の人の10%程度のようですね、そのように具体的に感じるのは。ですから、そのような人は必ず不快な顔をして、結局は他の人に処方をしてもらっています」
さつきの言葉を聞いて大使が考えながら言う。
「処方を受けた、犯罪者の結構いますからねえ。なるほど、承知しました。クレームをつけて来たら、『本人ができないと言っている以上しょうがない』とあっさり言いますよ、まあ、1年程待てば、誰でも処方ができるようになるから、深刻な問題にはならないでしょう」
「ええ、でも本来は、私達がそう感じたような人は処方はするべきでないと思います。私も少し気になったので先ほど言った100人ほどを調べたのですが、はっきり言って、怪しげな人ばかりです」
さつきは付けくわえる。時差が2時間のバンコクでは、また現地の時間は早かったが、日本から来たメンバーの事も考えて会食は8時に終了した。
タイ政府による、マリュー測定に基づく、魔力の強いものの対象者の選別は終わっており、明日から始まる処方と、処方士としての訓練に備えて3千人強の全員が主都バンコクに集められている。養成する処方士に供与するインプレッサーは、すでに3100セットが現地に到着している。
さつきのみは別の行動をするが、日本から来た他の30人の2級以上の処方士は、それぞれ自分が使うインプレッサーを全員が持参している。今回、千葉大博士課程の1年生のさつきが、タイ派遣の処方士に選ばれたのは2つの目的がある。
一つは、佐伯指導教授の研究室の研究内容を、バンコクのタマサート大学の教育学のルンジャーン教授に説明することである。これは、魔法の処方後の教育方針をタイ国として早急に確立する必要があり、大国の方針策定の任にある、ルンジャーン教授から佐伯教授へ資料提供依頼があったのだ。
そこで、さつきの研究課題である『魔法処方を受けた人々の教育手法』が、その依頼そのものであるので、すでに送付している資料の説明と、実践方法の訓練をすることになっている。もう一つは、特級処方士として、タイの選ばれた中高年の要人2500人に対して、処方を施すことである。
さつきは、日本にも僅か12人しかいない特級処方士の資格を持っている。特級処方士は、1級処方士以上の処方の人数及び処方の成果のレベルに加え、探査と念動力を使えて中高年の人へも機器の補助なしに処方が行えることが一つの要件になっている。
加えて、特級処方士は、魔力が低い白人等の人々へもインプレッサーによる魔力の増幅無しで、知力増強については100%の成果を得られる。つまり、さつきは機器の補助が一切なくても、すべての人に、知的増強については効果が100%の処方が可能なのである。
これは、中高年の人々への処方を可能にした東大に、さつきも加わった千葉大の共同研究の成果である。さつきを加えた処方士31名、外務省の随行員2名、及び護衛の3名の一行が、バンコクのスワンナプーム国際空港に着いて、イミグレーションを抜けた。
この時、日本大使館、タイ外務省の職員の他にもテレビ局のカメラが3台、またたまたま居合わせた者に加え、わざわざ出迎えに来た数百人が待っており、彼らが次々に姿を現した時、一斉に歓声と拍手が湧いた。列の先頭にいた、外務省の職員でもある、タイ派遣処方士団の団長である米田幸子と、さつきに対して、日本大使館の職員が日本語で呼びかけてくる。
「米田団長、それと二宮さつきさんは、お疲れのところを申し訳ありませんが、インタビューを受けて頂けませんか?」
米田もさつきも、出発前にすでにマスコミのインタビューのあることは聞いており否応もない。広いロビーの一角に設けられたインタビューのスペースで、2人はインタビューを受ける。
2人とも英語には困らないので、インタビューは英語で行われ、撮影しているテレビの視聴者向けにはタイ語に翻訳している。インタビュワーの中年の女性と米田団長との、歓迎とお礼の言葉のやり取りに続いて、米田団長への質問が始まった。
「今度の処方士の皆さんの御予定を簡単に教えて頂けますか?」
「はい、処方そのものはインプレッサーを用いて、私どもの処方士一人で1日50人は行えます。ですから、処方の対象の方が3千人ということですので、私どもの30人によって2日で終えることができます。この処方で、今回の処方の対象の方は、魔力を用いての身体能力強化については25%~30%増しになりますし、知力増強については平均で40%程度の上昇がみられるはずです。
しかし、ここまでは通常の処方ですが、今回の目的は処方士を養成することですから、処方を受けた皆さんには、別便で送ったインプレッサーを用いた処方の方法を訓練してもらいます。それらを合わせて、大体2週間を予定しています。ですから、今日が日曜日ですから、来週いっぱいで必要な訓練を終えます」
米田が答えるのに、インタビュワーが質問を続ける。
「はい、米田さん。ありがとうございます。今回の日本からの協力は、半分が日本の援助ということですね?」
「はい、お国のタイはすでに無償援助対象国を卒業されていますので、経費の半分を負担して頂くことになっています」
再度米田が答え、コメントの後に質問が続く。
「私も費用を聞いているのですが、僅か3千人の我が国の人々の処方士への養成をして頂くだけで、わが国の3分の1もの人々が、先ほど言われたような能力を持つようになるというのは夢のような話です。さて、次にお尋ねしたいのは、今回養成して頂ける3千人余りが、その後全国に散らばって処方を行っていくわけです。
日本においては、そうした処方を行っていく上での問題点は起きたと思うのです。ですから、私どもの国で備えなければならない問題点は、どういったことになるのでしょうか?」
米田はその質問に、さつきを見て回答を譲るという。
「その点の回答は、この二宮さつきさんが適当だと思います。彼女はあのハヤト氏の妹さんで、最も早く処方を受けた人であり、日本でもごく初期から処方を行ってきており、大学でも処方後の教育の研究を続けています。さらに彼女は、日本にもわずか12人しかいない特級処方士ですから、お国の選ばれた制限年齢以上の方々への処方を行うことになっています。では、二宮さん先ほどの質問に対する回答をお願いします」
さつきは、米田からマイクを渡されて説明を始める。
「はい、二宮さつきです。私は、あのハヤトの妹です。先ほどの質問ですが、日本で私が処方を始めたころは、ただ兄に教わるままに、やみくもに処方をしていったような状態でした。そして、その中で魔力の強い人を訓練して、処方ができる人を増やして、さらにその人が別の人を訓練して、さらに処方を受けた人を増やすという具合でした。
でも、全国に処方を行き渡らせるには、本格的には兄のハヤトが自衛隊の人を訓練して、処方士を一定数確保してからですね。その後、日本の文部科学省のプログラムに沿って、その処方士たちが学校や職場で順次処方を行っていきました。
その初期のころは、魔力を測るマリュー測定器もなく、処方を行う人の能力によっては、相当に効果が低い場合がありました。ですが、幸いにその場合は能力の高い人が再度処方を行うことで、十全の効果が出ますので、処方を数回行う人も結構沢山いました。
でも、処方の効果についての最大の問題は、十分な効果が出ても、人によってその効果に相当な差があること、さらに処方の時期によっては入学試験などの結果に不公平があるということですね。実際に、最初に私がまとめて処方を行った時は、処方を受けた人が良い学校に合格して、その結果をあとで強く非難されました。
良く知られているように、身体強化は魔力によって行いますが、その強化の度合いは必ずしも魔力に比例しません。しかし、平均的にはかなり高い相関があります。また、知力増強は、現在社会では最も重要であると考えられていますが、ほとんどの方の処方の目的はこちらです。
実際、皆さんもご存知のように、過去5年の日本における、科学技術を含めた、あらゆる分野の学問・実業の急激な進歩は全てこれによるものです。知力増強については、最初の頃は、魔力と大きな相関があると考えられていましたが、インプレッサーが開発されてからは、実はあまり相関がないことが解っています。
そうでないと、魔力が非常に小さい白人の処方の効果が、それに比べれば大幅に大きい日本人と差がみられない理由がわかりません。いずれにせよ、処方の結果として、身体能力強化と知力増強の効果は個人によって違いますが、これは処方しない場合と同じで訓練で相当程度に差を埋めることが可能です。要は頑張れば、処方当初は劣っていてもひっくり返すことも可能ということです」
さつきは一旦言葉を切って、カメラを見つめて再度話し始める。
「次の大きな問題は、人々の知的能力が急に上がった時の教育です。実は、私は今大学院で、その処方後の教育の研究をしています。日本では、身体能力強化に係わる体育はともかく、急に知力が上がった子供と若い大人をどう教育、再教育するかが大きな問題になりました。
これについては、大まかにいうと、自習時間の割合を大きくして、その勉強に使うソフトを充実させるということで対応しています。結局、知力が5割近くも上がると、しゃべることで知識を伝えるという方法では効率が悪いのです。私どもの研究室から、すでにこれらの研究成果は、タマサート大学の教育学教授のルンジャーン教授にお送りしています。私の今回の訪問の目的の一つは、それらについて説明して、実践してみせることも含まれています」
「ありがとうございます。あなたのお兄様が、日本に魔法の処方を持ち込んで以来、日本でもいろんなことがあったのですね。ところで、私どもの国でも、日本と台湾では35から40歳以上の人々の処方が可能なのに、今のところ他の国では可能でないいうことが話題になっています。
でも、あなたを含めて、特級処方士の方々は、私どもの国も含めて、そういう国の人にでも可能ということですね?」
再度の質問である。
「ええ、その通りです。今回私は、あなたの国の政府に頼まれて、2500人のそうした方の処方をすることになっています。でも、普通の処方士の場合には、お国のそうした人に処方するためには、インプレッサーによる処方と、力場と聴音波探知機を使った補助付き処方の両方を組み合わせる必要があります。
この両方を使うと機器による障害がでるので、今のところ魔力の高い人々で構成されている、日本と台湾のみにしか一定以上の歳の方の処方ができていません。しかし、その障害の原因はほぼ突き止められていますので、半年もすれば障害は除けると考えています。
ですから、そうした年齢の方も、遅くとも1年程度若い人から遅れて処方を受けられるはずです」
さつきの答えに、インタビュワーは喜色を浮かべて感謝する。
「そうですか。それは有難いです。私もその待っている一人ですから、出来るだけ早く実現することを祈っています」
そう言って、彼女は仏教徒らしく手を合わせてインタビューは終わった。
その2人のインタビューの最中、テレビカメラは、その他のメンバーも撮影して、大使館のスタッフを通訳に、個々に簡単なインタビューをしていた。その後、一行は予約していたバンコク市内のシャングリラホテルに宿泊して、その夕べは日本大使館の主催で、レストランで会食をした。
主催した鎌田日本大使の挨拶である。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。ここタイでは、親日的なこともあって、日本のことはよく知られています。もう、タイ人も5万人程度は、日本に渡って処方を受けていて、その効果も良く知られています。ですから、今回皆さんが来られるのを、タイの人々は1日千秋の思いで待っていました。
ほとんどの皆さんは2週間、二宮さんとその護衛の方は1ヶ月の予定ですが、できれば楽しく過ごして頂きたいと思います。常に大使館の職員にアテンドさせますので何かあれば、申しつけ下さい。また、二宮さんは王家の方々を始め、この国の要人の方々の処方を行って頂くことになります。
気疲れされることもあるかと思いますが、大変重要な役なのでよろしくお願い致します」
それに対して、団長の米田からの返しの挨拶があって、その後は会食に入った。近くに座っているさつきに対して、大使から気軽な口調で話しかけてきた。
「実は、私は5年以上前、その頃私はアフリカにいましたが、二宮さんの活劇をU-チューブで見させて頂きました。あれは、見事なものでしたね。動きが美しいというか」
さつきは、白い上下のスカートとノースリーブで、薄く化粧をした顔を赤らめて応じる。
「い、いえ、お恥ずかしい。兄に格闘技を少し習っていたものですから、つい出てしまいました」
「いや、私も4ケ月前に処方を受けさせて頂いて、身体強化ができるのが嬉しくなって、だいぶ体を動かしましたが、二宮さんのようにはいかないですね」
50歳台半ばの大使は柔和に笑って言う。
「その件は、その辺でお願いします。ところで、明日は王宮に行って、王様とお后様に合って処方をすることになるようですが、そのような人に合ったことがないものですから、どうふるまっていいか、困っています」
さつきは少し心配して言うが、大使は心配ないよと言う。
「心配ないですよ。今の陛下は割に気さくな方ですし、言ってみれば、あなたは医者の立場です。尊敬の気持ちを忘れず、自然に振舞えば問題はありません」
さつきは、それに頷いて、加えてもう一つ言う。
「それと、もう一つ、処方をするときには相手の気持ちというか、本音が伝わってくるのです。それで、兄からも『相手に嫌悪感を覚えたら、処方はするな』言われているのです。兄の経験では、そう言う人は邪悪な人が多いそうで世の中に悪をなすそうです。
私も、いままで延べで言うと1万人くらいは処方をしてきましたが、100人くらいそういう人がいましたので、処方がうまくいかないということで断っています。今回もそのようにしますので、ご承知おきください」
「なるほど、そういうものですか。処方士の方は皆あなたのように感じ入るのですか」
大使がそれを聞いて反問する。
「いえ、処方士でも1級の人の10%程度のようですね、そのように具体的に感じるのは。ですから、そのような人は必ず不快な顔をして、結局は他の人に処方をしてもらっています」
さつきの言葉を聞いて大使が考えながら言う。
「処方を受けた、犯罪者の結構いますからねえ。なるほど、承知しました。クレームをつけて来たら、『本人ができないと言っている以上しょうがない』とあっさり言いますよ、まあ、1年程待てば、誰でも処方ができるようになるから、深刻な問題にはならないでしょう」
「ええ、でも本来は、私達がそう感じたような人は処方はするべきでないと思います。私も少し気になったので先ほど言った100人ほどを調べたのですが、はっきり言って、怪しげな人ばかりです」
さつきは付けくわえる。時差が2時間のバンコクでは、また現地の時間は早かったが、日本から来たメンバーの事も考えて会食は8時に終了した。
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その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
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