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第9章 世界での新たな展開
9.4 予兆
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それが最初に報告されたのは、ハヤトが内輪で結婚式を挙げた直後であった。
「こちら、“しでん257”目標3機視認、距離8千m速度は時速2千㎞。しかし、レーダーにはきちんと映らない。映像を送る」
百里基地主任管制官百田2佐は、自らの管制スクリーンで2機編隊長の西野1尉送ってきた映像を見た。
“しでん257”と“しでん259”の2機はレーダーで捉えられた、太平洋側から日本本土に迫る機影、それはステルス機のようにとらえにくいものであったが、それに対してスクランブル発進したのだ。百田はそのUnknown(アンノウン)の機体を撮影距離と倍率から大きさを計った。
長さは8m胴体の高さと幅は1.5mほどであり、翼はなく、見る限りジェット推進もない。形状は角ばっており、ステルスを意識しているようだ。“しでん257”は機影が見えない50㎞の距離で英語、ロシア語、中国語で警告放送を行ったが、反応は全くない。
「ああ!消えた!」
“しでん257”と“しでん259”の両機から驚きの叫びが入る。
確かに、基地のレーダーでももともと小さな反応が全く無くなっている。それが始まりであった。日本各地でも、同様な機体が飛んでいるのがその後1ヶ月で7件、発見されている。大きな問題は、日本上空でも高度1万m付近を時速千㎞から2千㎞で飛ぶのを発見されており、スクランブル発進して近づくと消えてしまう点である。
これは、航空自衛隊で大問題になった。
「では、今日は最近発見されている、アンノウンについて協議したい。まず、日本では現状のところ7回発見されてスクランブル発進しているが、海外について調べた結果を、森下2佐から発表してほしい」
航空調査官の木川1佐が国際課の森下に振る。今日の会議は航空自衛隊の主催であり、山下航空幕僚長の出席のもとで行われているが、陸・海自衛隊からも数人ずつ出席している。
「はい、まずアメリカですが、日本より広いこともあって発見された回数は多いようです。出現を始めたのは、日本とほぼ同じ時期であり、その後35回を数えていおりまして、ほとんど場合、本土上空でいきなり発見されています。正体不明と言うことでUnknown(アンノウン)と呼んでいますが、我々もそれに倣っております。
いずれの場合も、多くの場合は米空軍のスターダストタイプの戦闘機でスクランブルをかけており、2例ではレールガンとさらに3例ではミサイルを発射しています」
スターダストタイプの戦闘機は日本の“しでん”と同等の能力をもつが、日本ほど量産性とコストを考えていないので、“しでん”に比べるとなめならか流線形の機体でスマートな形状である。スターダスト戦闘機は現状で保有数3百機余であり、2千機を目指して続々と量産中である。
なお、日本では計画段階のAE発電・励起のできる空中空母機は、アメリカではすでに建造に入っており、3か月以内に完成の見込みである。現状のところ重力エンジンの実用戦闘機を持つのは、日本・アメリカのみであり、他にはイギリスで試作機4機ができた段階である。
また、兵器としてはレールガンが実用化されて、同様に日本とアメリカのみがすでに実戦配備している。
「ヨーロッパでも、アンノウンはやはり飛行が確認されています。あそこは国境が複雑に入り組んであることもあって、スクランブルもままならず、日本ですとUnknownの飛行時間は15分足らずですが、長い場合は2時間以上も飛び回わられたようです。
さらに、ロシアはウラル山地の西側で30回の飛行を発見していますが、ウラル以東では5回と少ないのですが、あの国のレーダー網はシベリアでは穴が多く、ウラル以東のこの回数はあてにならないでしょう。ロシアでは、すべてスクランブルをかけたということで、5回はミサイルを撃ったようです。ここで、注目されるのはその撃ったミサイルが爆発したということです」
森下2佐の言葉に、会場から「ええ!ミサイルが爆発した?」の小さな叫びがあがる。
「ええ、そうです。まさにハヤト氏の魔法です。ひょっとするとそういう可能性があります」
森下は叫びをあげた相手を見つめて言い、話を続ける。
「さて、中国も今回は、データを出してきましたが、かれらのデータでは16回です。しかし、彼らの地方部のレーダー網については、アンノウンのステルス性ではとらえきれないでしょうね。彼らは攻撃し切れていないようです。またK国はわが方のレーダーで捉えた限りでは3回ですし、台湾は6回という報告が上がっています。
東南アジア・南アジア・西アジアでは、タイで3回、インドで7回、イスラエルで4回ですが、イスラエルを除けば優秀なレーダー網は局部的なので全体を捉えてはいないでしょう。アフリカ・南アメリカでの目撃例はありますが、レーダーでの発見は日本自治区においたレーダーのみで他はありません。
これらのことから、全地球にわたってこのアンオウンは飛んでいるということが伺えます。それから、観測された機体は解った限りにおいては日本で発見されたものと同じものです。さらに、速度ですが、ロシアがアフターバーナーを焚いてマッハ2.5で追って同じ速度だったと言います」
「森下2佐ありがとう。さて、今の報告のように、を操縦する何者かが、全地球の調査を行っているようだね。最大の問題は、アンノウンがいきなり本土上空に現れるということだ。もし、彼らが、爆弾を投下すれば甚大な被害が出ることは間違いない。
また、マッハ2.5という速度は、現状では“しでん”でも到達できないが、リミッターをはずせば、大丈夫だ。無論航続距離は減るがね。まず、アンノウンの目的は何かということですね。何か意見はありますか?」
木川1佐の言葉に、水井健太がおずおずと手を挙げる。
「おお、水井1尉か。どうぞ、言ってくれ」
木川が指名して、すでに1尉になっている、“魔法担当官”立ち上がる。水井については、最初は海上自衛隊所属でもあり、全く出席の予定はなかったが、防衛大臣からの指示で招いている。
「はい、実は1週間ほど前ハヤトさんから念話をもらいました。ハヤトさんが、10月22日に出たアンノウンをキャッチしたというので、その実況で私も一緒に追いました」
その言葉に木川がリストを見ながら言う。
「うん、10月22日、21時3分から21時15分新潟上空で現れ、関東に向かったこれだね。キャッチしたと?」
「ええ、そうです。あの機体は魔力というかマナを強く放っており、間違いなくマナで飛んでいるようです。私もハヤトさんとの実体験をもとに、その後レーダーでキャッチしたあれを、レーダーの電波と同期して自分でも確認しました。
ハヤトさんは、あの機はたぶんマナを何らかの形で圧縮して、機内のタンクに蓄えてそれを動力にしているということですが、私も機内に大きなマナの塊を感じました。ハヤトさんは、あれは宇宙からでなく、異世界から来たものであろうと言っていますが、私もそうだろうと思っています」
そのように水井が答える。
「うむー。魔法の使える異世界からか。それは厄介だな。なにより問題は、あのアンノウンが世界中に飛来している意図だ」
皆が考えこむ中、山田幕僚長がうなって言うのに、滋賀空将補が意見を述べる。
「山田幕僚長、意図は聞いたわけではないですからわかりません。しかし、彼らの飛来のパターンを見る限り、よからぬ意図を持ったものと考えざるを得ないと思います。なによりこちらの接触しようとしない点ですね。しかも、住民がいる上空に現れて傍若無人に飛び回るなど、いずれにせよ、世界を征服する意図があると考えて、準備はするべきだと思います」
志賀は、ハヤトの登場時からの自衛隊の作戦面でのエリートであり、40代前の今すでに統括幕僚長を補佐する将補に昇進している。彼は水井に聞く。
「水井1尉、私も君の話したことを君の上官から聞いて、ハヤト氏と話してみたのだ。ハヤト氏は、アンノウンの乗員の存在を感じたらしい。その結果、乗員自身が相当に魔法に長けているらしいが、飛行については補助装置を使っているらしいね」
「はい、私も乗員の存在は感じましたが、機体そのものはマナで光り輝いている感じで極めてクリヤーなのですが、中には私の力では入りきれないようです。中に乗員が1名居ることはわかります。どうも、あの機体はなにかバリヤー的なもので守られているようです」
滋賀は、水井の返事を聞いて少し失望したように言う。
「そうか、君でも無理か。ハヤト氏の話では、乗員は人間に近い体だが、背は低く魔力が相当に強いらしい。また、間違いなく非友好的であるらしい」
それから、彼は会議室に集まっている30人ほどの出席者に向かって話し始める。
「皆さんもお気付きのように、このアンノウンは敵性のものとして扱うしかありません。なぜなら、彼らが単に接触を求めているのなら、いくらでも接触のチャンスはあったはずです。一方で彼らは、こちらが探知できないところから、自由に思ったところに出現できるという、対抗するには非常に難しい相手です。
またその機動力は、“しでん型”でかろうじて対抗できるレベルで、ジェット機では追いきれないでしょう。彼らの武器はまだわかりません。しかし、ハヤト氏の話では、マナの濃い状態で魔法を使えるという前提に立てば、例えば敵の機内の温度を瞬時に高温にすることもできると言います。
あるいは、機内の重要部品を持ち去ることもできるそうです。つまり相手を撃墜できるわけですね。そして、それは防ぐ方法はない。魔法によって一方的に撃破された尖閣沖海空戦における中国軍を思い出してほしい」
これを聞いた、部屋にいる者たちの表情がゆがむ。
滋賀はなおもクールに続けて言う。
「ただ、彼らの機体が、なにかのバリヤー状のもので魔法から守られている状態という、水井君の先ほどの証言があります。魔法の悪用ということは、早くから懸念されていました。魔力についてはすでに測定はできており、その応用で重要個所を魔法の操作から守る技術は一応の完成を見ております。
この技術は、公開はされていませんが、AE発電所については魔法による操作をさせないことで、その暴走を防ぐために、すでに使われています。ですから、この技術によるバリヤーを、大至急“しでん型”他のアンノウンに対抗する、重力エンジン機に装備する必要があります。
また、わが国を守るためのみでも、今運用している200機のしでん型では到底足りません。従って“しでん型”と、その移動基地になるAE発電・励起の機能をもった大型母艦の大増産を要求する必要があります」
志賀が再度言葉を切ると、木川1佐が口を挟む。
「うーん。言うことはよくわかるが、なかなか防衛関係の予算は認められんからなあ」
志賀はその言葉に頷いて言う。
「そう、その通りです。しかし、ハヤト氏が会長を務める日本新新世紀会が動いてくれるそうです。私は、それに大いに期待しています。いまこの瞬間にもハヤト氏などが、政府の閣僚の説得にあたっているはずです」
志賀は、木川に向けていた顔を出席者全員に向けて話を続ける。
「さらに、わが国とアメリカ以外に、アンノウンに対抗する武器を持たない以上、いずれにせよ当面はこの2国が、地球全体のこの危機に対しするしかないでしょう。この事態になれば、しでん等の重力エンジンの技術、AE励起の技術は、この事態では国際的に公開するしかないでしょう。
しかし、実際のところそのような技術移転を待っておれません。今すぐにでも1万機以上のしでん級程度の戦闘機が欲しいところですが、現時点で年間数千機オーダーを超える生産体制を緊急に整えられるのはわが国のみです。かの太平洋戦争の時、アメリカは年間6万機の戦闘機を製造しましたし、わが国でも1万機以上は製造しています。当時の技術レベル・産業レベルでそれができたのです。
残念ながら、アメリカの工業生産力は今では見る影もなく衰えていますが、最高の人材を抱えたわが国の総力を挙げ、予算に糸目をつけず、加えて全世界の資源の支援があれば、それこそ数十万機の生産だって可能です」
志賀は、さらに言葉を切って改めて皆に聞かせるように言う。
「アンノウンの全世界に渡る攻撃は明日にも始まるかもしれません。バリヤー発生装置の製造と“しでん型”への装備、“しでん型”の大増産体制の構築、設計はできている“しでん”の母艦の建設はすぐさま始める必要があります。そしてなにより、3次元の空間を飛ぶパイロットの大量養成、また各地のアンノウンの攻撃から人々や資産を守る人材もまた必要です。
現在自衛隊に属する我々は、今後民間から流れ込んでくる大量の人々を鍛えて軍務に耐えられる人材に養成する必要があります。ご存知のように、もともと、自衛隊の教育はそうした大動員を考えて指揮を採れる人材を育てるものです。おそらく、今後1年間は我々にとって寝る間も惜しんで努力する1年になるでしょう」
滋賀の話が最終的な結論になったが、実際にはその実行は政府の動き次第である。
「こちら、“しでん257”目標3機視認、距離8千m速度は時速2千㎞。しかし、レーダーにはきちんと映らない。映像を送る」
百里基地主任管制官百田2佐は、自らの管制スクリーンで2機編隊長の西野1尉送ってきた映像を見た。
“しでん257”と“しでん259”の2機はレーダーで捉えられた、太平洋側から日本本土に迫る機影、それはステルス機のようにとらえにくいものであったが、それに対してスクランブル発進したのだ。百田はそのUnknown(アンノウン)の機体を撮影距離と倍率から大きさを計った。
長さは8m胴体の高さと幅は1.5mほどであり、翼はなく、見る限りジェット推進もない。形状は角ばっており、ステルスを意識しているようだ。“しでん257”は機影が見えない50㎞の距離で英語、ロシア語、中国語で警告放送を行ったが、反応は全くない。
「ああ!消えた!」
“しでん257”と“しでん259”の両機から驚きの叫びが入る。
確かに、基地のレーダーでももともと小さな反応が全く無くなっている。それが始まりであった。日本各地でも、同様な機体が飛んでいるのがその後1ヶ月で7件、発見されている。大きな問題は、日本上空でも高度1万m付近を時速千㎞から2千㎞で飛ぶのを発見されており、スクランブル発進して近づくと消えてしまう点である。
これは、航空自衛隊で大問題になった。
「では、今日は最近発見されている、アンノウンについて協議したい。まず、日本では現状のところ7回発見されてスクランブル発進しているが、海外について調べた結果を、森下2佐から発表してほしい」
航空調査官の木川1佐が国際課の森下に振る。今日の会議は航空自衛隊の主催であり、山下航空幕僚長の出席のもとで行われているが、陸・海自衛隊からも数人ずつ出席している。
「はい、まずアメリカですが、日本より広いこともあって発見された回数は多いようです。出現を始めたのは、日本とほぼ同じ時期であり、その後35回を数えていおりまして、ほとんど場合、本土上空でいきなり発見されています。正体不明と言うことでUnknown(アンノウン)と呼んでいますが、我々もそれに倣っております。
いずれの場合も、多くの場合は米空軍のスターダストタイプの戦闘機でスクランブルをかけており、2例ではレールガンとさらに3例ではミサイルを発射しています」
スターダストタイプの戦闘機は日本の“しでん”と同等の能力をもつが、日本ほど量産性とコストを考えていないので、“しでん”に比べるとなめならか流線形の機体でスマートな形状である。スターダスト戦闘機は現状で保有数3百機余であり、2千機を目指して続々と量産中である。
なお、日本では計画段階のAE発電・励起のできる空中空母機は、アメリカではすでに建造に入っており、3か月以内に完成の見込みである。現状のところ重力エンジンの実用戦闘機を持つのは、日本・アメリカのみであり、他にはイギリスで試作機4機ができた段階である。
また、兵器としてはレールガンが実用化されて、同様に日本とアメリカのみがすでに実戦配備している。
「ヨーロッパでも、アンノウンはやはり飛行が確認されています。あそこは国境が複雑に入り組んであることもあって、スクランブルもままならず、日本ですとUnknownの飛行時間は15分足らずですが、長い場合は2時間以上も飛び回わられたようです。
さらに、ロシアはウラル山地の西側で30回の飛行を発見していますが、ウラル以東では5回と少ないのですが、あの国のレーダー網はシベリアでは穴が多く、ウラル以東のこの回数はあてにならないでしょう。ロシアでは、すべてスクランブルをかけたということで、5回はミサイルを撃ったようです。ここで、注目されるのはその撃ったミサイルが爆発したということです」
森下2佐の言葉に、会場から「ええ!ミサイルが爆発した?」の小さな叫びがあがる。
「ええ、そうです。まさにハヤト氏の魔法です。ひょっとするとそういう可能性があります」
森下は叫びをあげた相手を見つめて言い、話を続ける。
「さて、中国も今回は、データを出してきましたが、かれらのデータでは16回です。しかし、彼らの地方部のレーダー網については、アンノウンのステルス性ではとらえきれないでしょうね。彼らは攻撃し切れていないようです。またK国はわが方のレーダーで捉えた限りでは3回ですし、台湾は6回という報告が上がっています。
東南アジア・南アジア・西アジアでは、タイで3回、インドで7回、イスラエルで4回ですが、イスラエルを除けば優秀なレーダー網は局部的なので全体を捉えてはいないでしょう。アフリカ・南アメリカでの目撃例はありますが、レーダーでの発見は日本自治区においたレーダーのみで他はありません。
これらのことから、全地球にわたってこのアンオウンは飛んでいるということが伺えます。それから、観測された機体は解った限りにおいては日本で発見されたものと同じものです。さらに、速度ですが、ロシアがアフターバーナーを焚いてマッハ2.5で追って同じ速度だったと言います」
「森下2佐ありがとう。さて、今の報告のように、を操縦する何者かが、全地球の調査を行っているようだね。最大の問題は、アンノウンがいきなり本土上空に現れるということだ。もし、彼らが、爆弾を投下すれば甚大な被害が出ることは間違いない。
また、マッハ2.5という速度は、現状では“しでん”でも到達できないが、リミッターをはずせば、大丈夫だ。無論航続距離は減るがね。まず、アンノウンの目的は何かということですね。何か意見はありますか?」
木川1佐の言葉に、水井健太がおずおずと手を挙げる。
「おお、水井1尉か。どうぞ、言ってくれ」
木川が指名して、すでに1尉になっている、“魔法担当官”立ち上がる。水井については、最初は海上自衛隊所属でもあり、全く出席の予定はなかったが、防衛大臣からの指示で招いている。
「はい、実は1週間ほど前ハヤトさんから念話をもらいました。ハヤトさんが、10月22日に出たアンノウンをキャッチしたというので、その実況で私も一緒に追いました」
その言葉に木川がリストを見ながら言う。
「うん、10月22日、21時3分から21時15分新潟上空で現れ、関東に向かったこれだね。キャッチしたと?」
「ええ、そうです。あの機体は魔力というかマナを強く放っており、間違いなくマナで飛んでいるようです。私もハヤトさんとの実体験をもとに、その後レーダーでキャッチしたあれを、レーダーの電波と同期して自分でも確認しました。
ハヤトさんは、あの機はたぶんマナを何らかの形で圧縮して、機内のタンクに蓄えてそれを動力にしているということですが、私も機内に大きなマナの塊を感じました。ハヤトさんは、あれは宇宙からでなく、異世界から来たものであろうと言っていますが、私もそうだろうと思っています」
そのように水井が答える。
「うむー。魔法の使える異世界からか。それは厄介だな。なにより問題は、あのアンノウンが世界中に飛来している意図だ」
皆が考えこむ中、山田幕僚長がうなって言うのに、滋賀空将補が意見を述べる。
「山田幕僚長、意図は聞いたわけではないですからわかりません。しかし、彼らの飛来のパターンを見る限り、よからぬ意図を持ったものと考えざるを得ないと思います。なによりこちらの接触しようとしない点ですね。しかも、住民がいる上空に現れて傍若無人に飛び回るなど、いずれにせよ、世界を征服する意図があると考えて、準備はするべきだと思います」
志賀は、ハヤトの登場時からの自衛隊の作戦面でのエリートであり、40代前の今すでに統括幕僚長を補佐する将補に昇進している。彼は水井に聞く。
「水井1尉、私も君の話したことを君の上官から聞いて、ハヤト氏と話してみたのだ。ハヤト氏は、アンノウンの乗員の存在を感じたらしい。その結果、乗員自身が相当に魔法に長けているらしいが、飛行については補助装置を使っているらしいね」
「はい、私も乗員の存在は感じましたが、機体そのものはマナで光り輝いている感じで極めてクリヤーなのですが、中には私の力では入りきれないようです。中に乗員が1名居ることはわかります。どうも、あの機体はなにかバリヤー的なもので守られているようです」
滋賀は、水井の返事を聞いて少し失望したように言う。
「そうか、君でも無理か。ハヤト氏の話では、乗員は人間に近い体だが、背は低く魔力が相当に強いらしい。また、間違いなく非友好的であるらしい」
それから、彼は会議室に集まっている30人ほどの出席者に向かって話し始める。
「皆さんもお気付きのように、このアンノウンは敵性のものとして扱うしかありません。なぜなら、彼らが単に接触を求めているのなら、いくらでも接触のチャンスはあったはずです。一方で彼らは、こちらが探知できないところから、自由に思ったところに出現できるという、対抗するには非常に難しい相手です。
またその機動力は、“しでん型”でかろうじて対抗できるレベルで、ジェット機では追いきれないでしょう。彼らの武器はまだわかりません。しかし、ハヤト氏の話では、マナの濃い状態で魔法を使えるという前提に立てば、例えば敵の機内の温度を瞬時に高温にすることもできると言います。
あるいは、機内の重要部品を持ち去ることもできるそうです。つまり相手を撃墜できるわけですね。そして、それは防ぐ方法はない。魔法によって一方的に撃破された尖閣沖海空戦における中国軍を思い出してほしい」
これを聞いた、部屋にいる者たちの表情がゆがむ。
滋賀はなおもクールに続けて言う。
「ただ、彼らの機体が、なにかのバリヤー状のもので魔法から守られている状態という、水井君の先ほどの証言があります。魔法の悪用ということは、早くから懸念されていました。魔力についてはすでに測定はできており、その応用で重要個所を魔法の操作から守る技術は一応の完成を見ております。
この技術は、公開はされていませんが、AE発電所については魔法による操作をさせないことで、その暴走を防ぐために、すでに使われています。ですから、この技術によるバリヤーを、大至急“しでん型”他のアンノウンに対抗する、重力エンジン機に装備する必要があります。
また、わが国を守るためのみでも、今運用している200機のしでん型では到底足りません。従って“しでん型”と、その移動基地になるAE発電・励起の機能をもった大型母艦の大増産を要求する必要があります」
志賀が再度言葉を切ると、木川1佐が口を挟む。
「うーん。言うことはよくわかるが、なかなか防衛関係の予算は認められんからなあ」
志賀はその言葉に頷いて言う。
「そう、その通りです。しかし、ハヤト氏が会長を務める日本新新世紀会が動いてくれるそうです。私は、それに大いに期待しています。いまこの瞬間にもハヤト氏などが、政府の閣僚の説得にあたっているはずです」
志賀は、木川に向けていた顔を出席者全員に向けて話を続ける。
「さらに、わが国とアメリカ以外に、アンノウンに対抗する武器を持たない以上、いずれにせよ当面はこの2国が、地球全体のこの危機に対しするしかないでしょう。この事態になれば、しでん等の重力エンジンの技術、AE励起の技術は、この事態では国際的に公開するしかないでしょう。
しかし、実際のところそのような技術移転を待っておれません。今すぐにでも1万機以上のしでん級程度の戦闘機が欲しいところですが、現時点で年間数千機オーダーを超える生産体制を緊急に整えられるのはわが国のみです。かの太平洋戦争の時、アメリカは年間6万機の戦闘機を製造しましたし、わが国でも1万機以上は製造しています。当時の技術レベル・産業レベルでそれができたのです。
残念ながら、アメリカの工業生産力は今では見る影もなく衰えていますが、最高の人材を抱えたわが国の総力を挙げ、予算に糸目をつけず、加えて全世界の資源の支援があれば、それこそ数十万機の生産だって可能です」
志賀は、さらに言葉を切って改めて皆に聞かせるように言う。
「アンノウンの全世界に渡る攻撃は明日にも始まるかもしれません。バリヤー発生装置の製造と“しでん型”への装備、“しでん型”の大増産体制の構築、設計はできている“しでん”の母艦の建設はすぐさま始める必要があります。そしてなにより、3次元の空間を飛ぶパイロットの大量養成、また各地のアンノウンの攻撃から人々や資産を守る人材もまた必要です。
現在自衛隊に属する我々は、今後民間から流れ込んでくる大量の人々を鍛えて軍務に耐えられる人材に養成する必要があります。ご存知のように、もともと、自衛隊の教育はそうした大動員を考えて指揮を採れる人材を育てるものです。おそらく、今後1年間は我々にとって寝る間も惜しんで努力する1年になるでしょう」
滋賀の話が最終的な結論になったが、実際にはその実行は政府の動き次第である。
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