帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第10章 対アンノ戦争勃発

10.14 欧州隷属化1

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 バトルオブ東南アジアが終わった後、サーダルタ帝国は他地区の征服をあきらめたようで、支配下に置いている欧州の隷属化処置を開始した。それは、フランスとドイツ、スペインへのアンノ母艦を小型化した輸送艦の着陸から始まった。

 その前に、各国政府には、地球区総督アヌラッタ・シジンから通告があっている。それは、欧州各国に今後サーダルタ帝国の調査隊が入るので、抵抗するものは射殺するというものである。各国政府は抗議をしたが、まったく相手にされず、やむを得ず国民に同じ要求をしている。無論政府には強制力はないので、『安全が確保できない』と言う理由である。

 ちなみに、欧州の旧EUは、今や世界から隔離された状態になっている。具体的には、まずテレビやラジオなど電波が欧州のほぼ国境沿いに通過出来なくなっている。これは指向性が強くさらに強力な電波であれば繋がるが、逆にこれはサーダルタ側にも発信位置がバレバレである。

 さらに、その境界にそって陸と海に、力は弱いがスクリーンのようなものが張られて遮断されており、無理に越えようとすると“燃やされる”ことになる。なお、衛星等の宇宙からの電波は、その性格上、出力が大きいものではないので、地上には届かない。
 この遮断を越えようとして、死んだ者はすでに数千人になると言われるが、むろん入るものは殆どなく、出ようとするものばかりである。とはいえ、バリヤーは完全なものではなく、いくつかの抜け道があった。

 一つは海である、スクリーンは海中では無効になっており、一部スクリーンが海上に広がっている部分では潜って抜けることはできる。この方法で、数千人が越境したと言われ、大部分はイギリスに渡っている。しかし、この場合もサーダルタ帝国の哨戒に何度か見つかっており、アンノ機により熱戦銃を浴びせられ、今ではアンノ機により定期哨戒が行われて失敗例が多い方法になっている。

 なお、アンノ機の対人用の主兵器は熱戦銃であるが、これは人には致命的あるが、しでんやSFⅡにはほぼ無力であるため、戦闘機相互の闘いでは役に立っていない。

 もう一つは、数百m以上の高さではスクリーンは張られていないので、飛行機であれば抜けられる。だが、アンノ機もレーダーと魔法による見張りをしており、アンノ機に見つかるとほぼ撃墜される方法で、しかも大部分見つかっている。
 従って、その境を抜けられる可能性が高いのは海中であり、実際に監視の目を盗んで中から抜け出すものもいるが、外からも諜報員十数人が潜り込んでいると言われる。

 結果的に、それでも上空の制圧の初期においては、欧州にもごく少数の魔法が使えるもの、大部分が日本人または日系人が居て、魔力増大装置の助けを借りて外と念話でコミュニケーションが取れていた。

 だから、イギリスが犠牲を出しながらも、日本の助けを借りて国を守り切ったことを知って、それは様々な媒体で知らされ、人々の希望を持たせた。しかしこれらの人は、アンノ機に急襲されてどこかに連れ去られてその行方が知れなくなった。結局、欧州の人は、バトルオブ東南アジアのことは知らない。

 しかし、このように欧州全体が地球の他地区から遮断されたことは、極めて深刻な影響を及ぼした。すなわち、とりわけ先進国と呼ばれる国、地域において他地区との交易なしに単独で成り立っている国、地域はないと言ってよい。かつて、輸送に長時間要する時代であれば、国ごとに生活・産業に必要なあらゆるものは、その国で作られていたが、現在では国際分業が当たり前であって、相互の物品、産物のやり取りが前提で成り立っている。

 地球の他地区にしても、欧州からの主として様々な工業生産物が届かなくなって、とりわけ欧州本社の会社の工場が、次々に操業を停止していった。しかし、これらの工場からの生産物には生活に必須のものは少なく、代替は早期に可能であると見られている。一方、これらの工場の操業の開始については目途がたっていない所が多い。

 しかし、欧州自身についてはそれどころの話ではなかった。確かに欧州の食糧自給率は高いが、飼料等の大量の輸入があってのことであり、エネルギー資源については大量の原油・天然ガスの輸入で成り立っている。フランスで、割合が高い原子力による発電も、結局ウラニウムは輸入であり、太陽光・風力等はその不安定さから、電力全体に対する全体の割合は20%を超えることは難しい。

 パイプラインで供給されている天然ガスについては、スクリーンによる遮断はないが、供給元のロシアも、送り先の動向が判らない以上これ以上送れないということで、早々に遮断されている。今は秋であるため冷暖房は必要なく、後述するように工場が次々に操業を停止しているためと、石油の備蓄を取り崩しているため、エネルギーによる危機的な状況は起きていないが、あと1ヶ月もしないうちに深刻な問題化することは間違いない。

 さらなる問題は、その欧州の産業の基盤である工業であるが、工場生産において単一の国や地方で、構成部品すべてを生産できるところはない。かつて東日本震災によって日本の東北の部品工場が被害を受けて、世界中の多くの自動車等の工場が、操業を停止せざるを得なかった問題は解決されるどころか、さらに事態は進行している。

 このため、わずか1週間足らずのうち、工場は次々に操業を停止して、域外との観光、輸出入、金のやり取り、情報交換にあたる産業が次々に店を閉めている。この事態に、当然これらの産業に職を得ていて数百万人の人々の怒りの矛先は、自国政府であり、EU政府であり、サーダルタ帝国であった。

 無論、EU及び各国政府も、国民からの訴えを受けるまでのなく、事態の深刻さは承知しており、サーダルタ帝国の地球区総督アヌラッタ・シジンに対し、限られたあらゆるチャンネルを使って、他地域とのバリヤー開放を訴えた。しかし、サーダルタ帝国にしてみれば、空前の規模の悲惨な犠牲を払って制圧した、欧州地区をそう簡単に手放せる訳もなく、無視を決め込み、さらなる愚行に走った。

 これらのことは、戦後にわかったことであったが、帝国にしてみても地球のレベルでの抵抗は経験がなく、しかも空前の大艦隊を送り込んで、たたき出されるとは全くの想定外であったのだ。
 他の世界においては、基本的に征服は順調に推移したため、先行して征服した地区の封鎖は短期であったことから、物資不足や生産の混乱は生じたが深刻なことにはならなかったのだ。また、これは、所詮征服した地区での話なので、帝国としては知ったことではないということであったのかも知れない。

 しかし、地球の欧州地区の事情は他の世界と異なる。これは、すでに他の2つの地区に攻込んでたたき出された経験から、地球区総督府では地球の軍事力は帝国に勝るという見方が強くなってきている。
 しかし、地球区総督アヌラッタ・シジンを始め総督府にしてみれば、要求した軍備を与えられた上に、言い訳のしようのない敗戦に至ったというのは、信賞必罰を旨とする帝国の上級貴族としては死罪に値する判断ミスである。

 そして、それを覆す手段は、地球の征服を確実にするしかないが、そのための他地区に攻め込む戦力はなく、さらには仮に戦力があったとしても、同じ結果になる恐れが強い。そうであれば、制圧している地区の住民の隷属化を行って、その地区の支配のみでも確実に行うことと考えたのだ。通常の支配下の世界の支配は利で誘って、それほど無理なく行うが、過去において極めて反抗的な3種族の制圧に、隷属の首輪を使っている。

 欧州地区では、サーダルタ帝国の制圧と他地区との連絡を絶たれたことによる、生活の手段を失うことで、大きな不安と不満を抱いた住民によって、極めて不穏な空気が醸成している。それは、既存の行政庁の総督府に訴える危機感からも明らかであり、集団でその政庁ビルに詰めかける人々の険悪な表情を見ても明らかである。

 隷属化を行う隷属の首輪をすると、それを装着された者は、首輪に働きかけられる指示に従順に従うようになるが、長時間の働きかけ(命令)は、それに支配された者の精神に大きな負荷を与えるため、連続6時間が限度とされる。サーダルタ帝国においても、この首輪による支配を正常な行為とは認めておらず、基本的には3か月を超える装着は違法とされ、さらに1日に連続6時間を超える命令状態も違法とされている。

 また、隷属の首輪による支配は非正常とみなされるために、地球区総督府の所持する隷属の首輪は百万組であった。従って、それを使う場合には百万の隷属者によって3億を支配する必要があるのだ。それを実行するためには手段は『恐怖』しかないと、総督府が信じたのも無理からぬところであるが、問題は相手が、自分たちの実行した封じ込めの結果、短時間の間に『追い詰められた人々』になったことである。

 客観的に言えば、サーダルタ帝国及びその人々は必ずしも残酷ではないし、過酷な支配もしない。だから、12もの異世界を支配することが出来たのであるが、しかし地球区総督府はいわば初めての経験する過酷な状況に置かれている。
 それは、支配下の地区以外の者たちが自分たちより戦力的に強く、自分たちがすでに追い詰められていること、さらに今の状態で逃げ帰ることで、自分たちだ断罪される可能性が高いことである。

 だから、総督府はなんとか欧州地区を確実に支配しようとした。それが、隷属の首輪によって百万のいわゆる奴隷を作ろうとしたのだ。そして、その奴隷と、自分たちの戦力で支配を確実にしようとした。その戦力とは、ガリヤーク母艦(アンノ母艦)が82隻、ガリヤーク機(アンノ機)が2万機、これらの乗員4万人と陸戦隊2万人である。

 それにサカン1型と呼ばれる弱武装の輸送機母機50機(サカン2型20機収容)、サカン2型呼ばれるこれも弱武装の小型輸送機(乗員10名程度)が800機加わるが、乗員は2/3がサーダルタ人であり、陸戦隊はその割合が1/4である。
 フランスとドイツ、スペイン3国へのサカン1型が各10機着陸して、各々からサカン2型と呼ばれる輸送機が20機前後現れた。そのサカン2型には10人ほどのサーダルタ人等が乗っていたと言われる。

 サカン2型に乗っているのは、サーダルタ人が2人で、残りは護衛とみられる支配下種族8人であり、犬耳でやはり犬のような鼻のもの達であったが尻尾は無かった。サーダルタ人がそれぞれ翻訳装置を持っている一方で、彼らは隊長のようなもののみが所有していた。護衛の者たちは、自らをドグーラ人と呼んでいた、犬に似たその風貌からドグ人と呼ばれるようになった。

 彼らは、散弾銃に似た銃で武装していたが、それは後でわかってみると熱線銃であった。さらに、火薬で打ち出す銃に対しては、かれらから200mほどに近づくと、すぐさまその薬莢を破裂させることが出来たので、ほとんど無敵であった。また、狙撃銃により300mほどの距離から彼らを狙撃しようとするものもいたが、そのような悪意を検知できるらしく、はやり薬莢を破裂させられている。

 サカン2型は、その少し角ばっている機体を都市の中の公園に降ろし、高さ50㎝程の足で地上に立つ。コンクリートなどの、突き出した丈夫そうなものの上には降りないが、強度がなさそうなものであれば、そこに立木があろうとお構いなしだ。その足は高さを自動調整するらしく、幅が3mほどもある扉の中は水平のようだ。扉の両側には、ドク人が2人ずつ銃を構えて警備兵として立っている。

 無論、街の中なので、人々は何をしているのかと見ているが、警備兵はまったくお構いなしだ。やがて、現地の警官が通報によってやって来るが、総督府からの通告で行政側は政府から手出し無用を言われているので、警官も見守るのみである。やがて、そこに男女がやって来るが、彼らは年のころ10代後半から30代後半までの健康そうなもの達であり、皆何かにとりつかれているように、わき目もせずにひたすら速足でやってくる。

 彼らに声をかける人も多いが、全く反応せずにやってくるや、ドアの前に立つと、両開きのドアの片方が開く。数分後に再度現れるが、出てきたときはドグ人と同様な制服めいた伸縮性の良い服を着ているが、さらに首に巻いた帯すなわち首輪をつけている。

 その、首輪はその色が、肌の色に自動的に似せて変わるらしく、あまり目立たないが柔軟性があって、それなりに厚みもあり、何の材質かはわからない。出てきた男女は、やはり話しかけても一切答えず、どこか目的地があるように早足で歩いていく。

 れらの人々は、サカン2型で服を着せ替えられ、さらに首輪をされてからほど近いところに着陸したサカン1型に行き、それに乗り込んでいるのだ。すなわち、魔力が強いということで選ばれたサーダルタ人が、魔力の増幅装置を使って、念波で若い健康かつ強健な男女を選択的に選び、自分がいるサカン2号まで来るように強制しているのだ。

 呼び寄せるまでは、そのサーダルタ人は多大な魔力を使う必要があるが、隷属の首輪をさせればもはや強制は楽である。こうした、サカン2号のノルマは千人であり、サカン1号にその人数を乗り込ますことができれば、その日のミッションは終了である。
 サカン1号は、欧州各地に作られた、高さ5mほどもある塀に囲まれた10ヵ所の駐屯地の一つの降り、上記のように収容していた奴隷兵をそこに下ろす。

 この駐屯地は、土地の所有権、家の存在などお構いなしに、できるだけ平坦な土地を勝手に整地して締め固めて、順次建設する数万人の兵士が暮らせる兵舎と、管理するサーダルタ人やドク人の宿舎と事務所棟を建てたものだ。大きさは大体5k㎥で、周囲は先述の塀に囲まれており、中から出るのも外から入るのも容易ではない。

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