帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第14章 異世界との交流が始まった地球文明

14.10 ハヤト、ミモザラ共和国に乗り込む

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 ハヤトは、ミモザラ共和国の首都ミモザの街路を歩いている。共に歩いているのはヤフワ・ジェジャートの巨体である。上空には、母艦“むさし”が滞空しており、“しでん”50機が舞っている。

 それに対して、ミモザラ軍のジョット戦闘機が襲い掛かろうとしているが、“むさし”から3㎞以内に近づくものはレールガンで的確に撃ち落とされている。さらには、これら戦闘機は“しでん”には全くその機動に追いついていかず、これまた自由に射撃体勢を取られて次々に撃ち落とされている。

 結果、人口300万人に及ぶミモザ市内にはあちこちに撃ち落されて墜落した戦闘機による火災が起きているが、大部分が市の中心部のノメラ人居住区である。その騒ぎのために、迷彩戦闘服を着て、各々刀を背にして、電磁銃をぶら下げて街を歩いている、ハヤトとジェジャートには、余り注意を払う者はいなかった。

 ハヤトとジェジャートが、このように敵の首都を堂々と歩いているのは、一つには戦いたがっているジェジャートの欲求不満を解消するためである。もう一つの理由は、ハヤト自身としてもマナが濃く、ほぼ自分の魔法が十全に使えるジムカクという世界に来て、ハヤト自身が思いっきり戦ってみたかったという点もある。

 ジェジャートは身体強化については非常に強力に使えるが、いわゆる魔法は使えない。また直卒隊の、影山中尉以下は魔法を使えるが実用レベルの攻撃魔法は十分ではない。ハヤトとしては、敵が魔法を使えても一人や二人は守って戦えるが、影山他の5人の面倒までは見切れない。だから、ジェジャートのみを連れて来たのだ。

 とは言え、無論ただ暴れるために来たわけでなく、共和国の首都ミモザの大統領宮殿に乗り込んで、独裁者として大統領という職名にある、カザイール・ダマラ・ミザムを締め上げに来たのだ。捕虜にしたノメラからの情報によると、このミザムはノメラの中でも最も強者であり、毎年(ジムカクの惑星が公転する約1.5年)開かれる武道会で勝ち抜いたものであるらしい。

 とは言え、現職の大統領は最後の勝ち抜きの8人の段階で出場するらしい。それを聞いて、ハヤトはラーナラ世界の魔王を思い出したが、考えて見れは戦闘能力に至上の価値を置いて、他種族に残虐で脳筋と言うあたりはノメラというのは魔族に似ている。

 ただ、ノメラの魔力は魔族ほどのことはなく、精々ラーナラの人族のトップ級程度のようで、ハヤトにはまず敵わないだろう。これは、サーダルタ帝国人には明らかに敵わなかったようだから、その魔法のレベルはまず違っていないだろう。

 しかし、その身体能力は身体強化しない状態でも、日ごろの訓練もあってか相当に高いようだ。だから、刃物を持っての戦いを好むようで、とりわけその被征服民を扱うときには刀、槍のような刃物にボウガンを多用するとのことだ。これは、多分火薬が魔力によって爆発されるという、長い歴史があってことも一因だろうと言われている。

 ジェジャートはこのことを聞いて、是非とハヤトに懇願したのだが、ハヤトもジェジャートの気持ちが良く解かるのでそれを許した。半面、影山以下の5名の隊員には、魔法による補助が出来ないということで、現地にはハヤトとジェジャートのみで乗り込みむね伝えている。

 無論影山も、ジムカク派遣軍の司令官の三村も強く反対した。それは、地球にとって唯一の才能を持つハヤトが万が一のことがあっては、という理由である。決して、影山は置いて行かれるのが悔しかったわけでない。大体自衛隊出身の影山以下の5人は、ジェジャートのようにバトルジャンキーではないので、安全な方が嬉しいのだ。

 ただ、三村大将(仮)の権限ではハヤトの行動を拘束するには十分ではなかった。大都市ミモザに、彼の専用機に当てられている“らいでん”改から空間転移で降り立ったハヤトは、ラーナラから持ち帰った“微塵”、ジェジャートは刀匠宗田から譲られた“鬼切り”を持ってきている。

 ちなみに、微塵は、かなり湾曲していて一見日本刀に似ているが剣先が諸刃になっている点がことなる。これは、厚みの丈夫な刀だが、その上に使っているときにはハヤトが魔力で強化しており、仮に岩石に切りつけても傷がつかない。

 鬼切りは刃渡り1m余、身の丈50mm厚みが7mmを超える丈夫かつ切れ味の鋭い同田貫であり、元々宗田刀匠の習作として作られたもので売るつもりはなかったものだ。これは、普通の人には到底振りまわせないが、身長210cm体重140kgのジェジャートは身体強化なしでもそれを軽々と振り回す。

 宮殿に向かう中央分離帯があって幅の広い片側2車線の道路には、普通は多くの車が行きかっているのだろうが、今は交通制限がかけられて、行きかう車もまばらだ。しかし、流石にハヤトとジェジャートは目立ったのだろう。
 やがて、彼らの前で武骨な乗用車が止まり、中から制服を着て、棒のようなものを持っている3人が下りて、歩道を歩いているハヤトたちに何やら叫びながら近づいてくる。翻訳機からは「止まれ!」と翻訳されている。

 しかし、ハヤトとジェジャートは、まず殺すことで怯えさせて人質を取るような連中に対して、穏やかに済ませるつもりがない。しかも相手は明らかに権力側の官憲である。身体強化をかけたジェジャートが、鬼切りを抜きつつ目にも止まらない縮地を見せて、先頭の2人の制服の若い逞しい男女の心臓を、その幅広厚手の刀身でズド!ズド!刺し貫く。

 硬直するその2人のそばをすり抜けたジェジャートは、引き抜いた刀身を返しながら2歩ほど遅れている上司らしき男の首を半分ほど切り裂く。刺された2人の胸からはビューという勢いで血が噴き出し、喉を半分切り裂かれた男もバックり開いた喉から血が噴き出すが、すでにジェジャートは通り過ぎている。

 その時点ではハヤトは、運転席に駆け寄り、座って事態を理解できていない女の首を掴み、その喉の握り潰しながら外に放り出す。すぐさま、ジェジャートが助手席に乗り込み、ハヤトはクラッチとアクセルを少し試して、ザラムム帝国の車と仕組みが一緒であることを確かめて、宮殿の通用門に向けて急加速する。いま走っているのは宮殿に塀に沿って道であり、1㎞ほど直進して左に曲がったところに通用門があるはずだ。

 無論、通用門が開いている訳はない思っていたが、実際に角を曲がって門のところに行くと、門は開いていて丁度一台の車が通過するところだ。ハヤトは、その車の横の開いた門の間の、かろうじてハヤトたちの車が通れるかどうかスペースを目掛けて更に加速する。、

 突進してくる車に気づいて、通過する車のそばにいた警備兵らしきものが慌てて銃を構えようとするが、ハヤトがその銃を上に向けたので、それは空しく空に向かって撃たれる。ドカン!、バリバリという音を立てて、ハヤトたちの車はゆっくりと門を通過しつつある車と門扉に打ち当たりながら無理やりに通過する。

 車の横腹にガリガリとぶち当てられた、後部座席の2人の着飾った女性が目を見開いて驚き、運転席の男が怯えた顔をしている。門内には5人の兵が、小銃を構えて今にも運転席のハヤト目掛けて打ち込もうとしているが、ハヤトはとっさに巨大な風の刃を発する。

 目にも見えるほど具現化した風の刃は、まとめて5人の制服の兵士の銃を目掛けてブオンと走る。その風の刃は、広がりが大きく圧縮が十分ではないため、銃は無論人体を切断するほどの強度はないが、銃を持った腕をしびれさせ、5人の人体を吹き飛ばすには十分な力があった。ハヤトの運転する車の前方には、建物に向かってさらに300mほどの石畳の道路があり両側にはうっそうとした木々が立ち並んでいる。

 ハヤトはお構いなしに、アクセルを一杯に踏み込む、車はスリップしながらもどんどん加速する。助手席では、「ひゃあ!」とはしゃぎながらジェジャートが、ニコニコしている。彼は本当にこのような荒事が好きなのだ。前方の建物の玄関前は、数段の階段があり槍と刀を持った衛兵が左右2人ずつ立って、すでに槍を持って身構えている。

 ハヤトが建物の内部を探査して見ているが、建物内では銃を持っている者はいないようだ。権力者は、刃物に対しては自らを守ることに自信があるのだろうが、銃についてはおかしな者がいると自分を守り切れないことから、建物内の銃の所持を規制しているのだろう。

「ジェジャート、建物内には銃を持っている者はいないぞ」
「おお、それは都合がいいな。好きなように暴れられるぞ」
「ああ、大統領のみは生かすが、他はやってしまえ、行くぞ階段に突っ込む!」

 ハヤトは叫び、3段の階段に時速80kmほどのスピードで突っ込む。ガツーンというショックがあって、タイヤがバーストして車が1m以上跳ね上がり、正面のガラスのはまった巨大なドアに突っ込む。流石に警備兵は槍を車に突き込むが、体は突進してくる車から逃げてのことだから、槍はあっという間に兵の手からもぎ取られる。

 槍の当たった、ゴチンという音、さらにガチャーン、バリバリ、ギリギリギリと盛大な音がして、車は大きな玄関の間に突っ込んで、正面の壁にぶち当たり、ドーンという音と建物全体を揺らして止まった。ハヤトは、自分とジェジャートの体を風のクッションで包んで保護していたので、時速60km以上の速度で壁にぶち当たっても、ショックはあっても柔らかく受け止められた。

「燃えるぞ、急げ!」
 ハヤトが叫ぶののを合図に、ハヤトとジェジャートはドアを蹴り開けて、外に飛び出す。その勢いで階段を駆け上がる彼らの背後で、エンジンルームからボン!と焔が発し、数秒後、ドーンという鈍い轟音と共に燃料タンクが爆発する。

 しかしその時には、ハヤトとジェジャートは階段の途中にいて、彼らを遮ろうとした男女を刺殺または首筋を切り払って足を止めることなく、すでに2階の1階を見下ろせる踊り場に達していた。下の大きなホールは、爆発によってばらばらに車の煙を上げる部品が飛び散り、壁際には車の残骸が大きな焔を上げている。

「奴は4階だ。面倒だから、跳ぶぞ!」
 ハヤトがジェジャートを見て言うと、黒い巨人は白い歯を見せて応じる。
「おお、いつでもいいぜ!」

 その時、カザイール・ダマラ・ミザムは、大統領執務室に隣接する会議室でザラムム帝国侵攻失敗の善後策を協議していた。彼は、寿命が平均100年のノメラ人の、最も脂の乗って働き盛りという年齢帯の55歳であり、身長は190cmで細身だがみっしり肉のついた逞しい体である。

 大統領は、45歳以上で、ノメラの武闘会において上位8位に入るほかに、知性を試す、知識試験において上位100位以内の者の希望者から選挙で選ばれる。だから、当然において心身ともにノメラの中でも最も強靭でないと、大統領の選挙に立候補もできないことになる。

 また、武闘会の8位以内の女性による突破者はおらず、このため女性大統領は出現していない。しかし、ノメラ社会では女性も基本的に差別なく活躍していることから、大統領が指名する副大統領は慣習的に女性が選ばれている
bその会議は、当初はザラムム帝国への侵略の失敗と、軍基地の空襲によって壊滅した件について話し合われる予定であった。

 だが、朝からの首都上空へのむさしの出現及び、市内上空を飛び回って戦闘機を撃ち落としている、“しでん”について深刻な顔で話会われている。女性副大統領のミーマラム・サシラムが、軍務大臣を詰問している。

「今回のザラムム帝国の侵攻作戦は穴が多いものでしたが、私どもも認めたとは言え、軍の強引な働きかけがあってのことです。その結果、侵攻は完全な失敗、我が国の最大の基地のミモザ基地の壊滅、100年の時をかけた潜水艦隊の壊滅です。
 しかも、今日はザラムム帝国と明らかに共闘している地球からの大型艦や、戦闘機が我が物顔で飛び回っています。状況を判断する限り、あの侵攻作戦が我が国の亡国を招きつつあると思うのですが、軍としてはどうこれに対処するつもりかお答えいただきたい」

 これに対して、横幅が副大統領の2倍ほどもある軍務大臣のセドア・カツライが答える。
「確かに、今回の侵攻が失敗であったことは認めざるをえません。しかし、この侵攻作戦は我々の計画をこの最高会議にかけて承認頂いてのものであります。とは言え、無論責任者たる私はこの敗戦の後始末の後に職を引かせて頂きますし、罪に問われることも覚悟しております」

 彼は、一旦言葉を切って出席者を見渡し言葉を続ける。
「今となっては、遅いことになりますが、今回の失敗はあの地球というサラムム帝国の同盟者がサーダルタ帝国以上の技術と戦力を………」

 軍務大臣は、更に言葉を続けようとしたが、その時に共和国の重鎮12人とその秘書・事務方合計25人が座っている巨大かつ重厚な机の上に、血の滴る刃物を持った2人の男が突然現れた。室内の人々は、2人の出現による圧力の増大を感じながら、ぎょっとして、その黒髪の男と黒い肌の巨人を見つめる。

 彼らの目はテーブルの端のひと際豪華な椅子に座る大統領と、その横に座っている副大統領と、その2人おいて立ってしゃべっていた軍務大臣に向けられている。
 しかし、さすがに武の国ではあり、黒い巨人のそばにいた内務大臣が自分の腰から短刀を抜こうとした。しかし、ジェジャートは気配で振り向き、無造作にその首筋を切り放つ。その細身のノメラは喉から血を跳び散らして、声も出せずに倒れ伏す。

 飛び散る血にもめげず、部屋の者の抵抗は尚も続く。一斉に彼らは、席から立ち、自分の持つ刀あるいは短刀を抜き、ハヤトまたはジェジャートに切りかかろうとしたが、大統領周辺のメンバーについては、ハヤトが念動力で押さえこみ、その他はジェジャートが踊るように鬼切りを振るい、次々に首を切り放つかつ頭蓋を割っていく。

 僅か数秒後には、部屋には濃密な血の匂いが立ち込め、ハヤトの念動力に身動きができない10人余りがハヤトと返り血を浴びたジェジャートをにらみつける。流石におびえた様子を見せないのは、ノメラのエリート連中あればこそである。

「さて、これがザラムム帝国に攻め込み、罪のない人々を只脅すためのみのために多数殺し、かつ多くを人質にとった君たち政府へのわが地球からの返礼だ」
 ハヤトはニッコリ笑ってそう言った。
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