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第15章 変わってしまった地球世界
15.8 隣国の情勢5
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アメリカ政府は情勢を見ていたが、K国軍の引き上げが判った時点で声明を出した。
「アメリカ合衆国は、我が国が売却した戦闘機を用いて朝鮮共和国を侵略したことを強く非難します。そして、その侵略行動によって命を失われた兵の方々に哀惜の情を禁じえません。しかしながら、地球連盟総裁アラン・ジスカール氏の我が国への非難は明らかに不当であり、我が国政府への偏見に満ちたものであります。
確かに、我が国が友好国のK国へ、かの国から長く要請のあったスターダスト重力エンジン戦闘機を販売したことは事実であり、それらが今回の侵略に使われたことは事実であります。しかし、その販売は東アジアの状況、K国の世界的での経済的地位からしてふさわしいものであります。
また、K国は日本発の数々のAE発電、重力エンジンなどの新開発技術から事実上の技術封鎖にあっており、そのためにその経済も長く停滞を続けております。これは甚だ不公平な差別でありまして、我が国がK国に対してその是正を目指してテコ入れをした面もあります。
しかし、その結果が今回のような我々が提供した機材を用いた侵略に繋がるとは思いもしませんでした。その意味で、我が国はK国に対して我が国の信頼を裏切ったことを強く非難します」
結局、アメリカ合衆国政府は責任逃れに走ったわけであるが、確かにその時点では世界の世論は明らかにK国とアメリカへの非難で固まっていた。その点はアメリカ国内の殆どのメディアも同様で、K国の行為は明らかに侵略と呼んで反対意見はないし、K国に多数の戦闘機を売った自国政府の行動を“愚行”として非難している。
一方でK国では、侵攻してすぐに引きあげた軍と政府を世論は強く非難している。これは主として2つの意見がある。その6割近くを占めるのが、朝鮮共和国から地球同盟の宣言のみで引き上げた行為を弱腰として非難している情勢が読めない者で、2割足らずが朝鮮共和国に攻め込んだ行為自体が愚行として行動全体を非難する者で少しは状況というものが判っている者達であった。
この後始末は、いささか面倒であった。地球同盟は、K国の行動が同盟憲章のひとつである武力侵攻の禁止の違反に当たるものとして、K国政府及びその責任者を罰する必要があるが、現状のところ明文化された罰則規定がないのだ。また、K国軍が地球同盟軍の治安出動に先んじて引き上げたために、軍事行動を取れなくなったという問題もあった。
地球連盟軍は、正午に編成した“しでん”500機、“らいでん”10機、“ありかけ”型母艦2隻を発表通り出動させた。無論、地球同盟軍はその出動の前にK国政府に対して、以下の宣言をしている。これは、岩国基地で記者会見を開いてメディアの前に岩国基地における地球同盟の文官の最高位であるアレック・ジョンソンが発表したものだ。
「K国軍は政府の指導の下で、朝鮮共和国に軍事侵攻して施設の破壊と人員の殺傷を行った。この行動を地球連盟は、憲章〇〇条に規定する軍事侵略の禁止の違反に当たると判断した。従って、地球連盟はこれに対して治安出動を実施する。
地球同盟は本日正午、“しでん”戦闘機、“らいでん”攻撃機及び“ありあけ”型母艦からなる部隊を岩国基地から進発させて朝鮮半島を制圧する。これに抵抗するものは武力を持って排除する旨を宣言する」
これに対して記者から質問が出た。
「治安出動と言われるが、K国軍は滞空していた戦闘機を自国に引き上げさせ、かつ朝鮮共和国共和国の大統領府から人員を引き上げさせようとしているという情報が入っている。そこにおいて治安出動が必要なのでしょうか?」
これに対してジョンソンが答える。
「確かにそういう情報はある。しかし、まず一国が他国に侵攻し、その施設を攻撃しさらに大統領府を占領している。また、侵攻側がその不当さを認めるどころか、首相という要職にあるものが侵攻された側の併合を宣言している。であるから、地球同盟としては十分な戦力を送り込んで、朝鮮半島をわが地球同盟の制圧下におき今後の戦闘行為を実力によって停止させる必要がある。
さらに、多くの死傷者が出た今回の軍事侵攻に関して、調査を行って詳しい経緯、責任の所在等を調べるためにもそのような制圧は必要だ。またこれは、制空権を確保して、朝鮮共和国の大統領府と攻撃された基地、さらには攻撃に進発した基地の調査に必要である」
しかし、これにもK国の記者による反論がある。
「しかし、地球同盟が独立国の独立を犯す権利はないはずだ!」
「今回の出動は、その独立国が他国の独立を奪おうとする地球同盟憲章中の罪を犯した結果であり、当然暫定的に状況を我々が支配することは認められている。決して独立を犯そうというものではない」
ジョンソンの答えにそれ以上の追及はなかった。
しかし、やはり丁度同じ時刻にK国政府の立場を特別放送をしていた、スタジオでその生放送を見ていたK国政府の高官から直ちに反論がある。
「K国大統領補佐官のオウ・キジュオンです。先ほどの地球同盟のジョンソン担当官の岩国基地からの発言は看過できないので反論する。わがK国はすでに首相から説明があったように正当な理由のもとに、今回の行動を行ったものだ。
しかしながら、地球同盟はそれを侵略と言い張り、治安出動の名のもとに、その武力で我が部隊を攻撃するという宣言をした。それで、我が国は武力をもって戦うことはお互いに死傷者も出ることから、それを避ける意味で、KT国の上空のわが戦闘機と大統領府の地乗員及び政府巣スタッフなどを引き挙げさせている。
その状態を知りつつ、なおも戦闘部隊で朝鮮半島を制圧しようという行動は明らかに越権行為である。我々も地球同盟のオブザーバーの立場で強く抗議したい」
そう言うオウの言葉は言葉は、生放送中のジョンソンにスタッフが映像を見せることで知らせる。これに対して、ジョンソンは更に反論することになる。期せずして違う番組の生放送の出演者同士のやりとりになった。
「地球同盟の憲章に反する国家による犯罪があり、その犯罪は自らも認めているようにK国政府によることが確定している。そして、その国家はその罪そのものを認めていないし、一旦その場から退いたとしてもいつでも侵略を再開できる体制にある。
我々地球同盟は、その侵略行為をとどめる責任があり行われた犯罪に対して適切罰する必要がある。地球同盟がその紛争の地域を制圧することは当然のことである。そうではないかね?」
「い、いや。だから、我が国の正当性については後程争うが、我々は戦闘を避けようとして、KT国に派遣していた軍を自国内に帰らせたのだ。それに対して、軍を送り込むというのはまさに侵略行為だ」
オウの言葉にジョンソンが応じる。
「我々は地球同盟だ。我々が特定の国や地域を征服するなどの事はあり得ない。また、わが軍が攻撃してこない者に対して攻撃することもまたあり得ない。だから、わが軍が上空に滞空することで朝鮮半島を制圧することによって空中または地上の争いを実力で禁じるのだが、それの何の不都合があるかね。
いずれにせよ、わが軍はすでに基地を飛び立ちつつある。まあ、1時間以内には朝鮮半島上に占位する。敵対行動は慎むようにK国軍によく通達して欲しい。攻撃するものには容赦はしない。以上だ」
ジョンソンはそれで話を打ち切ったが、彼の言葉通り岩国基地からは“しでん”と“らいでん”それに母艦が次々に飛び立ち上昇する。500機の“しでん”戦闘機の上昇は、2機ずつ並んで前後に4機で8機の編隊が次々に鉛直に1Gで100m、それから5G で30度の角度を持って上昇する。
約4分で秒速1㎞、時速3600kmに達してからは等速航行である。大気との摩擦を最小化するために、基本的に地上100kmまで上昇して朝鮮半島に向かう。朝鮮上空では高度100kmに留まり定点に静止する。こうして500機の“しでん”は朝鮮半島上空にびっしり張り付いた状況になった。
これはK国が配備しているNN5C地対空ミサイルの射程内ではあるが、10Gの加速が出来るしでん戦闘機は無論、5Gの母艦ですらその加速で躱される。だから、実質的にしでんを攻撃できるK国側の兵器は同じ重力エンジン機であり、ほぼ同じ性能である閃光しかない。
一方で、K国側の閃光の稼働機は、200機配備されたものが朝鮮共和国軍に撃墜されたもの、整備不良があって、すでに170機になっている。この170機全機で挑んでも、K国側は恐らく全滅し、地球同盟側は5機以内の損害に留まるだろうと地球同盟軍では判断している。
これは、10秒に1発しか撃てない各機2基のレールガンという条件、さらに電子制御においてすでにアメリカを凌いでいる日本が作った“しでん”の方が遠距離の射撃精度に大幅な優位性があるためである。K国軍の太田基地ではパイロットが切歯扼腕していた。
「畜生、我が国の上空を我が物顔で占拠しやがって。隊長、迎撃してはいけないのでしょうか?」
若いパイロットが部隊長のバク・チョンサ少佐に訴えるように言と、それに対してパクは薄く笑って言う。
「お前は死にたいのか?」
「ええ?隊長!確かに我々は数において不利ですよ。しかし、闘志と腕では負けません。私は生き残りますよ!」
「無理だな。位置で、機材で、そして腕で負けている。お前が勝てる可能性は1%もない」
パクは若い部下を窘め、辺りに集まっている隊員にすこし声を高めて言う。
「地球同盟は100kmの高度にとどまっている。100kmと言えば亜宇宙だ。対してこちらが攻撃する場合には、こちらは上昇、相手は下降になる。重力エンジン機といえども当然、重力が味方する相手が有利だ。また、我々の閃光、アメリカのスターダストと“しでん”は同じ性能と言われているがそれは違う。
とりわけ遠距離の射撃においては、“しでん”の方の射撃精度が大幅に優れているようだ。これは、アメリカを通じて流れた来たマダンの戦闘記録からも伺える。大体お前らは、その高度に一度訓練で登っただけだが、相手は亜宇宙からの攻撃は十分訓練している。
しかも、お前らはF15K、F16にはそこそこ乗っているが重力エンジン機の閃光の訓練を始めてまだ3ヶ月だ。対して、岩国基地の同盟軍のパイロットは少なくとも半年以上、半数以上はサーダルタ戦役からのベテランだ。確かに重力エンジン機はジェット戦闘機に比べると操縦は容易だが、敵は重力エンジン機のもつ様々な特徴を戦闘に使える。
だが、お前らはまだそこまでいっていない。これだけでも、腕で勝るとはとても言えない。
今回敵対しないのは我々にはラッキーなことだ。まず全力出撃して相手がその気だったら我々は間違いなく全滅する。一方で相手は10機も撃墜できないだろうよ。お前らが政府の愚行に付き合って命を失うことはない」
明らかに自分たちよりずっと優れたパイロットのパクに諭されて、まだ未熟な若者たちはしゅんとしてしまう。
「隊長、地球同盟といってもパイロットはチョッパリが殆どですが、そんなに差がありますかね?」
「ああ、我々は重力エンジン機の導入は5年以上遅れており、それも3ヶ月前にようやく入ったばかりだ。さらに、その主兵器のレールガンもミサイル機銃とは運用は大いに異なる。しかし、悲観することはない。数年中には今各国でもっている軍は解体されて、対外的な地球同盟軍と、その地方部隊になる。わが軍も無くなるが、日本の自衛隊も無くなる」
このように朝鮮半島の上空を制圧したのち、地球同盟軍の監察隊が朝鮮共和国の大統領府と、K国の大統領府に降り立った。朝鮮共和国の大統領府ではすでにK国軍は引きあげており、すでにリ共和国大統領は首相とともに復帰していた。従って、こちらは戦闘の現場検証と、関係者の聞き取りをして報告書を作ったら終わりである。
一方でK国については、政府に対して地球同盟の本部からの調査への協力命令を発しており、K国政府からは当面それには確たる返事はしなかった。しかし、監察隊を乗せた3機の輸送機が100機のしでん戦闘機に沿われて降下し、その地上から見える上空には、3機のらいでん攻撃機と2隻の母艦が滞空している状況では、K国政府も逆らいようがなかった。
そして、陸戦隊50名に護衛された監察隊が大統領府に入り、逃げ出していた大統領のハク・チェムジを呼び戻し、捜査に協力をすることを誓約させた。それから、大統領府からの軍部への無抵抗の命令を確認して、太田基地他4カ所の閃光を配備している基地への監察に入っている。
1週間の集中的な調査の結果、告訴されたのは個人としては、ハク大統領、ムン首相の他大統領補佐官3人、国会議員8人、高級軍人8人であった。彼らの裁判は、人工知能の助けを借りても1年以上を有したが、国会議員の1名、軍人の2名が無罪になったものの他は、大統領・首相を含めて有罪になり有罪の時点で失職した。
さらに、K国政府に対しても、朝鮮共和国への死傷者及び、機材・施設損失のへの賠償金及び、地球連盟関係の様々な便宜の有期の停止または延期であった。主要な措置の具体例は、地球連盟の正式加盟の時期が3年伸びることになった。
アメリカのホワイトハウスでは、メジェル大統領は苛ただしげに補佐官のドノパン、国防長官のレガシー、新しい国務長官のファーウラーと話している。
「結局、狙い通りK国は動いたが日本には何の痛手にもならなかったな。なにか直接日本に仕掛けてくれればよかったのに……」
メジェルの言葉に国防長官が応じる。
「大統領閣下、K国が日本に直接手を出すわけにいかないでしょう。結局現在の主要戦力は重力エンジン機ですからね。戦力差が大きすぎます」
「しかし、核まで与えたのに、せめて脅し程度には使えないのか!」
「いや、核は脅しに使うのは無法者国家という宣言に等しいでしょう。その場合、万が一のことがあれば与えた我が国もただではすみませんよ。さしずめ与えるように命じた者は無期懲役ですな」
国務長官が言うが大統領は尚も言う。
「うーむ、調子に乗っているジャップどもをやり込める方法がないものか。大体があのハヤトという奴が、こうなった元凶だ。奴は調子に乗ってサーダルタ帝国に行っておるが、暗殺でもされれば良いのだ!」
この言葉に室内の者は苦笑している。
「アメリカ合衆国は、我が国が売却した戦闘機を用いて朝鮮共和国を侵略したことを強く非難します。そして、その侵略行動によって命を失われた兵の方々に哀惜の情を禁じえません。しかしながら、地球連盟総裁アラン・ジスカール氏の我が国への非難は明らかに不当であり、我が国政府への偏見に満ちたものであります。
確かに、我が国が友好国のK国へ、かの国から長く要請のあったスターダスト重力エンジン戦闘機を販売したことは事実であり、それらが今回の侵略に使われたことは事実であります。しかし、その販売は東アジアの状況、K国の世界的での経済的地位からしてふさわしいものであります。
また、K国は日本発の数々のAE発電、重力エンジンなどの新開発技術から事実上の技術封鎖にあっており、そのためにその経済も長く停滞を続けております。これは甚だ不公平な差別でありまして、我が国がK国に対してその是正を目指してテコ入れをした面もあります。
しかし、その結果が今回のような我々が提供した機材を用いた侵略に繋がるとは思いもしませんでした。その意味で、我が国はK国に対して我が国の信頼を裏切ったことを強く非難します」
結局、アメリカ合衆国政府は責任逃れに走ったわけであるが、確かにその時点では世界の世論は明らかにK国とアメリカへの非難で固まっていた。その点はアメリカ国内の殆どのメディアも同様で、K国の行為は明らかに侵略と呼んで反対意見はないし、K国に多数の戦闘機を売った自国政府の行動を“愚行”として非難している。
一方でK国では、侵攻してすぐに引きあげた軍と政府を世論は強く非難している。これは主として2つの意見がある。その6割近くを占めるのが、朝鮮共和国から地球同盟の宣言のみで引き上げた行為を弱腰として非難している情勢が読めない者で、2割足らずが朝鮮共和国に攻め込んだ行為自体が愚行として行動全体を非難する者で少しは状況というものが判っている者達であった。
この後始末は、いささか面倒であった。地球同盟は、K国の行動が同盟憲章のひとつである武力侵攻の禁止の違反に当たるものとして、K国政府及びその責任者を罰する必要があるが、現状のところ明文化された罰則規定がないのだ。また、K国軍が地球同盟軍の治安出動に先んじて引き上げたために、軍事行動を取れなくなったという問題もあった。
地球連盟軍は、正午に編成した“しでん”500機、“らいでん”10機、“ありかけ”型母艦2隻を発表通り出動させた。無論、地球同盟軍はその出動の前にK国政府に対して、以下の宣言をしている。これは、岩国基地で記者会見を開いてメディアの前に岩国基地における地球同盟の文官の最高位であるアレック・ジョンソンが発表したものだ。
「K国軍は政府の指導の下で、朝鮮共和国に軍事侵攻して施設の破壊と人員の殺傷を行った。この行動を地球連盟は、憲章〇〇条に規定する軍事侵略の禁止の違反に当たると判断した。従って、地球連盟はこれに対して治安出動を実施する。
地球同盟は本日正午、“しでん”戦闘機、“らいでん”攻撃機及び“ありあけ”型母艦からなる部隊を岩国基地から進発させて朝鮮半島を制圧する。これに抵抗するものは武力を持って排除する旨を宣言する」
これに対して記者から質問が出た。
「治安出動と言われるが、K国軍は滞空していた戦闘機を自国に引き上げさせ、かつ朝鮮共和国共和国の大統領府から人員を引き上げさせようとしているという情報が入っている。そこにおいて治安出動が必要なのでしょうか?」
これに対してジョンソンが答える。
「確かにそういう情報はある。しかし、まず一国が他国に侵攻し、その施設を攻撃しさらに大統領府を占領している。また、侵攻側がその不当さを認めるどころか、首相という要職にあるものが侵攻された側の併合を宣言している。であるから、地球同盟としては十分な戦力を送り込んで、朝鮮半島をわが地球同盟の制圧下におき今後の戦闘行為を実力によって停止させる必要がある。
さらに、多くの死傷者が出た今回の軍事侵攻に関して、調査を行って詳しい経緯、責任の所在等を調べるためにもそのような制圧は必要だ。またこれは、制空権を確保して、朝鮮共和国の大統領府と攻撃された基地、さらには攻撃に進発した基地の調査に必要である」
しかし、これにもK国の記者による反論がある。
「しかし、地球同盟が独立国の独立を犯す権利はないはずだ!」
「今回の出動は、その独立国が他国の独立を奪おうとする地球同盟憲章中の罪を犯した結果であり、当然暫定的に状況を我々が支配することは認められている。決して独立を犯そうというものではない」
ジョンソンの答えにそれ以上の追及はなかった。
しかし、やはり丁度同じ時刻にK国政府の立場を特別放送をしていた、スタジオでその生放送を見ていたK国政府の高官から直ちに反論がある。
「K国大統領補佐官のオウ・キジュオンです。先ほどの地球同盟のジョンソン担当官の岩国基地からの発言は看過できないので反論する。わがK国はすでに首相から説明があったように正当な理由のもとに、今回の行動を行ったものだ。
しかしながら、地球同盟はそれを侵略と言い張り、治安出動の名のもとに、その武力で我が部隊を攻撃するという宣言をした。それで、我が国は武力をもって戦うことはお互いに死傷者も出ることから、それを避ける意味で、KT国の上空のわが戦闘機と大統領府の地乗員及び政府巣スタッフなどを引き挙げさせている。
その状態を知りつつ、なおも戦闘部隊で朝鮮半島を制圧しようという行動は明らかに越権行為である。我々も地球同盟のオブザーバーの立場で強く抗議したい」
そう言うオウの言葉は言葉は、生放送中のジョンソンにスタッフが映像を見せることで知らせる。これに対して、ジョンソンは更に反論することになる。期せずして違う番組の生放送の出演者同士のやりとりになった。
「地球同盟の憲章に反する国家による犯罪があり、その犯罪は自らも認めているようにK国政府によることが確定している。そして、その国家はその罪そのものを認めていないし、一旦その場から退いたとしてもいつでも侵略を再開できる体制にある。
我々地球同盟は、その侵略行為をとどめる責任があり行われた犯罪に対して適切罰する必要がある。地球同盟がその紛争の地域を制圧することは当然のことである。そうではないかね?」
「い、いや。だから、我が国の正当性については後程争うが、我々は戦闘を避けようとして、KT国に派遣していた軍を自国内に帰らせたのだ。それに対して、軍を送り込むというのはまさに侵略行為だ」
オウの言葉にジョンソンが応じる。
「我々は地球同盟だ。我々が特定の国や地域を征服するなどの事はあり得ない。また、わが軍が攻撃してこない者に対して攻撃することもまたあり得ない。だから、わが軍が上空に滞空することで朝鮮半島を制圧することによって空中または地上の争いを実力で禁じるのだが、それの何の不都合があるかね。
いずれにせよ、わが軍はすでに基地を飛び立ちつつある。まあ、1時間以内には朝鮮半島上に占位する。敵対行動は慎むようにK国軍によく通達して欲しい。攻撃するものには容赦はしない。以上だ」
ジョンソンはそれで話を打ち切ったが、彼の言葉通り岩国基地からは“しでん”と“らいでん”それに母艦が次々に飛び立ち上昇する。500機の“しでん”戦闘機の上昇は、2機ずつ並んで前後に4機で8機の編隊が次々に鉛直に1Gで100m、それから5G で30度の角度を持って上昇する。
約4分で秒速1㎞、時速3600kmに達してからは等速航行である。大気との摩擦を最小化するために、基本的に地上100kmまで上昇して朝鮮半島に向かう。朝鮮上空では高度100kmに留まり定点に静止する。こうして500機の“しでん”は朝鮮半島上空にびっしり張り付いた状況になった。
これはK国が配備しているNN5C地対空ミサイルの射程内ではあるが、10Gの加速が出来るしでん戦闘機は無論、5Gの母艦ですらその加速で躱される。だから、実質的にしでんを攻撃できるK国側の兵器は同じ重力エンジン機であり、ほぼ同じ性能である閃光しかない。
一方で、K国側の閃光の稼働機は、200機配備されたものが朝鮮共和国軍に撃墜されたもの、整備不良があって、すでに170機になっている。この170機全機で挑んでも、K国側は恐らく全滅し、地球同盟側は5機以内の損害に留まるだろうと地球同盟軍では判断している。
これは、10秒に1発しか撃てない各機2基のレールガンという条件、さらに電子制御においてすでにアメリカを凌いでいる日本が作った“しでん”の方が遠距離の射撃精度に大幅な優位性があるためである。K国軍の太田基地ではパイロットが切歯扼腕していた。
「畜生、我が国の上空を我が物顔で占拠しやがって。隊長、迎撃してはいけないのでしょうか?」
若いパイロットが部隊長のバク・チョンサ少佐に訴えるように言と、それに対してパクは薄く笑って言う。
「お前は死にたいのか?」
「ええ?隊長!確かに我々は数において不利ですよ。しかし、闘志と腕では負けません。私は生き残りますよ!」
「無理だな。位置で、機材で、そして腕で負けている。お前が勝てる可能性は1%もない」
パクは若い部下を窘め、辺りに集まっている隊員にすこし声を高めて言う。
「地球同盟は100kmの高度にとどまっている。100kmと言えば亜宇宙だ。対してこちらが攻撃する場合には、こちらは上昇、相手は下降になる。重力エンジン機といえども当然、重力が味方する相手が有利だ。また、我々の閃光、アメリカのスターダストと“しでん”は同じ性能と言われているがそれは違う。
とりわけ遠距離の射撃においては、“しでん”の方の射撃精度が大幅に優れているようだ。これは、アメリカを通じて流れた来たマダンの戦闘記録からも伺える。大体お前らは、その高度に一度訓練で登っただけだが、相手は亜宇宙からの攻撃は十分訓練している。
しかも、お前らはF15K、F16にはそこそこ乗っているが重力エンジン機の閃光の訓練を始めてまだ3ヶ月だ。対して、岩国基地の同盟軍のパイロットは少なくとも半年以上、半数以上はサーダルタ戦役からのベテランだ。確かに重力エンジン機はジェット戦闘機に比べると操縦は容易だが、敵は重力エンジン機のもつ様々な特徴を戦闘に使える。
だが、お前らはまだそこまでいっていない。これだけでも、腕で勝るとはとても言えない。
今回敵対しないのは我々にはラッキーなことだ。まず全力出撃して相手がその気だったら我々は間違いなく全滅する。一方で相手は10機も撃墜できないだろうよ。お前らが政府の愚行に付き合って命を失うことはない」
明らかに自分たちよりずっと優れたパイロットのパクに諭されて、まだ未熟な若者たちはしゅんとしてしまう。
「隊長、地球同盟といってもパイロットはチョッパリが殆どですが、そんなに差がありますかね?」
「ああ、我々は重力エンジン機の導入は5年以上遅れており、それも3ヶ月前にようやく入ったばかりだ。さらに、その主兵器のレールガンもミサイル機銃とは運用は大いに異なる。しかし、悲観することはない。数年中には今各国でもっている軍は解体されて、対外的な地球同盟軍と、その地方部隊になる。わが軍も無くなるが、日本の自衛隊も無くなる」
このように朝鮮半島の上空を制圧したのち、地球同盟軍の監察隊が朝鮮共和国の大統領府と、K国の大統領府に降り立った。朝鮮共和国の大統領府ではすでにK国軍は引きあげており、すでにリ共和国大統領は首相とともに復帰していた。従って、こちらは戦闘の現場検証と、関係者の聞き取りをして報告書を作ったら終わりである。
一方でK国については、政府に対して地球同盟の本部からの調査への協力命令を発しており、K国政府からは当面それには確たる返事はしなかった。しかし、監察隊を乗せた3機の輸送機が100機のしでん戦闘機に沿われて降下し、その地上から見える上空には、3機のらいでん攻撃機と2隻の母艦が滞空している状況では、K国政府も逆らいようがなかった。
そして、陸戦隊50名に護衛された監察隊が大統領府に入り、逃げ出していた大統領のハク・チェムジを呼び戻し、捜査に協力をすることを誓約させた。それから、大統領府からの軍部への無抵抗の命令を確認して、太田基地他4カ所の閃光を配備している基地への監察に入っている。
1週間の集中的な調査の結果、告訴されたのは個人としては、ハク大統領、ムン首相の他大統領補佐官3人、国会議員8人、高級軍人8人であった。彼らの裁判は、人工知能の助けを借りても1年以上を有したが、国会議員の1名、軍人の2名が無罪になったものの他は、大統領・首相を含めて有罪になり有罪の時点で失職した。
さらに、K国政府に対しても、朝鮮共和国への死傷者及び、機材・施設損失のへの賠償金及び、地球連盟関係の様々な便宜の有期の停止または延期であった。主要な措置の具体例は、地球連盟の正式加盟の時期が3年伸びることになった。
アメリカのホワイトハウスでは、メジェル大統領は苛ただしげに補佐官のドノパン、国防長官のレガシー、新しい国務長官のファーウラーと話している。
「結局、狙い通りK国は動いたが日本には何の痛手にもならなかったな。なにか直接日本に仕掛けてくれればよかったのに……」
メジェルの言葉に国防長官が応じる。
「大統領閣下、K国が日本に直接手を出すわけにいかないでしょう。結局現在の主要戦力は重力エンジン機ですからね。戦力差が大きすぎます」
「しかし、核まで与えたのに、せめて脅し程度には使えないのか!」
「いや、核は脅しに使うのは無法者国家という宣言に等しいでしょう。その場合、万が一のことがあれば与えた我が国もただではすみませんよ。さしずめ与えるように命じた者は無期懲役ですな」
国務長官が言うが大統領は尚も言う。
「うーむ、調子に乗っているジャップどもをやり込める方法がないものか。大体があのハヤトという奴が、こうなった元凶だ。奴は調子に乗ってサーダルタ帝国に行っておるが、暗殺でもされれば良いのだ!」
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この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
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その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
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