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第3章 宇宙との出会い

3.3 ファースト・コンタクト2

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 スミラム帝国惑星調査艦ラムス323号艦長のジスカル三世は、彼が知っている酸素呼吸生物の事情を教えてくれた。大体において、酸素呼吸生物の生活に適する、酸素濃度が豊富で水があって餌にするような動植物が豊富な惑星は少ないのだそうだ。

 一方でこうした殆どの種族は、その人口増加率が大きいため直ぐに惑星が満杯になって、テリトリーの取り合いのための争いが絶えないのだという。この点は、地球の事情を見てみればよくわかる話ではある。

 この辺りの星域は、ラザニアムという帝国の版図であり、たぶん2百位の星系を支配しているが、居住に適する惑星が少ないせいで、各星系に居住惑星は基本的に1つだけであるそうだ。資源採取のために複数の惑星に少数の住民がいる場合も多いようだが、こうした惑星は生存のために生命維持装置が必要になるので、居住性は大きく劣る。

 ラザニアム帝国は、8割くらいのラザニアム人の居住惑星と他種族の居住惑星で構成されており、他種族はラザニアム人に奉仕する存在であり、極めて重い税を課せられて自分たちの人口を増やすどころではないという。さらに、他種族の居住惑星を見つけるとラザニアム帝国は艦隊を送って、都市を爆撃破壊して住民の大部分を殺した段階で植民に入って、後はじっくり残った住民を全滅させるということだ。

 その艦隊を退けるレベルの惑星の住民は全滅することからは逃れられるが、結局は圧倒的な艦隊によって降伏して、自治を行うことを認められるもののその結果が重い税と圧政に苦しむことになるわけだ。しかし、1種族だけは、ラザニアム帝国を結局退けて独立を保っているものがいて、その種族とは不可侵条約を結んで、その領域にはラザニアム帝国も侵入しないという。その種族、アサカラ人から、ジスカルの情報は得たものらしい。

 ちなみに、侵攻艦隊は十隻程度らしいが、これがあらゆる航空機を撃ち落とし、抵抗を奪ったうえで近隣の惑星や衛星から運んできた岩石を軌道上から都市に振りまくことで破壊しているそうだが、確かに安上がりのうえ放射能等で地上を汚染することもない方法ではある。

「そのように、ラザニアム帝国というのは凶暴な種族でな。どうも他種族を殺戮するのを楽しむような者たちで、我々のような者には考えられない行動をとる。我々と出会った時はどうする?うん、過去にかなり大規模な戦闘をしたことがあって、わが方が優勢だったよ。それからは、お互い出会っても避けるようになったな」
 さらに、ジスカルは爆弾発言をした。

「この星系は、段々テリトリーを拡大しているラザニアム帝国の端に位置しており、多分もう偵察はされていると思うぞ。侵攻艦隊がくるのも時間の問題だな。まあ、頑張って侵攻艦隊は退ければ、全滅は避けられる」

「ええ!それはないでしょう。じゃあもう少し情報を教えてくださいよ」
 誠司と青山が頼むと、ジスカルは目を楽しそうに輝かせて答える。

「折角ここまで来たのだ。少し手助けをしてやろう。じつのところ、我が帝国でもラザニアム帝国のやり口は苦々しく思っており、犠牲になりそうな種族にはある程度の手助けはするようにとの方針はあるのだ。おお、前たちの宇宙船もこの惑星の軌道に乗ったようだな。では、判っている限りの情報は伝送するが、これは我が国の言語だが解析は出来るな?」

「ええ、大丈夫です。でももう一つ、あなたの宇宙船を見せて頂けませんか。私たちの星に帰ったときそれなしには説得力に欠けますので。」
 誠司が答える。

「うむ、お前たちはわしの言葉のみで準備しなくてはならんからの。通信のみでは同族を説得できまい。少し待て、浮上してやる。また、1カ所だが、ラザニアム帝国に破壊された星の映像があるからデータに入れておいてやろう。
 それから、彼らの主兵器はお前たちの言うレールガンと自走爆弾、ミサイルというのかな、それと熱線砲だ。それに防御として電磁バリヤーと斥力バリヤーがあり、電磁バリヤーは熱線砲は防ぐがレールガンのある程度の質量のある弾は防げん。しかしこれは斥力バリヤーとの組み合わせで防げる。

 レールガンはお前たちのものはどの程度の威力だ?うん、大体同じ性能だな。熱線砲はそうだな1秒程度の照射でその船だったら貫通されるな。ミサイルは最初電磁推進で大きな速力を与えさらにその上に加速するがその加速度は同じお前たちの船と同じ程度で、弾頭に核分裂爆弾が入っておる。これは、要塞などよほど大きいものにしか使わんが射程が百光秒ほどもある」

 ジスカルが言うが、誠司はさらに質問しジスカルが答える
「それで、その宇宙船の大きさと加速度はどうなのですか?」

「形は円盤系で、長さはお前たちの船の2倍程度、幅は同じ位、厚みは半分くらいだな。加速度はお前たちが近づいて来たのと同じ程度だ。ほれ、お前の船が視覚に入ってきたぞ」

 重力波レーダー及び電波によるレーダー双方に異物が浮かび上がってくるのを探知するが、金属ではないようで電波による反射波ははっきりしない。しかし、外部のカメラでとらえられるようになってきた。それは細長の基本的には葉巻のような形で長さ太さ比は3:1位であるが、最大の特徴は表面がゆるゆると動いていることで、彼ら自身の体と同様に巨大惑星の過酷な環境で固いものより柔軟な丈夫なものの方が耐えやすいのだろう。

 色は薄いブルーというところで、それは氷枕が木星の薄暗い色とりどりの表面を背景に浮かんでいるような感じである。無論その映像はしっかり記録されている。

 誠司は気を取り直して先程からの会話を続ける。
「それでは電磁バリヤーは宇宙船の表面に架けられますが、斥力装置は特定の方向にしか有効でないので、相手が撃ってきた方向に向けなきゃならないですよね?」

 この言葉にジスカルは驚いて答える。
「そのとおりだ。よくわかったな」

「そりゃ、重力エンジンの応用でしょうからその性質からして当然だと思います。それで、ジスカル三世殿、何とかこれら設計データを頂けませんか?時間があればともかく、大至急これらの兵器は作る必要がありますから、今から設計をしては間に合わないのです。我々人類はあなたを恩人として永く伝えますので。出来たら、超空間ジャンプと、通信の技術も一緒にどうか。ジスカル三世様!」

 誠司は意味があるかどうかは判らないが、必死の思いで土下座して見せ青山にも強要する。
「う、うむ。まあよかろう。どれも、星間帝国を形成しているものなら常識なのでな。電磁バリヤー、斥力装置は防御専門の技術なのでよかろう。熱線銃も電磁バリヤーがあれば無効なので良いかな。斥力装置は、まあ重力エンジンを使っているならもうできたようなもんだからな。しかし、超空間ジャンプはちょっと無理だの。しかし、超空間通信は教えてやろう。この技術は超空間ジャンプと共通点が多いからの。ジャンプも頑張って開発するのだな」

 土下座は意図するところが伝わったらしく、ジスカルの目が気持ちよさそうにしている。
「あと、もう一つ、アサカラ星の位置もお願いします。それと、この情報をスミラム帝国の方から聞いたということを公表してもよろしいでしょうか」

「うむ、なるほど、アサカラ星の住民からどうやってラザニアム帝国を退けたか知りたいわけだの。判った、その情報も入れておこう。わしのことを公表してもいいぞ、別に我々はラザニアム帝国などを恐れてはおらん。
 今から少し準備するので、少し待て。それから、超空間通信機が出来たらわしに連絡するがいい。何か相談に乗れることがあれば乗ってやろう。また、お前たちのラザニアム帝国との戦いが起きたらその結果を知らせよ。わしも帝国外務省に報告しなければならんからな。では、もう帰って早速準備しなさい。データは追いかけて送ってやるから」

 なかなか、人(?)の良い巨大惑星人であるが、誠司は本当にジスカルの像を作って、飾っておこうと思った。そうして、通信でそれの映像を送ってやれば、気を良くしてまた大事なことが聞けるかもしれない。
「いや、見かけは人とかけ離れていますが、本当に日本人みたいなお人よ……げふん、げふん……親切な人ですね。これは本当に貴重な情報です。さてどんな技術情報が聞けるかな」

 誠司は土下座姿勢から立ち上がりながら言う。青山艦長も同様に立ち上がりながら真剣な顔をして言う。
「これは、大変なことですよ、中国どころの話ではないですね。早急に地球に帰って対抗策を作って準備を始めなくては。では、地球に向けて加速しますよ。いいですか?」

「はい、そうしてください。おおぞらまでは5億㎞か。すぐに通信を開始して、すぐ全力加速で帰るように連絡してください。こっちも全力加速するので大差はないと思いますが、まあいずれにせよ帰るしかないので」

 ジスカルはものの十分程度で資料を送ってきたので、早速マドンナにデータを直接流し込むと、マドンナは、熱線銃、電磁バリヤー、斥力バリヤー、超空間通信機の英語の設計図を出力する。これで、これらのものは製造にかかることが出来るが、どの装置も部品を購入したり新たに作成したりする必要があるものの見たところ入手不能なものはない。

 誠司は、川上研究官や狭山准教授及び技術屋全員を集合させ、地球に帰ってから、すぐさま部品の発注を行えるように仕様書作りを始めた。判らないところはマドンナの知恵を借りながらの作業だ。その作業の合間にも、作業している者の中にジスカルの言うことが信じられるのだろうかという議論はあったが、誠司は疑っていなかった。

 嘘であれば、渡された技術資料も疑わしいが、マドンナが設計図まで出力したところを見ると少なくとも渡された技術資料は嘘ではないことは明らかである。また、だましておいて、相手の力を高めるということは基本的にあり得ないであろう。

 実際には、ラザニアム帝国の侵攻がずっと遅れるのであらばその方が結構だが、誠司には間もなくというのは的中するだろうという勘があったので、一刻も無駄には出来ないという強い確信があった。
 多分、数カ月あれば、ジスカルの言う通り、十隻程度の侵攻だったら跳ね返せるだけの準備は出来るであろうが、最初の侵攻から1ヵ月足らず後に押し寄せるという、2波めの数百隻の大規模な侵攻艦隊はまず防げないので、結局ラザニアム帝国の30種族位いるという奴隷種族の仲間入りすることになる。

 唯一の方法は最終的にラザニアム帝国を跳ね返したというアサカラ星を訪問して、その方法を聞くしかないというのが現状の誠司の決心である。そのためには、太陽系から百十光年離れているアサカラ星系に行く必要があるので、是が非でも空間ジャンプ飛行法を確立する必要がある。

 技術者による、武器類の製造準備が軌道に乗った段階で、誠司は部屋に閉じこもって、マドンナを駆使して超空間ジャンプの開発に取り掛かった。頼りはジスカルからもらった基礎理論と、超空間通信器の理論説明である。マドンナは、最初の核融合に至るいきなりの最終結論の出力以来、そのずばりの回答を示さなくなってきているので、途中経過は自分で組み立てていく必要がある。

 誠司は、基本理論から入って繰り返しマドンナに質問することで徐々に応用に高めていき、ようやく超空間通信の原理に得心が言った。要は超空間というのは重力エンジンを使って重力的に空間をゆがめてレンズ状に形成したところに一定周波の電磁波を集中することで空間を折り曲げることで生じるものである。

 そして、その操作条件は通信の場合は電波をその超空間で繋がった穴を通してその先に送るものである。一方でその穴を通して宇宙船のような大きなものを通すには桁違いの動力が必要で、さらには重力エンジンと電磁波ゾーンの精密なコントロールが要求される。

 地球に間近かになって、誠司はようやく超空間ジャンプのコンセプトを掴むことができた。こうなると、マドンナの存在は有難く、ある程度具体的にイメージが掴めると質問も的確になって、地球に着いたときにはほとんどの装置のイメージが頭にできていた。

 『きぼう』と『おおぞら』全力で減速しながら地球に呼びかけて、極めて重要な情報を持って帰ったからすぐ発表するので放送関係者に集まるようにとあけっぴろげに放送する。
 また一方で山科教授に西山市の四菱重工の着陸場に来てもらうように頼む。現状のところ西山大学技術開発研究所の所長である山科教授が、誠司が個人的に知っている限りで最も権力に近いところにいる人なのだ。まず、日本国内を説得して、それから世界を説得して協力を得なくてはならない。

 誠司は青山一佐ほかの全員と話し合ったが、なかなか今の世界情勢では状況を理解させて世界の協力を得ることは難しいという意見が多く、この際は何も隠さず全て情報をオープンにしてその上で世論に訴えて協力を頼んだ方がいいだろうというのは全体としての意見であった。

 誠司自身も、情報をオープンにすることは賛成であるが、それからどうするかが問題と考えていた。国連はまず頼りにならないだろう。あれは、どちらかというと数の多い途上国が幅を利かせて好きなことを言い立てる場であり、なにも決まらない。

 そういう意味では常連理事国という仕組みはうまく作っているが、かの第二次世界大戦の仕組みのままでメンバーが悪い。結局G7の仕組みを使うしかないだろうというのが、誠司の今のところの結論であった。まず『きぼう』が、それから『おおぞら』が四菱重工の構内の広場に降り立った。

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