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第4章 人類の宇宙への進出

4.1 地球政府設立準備機構設立

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 さらに、秘密会議では日本からの提案として地球統一国家の必要性が訴えられた。たしかに、ここのように宇宙の惑星世界と向き合うようになると、ラザニアム帝国や他の惑星国家に対するのに地球として代表する国家が必要である。

 この点で、日本の阿賀首相が提案する。
「このように、軍事では必要に迫られて地球防衛軍という組織が作られました。しかし、同様に今後否が応でも地球は一つの惑星国家としての対応を迫られるでしょうから、同様に統一国家をつくる必要があります。これは、私としては当初はこの会議に出席されている国々が中心になったものにならざるを得ないと思っています。
 しかし、統一国家と言っても現実に大変難しいことは、過去十年余の戦乱、各国における難民騒ぎによる混乱を見れば明らかです。

 おそらく、現在閉ざされている国境の壁を取り去ったら、貧しい国から一斉に人々が富める国に向かい、富める国の秩序は完全に破壊され、貧しい国もまた人材を失い荒廃するでしょう。こうしたことは、私どもの国日本にとっても到底許容出来ることではありません。
 しかし、現代の地球全体のGDPは年間80兆ドルと言われており、これは人一人1万ドルでありますが、実際には食でさえ十分でなく貧困に苦しんでいる人が半分以上になっています。

 一方でラザニアム帝国も平均的は一人当たりの30万ドルであることから、まさに桁の違う豊かさを享受しています。従って、長期的に考えるとトータルとしてのGDP200倍の差は何としても縮めることが必要です。
 これは一つには総人口ではラザニアム帝国に匹敵する彼らの被支配種族を味方につけ、援助することも有効かと思います。しかしやはり地球自身としての体力すなわち国力を高める必要があります。従って、私は以下のように提案します。

 まず、設立メンバーは今ここに出席の国々で、地球政府設立準備機構を作ることにしましょう。
 予算は各国のGDPの1%程度を拠出願うことになると考えています。その予算については、この機構が動き始めたら、過去と次元の違う軍事力をもつ地球防衛軍が地球内の紛争解決に使えるわけです。
 ですから、他国の侵入等に備える軍事力は不要になるわけです。従って現在の軍事費を回すことで十分この予算は賄えるはずです。GDP1%枠だった我が日本の場合は苦しいのですがやむをえません。

 この組織の運営に際しては、資源の有効なタイムリーな利用が極めて重要ですから、政策決定の補助に人工知能を使うべきだと思います。この人工知能は、今開発中の超空間攻撃システムの制御に使う人工知能が、演算速度そのものは従来のスーパーコンピューターと同等ですが判断力が大幅に優れているので、これを用いるものとします。現在の国連の動きを見るに、あまりその使える資源が有効に活用されているとは言えないと感じています。

 その機構は今の国家と並行して存在するもので、地球外の存在との交流、外交については決定し、実施する権限を与えますが、地球内の事項については勧告に留めます。
 しかし、紛争に関しては介入し人工知能の判断によって解決する権限を与えます。戦力としては地上の紛争解決部隊だけを持ち、これに地球防衛軍の援助を得られれば、今の地球上のいかなる戦力にも簡単に対抗できます。国境の壁は基本的には今のままに閉ざしますが、似たようなGDPの国々の人々の往来、居住は各国の同意の元にもっと自由に出来るようにしたいですね。

 一つの大きな眼目は、貧困地域の経済的な底上げです。そのための産業の振興とインフラの整備が必要ですね。また、通常では最も問題になる、食料についてはほぼ無限の安価なエネルギーが得られる今、木や草の主成分であるセルロースを食料としての炭水化物に変えることは容易ですから、この装置は量産して貧困国に設置します。
 実際の骨組みは後日詰めるとして、本日の所は地球政府設立準備機構の設立についてご賛同いただきたいのです。なお、現状で詰められる範囲で骨子と、骨組み、実施体制の案についてはすでにお配りした我が国の作った案のペーパーをご覧ください」

 この話を元に、各国は機構を作ること自体は問題ないというより必要と感じていたので、設立に対しては賛同が得られ、翌日オブザーバーとして出席している各国に対して発表することになった。しかし、すべての国がルール作りなどに係ると確実にまとまらないので、実際の設立はG7+1に加えて一定の資金を供与することに同意した国によることになった。

 2日目の会議が始まった。
 冒頭に、『せいうん』が超空間ジャンプで逃げ出したラザニアム帝国艦艇を他恒星まで追いかけ、撃破した件までの防衛戦の経緯が簡単に紹介された。そして、この中で始めて帝国の艦艇に入り込んで、データが入ったメモリーパックを採取したことが明かされ、ラザニアム帝国の概要が一般に公開された。

 会場は絶句した。人口520億人、GDP1.5京ドル!人口は7倍、GDPは200倍!勝てるわけがない!
 これに対して、地球防衛軍が確実な対抗策をすでに持っていることが説明された。超空間攻撃システムという絶対的なアドバンテージがあって、これにより出来るだけ早くラザニアム帝国の持つ艦隊を滅ぼすことで、帝国からの軍事的脅威を排除できることが発表されることによって人々の不安は収まった。

 さらに、このため地球防衛軍は撃破したラザニアム帝国艦船のサルベージ復旧もあって、大幅な増強がされることが発表され、来年度の予算である5千億ドルのうち1千億ドルについてG7+1以外の国からの供出によりたいことが提言された。

 次にG7+1から提案されたのは、地球政府設立準備機構の設立であった。この機構の目的は宇宙の惑星政府と向き合うのにそうした存在が必要であること、さらに、地球全体としてまとまり、地域間や国の間との紛争・戦争をなくす、さらに主として貧困の撲滅により地球の経済力を上げて行くこと等であることが発表された。

 加えて、この機構に対しては供出する資金がGDPの1%程度をめどとして考えており、これに同意するなら設立の協議に加われるとの公表があった。
 これに対して、自らオブザーバーとして出てきた国連の事務総長が猛烈な抗議をした。
「あなた方は、地球の平和を守り、貧困を撲滅してきた国連の役割を何と思っているのだ。私及び国連は地球政府設立準備機構の設立など認めない。そんなものを作らずとも国連が十分その役割を果たせる!」

 これに対しては、あらかじめ示し合わせていたらしく、中・韓さらに中南米、アフリカなどの貧しい国々から激しい賛同の声があった。
 これに対して、アメリカ大統領スペードから反論があった。
「国連の役割については、我が国もその仕組みを利用させてもらったし、まあ、確かに貧困対策等に対して一定の貢献があったことは認める。しかし、平和維持という面では明らかに力不足であり調整能力もない。
 さらには、現在は地球防衛軍という過去の軍事力の次元を超えた全地球的な組織がすでにある。今回目指そうとしている地球政府というものはその背景に元に設立されるもので、またそれは従来で考えていなかった宇宙と向き合い、そのために地球全体の力の底上げを図ろうという全く違うレベルのことを目指そうとしている。

 その意味で、決まりきったことを漫然と十年一日のごとくやって、その職員や専門家の徒食の場となっている現状の国連ははっきり言って足手まといである。
 従って、我がアメリカ政府としては、地球政府設立準備機構には決定された資金を供与するが、国連に対しては分担金の支出は毎年3分の1ずつ減らし3年後に0とする。先ほど我々の提言を非難した国々が国連を支えていくのならそれでも結構だ。

 大体、今回のラザニアム帝国の侵攻に対して、多少なりとも貢献したのは我々G7+1の国々のみだ。中でも、最大の貢献を成した国は間違いなく我が国ではなく日本である。
 その日本を、ドイツと共に敵国条項を残したままにしたのは、国連という組織及び構成する国々の悪意だ。そうしてみれば、とりわけ日本とドイツにとっては、そういう組織から逃れられるのは喜びではないかな」

 このアメリカ大統領の強烈な話で、国連という組織が解体されることが明らかになった。国連の最後の事務総長となることが決まった男は興奮して何事か叫んでいたが、もう誰も相手にせず、随員と共に悄然と去っていった。
 このようにして、国連の解体が明らかになり、地球政府設立準備機構が設立されるのが確実になったが、その在り方は今から決めるということになると、当初の設立メンバーになりたいというのは当然それなりの国力のある国であれば当然ある。

  ヨーロッパではスイス、スペイン、ポルトガル、スエーデンなど、アフリカでもアルジェリア、南ア、中東ではイラン、サウジアラビア、アジアで中国、インド、インドネシア、韓国、南アメリカでブラジル、アルゼンチンなどが申し込んでいる。

 基本的な方針としては、申し込んだ国は全て受け入れるという方針であったので、すべて受け入れられた。当然構成国から機構の構成員を受け入れるが、その受け入れには地球防衛軍の将兵受けいれに使われた性格診断が新開発の人工知能の管理の元で使われ、いかに能力があってもその性格診断でNO.となったものの採用はないと当初から発表された。

 その判断基準も明らかにされ、⑴精神の安定性の低いもの、⑵公平ということに価値を置いてないもの、⑶買収されやすいもの、⑷根拠のない優越心のあるもの、⑸自己犠牲の性向が著しく低いもの、の5項目で2つ以上該当するものは不合格ということになっていた。試験の結果、中国出身者が5割、韓国出身者は6割が性格診断のみで不合格となり、この2国は教育がおかしいのではないかということで、全世界の話題になった。

 無論、この2国については結果がそうなりましたという程度の話で収まる訳もなく、両者の強硬な抗議の結果、個別の試験結果を受け取って如何に分析しても結果は事実であり、加えて両国の担当者立ち合いで再試験をした結果殆ど同じ結果になった。

 これに対して、両国の相手をした責任者は両国のためを思って次のような提言をしている。
「冗談抜きで、お宅の国は教育を改めることは緊急に必要ですよ。
 それだけではたぶん足りないから、国として国民の性格を変えるための本格的なプログラムを立ち上げたほうがいいですよ。我々も貴国のような人口の多い国の人材が全く使えないというのは困るのですよ」

 さすがに両国とも、公表された判断基準がおかしいとは言えず、憤懣やり方なしではあったが黙るしかなかった。
 両国とも、この結果は深刻に受け取らざるを得なかった。このままでいくと、今後始まる地球政府において、知能が優れていると自信のあった両国からは殆ど人材を提供できず、結局その他大勢として扱われるしかないということと、要するに2国の国民は信頼できない人材であることが世界に広まってしまったのだ。

 その後、中韓系の人材は殆どすべて、職を得るにあたって不利な扱いになり、すでに職に就いている人も、内部調査がされ再調査され少なからぬ数の人々が使い込みごまかしなどで告発され、さらに評判を落とすことになった。
 この状況の中で、中国で無血クーデターというか政権交代が起きた。今世界をリードしているのはG7+1とりわけ、日本であるのに、現政権はその日本に喧嘩を売って見事に完敗しても、そのまま居座っている。

 しかも、ラザニアム帝国の侵攻という事態に全く対応が出来ず、今後も出来そうもない。政府が日本で行われた会議に出席して、地球政府設立準備機構への参加メンバーとして申し込みはしてきたが、今の共産党政権では、今後この中でそれなりの立場を占めることは全く無理である。

 こうした、共通認識の下で、中堅以下の若手が1年以上にわたっての準備を実行に移し、まず軍を握り次に共産党を掌握し、直ちに中国の政体が変わったことを国民に広報するとともに、世界に向けて中国は民主主義体制になり、世界と共に宇宙時代を生きて行くことを宣言した。
 合わせて、早急にチベット、内モンゴルなど民族問題を抱える地方については、独立を認め、台湾に対しも対立のつもりがないことも発表した。

 韓国の状況は、世界最貧国の北朝鮮が人民の反乱で始末されてしまったことから、一体にならざるを得ないなかでもがいていた。こうした情勢、また地球政府設立準備機構の職員の採用試験の流れの中で、中韓両国の国内のマスコミも、流石に自分たちの価値観がおかしいということを言い始めたし、一新された政府関係者も危機感を持った。

 両国とも国内の心理学者を総動員し、かつ世界的な心理学者も招いて方策を検討した。結果、まず教育での偏りを是正する必要があるということで、歴史教科書をすでに地球政府設立準備機構が構築した人工知能(世界頭脳と呼ばれるようになった)が編んだ世界史に沿って改定して、ようやく普通の国の教科書レベルになった。

 さらにインターネット、テレビ、ラジオ等あらゆる媒体を用いて、国民の性格の問題点を直すような刷り込みを行った。その結果、5年後には性格診断ではねられる人の割合が中国で2割、韓国で3割になった。
 それに関して、誠司は妻のゆかりに、「最近は、中国人も韓国人も絵にかいたような馬鹿を言う奴が居なくなってつまらんなあ」とこぼして、

「そんなことを言うものではないわ。彼らも大変な思いをして変わってきているのだから。付き合いやすくて、一緒に仕事をしても信頼できる人が増えたわ、ほんとうに駄目よ。そういうことを言っては」と叱られている。

 結局こういう流れが出来た中で、韓国もどうしようも無くなって、指導層が一新され、かれらはすでに国民に隠す余裕もなく日本に土下座してきて、それに対して日本も技術封鎖を解くほか通常の付き合いを始めた。
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