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第4章 人類の宇宙への進出

4.7 地球人の所得3倍増計画発動

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 記念すべき、ラザニアム帝国の侵攻を退けた日から1年、この日は通称「戦勝記念日」として世界の祝日になったが、この日に地球政府設立準備機構から、この1年間に調査した地球とアサカラ王国を含むラザニアム帝国の版図に含まれる諸惑星の概要が発表された。

 ある程度中間的に惑星ごとのデータは公表されていたが、包括的に比較まで含めて公表されたのは今回が初めてである。なお貨幣単位については、USドルが今後地球政府貨幣クレジットCDとなることがほぼ決まっているが、現状ではドルで表示している。

 さらに、GDPについては、さまざまな指標を統一化するのは極めて困難であり、食料などは基本的な主食の価格を指標に食料の価格を決めているが、工業製品などは各惑星で作っているもの、持っているものがまちまちであるため、その統一的な価格を決めることが困難である。

 そこで、地球頭脳により、人が生きて行くのに必要な最低限度必要な購入品あるいは支払う必要のあるものの価格を惑星ごとにその貨幣単位で算出して、その数値との地球の場合の3200ドル/人・年が同一としてGDPを計算している。
 ちなみに、多くラザニアム帝国の隷属惑星では帝国ルラが通用しているが、必ずしもその価値が食料等の必需品に対して一定ではなく、帝国ルラで算出される惑星のGDPは様々な乗数が掛けられている。

 概要は以下のようなものになった。なお、地球以外の惑星が保有する一級宇宙戦闘艦ガイア型は地球から有償で譲渡されたものである。

地球:人口-81億人、原子力の利用-70年、GDP-81兆ドル、居住惑星-地球、
 一級戦闘宇宙艦1380艦、民間超空間ジャンプ船(ガイア型流用含む)-55隻

ラザニアム帝国:人口-525億人、原子力の利用-1万年、GDP-442兆ドル(賠償金支払控除、
 実施中の惑星移住含む)、二級戦闘宇宙艦:220艦、民間超空間ジャンプ1200隻

アサカラ王国:52億人、原子力の利用-語5百年、GDP-250兆ドル、居住惑星-アサカラ星他
 資源採取惑星3保有、一級戦闘宇宙艦-5艦(独自建造)+ガイア型10艦、民間超空間ジャンプ船-15隻

サムラムール共和国:45億人(大柄なヒューマノイド、毛深く熊に似ている)、原子力の利用-3200年、GDP(賠償金支払い含む)-155兆ドル、:居住惑星-サムラムール星と返還を受ける植民惑星1、一級戦闘宇宙艦-ガイア型10艦
 ……………
 ……………
エクズス共和国:25億人(ドワーフ類似ヒューマノイド)、原子力の利用-千年、GDP-72兆ドル、居住惑星-エクズス星と返還を受ける植民惑星1、資源採取惑星1、一級戦闘宇宙艦-ガイア型十艦
 ……………
 ……………
 ……………
サマーサル帝国:17億人(小柄なウサギに似たヒューマノイド)、原子力の利用-2千年、GDP(賠償金含む)-38兆ドル、居住惑星:サマーサル性、一級戦闘宇宙艦-ガイア型十艦

 以上、アサカラ王国を除いて35のラザニアム帝国の隷属していた種族の人口は合計して875億人であり、アサカラ王国を含めても最大の人口を持つのは地球であった。

 しかしながら、これらのすべての種族はラザニアム帝国の侵略を受けた時点で長い文明社会の歴史と高い科学技術をもっており、大部分が統一惑星政府も持って、全惑星においてほぼ均一な社会を築いており、地球における先進国レベルの生活水準は享受していた。

 であればこそ、ラザニアム帝国の先遣攻撃艦隊を退けることが出来たのである。また、それはラザニアム帝国の支配下においては、水準として多少下がったようであるが、ほとんど横ばいで推移していたようで、そういう意味では帝国の支配というのは、隷属惑星の人々を奴隷にしていたというのは酷に過ぎるかも知れないということを言うものもいる。

 確かに、追い詰められて被支配種族がしょっちゅう反乱を起こすような支配は、少なくとも知能の高いラザニアム帝国の貴族の取る手段ではないでろう。
 しかし、この調査わかったことは地球の異常性であり、これは地球人全体に大きなショックを与えた。ラザニアム帝国を除けば、人口は一番、ラザニアム帝国を入れても軍備は一番、一人当たりのGDPは圧倒的に最下位! まさに、地球の歴史のおける文明国を征服した野蛮人の国だ。

 本当の意味で、地球の人々が、地球に住むということを持って同胞と感じたのはこの時が初めてだと言われている。その時の、地球政府設立準備機構の代表を務める、アメリカ合衆国出身のアラン・カージナルはこの結果について以下のように、全世界に向けて演説している。

「地球人の皆さん。皆さんは、この調査結果を見てどう思われますか?私がこれを見て思うのは、私たちはまだ若いということです。 今回調査の対象になった種族は、少なくともラザニアム帝国の最初の攻撃を退ける技術的基盤があり、すべてがほぼ惑星統一政府を設立しており、惑星内の全体的な生活レベルに大きな差がありません。
 歴史の面で見ても、全ての種族は原子力の利用は数百年行っており、放射能の低減技術を持つなどその利用技術は進んだものを持っています。

 一方で、我々はいろいろな幸運に助けられ、彼らが無しえなかったラザニアム帝国を軍事的に破るという、ある意味で偉業を成し遂げ、ラザニアム帝国に版図における隷属種族の解放を達成し、間違いなくわが地球と友好を結んだ多くの種族から感謝されております。
 さらに、現時点ではわが地球が軍事面で圧倒していることは確かですので、今後ラザニアム帝国を除く三十七星間国家で結ばれる予定の軍事同盟のリーダーになることは間違いないでしょう。
 しかし、星間国家として見た場合、同盟を組もうとしている国々から見て、間違いなくわが地球は最もお粗末な国でしょう。

 それは、地球内部での余りの格差のひどさが大きな原因です。この度の調査の過程で、人が最低生きていける最低限の必要な収入を三千二百ドルとして、それを物差しとして他の国々のGDPを算定しました。その中で、地球に次に低かった国の一人当たりのGDPは地球の2倍ですし、調査の中ではその収入の分布も出ておりますが、地球以外にその最低ランク以下のグループに位置する人々が存在する国、惑星はありません。
 すなわち、地球は所得分布が際立って広く、これは不平等が蔓延しているということですが、さらにその平均も際立って低いのです。これは、恥ずべきことであります。

 今現在地球には2百もの国と地域があります。国としては、そのうちの数十が豊かな国や地方に数えられており、たぶん15%程度の人口はこうした星間国家に劣らない生活をしている一方で、人口比で10%を超える人々が人として最低の収入を得られない状態で放置されています。
 いま、すでに地球はいやがおうでも宇宙の国々と付き合っていくことになりました。そうした時に、地球政府の設立は必然であり、避けては通れません。

 すなわち、わたし達は、今までの所属していた国の国民ではなく地球人になるわけです。今までは、いわゆる先進国に住んでいる人々からすれば、貧しい人々、飢えている人々がいてもそれは別の国のこととして無視できました。
 しかし、これからは違います。これら、貧しい人々及び飢えている人々も同じ地球人なのです。私は、地球政府の設立を進めている責任者として宣言します」

 アラン・カージナル代表はカメラを見つめて一旦言葉を切る。
「地球政府設立準備機構は、今日から『所得3倍増計画』を発動します。
 これはその名の通り、我が地球のGDPを一人3万ドルにするもので、目標年は2035年としますので、今から10年後ですね。さらに、この一つの条件として最低所得層のランクを15000ドル以上とします。
 いま、地球上で起きている、貧困、飢餓、紛争あらゆる問題点は我々地球人としても問題です。しかしながら、すべての根本は貧しさに繋がっています。従って、我々はその解決のために全力で尽くしますし、当然のこととして豊かな国や地域の富をその解決のために使います。

 しかし、その予算の出処、原資としては大変有利な面があります。これは、今後帝国からの賠償金が入る友好国家に有償で譲渡した宇宙艦の代金、さらに帝国が退去する五十五の惑星のうちわが地球が、十個を確保できる見込みです。惑星一つの価値というのはご想像の通り大変なものでありまして、これがこの計画の十分な原資になりうると思っております。
 しかしながら、この計画の実現のためには、極めて複雑な現状を的確に把握分析して、誰もが理解できるポリシーを打ち立て、重点項目の設定、重点施策地域、予算、執行機関の設立、スケジュール、実施の開始と、実行に応じた修正が必要です。

 このために、地球頭脳による計画とコントロールが必要と考えており、すでにその専用機を確保しました。この、地球頭脳によるコントロールの有利な点は、このように莫大な金額が動く大プロジェクトには必ず人の恣意的な動きや汚職がつきものですが、現在の準備機構が地球頭脳によって基本的にモニターされているのと同様にそうした腐敗は起こりえないということです。私は、計画年にはこの『所得3倍増計画』が必ず実現すると信じています」

 彼は高らかに宣言しましたが、さらに続ける。
「さて、今後星間国家として地球が、他の星間国家として交流していくうえで、地球人の資質ということも大変重要だと思います。その意味で、日本で開発されて、今は殆どの国で処方が始まってい『知能増進処方』には大変期待しています。
 ラザニアム帝国では、貴族階級はその処方を受けているようですし、他の国にも多かれ少なかれ似たような処方があるようですが、少なくともラザニアム帝国と我が地球が違うのは、すべての若者に処方しようとしていることです。
 この結果として、社会に様々な弊害も生じると考えていますが、私は地球が、地球人が星間国家のなかに大きな位置を占めるためには必ず避けては通れない道だと思っています。この点は、皆さんも自覚して、我々の若い世代の知能が我々に比べて相当に高いということを受け入れる必要があります」カージナル代表の話が終わった。
 その画面を見ていた、誠司とゆかりに一歳の星太であるが、星太はもうすやすや寝ている。

 ゆかりが誠司に聞く。
「誠司さん、この所得3倍増計画というのは聞いていたの?」
 「うん、大体というか、必要じゃない?というのは言ったな。このカージナルさんにね。その後いろいろ相談はあったよ」
 誠司は答えさらに続ける。

「貧困対策というのは、国連でやっていただろう?」
「ええ、やってはいたけど、余り効果があったという感じはないわね」
「そう、ないよりは大変ましだけど、現地の矛盾をほっておいて対処療法的なことをやっていてもね。あまり効果はないよ。結局詰まるところは、稼げる職がないということに尽きるんだよね。
 だから、地球内に限って貧困対策をするのだったら、結局食料を含めた一次産品と資源の費用を高くするしかないと思うよ。
 だけど、そうすると、それを輸入して消費している所謂先進国などが相対的に貧しくなるわけだ。元々、最近の工業はそれほど人手は要らないし、製品原価に占める人件費が低いから製品も安いのだよね」

「じゃあ、貧困を撲滅する解決策はないじゃないの」
「あるさ、まあ必要な食料はそう増えないから、より効率の悪い肉とかにいくことで生産額を上げるしかないだろうし、製品は貧しい人々の所得が上がってまともな家に住むようになれば、まだまだ販売できる量は増えるよ。やはり、でかいのは家なんだよね。人がそれなりの家に住んで、家具や電化製品を備えて、一家に一台の車を使うようになれば否が応でもさっき、カージナルさんが言ったような線になるよ」

「そうかなあ。そこに行くまでは難しいと思うわ」
「うん、地球に限ったら短期間には無理だね。しかし、帝国が放棄する惑星は、地球が十くらいは分捕る予定なんだ。なにしろ全部取っても誰も文句は言えないからね。地球位の惑星1個ってどのくらいの値段だと思う?」

「ううん、千兆ドルくらい?」
「うん、いいところかな、たぶん地球のGDPの十倍くらいではないかと今のところの結論になっている。だから、こうした惑星を活用すれば先進国から金を集めるのも簡単だし、その金を使えば、他の惑星に移り住んで街をつくるのも簡単だよ。また、今後、いわゆる途上国にも賢い子が沢山出てくるわけだから、人材にも事欠かないよ。うん、カージナルさんの言った8年後に3倍というのは控えめだったということになるかもね」
 誠司が結論つける。

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