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第5章 銀河宇宙との出会い

5.8 シーラムム帝国のラザニアム帝国断罪3

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 次に検事役から、出席した地球の同盟諸国へラザニアム帝国の支配の状況として、奪われた財、殺された人の数等のヒアリングがあった。

 さらに、居住する惑星を爆撃されて、10億人を越えていた人口から危うく滅ぼされかけたシャーナ人への、その突然の攻撃と虐殺の状況、さらに洞窟生活中の断続的な攻撃への質問があった。
 その中で、発見されて再出発を援助されたシャーナ人が、地球を中心とする文明圏で芸術家として高い評価を受けていることと、さらにその作品の一部の立体映像が、議会の中で紹介されてこれは大きな反響を呼んだ。

 検事から、地球の同盟諸国への質問と同様に、シャーナ人としてどうした罰をラザニアム帝国とその民族に与えるのがふさわしいと考えるか、聞かれた代表のスズリス・マテルスはこう答えた。
「ラザニアム帝国とその人々にいかなる罰を求めるか、私どもの村人皆、つまり生き残りで話し合いました。しかし、その中で最初に言われたのは、彼らに如何なる罰を与えても悲しいことに殺された者たちは還ってこないということです。
 しかし、国全体として、他のものが持っているものを奪おうとして、そのために他を殺すという国、またその構成員が嬉々として抵抗できない他民族を殺すというその人々に対する教育または洗脳、これを許してはいけないのです。私たちは、ラザニアム帝国の人々を殺す、消滅させるのは賛成しません。
 しかし、ただの物欲のために私どもの民族のみならず多くの民族を抹殺してきたこと、笑いながらそうした無力なものを殺してきたこと、これを罪として背負って生きてもらいたいと望みます」

 この言葉は会場の人々に重く響いた。
 これで事実関係の確認が終わり、つぎにラザニアム帝国の弁明が行われこれには皇帝自らが立った。
「わがラザニアム帝国の、過去のやってきたことについては、我々は糊塗するつもりはない。しかしながら、もともと我々もその一員である酸素呼吸生物は、血塗られた歴史を持っており、わが民族の歴史も例外でなく、長い間内部的な血塗られた戦争に彩られている。
 それは、大部分が領地を含む他の持つ財を狙ってのものであり、常に弱い者・遅れた者がその餌食になっている。この点は、今回わが帝国が敗れた地球も、つい最近までそのような歴史を持っていることを確かめている。
 また、貴シーラムム帝国もそうした歴史はお持ちであろうと思う。結局、その延長でわが帝国は他民族の弱いものは強いものにとっても餌食であり、強い者には弱いものを餌食にする権利があると考えて、そのように行動してきた。

 しかしながら、ごく最近になって地球との戦いを通じて、わが帝国は絶対的な強者ではなかったことがわかったのだ。その結果、その方針を変化させられ、すでに植民していた惑星を放棄または返換させられ、支配下に置いていた惑星に対するその損害と称する財を賠償させられている所である。
 加えて、わが帝国の財産であった戦闘宇宙艦の殆どすべてが結果的に地球に奪い取られ、その武力を背景にした監視の元に軍備を増強しないように監視されている所である。
 すなわち、わが帝国はすでに無力であり、二度と同じことを繰り返す力はない。さらには、わが帝国が力またはここでいう殺戮により得られた成果は、すでに放棄・返還させられたか、している途中である。

 最後にわが帝国はこうした行為・行動を最高責任者である、私ラザニアム帝国第102世皇帝のミスマム・ジスラム・ラザニアムは、私自身の治政中に地球を滅ぼそうと試みた。
 そして結果として敗れたわけであるが、この戦いとその結果を通じてわが帝国の弱者たる他民族に対する態度が誤りであったことを認める。そして、過去滅ぼしてきた民族への贖罪そして自らの誤りの印として、収集してきたそれぞれの滅びた民族の資料を収めた記念館を建築する。
 さらに、こうした行動を命令し実施してきた歴代皇帝の罪を認め、それを表し残すための記念館を建築する。そうした結果として、わが帝国は帝政を廃止して共和制に移行することを、次に政権を担うものに提言しつつ、余は歴代皇帝の罪を背負い自死す。また、貴議会が望めば、あるいは処刑されても良い」

 この弁明はそれなりの感動を呼んだ。
 次に、シーラムム帝国議会からの意見がいくつか出されたのでいくつか紹介する。
 A議員の意見である。
「ラザニアム帝国の罪は明らかであり、その罪そのものには弁明の余地はない。絶滅させた種族は何を言っても蘇ってこないのだ。しかも、この罪は指導者のみに帰せられるべきものでもない。確かに。無力な相手の宇宙船を破壊すること、惑星に対する軌道上からの攻撃は命令によるものということが言えるかも知れない。

 しかし、軌道上から大部分の住民を殺戮したのちに植民し、生き残ったものを追いつめて滅ぼした点は種族一人一人に問題があると断じざるを得ない。その彼らの行為の結果、先ほど見せてもらったシャーナ人の芸術、これはまさに宇宙の宝であるが、これほどのものを産みだす種族が、地球人の介入が無くば危うく失われるところであった。私は、ラザニアム帝国は住民と共に滅ぼすべしと提言する」

 B議員の意見である。
「同僚議員の言う通り、ラザニアム帝国及びその構成員の成してきたことの悪質さについては弁解の余地はない。
 しかしながら、かの皇帝の言う通り、ほとんどの知的生物、殊に酸素呼吸生物はそうだが、我々の歴史ですらそれを紐解けば我々も似たようなことをしてきたこともまた明らかである。我々はそれを進歩として呼ぶ変化の中で克服してきたが、ラザニアム帝国においては、それが遅れたのみであるという解釈もまた成り立つ。
 こうした変化は、結局教育による意識変化によって変わり得るものであると信じる。従って、私の意見はかの皇帝の言う通り、責任者の処刑、政体の変化に加え、教育に我々が介在することを条件にした現体制の解体によって存続させることである」

 それに加えて銀河評議会のオブザーバーとして参加していた、ミザスカス民主共和国の意見も出された。
「ミザスカス民主共和国代表としての参考意見は、基本的にB議員の意見に組する。我々の歴史もラザニアム帝国に対し胸を張って非難できるほど立派なものではない。
 ラザニアム帝国が唯のお山の大将であったことに気が付き、またその危険性に気が付いたのが異常に遅かったとは言えるであろうが。しかしながら、二度と同じようなことが出来ないような確実な歯止めは必要であると考える。ただ、我々はここでは地球という、本来なら簡単にラザニアム帝国の滅ぼされていたはずの存在が、逆にその軍事力を破壊して、その力の源泉をうばって『帝国』として存続しえないようにしたという点を注目している。

 わが共和国も不十分ながら地球について調査して、ますますその異常性を認識するに至った。惑星の統一政府もなく、しかも極めて貧富の差が大きい遅れた存在であり、原子力の利用、宇宙への進出からわずか五十年足らずの存在が、ラザニアム帝国侵攻の段階で、第1次侵攻を跳ね返すだけの準備を行い実際極めて巧みに戦って、軽々とそれを退けておる。
 さらに、通常考えれば、十分な規模であった第2次侵攻では超空間エネルギー遷移という、彼らのレベルでは考えられない新兵器を活用して、相手の戦闘艦を全て奪うという空前絶後の成果を上げている。むろん、これはラザニアム帝国が超空間エネルギー遷移レベルの技術も開発してないかったという幸運にも助けられているが。しかし、その状況に応じて地球とその軍部が最適の行動をとったことは事実である。

 異常性と言うのは、重要な技術である、核融合発電、重力エンジン、超空間の活用のすべてがこの数年間に現れている点である。これはまず間違いなく、他種族からの技術移転があったのだろうと思われるが、それにしても実用化の速度が尋常ではない。
 しかしながら、このことに我々としては決して危機感を覚えているわけではない。なぜなら、地球政府としての、対ラザニアム帝国及びその支配を受けていた宙域の諸国への対応は、まれにみるほどの成熟したものであった。
 その内容については、すでに述べられたのでここでは繰り返さないが、とりわけシャーナ人に対する対応は手本にすべきものであり、結果的にあれほどの芸術的なセンスを持つ種族を手厚く保護したことは賞賛に値する。

 我々が言いたいのは、最近の実績に鑑み、地球人は今後も誰もが想像できないほどの発展を遂げるものと考えているが、このように公正かつ成熟した態度を見せていることから、このことは我々にも良い影響があるだろうとボジティブに捉えているということだ。
 最後に繰り返しになるが、われわれミザスカス民主共和国代表は地球がラザニアム帝国に対して果たした役割を賞賛する」

 この、ミザスカス民主共和国代表の言葉を受けて、議会議長から特別コメントがあった。
「シーラムム帝国議会を代表して、議長たる私、イラムエ・カザマ・ビシュールより、地球政府への感謝と賛辞を述べたい。
 地球政府とその防衛軍の活動がなければ、我々ラザニアム帝国の蛮行を知ったのは遠い将来になったであろう。かのラザニアムが、探険船を送り込んで結果として我々がかれらの蛮行を知ったのは彼らが地球に敗れたが故であるからな。しかも、地球はすでにラザニアム帝国の軍備をはぎ取っており、その結果としてかの帝国は我らの喚問に抵抗無しに応じざるを得なかったし、我々も要らざる軍事行動をする必要がなくなった。 

 さらには、地球政府が、ラザニアム帝国をしてその隷属していた諸惑星に対して課した制裁、さらに滅ぼした種族のものであった惑星を極めて公正に分配したことである。これは、まさに殆ど我々がもし解決に当たった場合に成した結果と同等のものであったと考えている。
 地球政府及びその防衛軍の活動の結果、われわれは単にラザニアム帝国のみに対する処分を検討・決定するのみで済むことになった。この点でシーラムム帝国議会は地球政府に感謝申し上げる。

 また、自らの存続がかかっていたとはいえ、防衛及び逆侵攻といった必要な行動を果敢にかつ的確になした。さらに、ラザニアム帝国に隷属していた諸種族を正当に・公平に取り扱い同等の存在として友好条約、通商条約を結び同盟を形成している。
 このことに関して、邪悪な意図をもつ圧倒的な国力を持つ国を打ち負かしたこと、さらにその犠牲になっていた国々と極めて公正な関係を結んでいることに、その勇敢さと力、さらに公正さを賞賛する。殊に滅びかけたシャーナ人を保護して極めて貴重なその能力を我々をも楽しませてもらえるようにした点も賞賛したい」

 そのように、最後は地球がえらく褒められてしまったが、一つにはシャーナ人の作品の立体映像が大きくアピールしたようだ。結果、ジャーナ人の作品の映像は地球とその友好諸国のみならず、シーラムム帝国と協議会を構成している国々が占める銀河の6分の1程度を占める空間に広がって行った。

 この結果、実物は超高級品になってしまった。シャーナ人には皆が気軽に楽しめるものということで、安価で作ってくれる人々もいたが、絶対的に品薄であり、結局大部分の人は3次元映像で見ることで我慢するしかないのである。そのために、3次元映像はさらに高精度なものが作られるようになり、これは実物と全くそん色はないと言われているもののやっぱり違うという人もいる。

 それにつけても、こうしたシャーナ人の名声によって、危うくシャーナ人を滅ぼしかけたラザニアム帝国の蛮行が銀河に鳴り響くわけであり、シャーナ人の無意識の復讐はより効果的になったとも言えよう。
 さて、議会での議論も終わり、判決が言い渡されることになる。これは検事からの求刑があり、さらに弁護人が量刑についての論評があり、その結果惑星頭脳から参考判決がでて、それをベースに議長及び3人の委員が揉んで議長から判決が発表されるのだ。

 検事からの求刑である。
「すでに述べたように、ラザニアム帝国はまず61もの民族虐殺と絶滅の罪に問われるが、自らも認めており罪状は明らかである。これについて、そのうちの1種族は一部生き残ったが数からいえば絶滅させたに等しい。さらに35の種族を隷属させ財の搾取を行い、安定的な隷属のために不当な殺人を行った。これについても、多数の証言、さらに自らも認めており罪状は明らかである。
 さらに、被告は絶滅させた民族から55の惑星を奪い、隷属を拒む6の民族を惑星ごと破壊して惑星を居住不適としたうえに、6つの惑星を隷属させた民族から奪った。
 しかし、惑星地球との戦いの結果、奪った惑星は全て放棄させられ、さらに隷属種族は解き放なたれ、彼らに搾取した財などの賠償を行っている。

 以上の状況を鑑み、罪状としては民族抹殺が妥当なところであるが、すでにその貪欲の結果得たものはその後の開発の成果を含めて奪われ、隷属させた種族へは賠償を払っている。その上、軍事的には地球とかっての隷属種族の監視下にあり、現状の所では復活な不可能な状況にある。
 また、自らかっての蛮行をなした政体である帝国の罪を認め、責任者たる皇帝は自死または処刑を受容し、歴代の皇帝をも同罪ととらえそれを解体して、共和制に移行するとの申し出を行っている。

 検察は、以上から被告の申し出の通り、自らの罪の証として絶滅させた民族の記念館建設、帝国及び歴代皇帝の罪を暴いた記念館の建設、皇帝の自死、共和制への移行、賠償金の支払いを完了させることを要求する。
 さらに、検察は被告の現在の社会制度である、貴族と平民の分け、それも貴族のみの知能向上措置を行うことで知力に大きな差があることが潜在的に他への蔑視に繋がったと考える。
 従って、知的生物の尊重を含む教育制度を組み込みことと、万人への知能向上措置を行うように要求する。さらに、少なくとも今後、本議会が承認するまでは軍備の増強は認めない。現状の各惑星1隻の戦闘艦で防衛が不十分な場合は本帝国、または地球の連盟が防御に当たる」

 この検事の求刑に弁護人は異議なくこれを認め、惑星頭脳も賛成し、最終判決はこの内容で決着した。皇帝については自死が許され、議会の一室を使い宰相と軍務大臣は見守る中、作法通り自分もった短い刀で首を一気に掻き切った。
 宰相と軍務大臣はそれを涙ながらに見守り、そのビデオを帰国後放映すると共に皇帝の遺志を継いで共和国設立にまい進するのであった。

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