上 下
66 / 72
第5章 銀河宇宙との出会い

5.12 銀河防衛機構、活動開始

しおりを挟む
 このように、防衛軍、研究機関からの派遣の概要が示され、さらに地球連邦として出先機関を設置するということで200名の派遣が提示された。これについて議論がなされて、途上国が集まって形成された国々、ホープ星及びミルシャーナ星も含まれるがこれらは国内から参加する研究機関がない場合が多いので、国として研究者を参加させたいという要望があった。

 このため2千人の枠を別途とるように修正された、デカタル星への地球連邦としての派遣案は全会一致で採決された。会議に参加した者全員が、イーターの脅威は認識したものの、それ以上に銀河の先進種族が集まって一つの方向に向けて研究・開発する場に、自分たちの代表を送り込むことは絶対に必要だと感じているのだ。

 しかも、自分たちの仲間は知能向上の処置を受けてそれなりに教育を身に着けているだからこのチャンスを見逃すわけにはいかないのである。なお、過去6年間の所得3倍増計画の結果として、75の参加国には、かってのようにいわゆる貧困国は存在せず、さらに多くの若者に対して知能向上措置がされた結果、多くの優秀な若者がこの会議には送り込まれている。

 かってのいわゆる途上国において、最初は地球連邦準備機構、その後は地球連邦による集中的かつ莫大な投資によって、急速に開発が進んでいった。そして、その開発には人々の近代的な新しい住居も含まれており、人々の収入も目に見えて増えて行った結果、最近までバラックに住んでいた人々が、そうした新しい家に住んで、かつ増えた収入で様々なものを買えるようになるわけである。

 従って、投資の何倍にも消費が膨らみ、その国の経済はますます膨らんでいったわけだ。もっとも、家を手に入れるには、かっての彼らであれば到底手の届かないローンを抱えるわけであるが、彼らの増えていく収入がその返済を可能にすることを保証している。

 特にこうした国々に多い若者は、将来に明るい希望を持つようになり、こうした状況を作った地球連邦と地球頭脳に対して強い感謝の念と忠誠心を持つようになった。
 知能向上処置については、二十歳までしか受けても効果がないということから少し難しい状況があったが、すでに処方が始まって6年以上、あらゆる場所にかってであれば天才と呼ばれるレベルの知能の者がいるようになったのだ。

 こうした若者に対しては、地球連邦により送り込まれた人員によって、特に倫理面での集中教育がなされ、増長しない、周囲と摩擦を起こさないようにふるまうということ、さらにその高い知能を地域や人々のために役立たせるということが叩き込まれている。

 その結果、実際にこれらの若者は静かに世の中に溶け込んでいって、家族のためには高収入をもたらし、地域のためには効率の良い運営をもたらした。特にいくつもの途上国が集まって作られた国においては、地球頭脳の指導で早いうちに適所にこうした処置済の人材が送り込まれて円滑な運営を可能にしている。

 従って、現状の地球連邦の総会は、かっての国際連合のように、大部分の国が大国の利害による餌につられて投票するようなことはなく、自国の利害と将来、さらには地球の現在と将来をしっかり考えて投票を行うようになっている。

 現在の連邦政府は、大国、あるいは有力国の都合で動く組織ではないということは認知されている。その証拠が、現在の所得3倍増計画が主としてかっての途上国の所得を引き上げるような形で資本投下と人材の投入がされていて、すでに先進国になっている国々に対しての資本投下は殆どなく自助努力に任されている。その意味で、地球連邦政府の提案は、特に紛糾することなく承認されるのが常であったが、今回もそのような結果になったわけだ。

 さて、牧村一家であるが、ゆかりと子供2人は当然デカタル星へ一緒にいくことになったが、誠司と恵一は第一陣で予定されており、彼らが含まれる第一陣についてはシーラムム帝国から客船が迎えに来ることになっている。ゆかりが言う。

「デカタル星というのはどういう所かしら?いわゆるテラ・フォーミングで酸素呼吸生物が住めるようにしたそうね。重力は地球に比べ1.02倍、気圧は0.95倍、酸素21%でアルゴンが残りの大部分になっているわ。太陽の放射強度はほぼ5%程度強めで。自転周期は二十三時間ですから地球に大変近いわね。
 でも公転は2.6年だからこれは長いけれどあまり私たちの活動に影響はないわね。でも、植生なんかはどうなっているんでしょう」

 ゆかりの話を受けて誠司が住みことに心配ない点を強調する。
「話だと、20年前には植生の播種は終わったそうなので、3割の陸地はほぼ植生に覆われているらしいよ。無論、まだ20年の年齢なので樹木も大きくはないけどね。また昆虫、小動物、中型の草食動物、さらにプランクトンに魚は放されているそうだから、それなりの“自然”は出来ているはずだよ。

 基地は気候がいい場所、温帯に作られるし気候は制御されているから住み心地は悪くないはずだよ。それに、最初に行くのは2千人足らずのスタッフの本人を含めた家族6千人だけど全体としての派遣要員及び家族の12万人以上になるはずだから、ちょっとした都市ができることになるから、星太とさやかの遊び相手には困らないよ」

「私も、同僚は殆ど行くことになるわけだから、その点は研究室が引っ越すようなもので気が楽と言えば気が楽よ。でも中央研究所も、西山大学関係もマドンナを追っかけて行く人がだいぶいるわよ。
 その点でイーター対策に使う時間との調整が大変かも知れないわね」

 ゆかりがマドンナの使い方で懸念を示すが、誠司は楽観的だ。
「俺の考えでは、あちらに行った研究者はあちこちの先進種族との交流で一杯になると思うよ。だから、当分はマドンナを使いたいというインセンティブはあまり働かないように思うね。まあ、なるようになるよ。ところで恵一は彼女はいないのか?」

 2人の話を聞いていた恵一は、いきなり話題を振られて顔を赤らめた。彼も、十九歳の今当然ガールフレンドはいるが、まだステディな感じにはなっていないものの、連邦会議の様子がくまなく報道された結果、それらの女の子からのアタックが激しくなって、ちょっと引いている所だ。 

「ええ、今はそれほど気になる人はいませんね」
 彼はそう答える。
「今度の派遣には当然知能強化した若手の女性も沢山いるから、あっちでの出会いもあるよね」
 誠司のからかうような口調に少しむきになって言い返す。

「そんなことは、考えていませんよ。僕はあちらでの使命を真剣に考えてですね」
 誠司は最初にうち軽い調子で、やがては真剣に言う。

「まあ、はっきり言って、向こうの仕事はアイデア勝負だからね。力を抜いていかないと。今回もミッションの課題は大きく言って3つある。1つはイーターの体の大きさの特定、構成、生命現象の発現、移動・力の発現の方法、生命力の吸収とそれを増殖・生存に生かすメカニズム等を解明することによってこれを攻撃というか殺す方法。
 2つ目はイーターの通常空間及び超空間の移動メカニズムの解明をすることで移動を封じる方法だ。3つ目は僕らの考えた方法で観測点を増やしてモデルを実用できるものにすることだ。
 最後のものは誰かに任せておけばいいと思う。最大かつ絶対的に必要なのは最初に上げたもので、いずれにせよ殺す方法を見つければ問題の7割は解決したようなものだ」

 恵一が同意して応じる。
「ええ、いくつかについてはアイデアがありますので、マドンナの力を借りたいと思います」

 第一陣の迎えのための宇宙船マグドラン号がノーフォーク宇宙港にやってきた。全長1㎞で軍艦と違って丸みを帯びており、どちらかというとガイア型に形は似ている。
 間違いなく地球の地上に降りる最大の宇宙船であるため多数の報道陣が集まった。重量1千万トンを支えるために、どういう形の着地装置になっているか注目されたが、一応は地上に降ろす足があるものの大部分の荷重は重力エンジンによって軽減していることが分かった。

 乗り降りは高さ五十mに位置に船腹から張り出し桟橋がでており、そこから重力エレベータがあって、一人一人の人間でもあるいは5m×十m程度のパレットでも自在に乗降できるようになっている。
 宇宙船マグドラン号には、シーラムム帝国の使節も乗っており、地球連邦政府との協議が行われた。地球連邦としては、まず銀河防衛機構に参加すること及び大体の第一陣参加人数を通信としてはすでに連絡していたが、その点を最終的に互いに確認する儀式があった。

 地球連邦としては、要員とその家族を入れれば12万人にもなる点でシーラムム帝国からの抗議がないかひやひやしていたが、かえって4万4千人もの研究職と軍人を派遣するということに感謝された。シーラムム帝国としては、その程度の住居と事務所を提供し生活面の面倒をみること程度は問題ないらしい。

 宇宙船マグドラン号がついた段階で、第一陣として出発する6千人、主として誠司に係る組織の研究陣及び防衛軍の先乗り隊の乗り組みの準備は済んでいた。しかし、当然研究陣はそれなりの機材を持ち込む必要があり、これはまたデリケートな機材でもあったがマグドラン号から派遣された乗員ロボットに相談すると作業ロボットと反重力いかだを持ち出してアッと言う間に運んでしまった。

 したがって、機材搬入はわずか十二時間で完了し、誠司、恵一を含む人々の乗り込みは、シーラムム帝国と地球連邦政府の話し合いもあったために一日おいて、2日目に6時間で終了した。
 この、研究陣を中心とした人々の乗り込みはニュースネットに乗って大きく報道され、とりわけ誠司と恵一に関しては、乗り込みの一部始終が放映された。

 マグドラン号は、船内の仕切りが乗る人々の構成によって、フレキシブルに変わるようになっており、誠司一家の部屋は子供用の寝室と夫婦の寝室に加え居間がある構造であり、全体で百㎡もあるような間取りになっている。とは言え皆このようではなく、平均的には同じ家族構成でも半分程度が標準なので、誠司一家はやはり特別扱いであったようだし、恵一も同様に単身としては豪華な部屋であったようようなので、2人はやはり特別扱いはされていた。

 4日後、マグドラン号はデカタル星に到着し、その日のうちに用意されていた宿舎に入った。ノーフォークとは時差3時間のマイナスであるが、薬の力で全員が殆ど影響を受けずその日の睡眠時間の調整だけで対応している。
 翌日、早速イーター対策の全般的な方針について協議があった。

 今のところ研究陣として到着しているのは先進星間国家としては、シーラムム帝国とミザスカス民主共和国の2つに、地球を加えた3か国であったが、巨大惑星人国家としてスミラム帝国がデカタル星の恒星系であるイータル星系の巨大惑星に別途加わって、会議には超空間を通じた立体映像を送りこんでいる。

 スミラム帝国と言えば、誠司が散々世話になった惑星調査艦ラムス323号艦長のジスカル三世が所属する国家である。会議の後、是非ジスカル三世のことを聞いてみようと決心した誠司であった。
 会議は、シーラムム帝国が仕切っており、出席者は先述3か国からの実際の参加者が5人から10人、スミラム帝国からの立体映像が3名であった。

 司会役はシムラン・ミカサム導師であり口火を切る。
「本日はご苦労様でした。皆さん知っての通り今後デカタル星において、銀河防衛機構が構成され、その役割は初期においてはイーターに関する分析と彼らの侵略を防ぐためかつ、彼らを滅ぼすための研究である。その後、侵略防止及びイーター殲滅のための軍事活動が始まることになる。
 現状のところは牧村兄弟の開発したモデルの精密化のためのデータ収集とインプットが進められており、すでにロボット艇3千機を使ってデータの収集を行っており、さらに7千機のロボット艇が3ヵ月以内に増やされ大体2年間で目標とする精度に達する見込みだ」
 この言葉に誠司と恵一は素早い対応に安心し、他の出席者も満足げに頷く。

「さて、今後の方針については、シーラムム帝国としては研究を大きく2つにわけることを提案したい。
 すなわち、ひとつはイーターそのものの研究、内訳としてその生命体の構成及び働き、知的活動のメカニズム、移動のメカニズム、斥力・引力発生のメカニズム、生命力吸引のメカニズム、増殖のメカニズム、生命活動休止の方法などだ。
 次に超空間関係の研究だ。すなわち牧村モデルの完成、次のイーターの攻撃点の特定、遠隔攻撃点への攻撃防止策、超空間を経由していると考えられる宇宙船内への攻撃の防止法、逆に超空間を通してのイーターへの攻撃方法などだ。そういうことで、どうだろうか」
 ミカサム導師はさらに続け、出席者の賛同を得た。

しおりを挟む

処理中です...