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第一章:自罰的な臆病者
第七話 メロアのマジックレッスンday1
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小春がこの世界にやって来てから一夜明けた翌日。
俺たちは魔法の使い方を教わるためにヴァイスオール城の中にある訓練場を訪れていた。
「いやー悪いねメロアちゃん。せっかくの休みの日だったのに俺くんたちのために時間を作ってもらってさ」
「ううん。大丈夫だよ。どっちしろ今日はお城に来る予定だったから」
アポなしで協力をお願いしたにも関わらず、メロアちゃんは嫌な顔一つ見せていない。
元々城に来る予定だったというのは本当だったんだろう。
メロアちゃんにとっては正装とも言える紫のロープと三角帽子を身にまとっているのが何よりの証拠だ。
まぁ……十中八九アキトくんに会いに来たんだろうけど。
「今日は魔法を教えればいいんだよね?」
「そうそう。小春に教えてあげて欲しいんだよ」
「わかった」
俺の言葉に二つ返事で答えると、メロアちゃんは魔法で宙に文字を書き始めた。
「――まずは魔法とは何かについて話していくね。魔法とは……ずばり、異能の力が引き起こす現象の全てだよ」
全てと言うと大袈裟に聞こえるかもしれないが、メロアちゃんの言葉に偽りはない。
異能、能力、アビリティ、スキル、もしくは魔術、さらには魔法。
この世界ではこれらを全て一纏めにして魔法と呼んでおり、魔法の発動に必要なあらゆる力の総称が魔力とされている。
何でも他の世界からも魔法が持ち込まれたことで、魔法の定義が幅広いものになってしまったらしい。
ただそうは言っても分類がない訳ではない。
「大きく分けて魔法には魔法陣が必要な代わりに用意できれば誰でも使用できる術式魔法と、魔法陣がいらない代わりにその人だけしか使えない固有魔法の二つがあるんだよ」
イメージとしてはRPGに出てくるスキルポイントを振れば使える魔法が術式魔法。
異能バトル漫画に出てくるキャラクターたちの能力が固有魔法といった感じだろうか。
「――じゃあ今度は実際に魔力を扱ってみようか」
魔法の概要を説明し終わったことで、メロアちゃんは次のステップへと進む。
「本来だったら入念なイメージ修業が必要なんだけど、時間がないからメロアの感覚を共有して強制的に魔法を使う感覚を覚えて貰うね」
ほらっ、とメロアちゃんが催促すると、小春はおずおずといった感じで手を差し出した。
「いくよ?」
小春の手を優しく握るメロアちゃんは目を閉じる。
かすかに震える空気。
魔力が高まっていくのと同時に小春の周囲を柔い光が包み込む。
やがてその光は二人の重ねた手に収束してき、
「リベラシオン!」
メロアちゃんの掛け声と共に一気に解き放たれた。
「今のが魔力だよ。どう? 魔力を使う感覚は掴めた?」
「ええ。なんとなくだけど……」
「そっか。じゃあ次はメロアの補助なしでやってみて」
「え? もう私だけで?」
「うん。善は急げだよ」
「わかったわ。やってみる。確か……こうすれば良いのよね」
小春は俺たちから距離を取ると、先ほどのメロアちゃんと同じように目をつぶった。
「…………よし」
大きく深呼吸をした後、小春は先ほどと同じように魔力を解き放つ。
「リベラシオン!」
詠唱を終えると同時に高まった魔力が光となり、周囲を明るく照らした。
「やったね! 完璧だったよ小春」
「そ、そう? でも今のって本当の使い方とは違う気がするのよね。本当はもっとこんな風に……」
結果に満足していないのか、小春は目を閉じて手のひらに魔力を収束させる。
次の瞬間、その手には小さな光の矢が握られていた。
「凄い。もう魔力を他の形にできるようになるなんて! しかもこれってただの魔力操作じゃない。小春が今やって見せたのは固有魔法だよ!」
「え? ただ矢を作っただけなのに?」
「うん。魔力を他の形にするのだって立派な魔法だよ。どうやら小春の固有魔法は魔力を光に変換して自由に操れるって感じみたいだね」
「マジかよ……」
あらゆる魔法の構造を読み取る魔眼を持つメロアちゃんが言うなら間違いない。
小春の固有魔法は自ら光を生み出し、そして光を操る能力。
一見シンプルな能力にも思えるが、シンプルと言うことは汎用性が高いということ。
……普通に俺くんの固有魔法よりも強そうなんですが。
「固有魔法は魔法陣に関する知識がいらない代わりに感覚が大事だから、慣れるまで何度も練習するように!」
「何事も地道にってことね。わかったわ。やってみる」
善は急げとばかりに、小春は再び光の矢の生成に取り掛かる。
そうして経つこと十数分。
何本目になるかもわからない光の矢を手にした後、小春はそれを床に投げ捨てた。
「駄目だ。どれだけやっても一向に上手くいかないわ」
「そうなん? 俺くんからしたら調子良さそうに見えたけど」
「全然だめよ。光を矢の形でしか出力できないの。それに肝心の矢だってこのくらいのサイズしか作れないもの」
悔しそうに小春が見せたのは手のひら大の小さな矢。
本来なら自由自在に光を操れるはずの固有魔法で、矢を作ることしかできないというのでは本末転倒だ。
「メロアちゃん、どうしたらいいと思う?」
俺が助けを求めると、メロアちゃんは、
「うーん。わかんないな」
困ったように苦笑いを浮かべた。
「「え?」」
「ご、ごめんね。メロアにとって魔法って気が付いたら自然とできるようになってたものだから、悩んだことがなくて……」
……そういう理由があるのかよ。
でも考えてみたら不思議なことじゃない。
メロアちゃんはこの国一番の天才魔法使い。
そもそも魔法で困ったことがないんだ。
「一応聞いておくけど氷夜は何か解決策とか思いつく?」
「いや、さっぱりだよ。俺くんの固有魔法は小春とタイプが違うからね」
「そっか。困ったわね。誰か私と似たような固有魔法が使える人はいないかしら」
なんて小春が呟いたその時だった。
「ふっふっふ。話は聞かせてもらいましたよぉ~」
訓練場に響く元気な声。
「そ、その声は!」
俺がノリ良く前振りを投げかけると、黒髪の三人組が颯爽と現れた。
「不肖、岩端恵!」
「川戸秀文!」
「……南山紫苑」
「「「クラン《明日の晩飯亭》! ここに参上!」」」
三者三様のテンションで独特のキメポーズを披露する明日の晩飯亭の面々。
そんな彼らに小春はしばらく唖然としていたが、我に返ったのか急に俺の袖を引っ張った。
「ねえ氷夜、この人たちって」
「そうだよ。俺らと同じ転移者さ」
クラン・明日の晩飯亭。
リーダー格の高身長イケメン川戸秀文くんと、しっかり者で姉御肌の紫苑ちゃん。
そして唯一の後輩であり、オタクとギャルを兼任する恵ちゃん。
以上の三人で構成された冒険者パーティである。
構成的には正幸くんのところと似ているが、彼らとは違ってハーレムではない。
仲良し三人組と言った方がしっくり来る感じだ。
「でも急にどうしたのさ? みんなは滅んだ街の調査に行ってたんじゃなかったけ?」
いつまでもポーズを決めたまま動かない彼らに疑問をぶつけると、リーダーの秀文くんが爽やかに答えてくれた。
「二人の活躍で予定よりも早く終わったんだ。この街には今日帰ってきたところさ。アキトへの報告も既に済ませている」
「さっすがぁ! 仕事が早い!」
と、ここまで来てなんとなく察しがついた。
小春のことはアキトから聞いたのだろう。
日本から人がやって来るなんて一大ニュースだし。
「要するに……小春に会いに来たってことね」
「俺は高白にも会いにきたつもりだよ」
そんなこと気にしてないってのに俺くんまで気遣ってくれる紳士っぷり。
涙が出ますよ。
「それはともかく、小春は魔法のイメージ修業に困ってるんだよね?」
「ええ」
「イメージ修業なら私たちにお任せください! 同じ転移者としてサポートさせててください!」
「ありがと。お言葉に甘えることにするわ」
「じゃあ、あっちの的を使ってやろうか。恵は分析を頼む」
秀文くんからの指令に「合点です」と返すと、恵ちゃんは小春の手を取った。
「ささっ! 小春先輩はこちらへ。これからみっちり布教しますからね」
「え、え? 布教?」
「気にしなくていいよ。いつものことだから」
恵ちゃんのノリについていけていない小春を励ましつつ、紫苑ちゃんは俺に小声で言う。
「高白。この子借りてくよ」
「あ、ああ、うん」
……借りていくも何もそれは俺が決めることじゃない。
「ちょっと? 氷夜~!」
いつになくハイテンションな岩端ちゃんによって、小春はぐいぐいと引っ張られていった。
「……あーあ。小春を取られちゃったな。せっかくメロアが魔法を教えてたのに」
「珍しいねメロアちゃんがそういうこと言うなんて」
「うん。ちょっとね。肝心なところで役に立たなかったことで自己嫌悪」
「ふーん」
俺には共感できないが、メロアちゃんの考えはなんとなくわかる。
役に立たなきゃアキト様の傍にいられないだとか。
きっとそんな見当違いのことを考えているのだ。
臣下想いのアキトくんがそんなこと思うはずがないだろうに。
「――でもひよよんは小春と一緒にいてあげなくていいの? ひよよんは小春と幼馴染なんだよね?」
「良いも何も俺と小春はただの幼馴染でしかないからね。幼馴染だからって、いついかなる時も一緒にいなきゃいけないなんてこともないでしょ?」
そう、一緒にいる必要なんてない。
だから努めて冷静に俺は理由を絞り出す。
「それに小春だって俺くんがいたら邪魔だろうし」
「そうかな? 小春はそこまでひよよんのこと嫌ってないと思うよ。でも、ひよよんが納得してるならメロアが気にすることもないね」
「そうそう。心配ナッシング。てか俺よりメロアちゃんの方こそどうなのさ? アキトくんとは進展あった?」
「はぅう! しししし、進展なんて何もないよ!」
「うっそだぁ。氷夜くん、アキトくんさんがメロアちゃんと二人でいるところ見ちゃったけど?」
「あ、あれは………ただの書類整理の手伝いで……」
「仕事だろうが何だろうがデートには変わりがないって。アキトくんもメロアちゃんのこと大事に想ってるってことだよ」
「えへへ。そうだといいな」
……その笑顔を見せたらアキトくんもイチコロだよ。
なんて言うのは俺くんらしくないのでやめておいた。
「……ひよよん、ありがとうね。ひよよんのおかげで少し自信ついたかも!」
「いやいや。俺は思ったことを言ったまでだって」
……ああ、やっぱりメロアちゃんといると落ちつくな。
だって気にしなくていい。
メロアちゃんの視界に俺はいない。
メロアちゃんの瞳に映るのはいつだってアキトくんだけ。
アキトくん以外の誰もがメロアちゃんの特別にはなりえない。
だから本当の自分が嫌われることもない。
誰かの特別になれないという劣等感にも苛まれずに済む。
「ひよよん、どうしたの? 怖い顔してるけど」
「何でもないよ。小春はどうなってるかなって気になっただけ」
「なんだ。やっぱり気になってたんだ」
「まぁ。魔法を使えるようになってもらわないと困るし……ってマジ!?」
目に飛び込んできた光景に思わず息を呑む。
なんと、そこには複数の光の玉を操る小春の姿があった。
「……驚いたね。まさかこんなに早く使いこなせるようになるなんて」
「ありがと。でも私は全然大したことない。全部みんなのおかげよ」
「何言ってるんですか! 鈴崎先輩は普通に凄い。いや凄すぎますよ!」
そう。
凄いなんてもんじゃない。
球状の魔力体を複数も使役しようとすると、魔力を球体で維持するのとそれらを操るという二つの動作が必要となる。
言うなれば5桁の掛け算を暗算で行いながらジェンガを組み立てているようなものだ。
いくら感覚的な操作が可能な固有魔法とはいえ、並大抵なことじゃない。
それをたった一瞬で習得するなんて。
あれ? 小春って異世界系の主人公?
「……すっかり追い抜かれちゃったね、ひよよん」
「はいはい。俺くんの負けですよ」
いや、まあ?
小春に魔法の才能があることは素直に嬉しいんだけどさ。
それでも悔しい部分はあるわけで。
「……今度からもっとまじめに魔法の勉強をしよう」
俺はそう密かに誓ったのだった。
俺たちは魔法の使い方を教わるためにヴァイスオール城の中にある訓練場を訪れていた。
「いやー悪いねメロアちゃん。せっかくの休みの日だったのに俺くんたちのために時間を作ってもらってさ」
「ううん。大丈夫だよ。どっちしろ今日はお城に来る予定だったから」
アポなしで協力をお願いしたにも関わらず、メロアちゃんは嫌な顔一つ見せていない。
元々城に来る予定だったというのは本当だったんだろう。
メロアちゃんにとっては正装とも言える紫のロープと三角帽子を身にまとっているのが何よりの証拠だ。
まぁ……十中八九アキトくんに会いに来たんだろうけど。
「今日は魔法を教えればいいんだよね?」
「そうそう。小春に教えてあげて欲しいんだよ」
「わかった」
俺の言葉に二つ返事で答えると、メロアちゃんは魔法で宙に文字を書き始めた。
「――まずは魔法とは何かについて話していくね。魔法とは……ずばり、異能の力が引き起こす現象の全てだよ」
全てと言うと大袈裟に聞こえるかもしれないが、メロアちゃんの言葉に偽りはない。
異能、能力、アビリティ、スキル、もしくは魔術、さらには魔法。
この世界ではこれらを全て一纏めにして魔法と呼んでおり、魔法の発動に必要なあらゆる力の総称が魔力とされている。
何でも他の世界からも魔法が持ち込まれたことで、魔法の定義が幅広いものになってしまったらしい。
ただそうは言っても分類がない訳ではない。
「大きく分けて魔法には魔法陣が必要な代わりに用意できれば誰でも使用できる術式魔法と、魔法陣がいらない代わりにその人だけしか使えない固有魔法の二つがあるんだよ」
イメージとしてはRPGに出てくるスキルポイントを振れば使える魔法が術式魔法。
異能バトル漫画に出てくるキャラクターたちの能力が固有魔法といった感じだろうか。
「――じゃあ今度は実際に魔力を扱ってみようか」
魔法の概要を説明し終わったことで、メロアちゃんは次のステップへと進む。
「本来だったら入念なイメージ修業が必要なんだけど、時間がないからメロアの感覚を共有して強制的に魔法を使う感覚を覚えて貰うね」
ほらっ、とメロアちゃんが催促すると、小春はおずおずといった感じで手を差し出した。
「いくよ?」
小春の手を優しく握るメロアちゃんは目を閉じる。
かすかに震える空気。
魔力が高まっていくのと同時に小春の周囲を柔い光が包み込む。
やがてその光は二人の重ねた手に収束してき、
「リベラシオン!」
メロアちゃんの掛け声と共に一気に解き放たれた。
「今のが魔力だよ。どう? 魔力を使う感覚は掴めた?」
「ええ。なんとなくだけど……」
「そっか。じゃあ次はメロアの補助なしでやってみて」
「え? もう私だけで?」
「うん。善は急げだよ」
「わかったわ。やってみる。確か……こうすれば良いのよね」
小春は俺たちから距離を取ると、先ほどのメロアちゃんと同じように目をつぶった。
「…………よし」
大きく深呼吸をした後、小春は先ほどと同じように魔力を解き放つ。
「リベラシオン!」
詠唱を終えると同時に高まった魔力が光となり、周囲を明るく照らした。
「やったね! 完璧だったよ小春」
「そ、そう? でも今のって本当の使い方とは違う気がするのよね。本当はもっとこんな風に……」
結果に満足していないのか、小春は目を閉じて手のひらに魔力を収束させる。
次の瞬間、その手には小さな光の矢が握られていた。
「凄い。もう魔力を他の形にできるようになるなんて! しかもこれってただの魔力操作じゃない。小春が今やって見せたのは固有魔法だよ!」
「え? ただ矢を作っただけなのに?」
「うん。魔力を他の形にするのだって立派な魔法だよ。どうやら小春の固有魔法は魔力を光に変換して自由に操れるって感じみたいだね」
「マジかよ……」
あらゆる魔法の構造を読み取る魔眼を持つメロアちゃんが言うなら間違いない。
小春の固有魔法は自ら光を生み出し、そして光を操る能力。
一見シンプルな能力にも思えるが、シンプルと言うことは汎用性が高いということ。
……普通に俺くんの固有魔法よりも強そうなんですが。
「固有魔法は魔法陣に関する知識がいらない代わりに感覚が大事だから、慣れるまで何度も練習するように!」
「何事も地道にってことね。わかったわ。やってみる」
善は急げとばかりに、小春は再び光の矢の生成に取り掛かる。
そうして経つこと十数分。
何本目になるかもわからない光の矢を手にした後、小春はそれを床に投げ捨てた。
「駄目だ。どれだけやっても一向に上手くいかないわ」
「そうなん? 俺くんからしたら調子良さそうに見えたけど」
「全然だめよ。光を矢の形でしか出力できないの。それに肝心の矢だってこのくらいのサイズしか作れないもの」
悔しそうに小春が見せたのは手のひら大の小さな矢。
本来なら自由自在に光を操れるはずの固有魔法で、矢を作ることしかできないというのでは本末転倒だ。
「メロアちゃん、どうしたらいいと思う?」
俺が助けを求めると、メロアちゃんは、
「うーん。わかんないな」
困ったように苦笑いを浮かべた。
「「え?」」
「ご、ごめんね。メロアにとって魔法って気が付いたら自然とできるようになってたものだから、悩んだことがなくて……」
……そういう理由があるのかよ。
でも考えてみたら不思議なことじゃない。
メロアちゃんはこの国一番の天才魔法使い。
そもそも魔法で困ったことがないんだ。
「一応聞いておくけど氷夜は何か解決策とか思いつく?」
「いや、さっぱりだよ。俺くんの固有魔法は小春とタイプが違うからね」
「そっか。困ったわね。誰か私と似たような固有魔法が使える人はいないかしら」
なんて小春が呟いたその時だった。
「ふっふっふ。話は聞かせてもらいましたよぉ~」
訓練場に響く元気な声。
「そ、その声は!」
俺がノリ良く前振りを投げかけると、黒髪の三人組が颯爽と現れた。
「不肖、岩端恵!」
「川戸秀文!」
「……南山紫苑」
「「「クラン《明日の晩飯亭》! ここに参上!」」」
三者三様のテンションで独特のキメポーズを披露する明日の晩飯亭の面々。
そんな彼らに小春はしばらく唖然としていたが、我に返ったのか急に俺の袖を引っ張った。
「ねえ氷夜、この人たちって」
「そうだよ。俺らと同じ転移者さ」
クラン・明日の晩飯亭。
リーダー格の高身長イケメン川戸秀文くんと、しっかり者で姉御肌の紫苑ちゃん。
そして唯一の後輩であり、オタクとギャルを兼任する恵ちゃん。
以上の三人で構成された冒険者パーティである。
構成的には正幸くんのところと似ているが、彼らとは違ってハーレムではない。
仲良し三人組と言った方がしっくり来る感じだ。
「でも急にどうしたのさ? みんなは滅んだ街の調査に行ってたんじゃなかったけ?」
いつまでもポーズを決めたまま動かない彼らに疑問をぶつけると、リーダーの秀文くんが爽やかに答えてくれた。
「二人の活躍で予定よりも早く終わったんだ。この街には今日帰ってきたところさ。アキトへの報告も既に済ませている」
「さっすがぁ! 仕事が早い!」
と、ここまで来てなんとなく察しがついた。
小春のことはアキトから聞いたのだろう。
日本から人がやって来るなんて一大ニュースだし。
「要するに……小春に会いに来たってことね」
「俺は高白にも会いにきたつもりだよ」
そんなこと気にしてないってのに俺くんまで気遣ってくれる紳士っぷり。
涙が出ますよ。
「それはともかく、小春は魔法のイメージ修業に困ってるんだよね?」
「ええ」
「イメージ修業なら私たちにお任せください! 同じ転移者としてサポートさせててください!」
「ありがと。お言葉に甘えることにするわ」
「じゃあ、あっちの的を使ってやろうか。恵は分析を頼む」
秀文くんからの指令に「合点です」と返すと、恵ちゃんは小春の手を取った。
「ささっ! 小春先輩はこちらへ。これからみっちり布教しますからね」
「え、え? 布教?」
「気にしなくていいよ。いつものことだから」
恵ちゃんのノリについていけていない小春を励ましつつ、紫苑ちゃんは俺に小声で言う。
「高白。この子借りてくよ」
「あ、ああ、うん」
……借りていくも何もそれは俺が決めることじゃない。
「ちょっと? 氷夜~!」
いつになくハイテンションな岩端ちゃんによって、小春はぐいぐいと引っ張られていった。
「……あーあ。小春を取られちゃったな。せっかくメロアが魔法を教えてたのに」
「珍しいねメロアちゃんがそういうこと言うなんて」
「うん。ちょっとね。肝心なところで役に立たなかったことで自己嫌悪」
「ふーん」
俺には共感できないが、メロアちゃんの考えはなんとなくわかる。
役に立たなきゃアキト様の傍にいられないだとか。
きっとそんな見当違いのことを考えているのだ。
臣下想いのアキトくんがそんなこと思うはずがないだろうに。
「――でもひよよんは小春と一緒にいてあげなくていいの? ひよよんは小春と幼馴染なんだよね?」
「良いも何も俺と小春はただの幼馴染でしかないからね。幼馴染だからって、いついかなる時も一緒にいなきゃいけないなんてこともないでしょ?」
そう、一緒にいる必要なんてない。
だから努めて冷静に俺は理由を絞り出す。
「それに小春だって俺くんがいたら邪魔だろうし」
「そうかな? 小春はそこまでひよよんのこと嫌ってないと思うよ。でも、ひよよんが納得してるならメロアが気にすることもないね」
「そうそう。心配ナッシング。てか俺よりメロアちゃんの方こそどうなのさ? アキトくんとは進展あった?」
「はぅう! しししし、進展なんて何もないよ!」
「うっそだぁ。氷夜くん、アキトくんさんがメロアちゃんと二人でいるところ見ちゃったけど?」
「あ、あれは………ただの書類整理の手伝いで……」
「仕事だろうが何だろうがデートには変わりがないって。アキトくんもメロアちゃんのこと大事に想ってるってことだよ」
「えへへ。そうだといいな」
……その笑顔を見せたらアキトくんもイチコロだよ。
なんて言うのは俺くんらしくないのでやめておいた。
「……ひよよん、ありがとうね。ひよよんのおかげで少し自信ついたかも!」
「いやいや。俺は思ったことを言ったまでだって」
……ああ、やっぱりメロアちゃんといると落ちつくな。
だって気にしなくていい。
メロアちゃんの視界に俺はいない。
メロアちゃんの瞳に映るのはいつだってアキトくんだけ。
アキトくん以外の誰もがメロアちゃんの特別にはなりえない。
だから本当の自分が嫌われることもない。
誰かの特別になれないという劣等感にも苛まれずに済む。
「ひよよん、どうしたの? 怖い顔してるけど」
「何でもないよ。小春はどうなってるかなって気になっただけ」
「なんだ。やっぱり気になってたんだ」
「まぁ。魔法を使えるようになってもらわないと困るし……ってマジ!?」
目に飛び込んできた光景に思わず息を呑む。
なんと、そこには複数の光の玉を操る小春の姿があった。
「……驚いたね。まさかこんなに早く使いこなせるようになるなんて」
「ありがと。でも私は全然大したことない。全部みんなのおかげよ」
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そう。
凄いなんてもんじゃない。
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言うなれば5桁の掛け算を暗算で行いながらジェンガを組み立てているようなものだ。
いくら感覚的な操作が可能な固有魔法とはいえ、並大抵なことじゃない。
それをたった一瞬で習得するなんて。
あれ? 小春って異世界系の主人公?
「……すっかり追い抜かれちゃったね、ひよよん」
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いや、まあ?
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木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
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