Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

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第一章:自罰的な臆病者

第九話 必殺技を身につけよう

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「ねえ氷夜。伸びしろがないってどういう意味なの?」

 メロアちゃんが去った後、二人だけになった訓練場で小春がふと尋ねてきた。

「どうも何もそのままの意味だよ。固有魔法を極めてて伸びしろがないってこと」

「へぇ……あんたがねぇ。あんたの固有魔法ってそんな凄いものだったの?」

「そりゃそうさ。なんたって俺くんの固有魔法は全てを否定する力。虚構世界ホロウ・ザ・ワールド

「――本当は?」

「えーっと……言わなきゃダメ?」

「駄目に決まってるでしょ。隠さなきゃいけないものでもないんだし」

 確かに。
 正論すぎて反論の余地などない。
 俺は腰にぶら下げていた剣に手を伸ばし、渋々といった感じで固有魔法を発動させた。

完成された孤高の所業マスターオブディード

 魔法の発動と共に浮遊し始める鉄の剣。

「よっと」

 円を描くように手をくるくるとさせると、剣も同じように回転していく。
 だがそれも長くは続かない。
 十秒ほど経ったところで、剣は力を失ったかのように地面に落下した。

「これが俺の固有魔法・完成された孤高の所業マスターオブディードさ。触れた物をティッシュをゴミ箱に放り投げる程度の速さで動かすことができるっていうゴミ魔法だよ」

 これで触れた物ならなんでも動かせますって魔法だったらまだ良かったんだけど、
 残念ながら動かせる物は俺くんが持つことができる物に限られている。

「そう見せ変えて実は違う能力でした~とか、応用が凄い効きます~とかはないの?」

「ないよ。そんなのあるわけないじゃん」

 にべもない現実を口にすると、小春は一言。

「――氷夜って名前だけは異世界モノの主人公なのにね」

「やかましいわい!」

 あんまりひどいことを言われたら氷夜くん泣いちゃうよ?
 ほんとに泣いちゃうよ?

「って俺くんのことより今は小春のことだよ! ずばり固有魔法を実戦で使いこなすには何が大事だと思う?」

「さりげなく話を変えたわね。まぁ……いいわ。何が大事かって言われても正直何も思いつかないわ。やっぱり実際に魔物と戦ってみた方がいいのかしら」

「いや、まぁそれも大事だけど最も大切なことがあるでしょ?」

「?」

 察しが悪いのか小春は首をかしげるだけだ。

「名前だよ名前。まずは自分の固有魔法に名前をつけるところから始めないと」

「名前って……自分の固有魔法に名前をつけたくらいで何が変わるのよ」

「変わるも変わる。小春のその固有魔法にしたってそうさ。魔力を光に変換して自在に操る魔法ですって長ったらしい説明よりも一言でばしっと表せた方が良くない?」

「それは……そうだけど……」

「小春の魔法は出来ることが多すぎるから、戦闘においては魔法の範囲を限定してみるのもいいと思うんですよ。名前をつけるのにはそういう意味合いもあるっってことさ」

「……確かに一理あるわね。例えば名前をつけるの?」

「そうだな。小春の魔法を『光で武器を作り出す魔法』と再定義したとして……ライトニングクリエイションとか?」

「随分と安直なネーミングね」

「安直でいいんだよ。変に複雑にしたら自分でもわけわかんなくなっちゃうし。俺くんの固有魔法なんて完成された孤高の所業だよ?」

「どうしてかしら。私にはとても一言で表した言葉には聞こえないけど」

「俺にとってわかりやすければそれでいいの。そもそもマスターオブディードの由来は……」

「どうでもいい情報をどうもありがとう。私は私独自のやり方でいくわ」

 もう付き合ってられないと判断したのか、小春は俺の話を途中でぶった切った。

「ちょちょちょ早いって。まだ諦める段階じゃないって」

「あんたにだけは言われたくないわよ、それ」

「まぁまぁそう言わずに。名前はさておき光で武器を作り出すって方はどうよ?」

「うん。そっちは問題ないわよ。それくらい簡単な方がわかりやすいもんね。ただ武器って何を作ればいいのかしら?」

「そんなの何でもいいんだよ。剣を作っても槍を作ってもいい。武器を掃射するだけでも十分効果はあるんだし、別に小春が使いこなす必要なんてない。イメージしづらいなら嫌いな相手のことを想像してみたら?」

「そうね…………やってみる」

 やけに俺の方を見つめてきた後、小春はそっと目を閉じた。

「…………」

 小春の魔力に触れて渦を巻く空気。
 術式魔法の時とは比べ物にならない程の魔力が収束していくのがわかる。
 そうして収束した魔力が輝きだした次の瞬間、小春の右手には光の鞭が握られていた。

「こんな感じで良いのかしら?」

「おお! それだよそれ。なんで鞭なのかってことはひとまず触れないでおくとして、そんな感じで武器を作れれば魔物とも戦えるんじゃない?」

 ここまでは第一段階。
 俺くんの真の目的はこの後にある。

「という訳でお次は詠唱言ってみよう!」

「はぁ? なんでそうなるのよ?」

「わかってないなぁ。せっかく名前をつけたのに詠唱しないなんてもったいな……じゃなくて意味がないんだよ。固有魔法だって魔法の一つ。もちろん術式魔法と違って詠唱がなくても使えるけど、きちんと詠唱してあげないと威力が出ない。この理屈はオーケイ?」

「え、ええ」

「じゃあ出来るよね」

「嫌よ! あんたが名付けたダサい魔法なんて死んでも嫌!」

「別に他に案があるならそっちでもいいけど?」

「……っともかく嫌なものは嫌なの。だいたい詠唱がなくたって使えるならそれで充分じゃない」

 くっ……思ってたよりも抵抗するな。
 確かに小春の言うことは一理ある。
 というか正しいまである。

 固有魔法において詠唱は重要な要素ではない。
 あってもなくても変わらないもの、それが固有魔法における詠唱。
 転移者ではない現地の人の中にも好き好んで詠唱している人はいるが、はっきり言って趣味の域を出ない。

 ではなぜ嘘の説明をしてまで小春に詠唱をさせたいかと聞かれたらそれは……単純に厨二病仲間を増やしたいという俺の願望に他ならないわけで、


「ほほーん。氷夜くんわかっちゃったぞ。さては小春恥ずかしいのか」

 俺は作戦を変えてみることにした。

「っ!?」

「図星か。恥ずかしいからって躊躇はいけないな。ほら、俺くんと一緒に言ってみようよ。ライトニングクリエイション!」

「…………」

「気持ちは理解するけどさ。日本に帰りたいだったらやらないと。そもそも術式魔法の時は意気揚々と詠唱してたじゃん。あれと同じ要領で……」

「……ラ、ライトニングクリエイション」

「そうこなくっちゃ」

 よっし。
 ガッツポーズが出そうになるのを必死に抑えつつ、俺はさらに小春を煽る。

「でも声が小さいな。小春の全力ってそんなものだっけ?」

「くっ……ライトニングクリエイション」

「まだまだ小さい!」

「ライトニングクリエイション!」

「もういっちょ!」

「ライトニング…………」

 四回目にしてようやく小春が吹っ切れそうになったその時だった。

「……ただいま二人とも」

「メロアっ!?」

「お、おかえりメロアちゃん」

 慌てて振り向く俺たちにメロアちゃんは屈託のない笑みを見せながら聞いてくる。

「うん、ただいま。二人は何をしてたの?」

「な、なななんでもないって!」

「その割にはなんか変な呪文が……」

「あっ、あ、あー! 気のせいだと思うよ。俺くんたちはいつも通りにしてただけだし。俺くんいっつも奇抜なことしてるから、それを何かと勘違いしたんじゃないかな?」

「確かに。ひよよんが変なのはいつものことだもんね」

「でしょでしょ。あははは…………」

 危ない危ない。
 メロアちゃんに事の経緯が知られたら、俺の嘘までバレてしまう。

「誤魔化してくれてありがと」

「ま、まぁね」

 小春には奇跡的な勘違いをされたが、感づかれるのも時間の問題だろう。
 俺は逃げるように話題を逸らした。

「そんなことよりメロアちゃん、何か持ってくるって言ってたけど……」

「あ、そのことなんだけど……ちょっと予定が変わってね。二人さえ良ければメロアの仕事に付き合ってくれないかな?」

「え? 仕事? メロア今日は暇だって言ってたじゃない?」

「うん。本当にそうだったんだよ。でもついさっき魔物を退治してくれって頼まれちゃったんだ」

 話を聞くところによると依頼主はこの城の総料理長だそうだ。
 何でも彼が漁場でその日の食材を集めていた際に魔物に襲われたらしい。
 幸いにも彼に怪我はなかったものの、魔物の妨害で食材は採れないまま。
 城になんとか逃げ帰り、どうしようかと途方に暮れていたところに近くを通りかかったメロアちゃんと鉢合わせて……今に至るという訳らしい。

「わざわざメロアちゃんに頼むってことはやばい奴?」

「ううん。そこまでじゃないと思うけど、危険度が高くないわりに緊急性が高い案件でね。他に動ける人もいなかったからメロアに出番が回って来たみたい。魔物と戦うのは良い経験になると思うんだけど……二人もどうかな?」


「俺くんはノープロブレム! 小春は?」

「別に構わないわよ。ちょうど魔物相手に魔法を試してみたいと思ってたところだったもの」

 メロアちゃんの提案を受け入れつつも、小春は疑問を口にする。

「でも漁場なんてこの街の近くにあった? 遠出をするならカトレアさんに遅くなるって伝えときたいんだけど……」

「ふふふ。それなら大丈夫だよ。漁場は意外と近くにあるから」

「そ、そうなの?」

「マジのマジだって。まぁ……実際に見て貰った方が早いんじゃないかな」

「ん?」

 ハイテンションのメロアちゃんと事態をよく理解できていない小春。
 どこかで見たことがあるような構図に既視感を抱きながら、俺は漁場へと向かって歩き出したのだった。
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