Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

文字の大きさ
18 / 50
第一章:自罰的な臆病者

第十七話 迷宮攻略③

しおりを挟む
「着いたぞ」

 そこは宝物庫というには余りにも厳かな空間であった。
 神殿を思わせる構造の建造物と中央に位置する三つの台座。
 物語でお馴染みの金銀財宝などはどこにもないが、それぞれの台座に置かれたアイテムが光を反射して神秘的な雰囲気を醸し出している。

「あの台座に飾られてるのがこの迷宮の宝でいいんだな?」

「そうじゃ。ズィルバーク王国にとって特に重要な三つの宝を保管しておる。右のが宝剣レスティンギル、そして真ん中にあるのが時空石じゃ。左のは……おぬしらが知る必要もないじゃろう」

「ええ。私たちとしては時空石さえ手に入ればそれでいいわ」

「そうじゃったな。そこで少し待っておれ」

 ジャストラーデは台座に近づくと、三つの宝を持って戻ってきた。

「これが迷宮の宝じゃぞ。誰が渡せばいいんじゃ? 別に誰が受け取っても儂は構わんぞ」

「――だったら俺様が受けとるぜ」

「ふむ。おぬしか」

「ああ、俺様もこの迷宮を攻略した者の一人だ。受け取る権利くらいあると思うぜ」

「そうじゃな。他に欲しい者がいなければこやつに渡すが………」

「どうせ後でアキトに渡すんだから誰でもいいわよ」

「おぬしの言う通りじゃな。ではこやつに託すとしよう」

 ジャストラーデは正幸くんに迷宮の宝を渡そうと手を伸ばす。
 だが、何を思ったのかすぐに手をひっこめた。

「………どうした?」

「いや、おぬしにはこやつを求める動機を聞いていなかったと思ってな。今一度聞いておこう。おぬしは何のために時空石を求めるのじゃ?」

「はぁ……こうなっちまったら仕方ねえな」

 ジャストラーデの問いに答えるわけでもなく、意味深な笑みを浮かべる正幸くん。
 次の瞬間、辺りに血しぶきが舞った。

「え?」

 それは一瞬のことだった。
 正幸くんが軽やかに短剣を抜き、ジャストラーデの体を両断したのだ。
 余りにも唐突にすぎる行動に俺たちは誰も反応できていない。
 俺たちが事態に気が付いたのは剣から発生した衝撃波でジャストラーデが壁に叩きつけられた後だった。


「ジャストラーデ!」

「ぐふ……儂としたことが油断したわ」

「っ!?」

 ……ひどい。
 胸がばっくりと割れている。
 それだけじゃない。
 雷に打たれた時のように全身に魔力が流れ込んであらゆる部位を破壊している。
 これではもう…………

「……儂のことは気にするな。それよりも今は…………ぐふっ」

「もういいわ。しゃべらないで!」

「ふっ……小娘にまで気を遣われるとはな…………小僧。おぬしに迷宮の宝を託す。儂に代わって当代の王に届けてくれ」

「わかった」

 ジャストラーデのぼろぼろの手から俺たちはそれぞれこの迷宮の宝物を受け取る。
 それを見届けると、ジャストラーデはキレイな光になって消滅していった。

「なんでよ!」

 静けさを取り戻した迷宮に響く小春の悲痛な声。

「どうしてジャストラーデを殺したのよ!?」

 怒涛の勢いで詰め寄る小春に対し、正幸くんはあっさりと答えた。

「俺様の野望のため、ひいては世界を繋げるためだ」

「世界を繋げるですって?」

「ああ、お前らと違って俺様には帰るべき世界が二つある。その二つの世界を繋げるんだよ」

「それは……どういう」

「もー物分かりが悪い人ですね。正幸様にとってこの世界は二つ目の異世界ということです」

 呆れたとばかりにわざとらしく肩をすくめるセシリアちゃん。
 彼女に続いて他の二人も口を挟む。

「正幸様はこの世界に来る前、私たちの世界にいらっしいました。そして魔王を打倒し世界を救ってくださったのです」

「……正幸は英雄。私たちの世界にとって欠かせない人物。でも正幸にも故郷はある」

「日本のことか」

「そうだ。セシリアたちの世界を救った後、俺様は日本に帰る手段を探していた。そうして実験を繰り返している内にこの世界に迷い込んじまった」

「んでこの世界に来て時空石の存在を知ったと」

「そういうことだ。何でも時空石があれば自由に異世界転移ができるそうじゃねえか。だったら何も帰るだけなんてけち臭い考えにこだわる必要はねえ。時空石を持ち帰って日本とセシリアたちの世界を繋げちまえばいい」

「じゃあ、あんたは最初からアキトとの約束を守るつもりなんて……」

「ねえよそんなもん。馬鹿正直に城に持ち帰ったらそのままこの国の奴らに接収されるのがオチだ。あいつが時空石を他の世界に持ち出すのを許可するわけがねえ」

「だとしても他に方法はあったはずよ! ジャストラーデを殺す必要はなかったでしょ!」

「甘いな。ここは異世界。弱肉強食の世界だ。日本での常識は通用しない。それに最大の脅威を最優先で排除するってのは別に不思議なことじゃねえだろ?」

「くっ………」

 まずい。
 正幸くんの言動から考えて話し合いで解決するとは思えない。
 どうにかしてこの場を切り抜けないと。
 なんて考えこんでいたからだろうか。
 俺は小春の様子に気付かなかった。

「――動かないで」

 正幸くんの喉元に魔力で構成された槍を差し向ける小春。
 対する正幸くんは自分を睨みつける小春を涼しい顔で眺めている。
 両者の間に漂う雰囲気はまさに一触即発といった感じで、事態が最悪の方向に向かっていくのがわかる。

 だけどこうなってしまったらもう止められない。
 下手に俺が小春を止めに行こうとしたら、正幸くんに二人ともやられる恐れがある。
 俺は黙って事の成り行きを見守るしかなかった。


「おいブス。なんのつもりだ?」

「ジャストラーデを殺し、時空石を奪おうとするあんたを許すわけにはいかないわ。このまま地上に連れて行ってしかるべき場所に送り届けるのよ。そこであんたの罪を裁いて貰うわ」

「はぁ…………仕方ねえな」

「ちょっと! 聞いてるの!?」

「ああ、めんどくせえ」

「だから動かないで言って言ってるのよ! これ以上動いたら…………」

「――強奪バンデッドハンド

 小春の警告を全くに意に介していないのか、正幸くんは自身の喉元に向けられた光の槍に手を伸ばす。
 次の瞬間、その手には小春が持っていたはずの槍が握られていた。

「い、一体何が起きてるの!?」

 驚く小春に正幸くんは見せびらかすように奪った槍を突き付ける。

「これが俺のスキル・強奪《バンデッドハンド》だ。たった今、お前のスキルは俺様の物になった」

「そ、そんな馬鹿なことがっ!? ライトニング…………っ!?」

 小春は慌てて詠唱を始めるが、何も起こらない。

「どうして? どうして魔力が形にならないのよっ!?」

「何度やっても無駄だぜ。それはだ。どれだけ足掻いてもお前にはもう使えねえよ」

 自分の力を誇示しながら正幸くんは一歩前に出て、

「――チェックメイトだ」

「え?」

 そして呆然とする小春に突き付けられる光の槍。

「っ!」

 俺は本能的に小春の前に割って入り、槍に腹を貫かれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...