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第一章:自罰的な臆病者

第十六話 迷宮攻略②

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 続く第三階層。
 階段を駆け下りてきた先にあったのは古びた闘技場だった。
 明らかに先ほどまでの階層とは異なる雰囲気に空気が張り詰める。

「トラップがあるようには見えませんが一応警戒を。おそらくこの階が最後。迷宮の主がいるはずです」

「了解」

 恵ちゃんの忠告を受けて俺たちはより慎重に奥へと進んでいく。
 ――と。

「よくぞ参った人の子よ」

「っ!?」

 こちらが驚く暇もないままに声の主は姿を現す。

「儂はこの迷宮の主、ジャストラーデ。この迷宮の管理を任された者だ。いくつもの罠を乗り越えここまで来た勇気、褒めてやろう」

 そいつ、ジャストラーデはなんというか……でかいカブトムシだった。
 3メートルはありそうな巨体とそれを覆いつくす漆黒の外骨格。
 頭部からは特徴的なツノが真っすぐと伸びており、六本もある足を使って上手く直立している。
 感じる魔力も今までの魔物の比ではない。
 ……ってちょっと待って。

「ま、魔物がしゃべってる?」

「こら小僧! 誰が魔物だ!」 

「え?」

「儂は精霊。ちんけな魔物なんぞと一緒にするでない!」

「す、すみません」

 やべっ。
 いきなり地雷を踏み抜いた。
 怒らせるのは本意ではなかったので俺は深々と頭を下げる。
 すると頭上から落ち着いた声が降ってきた。

「まぁいい。数百年ぶりの客人だ。多少の粗相は見逃そう。次はないぞ?」

「気を付けます」

 ふぅ……良かった。
 堅物そうな雰囲気を漂わせてはいるが、本人は温厚みたいだ。
 にしてもまさか迷宮の主と意思疎通が出来るとは思いもしなかった。
 今までに発見された迷宮では迷宮の主は誰もが魔物で、攻略者を見るなり襲ってきたと伝え聞く。
 そういったことからもこの迷宮は他の迷宮とは違っていることがわかる。
 ……俺くんも気を引き締めないと。

「ところでおぬしたち、この迷宮の宝物庫に眠る時空石を求めてきたのだろう?」

「……なぜそれがわかった?」

 質問に質問で返す正幸くんにジャストラーデはあっさりと答える。

「この迷宮に挑む目的を考えればそれしかなかろう。しかしておぬしたちは何のために時空石を望む?」

「そんなの決まってるわ。元の世界に帰るためよ」

「元の世界? するとおぬしらはこの世界の住人ではないかのか?」

「はい。私たちは他の世界から転移して来たんです。少し長くなりますが聞いてください」

 丁寧な前置きをしてから恵ちゃんは語り出した。
 2年前に国中を巻き込む内乱が起きたこと。
 その際に悪用を防ぐため、国中の時空石を破壊してしまったこと。
 時空石がないせいで元の世界に帰れないこと。
 ここに至るまでの事情を聞き終えると、ジャストラーデは顎に手を当てた。

「ふむ……まさか外がそんなことになっていたとはな」

「信じて貰えるんですか?」

「ああ、儂の眼は虚偽を許さぬ正義の眼。おぬしらが嘘をついていたのならすぐにわかるのじゃ。しかし話を聞く限りおぬしらはこの迷宮については時空石があるかもしれないということ以外は知らないのじゃな」

「そうですね。アキトくん、今の王様からは時空石がある可能性が高い迷宮としか……」

「やはりそうか。おぬしらは知らなかったと思うが、この迷宮は攻略する必要などないのじゃぞ?」

「え?」

「この迷宮は国に何かが起った時のための保険として建てられた、言うなれば国の第二の宝物庫なんじゃ。儂の役目はあくまでも賊からこの迷宮の宝を守り、そして王家の血筋の者が訪れた際には彼らは宝物庫に案内すること。おぬしらではなく王家の血筋の者が来ていればすぐにでも案内しておろう。とはいえおぬしらが知らなかったということはおそらく当代の王も知らないんじゃろうな」

 何か思い当たる節があるのか考え込むジャストラーデ。
 やがて結論が出たのか、ジャストラーデはようやく重い口を開いた。

「……よし決めた。おぬしらを宝物庫に案内しよう」

「良いんですか!?」

「ああ、本来なら王家の血筋の者だけを案内する決まりになっておるが、事態が事態だけに特例として認めよう。ただし一つ条件がある」

「………条件ですか」

「そう身構えるでない。儂も外の情勢が気になるのでな。時空石を持ち帰るおぬしらに同行させてもらう。儂からの要求はそれだけよ。本来ならば許されぬ迷宮の宝を儂の監視がつくことで持ち出せるのじゃ。おぬしらにとっても悪くない提案じゃろ?」

「そうっすね。俺くんは賛成ですよ」

「私も異論はないわ」

「私も先輩方に同じです!」

「……………」

「決まりじゃな。ついてこい!」

 言われるがまま俺たちは、闘技場の奥にある祭壇まで移動した。
 ジャストラーデが祭壇にあるレバーを押すと、階段が現れる。
 その階段を下っていくと、開けた空間に出た。
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