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第一章:自罰的な臆病者
第十九話 覚醒?
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「ここは……どこだ?」
気付いたら俺は見知らぬ空間に立っていた。
鉄格子に囲われた薄暗い部屋の中には小さな椅子が一つ。
まるで囚人部屋のような空間の中心で俺は悟る。
「……死んだのか俺」
ここに来る直前、俺は正幸くんの刺突をもろに食らったんだった。
迷宮の主であるジャストラーデさえ死に至らしめた一撃だ。
まともに受けて生きているはずがない。
「未練は……結構あるな」
やりたいことはまだまだあったし、小春を元の世界に帰すって約束も果たせていないままだ。
小春は無事だろうか。
「まぁ……考えたって意味はないんだけどさ」
死んでしまった以上、俺にできることなどない。
「……大人しく成仏するとしますか」
ホントウニ?
ホントウニソレデイイノ?
「…………」
ユルセナイ、ユルセナイ。
ナンデアイツニ?
コロサレル?
「……やめろ」
ナゼアイツノホウガツヨイ。
ナゼアイツガモテル。
ナゼアイツハイキテイル。
ナゼ?
ナゼ?
「……やめてくれ」
キショクワルイ。
キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ、キショクワルイ!
キショクワルイ、キショクワルイキショクワルイキショクワルイ!
「消えろ! こんなの俺じゃない!」
「――いいや。十二分に君らしいよ」
「っ!」
誰もいないはずの空間から声がして思わず振り返ると、そこには俺によく似た男が立っていた。
「誰だ?」
「やぁ……久しぶりだねェ」
「初めましての間違いだろ。てか誰だよ?」
「ひどいなァ。君が一番よく知っているじゃないか」
「知らない! お前みたいな奴は知らない!」
「そ、じゃあ思いださせてあげるよォ」
謎の男は俺の顔を鷲塚にして、壁に叩きつける。
「おま……っ!?」
振りほどこうと抵抗したのもつかの間、数多の記憶がなだれ込んできた。
本当の自分。
両親のこと。
小春のこと。
そしてこの世界でのこと。
今まで生きてきた全てが走馬灯のように蘇り、俺はいつしか抵抗をやめていた。
「思いだした?」
「ああ、思いだしたよ」
全くひどい現実だ。
信じていたもの全てが嘘っぱちで、間違いだと思っていたものこそが真実なんて。
……ちくしょう。
俺は一体何のために生きていた?
俺はなんでこんな人生を歩んでいたんだよ!?
「もういいかなァ?」
「……だ、駄目だ。まだ終わりたくない。こんなところで俺は……」
「悪いねェ。残念ながらそれはできっこない。君はもう用済みなんだ。これからは僕が上手くやるからさ」
俺のよく知るその男は嗜虐的な笑みを浮かべると、俺の首に手をかけた。
「君はそこでオヤスミ?」
「……ぐっ」
首をへし折れそうなほど締め付けられ、絶える呼吸。
だが俺には抵抗できない。
抵抗したところで無意味だと知ってしまったから。
「……ばいばい。高白氷夜」
「……」
薄れゆく意識の中、最後に見たのはモノクロの風景で、
……ああ、世界はこんなにも色あせていたんだ。
静かな絶望と共に俺は意識を手放した。
***
第五の迷宮。
その最深部。
世界を救った英雄、兜花正幸は目の前に転がる死体をよそに顔についた返り血をぬぐっていた。
「ち……ド派手にぶちまけやがって」
「……意外とあっけなかったですね」
「所詮は口先だけの奴だってことだろ。それより逃げたあいつらの行方は?」
「はい。奴らは迷宮の外に出たようですが、遠くへは行っていないかと」
「そうか。城の人間に感づかれたら厄介だ。急いで追いかけるぞ」
時空石の入手は彼の野望を叶えるための絶対条件。
兜花正幸は彼を慕う女を引き連れて迷宮の外へと向かおうとして、
「ぎゃはははははは。イイね! 素晴らしい痛みだよ!?」
「っ!?」
背後から聞こえてきた声に歩みを止めた。
「馬鹿な……!?」
あれだけの傷で立ちあがったということにも驚いたが、彼が最も衝撃を受けたのは高白氷夜という人間の変貌ぶりだった。
その男は彼にとって取るに足らない人間のはずだった。
剣も魔法も中途半端。
特に特出すべき美点もない凡人。
それこそが彼の知る高白氷夜という男だった。
だが、
「おイチイ! おイチイ!」
そこにいる男は千切れかかった自身の四肢を気にすることもなく、あふれ出る血液を嬉々として舐めている。
「お前は……誰だ?」
「はぁ……どうしてどいつもこいつも同じ質問をしてくんのかなァ。僕は……君も知っている人間そのものだってんのがわかんない? わかんないかァ。アハハ! わかんないわかんないイ!」
「い、いかれてやがる」
兜花正幸は歴戦の猛者である。
グロテスクな光景など彼が救った世界でいくらでも見ている。
しかしそんな彼でも目の前の男の異常性には畏怖を感じざるを得なかった。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったかなァ。僕も久しぶりに出て来れてテンションが上がってたんだよォ」
正幸が後ずさりしたのを見て、氷夜は仰々しくお辞儀をする。
「君には感謝してるんだァ。君のおかげで僕は自由になれた。何かお礼をしたいんだけどねェ」
「い、いらん。お前に求めることと言えばこの場で大人しく死ぬことだけだ」
「あはは! そうだよねェ。君ならそういうよねェ!」
正幸に拒絶されて、嬉しそうに発狂する高白氷夜。
だがそれも一瞬のことで、瞬く間に冷徹な表情へと切り替わった。
「……じゃあふざけるのはもういいか。お前には僕の世界を見せてやるよ」
「やらせるか!」
正幸が一歩踏み込むのと同時に、高白氷夜は高々と腕を上げて指を鳴らす。
「……虚構世界」
――その刹那、世界は否定された。
気付いたら俺は見知らぬ空間に立っていた。
鉄格子に囲われた薄暗い部屋の中には小さな椅子が一つ。
まるで囚人部屋のような空間の中心で俺は悟る。
「……死んだのか俺」
ここに来る直前、俺は正幸くんの刺突をもろに食らったんだった。
迷宮の主であるジャストラーデさえ死に至らしめた一撃だ。
まともに受けて生きているはずがない。
「未練は……結構あるな」
やりたいことはまだまだあったし、小春を元の世界に帰すって約束も果たせていないままだ。
小春は無事だろうか。
「まぁ……考えたって意味はないんだけどさ」
死んでしまった以上、俺にできることなどない。
「……大人しく成仏するとしますか」
ホントウニ?
ホントウニソレデイイノ?
「…………」
ユルセナイ、ユルセナイ。
ナンデアイツニ?
コロサレル?
「……やめろ」
ナゼアイツノホウガツヨイ。
ナゼアイツガモテル。
ナゼアイツハイキテイル。
ナゼ?
ナゼ?
「……やめてくれ」
キショクワルイ。
キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ、キショクワルイ!
キショクワルイ、キショクワルイキショクワルイキショクワルイ!
「消えろ! こんなの俺じゃない!」
「――いいや。十二分に君らしいよ」
「っ!」
誰もいないはずの空間から声がして思わず振り返ると、そこには俺によく似た男が立っていた。
「誰だ?」
「やぁ……久しぶりだねェ」
「初めましての間違いだろ。てか誰だよ?」
「ひどいなァ。君が一番よく知っているじゃないか」
「知らない! お前みたいな奴は知らない!」
「そ、じゃあ思いださせてあげるよォ」
謎の男は俺の顔を鷲塚にして、壁に叩きつける。
「おま……っ!?」
振りほどこうと抵抗したのもつかの間、数多の記憶がなだれ込んできた。
本当の自分。
両親のこと。
小春のこと。
そしてこの世界でのこと。
今まで生きてきた全てが走馬灯のように蘇り、俺はいつしか抵抗をやめていた。
「思いだした?」
「ああ、思いだしたよ」
全くひどい現実だ。
信じていたもの全てが嘘っぱちで、間違いだと思っていたものこそが真実なんて。
……ちくしょう。
俺は一体何のために生きていた?
俺はなんでこんな人生を歩んでいたんだよ!?
「もういいかなァ?」
「……だ、駄目だ。まだ終わりたくない。こんなところで俺は……」
「悪いねェ。残念ながらそれはできっこない。君はもう用済みなんだ。これからは僕が上手くやるからさ」
俺のよく知るその男は嗜虐的な笑みを浮かべると、俺の首に手をかけた。
「君はそこでオヤスミ?」
「……ぐっ」
首をへし折れそうなほど締め付けられ、絶える呼吸。
だが俺には抵抗できない。
抵抗したところで無意味だと知ってしまったから。
「……ばいばい。高白氷夜」
「……」
薄れゆく意識の中、最後に見たのはモノクロの風景で、
……ああ、世界はこんなにも色あせていたんだ。
静かな絶望と共に俺は意識を手放した。
***
第五の迷宮。
その最深部。
世界を救った英雄、兜花正幸は目の前に転がる死体をよそに顔についた返り血をぬぐっていた。
「ち……ド派手にぶちまけやがって」
「……意外とあっけなかったですね」
「所詮は口先だけの奴だってことだろ。それより逃げたあいつらの行方は?」
「はい。奴らは迷宮の外に出たようですが、遠くへは行っていないかと」
「そうか。城の人間に感づかれたら厄介だ。急いで追いかけるぞ」
時空石の入手は彼の野望を叶えるための絶対条件。
兜花正幸は彼を慕う女を引き連れて迷宮の外へと向かおうとして、
「ぎゃはははははは。イイね! 素晴らしい痛みだよ!?」
「っ!?」
背後から聞こえてきた声に歩みを止めた。
「馬鹿な……!?」
あれだけの傷で立ちあがったということにも驚いたが、彼が最も衝撃を受けたのは高白氷夜という人間の変貌ぶりだった。
その男は彼にとって取るに足らない人間のはずだった。
剣も魔法も中途半端。
特に特出すべき美点もない凡人。
それこそが彼の知る高白氷夜という男だった。
だが、
「おイチイ! おイチイ!」
そこにいる男は千切れかかった自身の四肢を気にすることもなく、あふれ出る血液を嬉々として舐めている。
「お前は……誰だ?」
「はぁ……どうしてどいつもこいつも同じ質問をしてくんのかなァ。僕は……君も知っている人間そのものだってんのがわかんない? わかんないかァ。アハハ! わかんないわかんないイ!」
「い、いかれてやがる」
兜花正幸は歴戦の猛者である。
グロテスクな光景など彼が救った世界でいくらでも見ている。
しかしそんな彼でも目の前の男の異常性には畏怖を感じざるを得なかった。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったかなァ。僕も久しぶりに出て来れてテンションが上がってたんだよォ」
正幸が後ずさりしたのを見て、氷夜は仰々しくお辞儀をする。
「君には感謝してるんだァ。君のおかげで僕は自由になれた。何かお礼をしたいんだけどねェ」
「い、いらん。お前に求めることと言えばこの場で大人しく死ぬことだけだ」
「あはは! そうだよねェ。君ならそういうよねェ!」
正幸に拒絶されて、嬉しそうに発狂する高白氷夜。
だがそれも一瞬のことで、瞬く間に冷徹な表情へと切り替わった。
「……じゃあふざけるのはもういいか。お前には僕の世界を見せてやるよ」
「やらせるか!」
正幸が一歩踏み込むのと同時に、高白氷夜は高々と腕を上げて指を鳴らす。
「……虚構世界」
――その刹那、世界は否定された。
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