20 / 50
第一章:自罰的な臆病者
第十九話 覚醒?
しおりを挟む
「ここは……どこだ?」
気付いたら俺は見知らぬ空間に立っていた。
鉄格子に囲われた薄暗い部屋の中には小さな椅子が一つ。
まるで囚人部屋のような空間の中心で俺は悟る。
「……死んだのか俺」
ここに来る直前、俺は正幸くんの刺突をもろに食らったんだった。
迷宮の主であるジャストラーデさえ死に至らしめた一撃だ。
まともに受けて生きているはずがない。
「未練は……結構あるな」
やりたいことはまだまだあったし、小春を元の世界に帰すって約束も果たせていないままだ。
小春は無事だろうか。
「まぁ……考えたって意味はないんだけどさ」
死んでしまった以上、俺にできることなどない。
「……大人しく成仏するとしますか」
ホントウニ?
ホントウニソレデイイノ?
「…………」
ユルセナイ、ユルセナイ。
ナンデアイツニ?
コロサレル?
「……やめろ」
ナゼアイツノホウガツヨイ。
ナゼアイツガモテル。
ナゼアイツハイキテイル。
ナゼ?
ナゼ?
「……やめてくれ」
キショクワルイ。
キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ、キショクワルイ!
キショクワルイ、キショクワルイキショクワルイキショクワルイ!
「消えろ! こんなの俺じゃない!」
「――いいや。十二分に君らしいよ」
「っ!」
誰もいないはずの空間から声がして思わず振り返ると、そこには俺によく似た男が立っていた。
「誰だ?」
「やぁ……久しぶりだねェ」
「初めましての間違いだろ。てか誰だよ?」
「ひどいなァ。君が一番よく知っているじゃないか」
「知らない! お前みたいな奴は知らない!」
「そ、じゃあ思いださせてあげるよォ」
謎の男は俺の顔を鷲塚にして、壁に叩きつける。
「おま……っ!?」
振りほどこうと抵抗したのもつかの間、数多の記憶がなだれ込んできた。
本当の自分。
両親のこと。
小春のこと。
そしてこの世界でのこと。
今まで生きてきた全てが走馬灯のように蘇り、俺はいつしか抵抗をやめていた。
「思いだした?」
「ああ、思いだしたよ」
全くひどい現実だ。
信じていたもの全てが嘘っぱちで、間違いだと思っていたものこそが真実なんて。
……ちくしょう。
俺は一体何のために生きていた?
俺はなんでこんな人生を歩んでいたんだよ!?
「もういいかなァ?」
「……だ、駄目だ。まだ終わりたくない。こんなところで俺は……」
「悪いねェ。残念ながらそれはできっこない。君はもう用済みなんだ。これからは僕が上手くやるからさ」
俺のよく知るその男は嗜虐的な笑みを浮かべると、俺の首に手をかけた。
「君はそこでオヤスミ?」
「……ぐっ」
首をへし折れそうなほど締め付けられ、絶える呼吸。
だが俺には抵抗できない。
抵抗したところで無意味だと知ってしまったから。
「……ばいばい。高白氷夜」
「……」
薄れゆく意識の中、最後に見たのはモノクロの風景で、
……ああ、世界はこんなにも色あせていたんだ。
静かな絶望と共に俺は意識を手放した。
***
第五の迷宮。
その最深部。
世界を救った英雄、兜花正幸は目の前に転がる死体をよそに顔についた返り血をぬぐっていた。
「ち……ド派手にぶちまけやがって」
「……意外とあっけなかったですね」
「所詮は口先だけの奴だってことだろ。それより逃げたあいつらの行方は?」
「はい。奴らは迷宮の外に出たようですが、遠くへは行っていないかと」
「そうか。城の人間に感づかれたら厄介だ。急いで追いかけるぞ」
時空石の入手は彼の野望を叶えるための絶対条件。
兜花正幸は彼を慕う女を引き連れて迷宮の外へと向かおうとして、
「ぎゃはははははは。イイね! 素晴らしい痛みだよ!?」
「っ!?」
背後から聞こえてきた声に歩みを止めた。
「馬鹿な……!?」
あれだけの傷で立ちあがったということにも驚いたが、彼が最も衝撃を受けたのは高白氷夜という人間の変貌ぶりだった。
その男は彼にとって取るに足らない人間のはずだった。
剣も魔法も中途半端。
特に特出すべき美点もない凡人。
それこそが彼の知る高白氷夜という男だった。
だが、
「おイチイ! おイチイ!」
そこにいる男は千切れかかった自身の四肢を気にすることもなく、あふれ出る血液を嬉々として舐めている。
「お前は……誰だ?」
「はぁ……どうしてどいつもこいつも同じ質問をしてくんのかなァ。僕は……君も知っている人間そのものだってんのがわかんない? わかんないかァ。アハハ! わかんないわかんないイ!」
「い、いかれてやがる」
兜花正幸は歴戦の猛者である。
グロテスクな光景など彼が救った世界でいくらでも見ている。
しかしそんな彼でも目の前の男の異常性には畏怖を感じざるを得なかった。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったかなァ。僕も久しぶりに出て来れてテンションが上がってたんだよォ」
正幸が後ずさりしたのを見て、氷夜は仰々しくお辞儀をする。
「君には感謝してるんだァ。君のおかげで僕は自由になれた。何かお礼をしたいんだけどねェ」
「い、いらん。お前に求めることと言えばこの場で大人しく死ぬことだけだ」
「あはは! そうだよねェ。君ならそういうよねェ!」
正幸に拒絶されて、嬉しそうに発狂する高白氷夜。
だがそれも一瞬のことで、瞬く間に冷徹な表情へと切り替わった。
「……じゃあふざけるのはもういいか。お前には僕の世界を見せてやるよ」
「やらせるか!」
正幸が一歩踏み込むのと同時に、高白氷夜は高々と腕を上げて指を鳴らす。
「……虚構世界」
――その刹那、世界は否定された。
気付いたら俺は見知らぬ空間に立っていた。
鉄格子に囲われた薄暗い部屋の中には小さな椅子が一つ。
まるで囚人部屋のような空間の中心で俺は悟る。
「……死んだのか俺」
ここに来る直前、俺は正幸くんの刺突をもろに食らったんだった。
迷宮の主であるジャストラーデさえ死に至らしめた一撃だ。
まともに受けて生きているはずがない。
「未練は……結構あるな」
やりたいことはまだまだあったし、小春を元の世界に帰すって約束も果たせていないままだ。
小春は無事だろうか。
「まぁ……考えたって意味はないんだけどさ」
死んでしまった以上、俺にできることなどない。
「……大人しく成仏するとしますか」
ホントウニ?
ホントウニソレデイイノ?
「…………」
ユルセナイ、ユルセナイ。
ナンデアイツニ?
コロサレル?
「……やめろ」
ナゼアイツノホウガツヨイ。
ナゼアイツガモテル。
ナゼアイツハイキテイル。
ナゼ?
ナゼ?
「……やめてくれ」
キショクワルイ。
キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ。
キショクワルイ、キショクワルイ、キショクワルイ!
キショクワルイ、キショクワルイキショクワルイキショクワルイ!
「消えろ! こんなの俺じゃない!」
「――いいや。十二分に君らしいよ」
「っ!」
誰もいないはずの空間から声がして思わず振り返ると、そこには俺によく似た男が立っていた。
「誰だ?」
「やぁ……久しぶりだねェ」
「初めましての間違いだろ。てか誰だよ?」
「ひどいなァ。君が一番よく知っているじゃないか」
「知らない! お前みたいな奴は知らない!」
「そ、じゃあ思いださせてあげるよォ」
謎の男は俺の顔を鷲塚にして、壁に叩きつける。
「おま……っ!?」
振りほどこうと抵抗したのもつかの間、数多の記憶がなだれ込んできた。
本当の自分。
両親のこと。
小春のこと。
そしてこの世界でのこと。
今まで生きてきた全てが走馬灯のように蘇り、俺はいつしか抵抗をやめていた。
「思いだした?」
「ああ、思いだしたよ」
全くひどい現実だ。
信じていたもの全てが嘘っぱちで、間違いだと思っていたものこそが真実なんて。
……ちくしょう。
俺は一体何のために生きていた?
俺はなんでこんな人生を歩んでいたんだよ!?
「もういいかなァ?」
「……だ、駄目だ。まだ終わりたくない。こんなところで俺は……」
「悪いねェ。残念ながらそれはできっこない。君はもう用済みなんだ。これからは僕が上手くやるからさ」
俺のよく知るその男は嗜虐的な笑みを浮かべると、俺の首に手をかけた。
「君はそこでオヤスミ?」
「……ぐっ」
首をへし折れそうなほど締め付けられ、絶える呼吸。
だが俺には抵抗できない。
抵抗したところで無意味だと知ってしまったから。
「……ばいばい。高白氷夜」
「……」
薄れゆく意識の中、最後に見たのはモノクロの風景で、
……ああ、世界はこんなにも色あせていたんだ。
静かな絶望と共に俺は意識を手放した。
***
第五の迷宮。
その最深部。
世界を救った英雄、兜花正幸は目の前に転がる死体をよそに顔についた返り血をぬぐっていた。
「ち……ド派手にぶちまけやがって」
「……意外とあっけなかったですね」
「所詮は口先だけの奴だってことだろ。それより逃げたあいつらの行方は?」
「はい。奴らは迷宮の外に出たようですが、遠くへは行っていないかと」
「そうか。城の人間に感づかれたら厄介だ。急いで追いかけるぞ」
時空石の入手は彼の野望を叶えるための絶対条件。
兜花正幸は彼を慕う女を引き連れて迷宮の外へと向かおうとして、
「ぎゃはははははは。イイね! 素晴らしい痛みだよ!?」
「っ!?」
背後から聞こえてきた声に歩みを止めた。
「馬鹿な……!?」
あれだけの傷で立ちあがったということにも驚いたが、彼が最も衝撃を受けたのは高白氷夜という人間の変貌ぶりだった。
その男は彼にとって取るに足らない人間のはずだった。
剣も魔法も中途半端。
特に特出すべき美点もない凡人。
それこそが彼の知る高白氷夜という男だった。
だが、
「おイチイ! おイチイ!」
そこにいる男は千切れかかった自身の四肢を気にすることもなく、あふれ出る血液を嬉々として舐めている。
「お前は……誰だ?」
「はぁ……どうしてどいつもこいつも同じ質問をしてくんのかなァ。僕は……君も知っている人間そのものだってんのがわかんない? わかんないかァ。アハハ! わかんないわかんないイ!」
「い、いかれてやがる」
兜花正幸は歴戦の猛者である。
グロテスクな光景など彼が救った世界でいくらでも見ている。
しかしそんな彼でも目の前の男の異常性には畏怖を感じざるを得なかった。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったかなァ。僕も久しぶりに出て来れてテンションが上がってたんだよォ」
正幸が後ずさりしたのを見て、氷夜は仰々しくお辞儀をする。
「君には感謝してるんだァ。君のおかげで僕は自由になれた。何かお礼をしたいんだけどねェ」
「い、いらん。お前に求めることと言えばこの場で大人しく死ぬことだけだ」
「あはは! そうだよねェ。君ならそういうよねェ!」
正幸に拒絶されて、嬉しそうに発狂する高白氷夜。
だがそれも一瞬のことで、瞬く間に冷徹な表情へと切り替わった。
「……じゃあふざけるのはもういいか。お前には僕の世界を見せてやるよ」
「やらせるか!」
正幸が一歩踏み込むのと同時に、高白氷夜は高々と腕を上げて指を鳴らす。
「……虚構世界」
――その刹那、世界は否定された。
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ
一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。
百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。
平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。
そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる