Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

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第二章:他罰性の化け物

第三十一話 準備

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 アキトと別れてすぐ、私たちはメロアの魔法で旧領事館へとやって来た。
 100以上の歴史があるとされているこの館。
 最近ではもう使われていないとは聞いていたが、普段から手入れはされていたのか中は綺麗だ。
 傍にあったアンティーク調の机を撫でてみても埃一つない。
 天盤付きのベッドのシーツも綺麗に整えられていた。

「これならそのまま使っても大丈夫そうね」

「当然です。月に数回程、暇つぶしに掃除をしに来ていますから」

 えっへんとわざとらしく胸を張ってみせるアシュリン。
 だが彼女の担当が孤児院であることを考えればおかしな話だ。

「要するにサボりに来てるってことでしょ?」

「さ、さぁ? そんなことよりも氷夜様を置きますから布団をどけてください」

「はいはい」

 ……どうやら藪蛇だったみたいね。
 露骨に話題を逸らしたアシュリンに呆れつつも布団を動かすと、アシュリンは氷夜を優しくベッドに横たえた。

「これでひとまずは大丈夫でしょう」

「そうね。後は氷夜が目覚めるのを待つだけよ」

「うん。早くひよよん起きないかなぁ……」

 ――ぎゅるるる。
 メロアが氷夜の顔を心配そうにのぞき込んだその時、唐突に誰かのお腹が鳴った。
 
「「「……………」」」

 気まずさ故に流れる沈黙。
 互いの視線が五回ほど交錯した後、恥ずかしそうにメロアが自白する。

「ごめんね。あ、朝ご飯食べてなかったから、どうしてもお腹が空いちゃって……」

「まぁ……今朝はどたばたしていましたから仕方ないかと。私も今朝は食べ損ねましたし……小春様はどうですか?」

「そうね。私も今日は何も食べてないわ」

「でしたら三人では遅めの朝ごはんにしましょうか?」

「「賛成!」」

 一度そうと決まってしまえば後は早かった。
 厳正なくじ引きの結果、今日の料理はアシュリンが作ることに。

「それではお二人はここでお待ちを」

 とキッチンの方へ姿を消したのもつかの間、アシュリンは慌しくこちらに戻ってきた。

「――緊急事態です。食糧がありません」

「ええ!?」

 驚く私にアシュリンは珍しく申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪する。

「すみません。私もてっきり普通にあるものだとばかり思っていました」

 ……そっか。
 仕事で来てたわけじゃないんだもの。
 気分転換に部屋の手入れくらいはするだろうけど、食料までは見ないわよね。

「でも困ったわ。アキトに頼むこともできないし……どうしたらいいのかしら?」

「私たちで買いに行くしかないでしょう。幸いにもまだ氷夜様をこちらに移したことはバレていないはずです。他にもやりようはありますがそれが最善かと」

 城の人間に買いに行かせることもできるがそれでは本末転倒だ。
 アシュリンの言いたいことはそんな感じだろう。 
 しかしそうだとすると、

「私が行ったほうがいいわね」

「小春様、いくら何でもそれは…………」

 危険すぎると言いかけたアシュリンに私はきっぱりと返す。

「仕方ないでしょ。誰かが行かなきゃいけないんだもの。この中だったら私が適任だわ」

 犯人の狙いは氷夜である以上、氷夜の傍には実力者の二人が残った方がいい。
 そんな風に私の意見を伝えると、アッシュリンはしばらく考えた後、答えを出した。

「…………小春様の考えはよく理解しました。ですがやはり小春様だけを行かせるわけにはいきません。メロア様にも同行していただきます」

「ちょっと! そうしたら氷夜の守りが……」

「――舐めんな」

 薄くなると言いかけたその時、柄にもなく乱暴な口調でアシュリンは私の言葉をぶった切った。

「私にはムチャ様がついておられるのですよ? 氷夜様を殺し損ねて、こそこそと逃げ回るしかない襲撃者などに後れを取るはずがございません」

「うっ……そう言われると何も言い返せないわね」

「ご理解いただけたようで何よりです。メロア様も特に異論はありませんよね?」

「もちろんだよ。ちょうど小春とお出かけしたいなって思ってたんだ。小春のことはメロアに任せて♪」

 アシュリンからの問いかけに、はにかんで答えるメロア。
 確かにメロアが付いて来てくれるなら私も心強い。
 アシュリンもああ言ってくれているわけだし、ここは素直に甘えてもいいかしら。

「はぁ…………わかったわ。氷夜のことは頼んだわよ?」

 心配な気持ちを溜息と共に飲み込んでアシュリンの提案を受け入れると、アシュリンは大胆不敵に笑いながら仰々しくポーズを取った。

「はい、お任せください。この命に代えても氷夜様をお守りして見せます」

 こうして今後の方針も決まったので、さっそく私たちは玄関へと向かう。

「それではお二人とも。お気をつけていってらっしゃいませ」

「ええ、行ってくるわ」
 
 見送りに来てくれたアシュリンに手を振って、私たちは街へと繰り出した。
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