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第二章:他罰性の化け物
第三十二話 告白
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大通りから少し外れた裏路地を二人連れ添って歩いていく。
裏路地ということもあって人影は少ない。
微かに聞こえてくるのは大通りの喧噪と私たちの足音だけだ。
こんなところに食料品店なんてあるのかしらと、疑問に思ったのもつかの間、古びた小さな商店の前でメロアは立ち止った。
「ここなの?」
「うん。そうだよ」
にこやかに答えるメロアの目の前には金属製の古びたドア。
とても開きそうには見えないが、メロアは気にすることもなく近づいていく。
「ごめんくださーい」
そして優しくノックしてから、何かの呪文を唱えると、古びて動きそうになかった扉がゆっくりと開いた。
「さぁこっちだよ」
「え、ええ」
メロアに手を引かれて私もお店の中に足を踏み入れる。
お店の中は意外にも広く、大量の食料品で溢れていた。
「…………不思議ね。外からだとこんなスペースがあるようには見えなかったわ」
「魔法で空間を拡張してるんだよ。ここの店主さんは腕利きの料理人さん兼バイヤーさんでね。市場から仕入れた食材をこうしてお得意さんにだけ販売しているの」
メロアもお得意さんなんだと、彼女が誇らしげに語ったその時、奥の方からタイミングよく店主が登場した。
「久しぶりだねメロア。隣にいるのは…………」
「鈴崎小春です。最近この世界に転移してきました!」
この世界に来て自己紹介もすっかり板についた。
詰まることなく名を名乗ると、
「ああっ! あんたが小春か」
店主さんは思い当たる節があったのかポンと手を叩く。
「噂はうちの人から聞いてるよ。あたいは向こうで休んでるから買うものが決まったら呼びな」
最後にそれだけ言って店主は再び店の奥へと戻っていった。
「それじゃ小春。ひよよんのためにいっぱい買ってくよ!」
「ええ!」
メロアの掛け声と共に私たちの戦いは始まった。
ひとまず料理に使えそうなもの、特に私でも調理ができそうなものを中心にカゴに入れていく。
…………とその中にひときわ目立つものがあった。
「ねぇ、これって…………みかんよね」
「うん、そうだよ」
「やっぱりそうか」
つやつやとしたみかんの肌触りを楽しみながら、私は一人ごちる。
まさかこの世界にもあるとは思わなかったけど、日本人だってこっちの世界に来てるのよね。
まぁ…………みかんくらいあってもおかしくないか。
「買ってくの?」
「ええ。あいつ、昔から体調が悪い時に限ってこれを食べたがってたから」
風邪を引いた時にはみかんというのが氷夜の定番だった。
だから私が風邪を引いた時にも、大量のみかんを持ってきてくれたのよね。
「いいなぁ。小春はひよよんのこと何でも知ってるんだね」
なんて柄にもなく懐かしむ私にメロアは羨望の眼差しを向けてくる。
「何でもは知らないわよ。子ども頃のあいつを知ってるってだけで、こっちで何をしてたかは全然知らなかったわ」
アシュリンのとことか、孤児院の件だってそう。
別に全てを話して欲しい訳じゃないけれど、そういうことを隠されるのは心外なわけで、
「幼馴染なのに冷たいものよね……っ」
…………って何を言ってるの私。
恨み頃を吐き出してから気付く。
これだとまるで氷夜に隠し事をされて拗ねてるみたいじゃない。
「え、えーっと今のはね」
恥ずかしさから恐る恐る隣を見ると、メロアはにまにまと口角を吊りあげていた。
「なーんだ。小春も寂しかったんだね」
「ち、違うわよ! 今のはなし。ノーカン、何でもないから!」
「もう恥ずかしがらないでいいんだよ。素直になって♪」
「だからそういうのじゃないってば!」
勢い誤魔化そうとするが、図星であることは否定できない。
上手い言い訳が思いつかず悶々としていると、メロアがぼそっと呟いた。
「…………でもひよよんとの思い出があるなんて羨ましいな。メロアはアキト様と振り返るような思い出なんてないよ」
「大袈裟ねぇ。別にアキトとじゃなくても子どもの頃のちっぽけな恋のエピソードくらいあるでしょ?」
「何もないよ。メロアには何もないの」
「へぇ…………ってことはアキトが初恋だったのね」
メロアの言葉から意味を推測するも、彼女は首を振る。
「ううん。確かにアキト様がメロアの初恋なんだけどそういうことじゃなくて」
「じゃあどうことよ?」
メロアの意図するところが理解できず、聞き返してしまう。
するとメロアは深く息を吸った後、衝撃的な事実を口にした。
「――メロアね、記憶がないの」
「え?」
一瞬、幻聴かと思った。
余りにも信じがたい話だったから。
でも悲し気に目を伏せるメロアを見て、それは現実だと思い知る。
「き、記憶がないって…………どうして?」
「ちょっと前にあった内乱でね。メロアは頭に深刻なダメージを受けてそれまでの全ての記憶をなくしちゃったの。だからそれより前のことをメロアは覚えてないんだ」
「じ、じゃあ、あんたはここ二年の記憶しかっ!」
「――うん。ひどいよね。お友達のことも家族のこともメロアは何も思いだせないの」
「っ…………」
……ひどいなんてものじゃないわ。
大切な人との思い出を全て失うなんて私だったらきっと耐えられない。
事の深刻さに俯いていると、メロアは優しく微笑んで言った。
「でも悪いことばかりじゃなかったんだよ。目を覚ましたメロアを看病してくれたのはアキト様だったんだ」
「あのアキトが?」
「そうだよ。アキト様ってばおかしくてね。もうメロアは元気なのにメロアの手を祈るようにぎゅっと握ってるの。そんな今にも泣きだしそうなアキト様のお顔を見てたらね? 胸が急に苦しくなって切なくなって…………あれ? おかしいな?」
ぽろぽろとその紫の瞳から大粒の涙をこぼすメロア。
「メロア、あんた…………っ」
心配になって駆け寄ろうとすると、私を安心させようとしたのかメロアは慌てて涙を拭い去る。
「ご、ごめんね。びっくりしちゃったよね。メロアはもう大丈夫だから。泣いてばっかりじゃアキト様に振り向いてもらえないもんね」
違う!
そんなことないっ!
本当は今すぐそう言ってあげたかった。
でもメロアのなけなしの強がりを否定するのもなんだか違う気がしたから、
「…………よし決めた。こうなったら全力であんたとアキトをくっつけてあげるわ」
私は柄にもなく大口を叩くことにした。
「あの堅物をあんたにぞっこんにさせちゃうわよ」
「えー!? 急に何を言い出すの小春!? メ、メメメロアをアキト様とくっつけるなんてそんなこと…………」
「あんたアキトのことが好きなんでしょ? だったらアタックあるのみよ」
「それはそうだけど…………」
自信がないのか、私の言葉にメロアは下を向く。
とはいえここまでは予想通り。
メロアの闘志に火をつけるため私はさらに畳みかける。
「へぇ……じゃあメロアはアシュリンにアキトを取られてもいいんだ?」
「っ!?」
「アシュリンって可愛いわよね。私から見ても美人だと思うわ。それにアキトとも気兼ねなく話してたし」
「っ~!?」
「あんまりうかうかしてたらアシュリンに…………」
「――ダ、ダメ! メロア、アキト様を取られたくない!」
「なんだ……ちゃんと言えるじゃない」
良かった。
ここまで発破をかけても奥手だったらどうしようかと思ってたけど、メロアにも負けられない乙女の意地があったみたい。
「じゃあそのためにはどうするべきか、わかってるわよね?」
「うん! メロア頑張るね。小春も力を貸してほしいな」
「ええ。もちろんよ!」
熱い想いそのままに私たちは硬く手を握り合った。
かくして恋愛同盟、ここに誕生。
せっかくならダブルデートでもセッティングしようかしら。
なんて呑気に計画を練っていたその時、
――ズガン。
大気の揺れと共に爆発音が響いた。
「何事っ!?」
突然の事態に慌てていると、店の奥の方からどたばたと足音が聞こえてきた。
「みんな無事か!?」
騒ぎを聞きつけたのであろう。
店長さんは血相を変えて飛び込んできたが、私たちの化を見るなりほっと胸を撫でおろす。
「良かった。何ともないみたいね。てっきりメロアが店内で魔法をぶっ放したのかと思ったよ」
「メ、メロアはそんなことしないもん!」
店長さんからのからかいにぷりぷりと怒るメロア。
……最初のやり取りから薄々感じてはいたけど、店長とメロアって結構仲が良いわよね。
ちょっと羨ましいと思ってしまうくらいだ。
とはいえいつまでも呑気に眺めているわけにもいかない。
「でもそうするとさっきの爆発はなんだったのかしら?」
取っ散らかった話を先ほどの件に戻すと、メロアは私の疑問に答えてくれた。
「きっと大通りの方で誰かが魔法を使ったんだよ。ちょっと千里眼の魔法の見てみるね」
メロアは瞳を瞑って魔法を起動するが、次第にメロアの表情は曇っていく。
「…………困ったな」
なんてぼそっと呟いた後、メロアは口を開いた。
「大通りの広場で魔物が暴れてる。恵が戦ってくれているけど…………苦しそう。怪我人も出てるみたい」
「そんな! 憲兵の人たちはどうしたのよ!?」
「まだ来ていないみたい。おかしいね。いつもならもう到着しててもおかしくないのに…………」
――ズガン!
再び聞こえる爆発音。
今度は爆発の規模も大きい。
もう一刻の猶予もなさそうだ。
「そんな! 憲兵の人たちはどうしたのよ!?」
「まだ来ていないみたい。おかしいね。いつもならもう到着しててもおかしくないのに…………」
――ズガン!
再び聞こえる爆発音。
今度は爆発の規模も大きい。
もう一刻の猶予もないだろう。
となれば私の取る行動は決まっていた。
「……メロア、恵を助けに行くわよ」
考えることもなく、自然と言葉が口に出る。
「たぶんだけど氷夜がいなくなったことはまだバレていないはず。今なら影響も少ないはずよ」
もちろん完全に安全とはいえないだろう。
でもそんな万が一を気にして、恵を見殺しにするなんて私にはできない。
後のことはその時になったら考えればいい。
「それに…………氷夜だって私たち立場ならきっと同じ選択をしてたわ」
確信を持って言うと、メロアもにっこりと微笑んだ。
「うん! そうだね。行こう小春!」
「ええ!」
メロアに微笑み返した後、私は店長さんに向き直る。
「では店長さん、そういう事なのでまた後で来ます!」
「わかってるよ! 速くぶっ倒してきな!」
「「はい!」」
店長さんに快く送り出してもらって、私たちは店を飛び出した。
裏路地ということもあって人影は少ない。
微かに聞こえてくるのは大通りの喧噪と私たちの足音だけだ。
こんなところに食料品店なんてあるのかしらと、疑問に思ったのもつかの間、古びた小さな商店の前でメロアは立ち止った。
「ここなの?」
「うん。そうだよ」
にこやかに答えるメロアの目の前には金属製の古びたドア。
とても開きそうには見えないが、メロアは気にすることもなく近づいていく。
「ごめんくださーい」
そして優しくノックしてから、何かの呪文を唱えると、古びて動きそうになかった扉がゆっくりと開いた。
「さぁこっちだよ」
「え、ええ」
メロアに手を引かれて私もお店の中に足を踏み入れる。
お店の中は意外にも広く、大量の食料品で溢れていた。
「…………不思議ね。外からだとこんなスペースがあるようには見えなかったわ」
「魔法で空間を拡張してるんだよ。ここの店主さんは腕利きの料理人さん兼バイヤーさんでね。市場から仕入れた食材をこうしてお得意さんにだけ販売しているの」
メロアもお得意さんなんだと、彼女が誇らしげに語ったその時、奥の方からタイミングよく店主が登場した。
「久しぶりだねメロア。隣にいるのは…………」
「鈴崎小春です。最近この世界に転移してきました!」
この世界に来て自己紹介もすっかり板についた。
詰まることなく名を名乗ると、
「ああっ! あんたが小春か」
店主さんは思い当たる節があったのかポンと手を叩く。
「噂はうちの人から聞いてるよ。あたいは向こうで休んでるから買うものが決まったら呼びな」
最後にそれだけ言って店主は再び店の奥へと戻っていった。
「それじゃ小春。ひよよんのためにいっぱい買ってくよ!」
「ええ!」
メロアの掛け声と共に私たちの戦いは始まった。
ひとまず料理に使えそうなもの、特に私でも調理ができそうなものを中心にカゴに入れていく。
…………とその中にひときわ目立つものがあった。
「ねぇ、これって…………みかんよね」
「うん、そうだよ」
「やっぱりそうか」
つやつやとしたみかんの肌触りを楽しみながら、私は一人ごちる。
まさかこの世界にもあるとは思わなかったけど、日本人だってこっちの世界に来てるのよね。
まぁ…………みかんくらいあってもおかしくないか。
「買ってくの?」
「ええ。あいつ、昔から体調が悪い時に限ってこれを食べたがってたから」
風邪を引いた時にはみかんというのが氷夜の定番だった。
だから私が風邪を引いた時にも、大量のみかんを持ってきてくれたのよね。
「いいなぁ。小春はひよよんのこと何でも知ってるんだね」
なんて柄にもなく懐かしむ私にメロアは羨望の眼差しを向けてくる。
「何でもは知らないわよ。子ども頃のあいつを知ってるってだけで、こっちで何をしてたかは全然知らなかったわ」
アシュリンのとことか、孤児院の件だってそう。
別に全てを話して欲しい訳じゃないけれど、そういうことを隠されるのは心外なわけで、
「幼馴染なのに冷たいものよね……っ」
…………って何を言ってるの私。
恨み頃を吐き出してから気付く。
これだとまるで氷夜に隠し事をされて拗ねてるみたいじゃない。
「え、えーっと今のはね」
恥ずかしさから恐る恐る隣を見ると、メロアはにまにまと口角を吊りあげていた。
「なーんだ。小春も寂しかったんだね」
「ち、違うわよ! 今のはなし。ノーカン、何でもないから!」
「もう恥ずかしがらないでいいんだよ。素直になって♪」
「だからそういうのじゃないってば!」
勢い誤魔化そうとするが、図星であることは否定できない。
上手い言い訳が思いつかず悶々としていると、メロアがぼそっと呟いた。
「…………でもひよよんとの思い出があるなんて羨ましいな。メロアはアキト様と振り返るような思い出なんてないよ」
「大袈裟ねぇ。別にアキトとじゃなくても子どもの頃のちっぽけな恋のエピソードくらいあるでしょ?」
「何もないよ。メロアには何もないの」
「へぇ…………ってことはアキトが初恋だったのね」
メロアの言葉から意味を推測するも、彼女は首を振る。
「ううん。確かにアキト様がメロアの初恋なんだけどそういうことじゃなくて」
「じゃあどうことよ?」
メロアの意図するところが理解できず、聞き返してしまう。
するとメロアは深く息を吸った後、衝撃的な事実を口にした。
「――メロアね、記憶がないの」
「え?」
一瞬、幻聴かと思った。
余りにも信じがたい話だったから。
でも悲し気に目を伏せるメロアを見て、それは現実だと思い知る。
「き、記憶がないって…………どうして?」
「ちょっと前にあった内乱でね。メロアは頭に深刻なダメージを受けてそれまでの全ての記憶をなくしちゃったの。だからそれより前のことをメロアは覚えてないんだ」
「じ、じゃあ、あんたはここ二年の記憶しかっ!」
「――うん。ひどいよね。お友達のことも家族のこともメロアは何も思いだせないの」
「っ…………」
……ひどいなんてものじゃないわ。
大切な人との思い出を全て失うなんて私だったらきっと耐えられない。
事の深刻さに俯いていると、メロアは優しく微笑んで言った。
「でも悪いことばかりじゃなかったんだよ。目を覚ましたメロアを看病してくれたのはアキト様だったんだ」
「あのアキトが?」
「そうだよ。アキト様ってばおかしくてね。もうメロアは元気なのにメロアの手を祈るようにぎゅっと握ってるの。そんな今にも泣きだしそうなアキト様のお顔を見てたらね? 胸が急に苦しくなって切なくなって…………あれ? おかしいな?」
ぽろぽろとその紫の瞳から大粒の涙をこぼすメロア。
「メロア、あんた…………っ」
心配になって駆け寄ろうとすると、私を安心させようとしたのかメロアは慌てて涙を拭い去る。
「ご、ごめんね。びっくりしちゃったよね。メロアはもう大丈夫だから。泣いてばっかりじゃアキト様に振り向いてもらえないもんね」
違う!
そんなことないっ!
本当は今すぐそう言ってあげたかった。
でもメロアのなけなしの強がりを否定するのもなんだか違う気がしたから、
「…………よし決めた。こうなったら全力であんたとアキトをくっつけてあげるわ」
私は柄にもなく大口を叩くことにした。
「あの堅物をあんたにぞっこんにさせちゃうわよ」
「えー!? 急に何を言い出すの小春!? メ、メメメロアをアキト様とくっつけるなんてそんなこと…………」
「あんたアキトのことが好きなんでしょ? だったらアタックあるのみよ」
「それはそうだけど…………」
自信がないのか、私の言葉にメロアは下を向く。
とはいえここまでは予想通り。
メロアの闘志に火をつけるため私はさらに畳みかける。
「へぇ……じゃあメロアはアシュリンにアキトを取られてもいいんだ?」
「っ!?」
「アシュリンって可愛いわよね。私から見ても美人だと思うわ。それにアキトとも気兼ねなく話してたし」
「っ~!?」
「あんまりうかうかしてたらアシュリンに…………」
「――ダ、ダメ! メロア、アキト様を取られたくない!」
「なんだ……ちゃんと言えるじゃない」
良かった。
ここまで発破をかけても奥手だったらどうしようかと思ってたけど、メロアにも負けられない乙女の意地があったみたい。
「じゃあそのためにはどうするべきか、わかってるわよね?」
「うん! メロア頑張るね。小春も力を貸してほしいな」
「ええ。もちろんよ!」
熱い想いそのままに私たちは硬く手を握り合った。
かくして恋愛同盟、ここに誕生。
せっかくならダブルデートでもセッティングしようかしら。
なんて呑気に計画を練っていたその時、
――ズガン。
大気の揺れと共に爆発音が響いた。
「何事っ!?」
突然の事態に慌てていると、店の奥の方からどたばたと足音が聞こえてきた。
「みんな無事か!?」
騒ぎを聞きつけたのであろう。
店長さんは血相を変えて飛び込んできたが、私たちの化を見るなりほっと胸を撫でおろす。
「良かった。何ともないみたいね。てっきりメロアが店内で魔法をぶっ放したのかと思ったよ」
「メ、メロアはそんなことしないもん!」
店長さんからのからかいにぷりぷりと怒るメロア。
……最初のやり取りから薄々感じてはいたけど、店長とメロアって結構仲が良いわよね。
ちょっと羨ましいと思ってしまうくらいだ。
とはいえいつまでも呑気に眺めているわけにもいかない。
「でもそうするとさっきの爆発はなんだったのかしら?」
取っ散らかった話を先ほどの件に戻すと、メロアは私の疑問に答えてくれた。
「きっと大通りの方で誰かが魔法を使ったんだよ。ちょっと千里眼の魔法の見てみるね」
メロアは瞳を瞑って魔法を起動するが、次第にメロアの表情は曇っていく。
「…………困ったな」
なんてぼそっと呟いた後、メロアは口を開いた。
「大通りの広場で魔物が暴れてる。恵が戦ってくれているけど…………苦しそう。怪我人も出てるみたい」
「そんな! 憲兵の人たちはどうしたのよ!?」
「まだ来ていないみたい。おかしいね。いつもならもう到着しててもおかしくないのに…………」
――ズガン!
再び聞こえる爆発音。
今度は爆発の規模も大きい。
もう一刻の猶予もなさそうだ。
「そんな! 憲兵の人たちはどうしたのよ!?」
「まだ来ていないみたい。おかしいね。いつもならもう到着しててもおかしくないのに…………」
――ズガン!
再び聞こえる爆発音。
今度は爆発の規模も大きい。
もう一刻の猶予もないだろう。
となれば私の取る行動は決まっていた。
「……メロア、恵を助けに行くわよ」
考えることもなく、自然と言葉が口に出る。
「たぶんだけど氷夜がいなくなったことはまだバレていないはず。今なら影響も少ないはずよ」
もちろん完全に安全とはいえないだろう。
でもそんな万が一を気にして、恵を見殺しにするなんて私にはできない。
後のことはその時になったら考えればいい。
「それに…………氷夜だって私たち立場ならきっと同じ選択をしてたわ」
確信を持って言うと、メロアもにっこりと微笑んだ。
「うん! そうだね。行こう小春!」
「ええ!」
メロアに微笑み返した後、私は店長さんに向き直る。
「では店長さん、そういう事なのでまた後で来ます!」
「わかってるよ! 速くぶっ倒してきな!」
「「はい!」」
店長さんに快く送り出してもらって、私たちは店を飛び出した。
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そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
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