Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

文字の大きさ
42 / 50
第二章:他罰性の化け物

閑話 岩端恵の悲劇

しおりを挟む
 遡ること少し前。
 小春たちと別れた岩端恵は逃げ遅れた人がいないか城の周辺を見回りしていた。

「全くもう先輩方ってば置いてくなんてひどいですよ」

 いくつかの区画を回った後、恵は一人ごちる。
 彼女の仲間である明日の晩飯亭の面々は世話になった孤児院がピンチと聞いてそちらの応援に行ってしまったのだ。
 城の周辺は比較的安全であるため優先度は低いが、やはり一人だと心細い。
 全てが終わったら何か本屋巡りなどに付き合ってもらおうと考えていると、彼女の視界の中に意外な人物が移った。

「高白先輩っ!?」

「やぁ岩端恵ちゃん。久しぶりだね」

 恵の呼びかけに、はにかんで答える氷夜。
 
「もう起きたなら起きたって言ってくださいよ! ってそれよりも!」

 氷夜が目覚めたことに驚きつつも恵はすぐに意識を切り替えた。

「ちょっと待っててください。すぐに鈴崎先輩を呼んできますっ……」

 高白先輩の目覚めを誰よりも待っていたのは鈴崎先輩だったはず。
 彼女にこの吉報を届けるべく、恵が飛行魔法の詠唱を始めた矢先、

「っ!?」

 どこからか飛んできた矢が足元に突き刺さった。

「……匿うなら城の近く。正幸様の読みが的中していましたね」

 続けて頭上から声が降ってきて恵は視線を上げる。

「あなた方はっ!?」

 そこにいたのは兜花正幸の取り巻きのリリー、セシリア、マーガレットだった。
 彼女たちは氷夜を警戒しているのかある程度の距離を保ちながら、二人を取り囲んでいる。

「一体何のつもりですかっ!?」

 緊急事態の最中の暴挙に恵が抗議すると、取り巻きの一人のマーガレットが氷夜を指さした。

「私たちの狙いはその男です。恵さんに用ありません」

「じゃあ高白氷夜先輩に何の用があるって言うんですか?」

「それは答えられません。正幸様から頼まれたことですから」

「っ……」

 マーガレットの返答から恵は全てを悟る。
 間違いなくその頼み事はまともなことではない。
 要求を呑めば高白先輩は殺されるだろう。
 でも戦うにしても戦力差がありすぎて、勝ち目はない。

「高白先輩は逃げてください。ここは私が食い止めます」

 使命感から恵がそう提案すると、氷夜は首を横に振った。

「いやいや、そんなに心配しないでも大丈夫だよ恵ちゃん。むしろに任せてほしいかな」

「で、でも」

「いいからいいから」

 渋る恵を半ば強引に後ろに下げながら氷夜は前に出た。

 そこから戦いが終わるまでのことを岩端恵はあまり覚えていない。
 いや、現実のことだと思いたくなかっただけかもしれない。
 ただ脳裏にこびりついたのは顔をぐちゃぐちゃにされ、髪の毛をむしり取られる女の悲鳴とそれを楽しむ氷夜の悪趣味な笑い声。
 ようやく目の前の光景を受け入れたころには女たちは見るも無残な姿に変えられて血だまりに伏していた。

「…………して…………ころ…………して」

 ぼろ雑巾になり果てたマーガレットをぼんやりと眺めながら氷夜は呟く。

「うん! 敵の狙いもわかったし、僕は城に戻るから君はここらへんで適当に時間でも潰してなよ」

「は、はい」

 残虐なことをしたというのに罪悪感を抱いている様子もない。
 むしろどこかすっきりしたかのような氷夜の態度に恵は何も言うことが出来なくなってしまった。

 だからこそ気になってしまった。
 目の前にいるのは本当に高白氷夜なのかと。

 「…………確かめないと」

 恐怖と好奇心からコレクターズアイを使用する恵。
 彼女の固有魔法・コレクターズアイなら氷夜に起きている変化すらも読み取ることができるはずだった。
 しかし、

「…………っ!?」

 彼女の視界に表示されたのは「Unknown」の文字のみ。
 筋力や魔力量だけでなく名前すらも隠されているという初めての事態に困惑していると、氷夜は突然振り返った。

「……駄目じゃないか。人の中を勝手に見ようとするなんてさァ」

「ひぃっ……」

 …………バレてた。
 バレてたバレてたバレてたっ!
 虎の尾を踏んでしまった焦燥感から恵が後ずさる。
 そんな彼女を見て嗜虐的な笑みを浮かべながら氷夜は指を鳴らした。

「――虚構世界ホロウ・ザ・ワールド

 次の瞬間、世界は否定される。
 岩端恵の意識はそこで途切れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...