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第二章:他罰性の化け物
第三十八話 最悪の取引
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「申し訳ありません……殿下」
泣きそうになりながら謝るナンシーの首元にはダガ―が突き立てられている。
もはや考えるまでもない。
余計なことをすれば殺すとの兜花からのメッセージだ。
「兜花…………要求は一体なんだ?」
腰の剣に手を添えながらアキトが問うと、兜花は愉快げに笑った。
「話が早くて助かるぜ。俺様の望みはたった一つ。『高白氷夜の居場所』だ。お前らが匿ってる奴の場所を吐けばこの女は解放してやるよ」
「教えたとしてもお前がナンシーを解放するとは思えないが……」
「ああ、その点については心配しないで良いぜ。奴の居場所を吐いたなら必ずこの女は解放する。お前ならこの言葉が嘘じゃないとわかるだろ?」
「……そうだな。確かに嘘はついていないようだ」
「だろ? それでどうだ? 俺様の提案に乗る気になったか?」
……乗る気も何も私たちに選択権はない。
それがわかってて聞いてくるんだから、本当に性格の悪い奴だと思う。
「……小春、済まない」
アキトは申し訳なさそうにこちらを一瞥した後、渋々語りだした。
「あいつは今使われなくなった旧領事館跡で療養中だ。場所はここに書いてある」
そして懐から出した羊皮紙を投げ渡す。
「あんがとよ。んじゃこの女は解放するぜ」
正幸はそれを一読すると、意外にもナンシーから手を離した。
「ナンシー!」
「ジャック!」
駆け寄ってきたナンシーをジャックが受け止める。
同時に兜花が襲ってくると踏んで私は身構えた。
しかしいつまで経ってもその気配はなかった。
それどころか、
「じゃあ俺様はここらで失礼するぜ」
兜花は私たちに背中を見せる始末だ。
「っ!?」
まさか本当にこれで終わりなの?
あまりにもあっけない展開に拍子抜けしそうになった次の瞬間、
「なんてな!」
兜花はくるりと身を翻して、こちらに飛び掛かって来た。
「おらっ!」
ダガ―の身軽さを活かして間合いを一瞬で詰める兜花。
懐に飛び込むと、アキトの喉元にそれを突き立てる。
対するアキトは顔色一つ変えることなく、腰にぶら下げていた剣を引き抜いた。
「なっ…………」
それは見るも鮮やかな深紅のロングソードだった。
アキトは抜刀した勢いのままその剣を振るい、正幸の刺突を打ち落とす。
そして返す刀で大きな隙を逸らした兜花をぶった切った。
「ぐっ!?」
血を流しながら大きく後退する兜花にアキトは剣を向ける。
「もう諦めろ。人質は確保した。今ので俺を殺せなかった以上、お前に勝ち目はない」
「かっかっか。ご忠告どうも。だがご心配頂かなくとも今のはお前を試しただけだ、本気で殺そうとは思ってもなかったぜ」
「…………強がるな。傷は浅いが痛みはあるはずだ」
「別に強がりじゃねえよ。俺様はいつだって本気だ。なぁナンシー?」
まるで自身の恋人に語り掛けるかのように兜花は私たちの背後に視線を送った。
「っ!?」
その言動につられて振り返ると、ナンシーがメロアの首筋にナイフを突きつけていた。
「何を…………やってるっすか?」
零れるようなジャックの言葉はその場にいる全員のものだったかもしれない。
まるでメロアを人質に取っているかのように振る舞うナンシー。
ただ一人兜花だけがそんな彼女の様子を平然と受け入れている。
「よくやったなナンシー。そのままこっちにそいつを連れてくるんだ」
「…………承知いたしました正幸様」
ナンシーは指示通りにメロアを連れて行く。
実質的にナンシーとメロアの二人を人質に取られているとあって、私たちには止めることは出来ない。
「一体……ナンシーに何をしたの?」
私はみっともなく兜花に疑問をぶつけることしかできなかった。
「どうもこうもねえよ。俺様は能力を使っただけだ」
「あんたの能力は他人の異能を奪う力でしょ? こんな芸当はできなかったはずじゃ…………」
「おいおい誰が異能の力だけを奪うって言ったよ?」
「まさかあんたっ!?」
「そうさ。俺様はこいつの心を奪ってやったのさ!」
兜花は勝ち誇ったようにナンシーを抱き寄せながら、もう片方の手でメロアにダガ―を突き付ける。
「さぁアキト様よお。もう一度取引と行こうじゃねぇか。次の要求は『高白氷夜の抹殺』だ。そのために俺様と契約を結んでもらうぜ? 要求を断ってもいいがその時はこの魔法使いの心を奪っちまうからな」
「……っ」
……なんて奴。
最初からメロアを出しにしてアキトに交渉を吹っ掛けるのが狙いだったんだわ。
そしてこれを出しにしてさらなる要求を突き付けてくるはず。
おそらく私と同じことを考えたのであろう。
首元に突き付けられたダガーに構わず、メロアは叫んだ。
「アキト様! 契約を結んじゃ駄目です! 一度してしまえば後は絶対服従の身になってしまいます。これ以上付き合ってはいけませんン! メロアのことは気にせずにこの男をっ!」
「……ああ、わかった」
メロアの覚悟を汲んでアキトが一歩前に踏み出そうとすると、兜花はわざとらしく咳払いをした。
「おっとそういえば俺様がどうやって心を奪うかは言ってなかったな」
「なんだと?」
「さすがの俺様といえど、そう簡単に他者の心が奪えるわけじゃねえんだ。心を奪うためには肉体的な結びつきを強くしなきゃならねえんだよな。例えばキスをするとかな」
「じゃあ……まさかお前っ!?」
最悪の事態を想像したジャックに兜花はあっけらかんと答える。
「――わりいな。お前の彼女の唇、奪っちまった」
その瞬間、誰かの心が壊れる音がした。
「ふざけるなぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」
勢いよく剣を抜き、正幸に飛び掛かっていくジャック。
「待てジャック!」
アキトは止めようとしたが、想い人を弄ばれた怒りでジャックは冷静にはなれなかった。
結果として振り下ろした剣は儚くも空を切る。
「おらよ」
そして兜花の蹴りをもろに食らい、後方まで吹っ飛んでいった。
「さて心を奪う方法もわかったところで再度取引といこうじゃねえか。俺様に協力しろアキト」
「……俺がそんな脅しに屈するとでも?」
アキトが毅然とした調子で返すと、兜花は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「強がるのはよせよ。この女がお前にとってどんな存在かはナンシーに聞いてるんだぜ? どうせこの女なら首を切られそうになってもなんとかなると踏んでいたんだろうが、さすがに唇を奪われるところは見たくないよな?」
「……なぜ俺なんだ? あいつならお前一人でも十分なはずだ」
「そりゃあいつが全ての魔法を無効化する化け物だからだよ。王家の加護を持つお前なら奴ともイーブンに戦えるかもしれねえ」
「まだそんな妄想を……」
「それよりどうなんだ? 俺様の要求を呑むのか吞まねえのかどっちなんだ?」
「っ……」
決断を迫られて珍しくアキトがうろたえていた。
兜花はそんなアキトを見てため息をつく。
「悩むのは勝手だが、あいにく俺様は待たされるのが嫌いでね。お前が決めないならこっちで決めさせてもらうぜ」
そう言って兜花はメロアの顔を掴んで無理矢理自分の方へと向けさせる。
「い、嫌っ! 見ないでアキト様」
せめてもとメロアが抵抗するも空しく、二人の距離はどんどんと近づいていき、
ついに兜花がメロアの唇を奪おうとしたその時、
「――気色が悪いよ」
懐かしい声音と共に飛来した影のようなものが兜花を吹き飛ばした。
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もはや考えるまでもない。
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「兜花…………要求は一体なんだ?」
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「教えたとしてもお前がナンシーを解放するとは思えないが……」
「ああ、その点については心配しないで良いぜ。奴の居場所を吐いたなら必ずこの女は解放する。お前ならこの言葉が嘘じゃないとわかるだろ?」
「……そうだな。確かに嘘はついていないようだ」
「だろ? それでどうだ? 俺様の提案に乗る気になったか?」
……乗る気も何も私たちに選択権はない。
それがわかってて聞いてくるんだから、本当に性格の悪い奴だと思う。
「……小春、済まない」
アキトは申し訳なさそうにこちらを一瞥した後、渋々語りだした。
「あいつは今使われなくなった旧領事館跡で療養中だ。場所はここに書いてある」
そして懐から出した羊皮紙を投げ渡す。
「あんがとよ。んじゃこの女は解放するぜ」
正幸はそれを一読すると、意外にもナンシーから手を離した。
「ナンシー!」
「ジャック!」
駆け寄ってきたナンシーをジャックが受け止める。
同時に兜花が襲ってくると踏んで私は身構えた。
しかしいつまで経ってもその気配はなかった。
それどころか、
「じゃあ俺様はここらで失礼するぜ」
兜花は私たちに背中を見せる始末だ。
「っ!?」
まさか本当にこれで終わりなの?
あまりにもあっけない展開に拍子抜けしそうになった次の瞬間、
「なんてな!」
兜花はくるりと身を翻して、こちらに飛び掛かって来た。
「おらっ!」
ダガ―の身軽さを活かして間合いを一瞬で詰める兜花。
懐に飛び込むと、アキトの喉元にそれを突き立てる。
対するアキトは顔色一つ変えることなく、腰にぶら下げていた剣を引き抜いた。
「なっ…………」
それは見るも鮮やかな深紅のロングソードだった。
アキトは抜刀した勢いのままその剣を振るい、正幸の刺突を打ち落とす。
そして返す刀で大きな隙を逸らした兜花をぶった切った。
「ぐっ!?」
血を流しながら大きく後退する兜花にアキトは剣を向ける。
「もう諦めろ。人質は確保した。今ので俺を殺せなかった以上、お前に勝ち目はない」
「かっかっか。ご忠告どうも。だがご心配頂かなくとも今のはお前を試しただけだ、本気で殺そうとは思ってもなかったぜ」
「…………強がるな。傷は浅いが痛みはあるはずだ」
「別に強がりじゃねえよ。俺様はいつだって本気だ。なぁナンシー?」
まるで自身の恋人に語り掛けるかのように兜花は私たちの背後に視線を送った。
「っ!?」
その言動につられて振り返ると、ナンシーがメロアの首筋にナイフを突きつけていた。
「何を…………やってるっすか?」
零れるようなジャックの言葉はその場にいる全員のものだったかもしれない。
まるでメロアを人質に取っているかのように振る舞うナンシー。
ただ一人兜花だけがそんな彼女の様子を平然と受け入れている。
「よくやったなナンシー。そのままこっちにそいつを連れてくるんだ」
「…………承知いたしました正幸様」
ナンシーは指示通りにメロアを連れて行く。
実質的にナンシーとメロアの二人を人質に取られているとあって、私たちには止めることは出来ない。
「一体……ナンシーに何をしたの?」
私はみっともなく兜花に疑問をぶつけることしかできなかった。
「どうもこうもねえよ。俺様は能力を使っただけだ」
「あんたの能力は他人の異能を奪う力でしょ? こんな芸当はできなかったはずじゃ…………」
「おいおい誰が異能の力だけを奪うって言ったよ?」
「まさかあんたっ!?」
「そうさ。俺様はこいつの心を奪ってやったのさ!」
兜花は勝ち誇ったようにナンシーを抱き寄せながら、もう片方の手でメロアにダガ―を突き付ける。
「さぁアキト様よお。もう一度取引と行こうじゃねぇか。次の要求は『高白氷夜の抹殺』だ。そのために俺様と契約を結んでもらうぜ? 要求を断ってもいいがその時はこの魔法使いの心を奪っちまうからな」
「……っ」
……なんて奴。
最初からメロアを出しにしてアキトに交渉を吹っ掛けるのが狙いだったんだわ。
そしてこれを出しにしてさらなる要求を突き付けてくるはず。
おそらく私と同じことを考えたのであろう。
首元に突き付けられたダガーに構わず、メロアは叫んだ。
「アキト様! 契約を結んじゃ駄目です! 一度してしまえば後は絶対服従の身になってしまいます。これ以上付き合ってはいけませんン! メロアのことは気にせずにこの男をっ!」
「……ああ、わかった」
メロアの覚悟を汲んでアキトが一歩前に踏み出そうとすると、兜花はわざとらしく咳払いをした。
「おっとそういえば俺様がどうやって心を奪うかは言ってなかったな」
「なんだと?」
「さすがの俺様といえど、そう簡単に他者の心が奪えるわけじゃねえんだ。心を奪うためには肉体的な結びつきを強くしなきゃならねえんだよな。例えばキスをするとかな」
「じゃあ……まさかお前っ!?」
最悪の事態を想像したジャックに兜花はあっけらかんと答える。
「――わりいな。お前の彼女の唇、奪っちまった」
その瞬間、誰かの心が壊れる音がした。
「ふざけるなぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」
勢いよく剣を抜き、正幸に飛び掛かっていくジャック。
「待てジャック!」
アキトは止めようとしたが、想い人を弄ばれた怒りでジャックは冷静にはなれなかった。
結果として振り下ろした剣は儚くも空を切る。
「おらよ」
そして兜花の蹴りをもろに食らい、後方まで吹っ飛んでいった。
「さて心を奪う方法もわかったところで再度取引といこうじゃねえか。俺様に協力しろアキト」
「……俺がそんな脅しに屈するとでも?」
アキトが毅然とした調子で返すと、兜花は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「強がるのはよせよ。この女がお前にとってどんな存在かはナンシーに聞いてるんだぜ? どうせこの女なら首を切られそうになってもなんとかなると踏んでいたんだろうが、さすがに唇を奪われるところは見たくないよな?」
「……なぜ俺なんだ? あいつならお前一人でも十分なはずだ」
「そりゃあいつが全ての魔法を無効化する化け物だからだよ。王家の加護を持つお前なら奴ともイーブンに戦えるかもしれねえ」
「まだそんな妄想を……」
「それよりどうなんだ? 俺様の要求を呑むのか吞まねえのかどっちなんだ?」
「っ……」
決断を迫られて珍しくアキトがうろたえていた。
兜花はそんなアキトを見てため息をつく。
「悩むのは勝手だが、あいにく俺様は待たされるのが嫌いでね。お前が決めないならこっちで決めさせてもらうぜ」
そう言って兜花はメロアの顔を掴んで無理矢理自分の方へと向けさせる。
「い、嫌っ! 見ないでアキト様」
せめてもとメロアが抵抗するも空しく、二人の距離はどんどんと近づいていき、
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