Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

文字の大きさ
41 / 50
第二章:他罰性の化け物

第三十八話 最悪の取引

しおりを挟む
「申し訳ありません……殿下」

 泣きそうになりながら謝るナンシーの首元にはダガ―が突き立てられている。
 もはや考えるまでもない。
 余計なことをすれば殺すとの兜花からのメッセージだ。

「兜花…………要求は一体なんだ?」

 腰の剣に手を添えながらアキトが問うと、兜花は愉快げに笑った。

「話が早くて助かるぜ。俺様の望みはたった一つ。『』だ。お前らが匿ってる奴の場所を吐けばこの女は解放してやるよ」

「教えたとしてもお前がナンシーを解放するとは思えないが……」

「ああ、その点については心配しないで良いぜ。奴の居場所を吐いたなら必ずこの女は解放する。お前ならこの言葉が嘘じゃないとわかるだろ?」

「……そうだな。確かに嘘はついていないようだ」

「だろ? それでどうだ? 俺様の提案に乗る気になったか?」 

 ……乗る気も何も私たちに選択権はない。
 それがわかってて聞いてくるんだから、本当に性格の悪い奴だと思う。

「……小春、済まない」 

 アキトは申し訳なさそうにこちらを一瞥した後、渋々語りだした。

「あいつは今使われなくなった旧領事館跡で療養中だ。場所はここに書いてある」

 そして懐から出した羊皮紙を投げ渡す。

「あんがとよ。んじゃこの女は解放するぜ」

 正幸はそれを一読すると、意外にもナンシーから手を離した。

「ナンシー!」

「ジャック!」

 駆け寄ってきたナンシーをジャックが受け止める。
 同時に兜花が襲ってくると踏んで私は身構えた。
 しかしいつまで経ってもその気配はなかった。
 それどころか、

「じゃあ俺様はここらで失礼するぜ」

 兜花は私たちに背中を見せる始末だ。

「っ!?」
 
 まさか本当にこれで終わりなの? 
 あまりにもあっけない展開に拍子抜けしそうになった次の瞬間、

「なんてな!」

 兜花はくるりと身を翻して、こちらに飛び掛かって来た。

「おらっ!」

 ダガ―の身軽さを活かして間合いを一瞬で詰める兜花。
 懐に飛び込むと、アキトの喉元にそれを突き立てる。
 対するアキトは顔色一つ変えることなく、腰にぶら下げていた剣を引き抜いた。

「なっ…………」

 それは見るも鮮やかな深紅のロングソードだった。
 アキトは抜刀した勢いのままその剣を振るい、正幸の刺突を打ち落とす。
 そして返す刀で大きな隙を逸らした兜花をぶった切った。

「ぐっ!?」
 
 血を流しながら大きく後退する兜花にアキトは剣を向ける。

「もう諦めろ。人質は確保した。今ので俺を殺せなかった以上、お前に勝ち目はない」

「かっかっか。ご忠告どうも。だがご心配頂かなくとも今のはお前を試しただけだ、本気で殺そうとは思ってもなかったぜ」

「…………強がるな。傷は浅いが痛みはあるはずだ」

「別に強がりじゃねえよ。俺様はいつだって本気だ。なぁ?」

 まるで自身の恋人に語り掛けるかのように兜花は私たちの背後に視線を送った。

「っ!?」

 その言動につられて振り返ると、ナンシーがメロアの首筋にナイフを突きつけていた。

「何を…………やってるっすか?」

 零れるようなジャックの言葉はその場にいる全員のものだったかもしれない。
 まるでメロアを人質に取っているかのように振る舞うナンシー。
 ただ一人兜花だけがそんな彼女の様子を平然と受け入れている。

「よくやったなナンシー。そのままこっちにそいつを連れてくるんだ」

「…………承知いたしました正幸様」

 ナンシーは指示通りにメロアを連れて行く。
 実質的にナンシーとメロアの二人を人質に取られているとあって、私たちには止めることは出来ない。

「一体……ナンシーに何をしたの?」

 私はみっともなく兜花に疑問をぶつけることしかできなかった。

「どうもこうもねえよ。俺様は能力を使っただけだ」

「あんたの能力は他人の異能を奪う力でしょ? こんな芸当はできなかったはずじゃ…………」

「おいおい誰が異能の力だけを奪うって言ったよ?」

「まさかあんたっ!?」

「そうさ。俺様はこいつの心を奪ってやったのさ!」

 兜花は勝ち誇ったようにナンシーを抱き寄せながら、もう片方の手でメロアにダガ―を突き付ける。

「さぁアキト様よお。もう一度取引と行こうじゃねぇか。次の要求は『高白氷夜の抹殺』だ。そのために俺様と契約を結んでもらうぜ? 要求を断ってもいいがその時はこの魔法使いの心を奪っちまうからな」

「……っ」

 ……なんて奴。
 最初からメロアを出しにしてアキトに交渉を吹っ掛けるのが狙いだったんだわ。
 そしてこれを出しにしてさらなる要求を突き付けてくるはず。

 おそらく私と同じことを考えたのであろう。
 首元に突き付けられたダガーに構わず、メロアは叫んだ。

「アキト様! 契約を結んじゃ駄目です! 一度してしまえば後は絶対服従の身になってしまいます。これ以上付き合ってはいけませんン! メロアのことは気にせずにこの男をっ!」

「……ああ、わかった」

 メロアの覚悟を汲んでアキトが一歩前に踏み出そうとすると、兜花はわざとらしく咳払いをした。

「おっとそういえば俺様がどうやって心を奪うかは言ってなかったな」

「なんだと?」

「さすがの俺様といえど、そう簡単に他者の心が奪えるわけじゃねえんだ。心を奪うためには肉体的な結びつきを強くしなきゃならねえんだよな。例えばキスをするとかな」

「じゃあ……まさかお前っ!?」

 最悪の事態を想像したジャックに兜花はあっけらかんと答える。

「――わりいな。お前の彼女の唇、奪っちまった」

 その瞬間、誰かの心が壊れる音がした。

「ふざけるなぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」

 勢いよく剣を抜き、正幸に飛び掛かっていくジャック。

「待てジャック!」

 アキトは止めようとしたが、想い人を弄ばれた怒りでジャックは冷静にはなれなかった。
 結果として振り下ろした剣は儚くも空を切る。

「おらよ」

 そして兜花の蹴りをもろに食らい、後方まで吹っ飛んでいった。

「さて心を奪う方法もわかったところで再度取引といこうじゃねえか。俺様に協力しろアキト」

「……俺がそんな脅しに屈するとでも?」

 アキトが毅然とした調子で返すと、兜花は嗜虐的な笑みを浮かべる。

「強がるのはよせよ。この女がお前にとってどんな存在かはナンシーに聞いてるんだぜ? どうせこの女なら首を切られそうになってもなんとかなると踏んでいたんだろうが、さすがに唇を奪われるところは見たくないよな?」

「……なぜ俺なんだ? あいつならお前一人でも十分なはずだ」

「そりゃあいつが全ての魔法を無効化する化け物だからだよ。王家の加護を持つお前なら奴ともイーブンに戦えるかもしれねえ」

「まだそんな妄想を……」

「それよりどうなんだ? 俺様の要求を呑むのか吞まねえのかどっちなんだ?」

「っ……」

 決断を迫られて珍しくアキトがうろたえていた。
 兜花はそんなアキトを見てため息をつく。

「悩むのは勝手だが、あいにく俺様は待たされるのが嫌いでね。お前が決めないならこっちで決めさせてもらうぜ」

 そう言って兜花はメロアの顔を掴んで無理矢理自分の方へと向けさせる。

「い、嫌っ! 見ないでアキト様」

 せめてもとメロアが抵抗するも空しく、二人の距離はどんどんと近づいていき、
 ついに兜花がメロアの唇を奪おうとしたその時、

「――

 懐かしい声音と共に飛来した影のようなものが兜花を吹き飛ばした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

処理中です...