Fatal reunion〜再会から始まる異世界生活

霜月かずひこ

文字の大きさ
50 / 50
第二章:他罰性の化け物

エピローグ 高白氷夜

しおりを挟む
「……知ってる天井だ」

 目を覚ますと俺は城にある病室のベッドに横たわっていた。
 上体を起こして辺りを見渡しても、傍には誰もいない。
 手錠すらかけられていない始末だ。

「これから処刑される人間にこれって……さすがに不用心すぎない?」

 なんて呆れていると、唐突にドアがノックされた。

「氷夜、入るわよ」

 俺が寝ていると思ったのか返事も待たずに小春は部屋に入って来る。
 そして俺の顔を見るなり、こちらへ歩いてきた。

「なーんだ。もう起きてたんだ」

 意外そうに語る小春に俺はいつものテンションでボケをかます。

「そりゃばっちりとね! もしかして小春ってば俺くんを起こしたかったとか?」

「ソウダッタライイワネ」

 俺のボケに棒読みで答えると、小春は近くに置いてあったリンゴを差し出してきた。

「ほら、せっかくだから食べる?」

「…………最後の晩餐的なやつですか?」

「違うわよ見舞いの品! 私が切ってあげようかって言ってるのよ!」

「ああ……うん、お願いします」

 俺としては真面目な話のつもりだったんだけどな。
 話がかみ合っていないような気がしつつも、俺は小春が切ってくれたリンゴを皿ごと受け取る。

「じゃあいただきます」

 そうしてリンゴを食べ進めようとして、

「あ、でも食べ過ぎないでね? これからあんたの退院祝いを兼ねたパーティがあるから」

 小春が発した言葉に動きを止めた。

「な、何言ってんの小春? パーティ? 俺くんのために?」

「そ。あんたの目が覚めて日本に帰る算段も付いたし、思い出作りにちょっとしたパーティをやろうって話になったのよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺の処分は? パーティとやらの後に俺は処刑されるんだよな?」

「そんなわけないでしょ。あんたはただアキトと喧嘩をしただけなんだから。喧嘩くらいで処刑になる国がどこにあるっていうのよ?」

「はは……そういうことか」

 極夜の行いをただの喧嘩ということに矮小化したんだ。
 確かにあの時、憲兵のほとんどは城の中か城壁の方に配備されていたから、俺らだけで証言を合わせれば事実を捻じ曲げることはできる。

「だからってこんなことが罷り通っていいはずないだろうが!」

 俺は日頃のキャラも忘れて感情のままに吠えた。

「みんなに暴力を振るって、トラウマをいじくって、尊厳を傷つけて、それがただの喧嘩? お咎めはありません? そんなご都合主義が許されていいはずがないだろうが!」

 やったことが全て正当化されて、どんなことをしてでも許される。
 最低最悪のご都合主義。

「俺は罰を受けなきゃいけない! 自分のしたことの落とし前を取らなきゃいけない! それが自然の摂理、この世の法則なんだよ! そうじゃなきゃなんのために俺は極夜に……」

「――察しが悪いわね。

「っ!?」

 その言葉に思わず視線を上げると、小春と目が合った。

「好きなだけ暴れて、最後は望むままに罰せられたいだなんて、そんなご都合主義は私が許さない。あんたが望んでも私はあんたを嫌ってはあげないわ」

「要は…………生きて苦しめってことかよ」

「そんな生ぬるいものじゃないわよ。隣で辛気臭い顔されていたらたまらないもの。あんたは生きて幸せをつかみ取って、そして償うの」

「無理だよ。そんなのできるはずがない」

 俺の人生は失敗の連続だった。
 それに俺がやったことはなかったことにはならない。
 建前上は喧嘩として処理をしたとしても、やられた側のアキトくんたちの反応は今までとは絶対的に変わる。
 ただでさえ向こうからすれば知り合いに過ぎなかった関係性が、それで好転するはずがない。

「そんな中で……幸せを掴めっていうのかよ」

 声を震わせながらみっともなく零した泣き言に小春は力強く言った。

「それでもよ。

「はは…………そっか、そうだったよな」

 他ならぬ俺がそう言ったんだ。
 だったらそれは曲げられないよな。
 生きている以上、少しでも前を向かないといけない。
 本当はいつまでも引きずってしまうけれど、強がることだけは得意だからな。
 
「よし!」

 俺は意を決して、皿の上のリンゴを一気にかっこむ。
 そして胸に残る気色悪さと一緒に一気に飲み込んだ。

「むぐっ!?」

「ちょ氷夜!?」

 途中で喉に詰まりかけるが、俺は構わず飲み込んで小春に尋ねる。

「……ところで小春、パーティってのはどこでやるんだ?」

「あんたの部屋よ。もうみんな着いているだろうからあんたが来ればスタートね」

「じゃあさっさと行かないとね! 主役の氷夜くんがいなきゃ盛り上がるものも盛り上がらないってもんだしさ」

 俺はいつもの調子に戻って勢いよくベットから飛び出した。
 
「さぁハリーハリー」

「はぁ……調子がいいわね」

 呆れる小春を連れて俺は自分の部屋へ向かって歩き出した。
 その道中、

「……生きて幸せを掴んで償うか。本当に君にできるのかい?」

 心のどこかから極夜が語り掛けてくる。

「さぁどうだろうな」

 幸せを掴むなんて言うは易く行うは難しだ。
 嘘で誤魔化して逃げてきた俺が容易に手にできるものではない。

 ましてやゼロからではない。
 マイナスからのコンテニュー。
 きっとこれからいくつも困難に直面して、その度に傷ついて、そして極夜にすがりたくなるのだろうけど、

「それでも俺は何かを掴むために手を伸ばし続けるよ」

 俺は極夜に力強く宣言した。

「へぇ……君のそのやせ我慢がどこまで行くか楽しみだよ」

 極夜はそれで満足したのか、また心の奥底へと消えていく。
 そうして気が付くと俺たちは部屋の前にたどり着いていた。
 
「どうしたの? 怖いなら引っ張って行ってあげるわよ?」

 ドアの前で立ち尽くす俺に手を差し伸べる小春。

「いやいや、違うっしょ」

 俺はその手を引き寄せて小春の横に並び立つ。

「これからはどっちが引っ張るとかじゃなくて、共に歩んでいく…………ってことでよろしく相棒!」

「はいはい。手が震えてるわよ」

「う、うるさいやい!」

 自分でもクサすぎると思っていたから指摘されると余計に恥ずかしい。
 俺は火照る顔を誤魔化すようにドアを開けた。

「あ、ひよよん!」

「遅いぞ氷夜」

 ……ああ、なんてだ。
 出迎えてくれたみんなは暖かくて、
 一瞬躊躇してしまったけれど、

「――うん、ただいま」
 
 俺は虚飾じゃない本当の一歩を踏み出したのだった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ios.3
2024.04.05 ios.3

プロローグから引き込まれるような文章でした!
これからも拝読させていただきます!

解除

あなたにおすすめの小説

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。