とこしえの庭で君と散る

楠富 つかさ

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#1 激情の灯火

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 特別になりたかった。人とは違う自分だけの“何か”が欲しかった。

 私は恵まれた子供だと思う。和菓子の老舗である家は裕福で、欲しいと思った物はほとんど手に入れることが出来た。お下がりも多かったけれど、それを嫌だと思うことはなかった。四人の兄や姉は私を凄く可愛がってくれた。だからといって自主性を侵害するほど溺愛するわけでもなく、私なりにやりたいようにやってきたつもりだった。

 しかし、知ってしまった。家族に向ける愛以外の愛を……。
今から五年前。長姉……一美お姉ちゃんは結婚した。高校卒業後すぐのことだった。相手は内弟子としてずっと菓子職人として修行していた男性で、私のこともよく可愛がってくれた。長兄より年上の彼を私は兄同様に慕っていた。それはある種の……初恋だった。私はその時、九歳だった。義兄となった彼は以来、時折一美お姉ちゃんを連れて夜な夜な出掛けていた。両親は特に何も言わないどころか、義兄に対して頑張れと言っていた。当時の私には意味が分からなかった。

 一年ほどそんなことがあってから、一美お姉ちゃんは妊娠した。私が十一歳になる頃に産れた姪は、年の離れた妹のようでとても可愛かった。しかし小学校高学年になった私は知ってしまった。子供が産れるまでの過程を。優しい義兄と綺麗な姉が夜な夜な何をしていたのか、想像してしまったら……急に怖くなってしまった。
それから一年ちょっとが経ち、私は一美お姉ちゃんが卒業し、次姉の百香お姉ちゃんが通う星花女子学園の中等部に入学した。男性の姿を滅多に見ない学園は、私にとってなんだかほっとする環境だった。私が入学した時既に姉は高等部の二年で、百香お姉ちゃんの友達を通して学園のことをよく知っていたのも理由だと思う。
家が広いこともあり、家族は家に人を招くことが好きだった。中でも百香お姉ちゃんは、ほぼほぼ毎日誰かを呼んでいた。中でも印象的それこそ特別印象的だったのは水戸友庭さん。

「こんにちは万和ちゃん。お邪魔するよ」

 毎月一回はお泊まりする。彼女は姉の親友で、とにかく水が好きだという彼女は我が家の大きなお風呂が大好きだと言ってくれた。

「先週は星川の方に行っていてね――――」

 市内はおろか県内のありとあらゆる水に詳しい彼女の話は、まるで冒険譚のようで面白かった。

 ある夏休みの一日、ハーブの図鑑を見ていたら夜更かししてしまっていた私は、ふと友庭さんの話が聞きたくて客間へ向かった。廊下を歩いていると、変な声が聞こえてきた。それが百香お姉ちゃんの声だと気づいたのは、客間の目の前まで近付いた時だった。襖をほんのわずかに明けると……。姉の下腹部に顔を押し付ける友庭さんの姿があった。夜目と薄い月明かりで見てしまった姉の痴態は、否が応にも私に性の目覚めをもたらした。そのまま何分そこにいたか分からない。姉の身体が弓なりになり、布団にぐったりするまで目撃した私は、部屋に戻りながらいつかの失恋を思い出していた。そう、その時から私は……友庭さんを私だけの特別にしたいと考えていた……。
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