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#13 昇進
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少佐との模擬戦から一夜明け、私も隊に復帰した。加えて、学生の本分である授業にも復帰することになった。
ガーデンは軍事施設でもあるが教育機関でもある。とはいえ、ガーデンで行われる授業の大半が映像授業だ。突発的な任務で離席せざるをえない学生も多い以上、模擬戦の訓練やサバイバル技能以外の授業はどうしても映像の方が手っ取り早いのだ。
もっとも、魔獣討伐者は生涯できる仕事じゃないこともあり、職業選択の幅を広げるための教育は対面で行われることもある。他にも、ガーデンの学生が単なる戦闘マシーンとならないよう、芸術の授業も対面で行われる。結歌ちゃん、名が体を表しているのか音楽とりわけ合唱が得意なのだ。
「はぁ、今日の授業も終わった! やっぱり歌っていいね。またカラオケ行きたいね」
「また今度お休みをもらったら考えよう。私、校長先生に呼ばれてるから先に寮へ戻ってて」
「うん。大尉への昇進人事だと思うよ」
そう言えば黒獅子型との交戦を事後承認するために昇進したんだった。准佐になった結歌ちゃんは異常と言って差し支えないけど、私も大尉か……。階級が下の上級生に対する接し方がますます分からない。高等部の生徒にだって大尉クラスはそう多くはいないというのに。
「じゃあ、また後でね」
結歌ちゃんと別れ校長室へ向かう。映像授業を見たり対面の授業を受けたりする教育棟と、魔剣の管理や研究の行われるラボこと研究棟そして校長先生とかOGである現役の軍人さんが多数いる軍務棟の三つで、魔導学園は構成されている。
「やっぱり軍務棟は緊張する……」
軍務棟は機密事項の巣窟なため、入る時は学生であても受付で記名をし、通信機器を預けなければならない。張り詰めた雰囲気の軍務棟、その最上階に校長室はある。
高級感のある木材でできた扉を三回ノックする。すぐに入れという落ち着いた声が聞こえた。
「露辺舞美、入ります」
名古屋市街を一望する大きな窓を背に、妙齢の淑女は椅子に腰掛けていた。
大河靖恵大将閣下だ。メイガスであり魔剣使い、それも二振り佩刀していた東海の女傑だ。もう魔力が枯れ果てた年齢のはずだというのに、そんな雰囲気を一切させない精力に満ちた目で私を見つめる。
「よく来たね露辺。乙種魔獣との交戦、ご苦労だった」
「……ありがとうございます」
交戦要件を満たしていないまま戦闘に突入したことを咎められるかと思ったが、ねぎらわれるとは。もっとも、結歌ちゃんが既にこっぴどく叱られたかもしれない。
「これが大尉昇進の辞令と階級章だ。露辺舞美、貴君の日頃の戦果を賞し日本陸軍魔獣討伐局大尉を任命する」
「拝命します」
臙脂と黒をベースに星が三つ。結歌ちゃんがしていたから見慣れてはいるが、自分のものとなると重みが違う。
「堅い話はここまでだ。祝い金が入っているはずだが確認したか?」
「い、いえ……まだです」
ガーデンの学生は学生でもあるが軍人、任務に対して報酬が支払われるし、昇進すれば一時金も貰える。全て電子マネーだから完全に私の確認不足だ。
「まぁそれはいい。というか座れ」
「はい、失礼します」
執務机を離れ、応接用のソファに座り込む校長。私も座るよう促され、高級感あふれるレザーのソファに腰を下ろす。
「お前も大尉だ。自分の隊を持ってもいいんじゃないか?」
「わ、私は……藤城隊に残りたいです」
元はと言えば私も結歌ちゃんも少尉の時、中等部一年の初夏に露辺隊として隊を結成した。その時は同級生ばかりの六人班だった。そこから半年くらいで二人とも中尉に昇進したけど再編した隊の隊長は私のままだった。それからまた半年ちょっと、今年の夏に結歌ちゃんだけが昇進し大尉になった。そのタイミングで、宮下中尉の隊を併合する形で今の藤城小隊が結成された。
通常の任務であれば小隊規模での行動が多い。あまりに魔獣の数が多ければ五十名弱の中隊で作戦行動を行うが、人と人の戦争じゃないからそこまで大規模な戦闘は滅多に起きない。
「お前は指揮官向きだと思うがな。露辺隊時代を見ていればよく分かる」
「なら尚更、私を藤城隊に残してください。藤城准佐を一番理解しているのは……私です」
結歌ちゃんは本来、遊撃手として自由に行動させてこそ一番輝けるのに、なまじ階級が高いせいで指揮官の座に無理矢理収められている。……これも私が無力だから。
「まぁ気持ちは分かる。私もそうだった。強い輝きの傍に身を置いて……苦しんだ」
「こ、校長先生より強い、輝き……?」
東海の生ける伝説である校長先生に、私の気持ちが分かるなんて思えない……。
「私が魔剣の二刀流だってのは知られているだろうが、その片方は形見なんだよ。二十数年前……いや、もう三十年前って言ってしまっていいか。まだ幼かった……魔剣を振り回して、戦いに明け暮れて、友を一人喪った。その友が隊長で、私が参謀のような隊だった。そいつの使い方を一番理解しているつもりだったが、友が戦死したのは抗いようも無く私の失策だった。私しか理解しない私の失策……」
悔いるように声色に、私は思わず自分の作戦ミスで結歌ちゃんを喪う想像をしてしまった……。彼女を護るために力を求めたというのに……そんなことになってしまったら、私は……。
「それでも、私は結歌ちゃんの傍にいたい。彼女を……護りたい」
「そう、か。露辺は強いな。分かった。藤城隊の編成は現状に人員の追加でとどめよう。隊を分けるまねはせん。話は以上だ。下がっていいぞ」
「ありがとうございます。……失礼します」
認めてもらえたのだろうか、私の……在り方を。それが凄く嬉しくて、ありがたくて、私は結歌ちゃんを護る決意を新たに、校長室を後にした。
ガーデンは軍事施設でもあるが教育機関でもある。とはいえ、ガーデンで行われる授業の大半が映像授業だ。突発的な任務で離席せざるをえない学生も多い以上、模擬戦の訓練やサバイバル技能以外の授業はどうしても映像の方が手っ取り早いのだ。
もっとも、魔獣討伐者は生涯できる仕事じゃないこともあり、職業選択の幅を広げるための教育は対面で行われることもある。他にも、ガーデンの学生が単なる戦闘マシーンとならないよう、芸術の授業も対面で行われる。結歌ちゃん、名が体を表しているのか音楽とりわけ合唱が得意なのだ。
「はぁ、今日の授業も終わった! やっぱり歌っていいね。またカラオケ行きたいね」
「また今度お休みをもらったら考えよう。私、校長先生に呼ばれてるから先に寮へ戻ってて」
「うん。大尉への昇進人事だと思うよ」
そう言えば黒獅子型との交戦を事後承認するために昇進したんだった。准佐になった結歌ちゃんは異常と言って差し支えないけど、私も大尉か……。階級が下の上級生に対する接し方がますます分からない。高等部の生徒にだって大尉クラスはそう多くはいないというのに。
「じゃあ、また後でね」
結歌ちゃんと別れ校長室へ向かう。映像授業を見たり対面の授業を受けたりする教育棟と、魔剣の管理や研究の行われるラボこと研究棟そして校長先生とかOGである現役の軍人さんが多数いる軍務棟の三つで、魔導学園は構成されている。
「やっぱり軍務棟は緊張する……」
軍務棟は機密事項の巣窟なため、入る時は学生であても受付で記名をし、通信機器を預けなければならない。張り詰めた雰囲気の軍務棟、その最上階に校長室はある。
高級感のある木材でできた扉を三回ノックする。すぐに入れという落ち着いた声が聞こえた。
「露辺舞美、入ります」
名古屋市街を一望する大きな窓を背に、妙齢の淑女は椅子に腰掛けていた。
大河靖恵大将閣下だ。メイガスであり魔剣使い、それも二振り佩刀していた東海の女傑だ。もう魔力が枯れ果てた年齢のはずだというのに、そんな雰囲気を一切させない精力に満ちた目で私を見つめる。
「よく来たね露辺。乙種魔獣との交戦、ご苦労だった」
「……ありがとうございます」
交戦要件を満たしていないまま戦闘に突入したことを咎められるかと思ったが、ねぎらわれるとは。もっとも、結歌ちゃんが既にこっぴどく叱られたかもしれない。
「これが大尉昇進の辞令と階級章だ。露辺舞美、貴君の日頃の戦果を賞し日本陸軍魔獣討伐局大尉を任命する」
「拝命します」
臙脂と黒をベースに星が三つ。結歌ちゃんがしていたから見慣れてはいるが、自分のものとなると重みが違う。
「堅い話はここまでだ。祝い金が入っているはずだが確認したか?」
「い、いえ……まだです」
ガーデンの学生は学生でもあるが軍人、任務に対して報酬が支払われるし、昇進すれば一時金も貰える。全て電子マネーだから完全に私の確認不足だ。
「まぁそれはいい。というか座れ」
「はい、失礼します」
執務机を離れ、応接用のソファに座り込む校長。私も座るよう促され、高級感あふれるレザーのソファに腰を下ろす。
「お前も大尉だ。自分の隊を持ってもいいんじゃないか?」
「わ、私は……藤城隊に残りたいです」
元はと言えば私も結歌ちゃんも少尉の時、中等部一年の初夏に露辺隊として隊を結成した。その時は同級生ばかりの六人班だった。そこから半年くらいで二人とも中尉に昇進したけど再編した隊の隊長は私のままだった。それからまた半年ちょっと、今年の夏に結歌ちゃんだけが昇進し大尉になった。そのタイミングで、宮下中尉の隊を併合する形で今の藤城小隊が結成された。
通常の任務であれば小隊規模での行動が多い。あまりに魔獣の数が多ければ五十名弱の中隊で作戦行動を行うが、人と人の戦争じゃないからそこまで大規模な戦闘は滅多に起きない。
「お前は指揮官向きだと思うがな。露辺隊時代を見ていればよく分かる」
「なら尚更、私を藤城隊に残してください。藤城准佐を一番理解しているのは……私です」
結歌ちゃんは本来、遊撃手として自由に行動させてこそ一番輝けるのに、なまじ階級が高いせいで指揮官の座に無理矢理収められている。……これも私が無力だから。
「まぁ気持ちは分かる。私もそうだった。強い輝きの傍に身を置いて……苦しんだ」
「こ、校長先生より強い、輝き……?」
東海の生ける伝説である校長先生に、私の気持ちが分かるなんて思えない……。
「私が魔剣の二刀流だってのは知られているだろうが、その片方は形見なんだよ。二十数年前……いや、もう三十年前って言ってしまっていいか。まだ幼かった……魔剣を振り回して、戦いに明け暮れて、友を一人喪った。その友が隊長で、私が参謀のような隊だった。そいつの使い方を一番理解しているつもりだったが、友が戦死したのは抗いようも無く私の失策だった。私しか理解しない私の失策……」
悔いるように声色に、私は思わず自分の作戦ミスで結歌ちゃんを喪う想像をしてしまった……。彼女を護るために力を求めたというのに……そんなことになってしまったら、私は……。
「それでも、私は結歌ちゃんの傍にいたい。彼女を……護りたい」
「そう、か。露辺は強いな。分かった。藤城隊の編成は現状に人員の追加でとどめよう。隊を分けるまねはせん。話は以上だ。下がっていいぞ」
「ありがとうございます。……失礼します」
認めてもらえたのだろうか、私の……在り方を。それが凄く嬉しくて、ありがたくて、私は結歌ちゃんを護る決意を新たに、校長室を後にした。
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