断罪のゆりかご ―冷徹なる処刑官アネットと終焉の王国―

楠富 つかさ

文字の大きさ
5 / 5
第一章 断罪の剣

第五話 身を焦がす

しおりを挟む
 ルーイェッジア王国の王都ルミナンサスにある城門前広場に今日もまた人の垣根が二重三重に形成されていた。七日に一度、そこで開かれる公開処刑に群衆は熱狂していた。まるで季節が夏に向けて熱くなるのに合わせるかのように。
 春先の一件以来、ティナの処刑官としての振る舞いは一変していった。偶発的に罪人の命を奪ってしまったあの日を境に、彼女の心に宿っていた恐怖のたがは完全に外れたかのようだった。
 打棒の刑では、わざと急所を狙うことが常となった。鞭打ちの刑では、規定の回数を超えて鞭を振るい、罪人の肉体を必要以上に深く傷つけた。罪人が苦悶の叫びを上げれば上げるほど、ティナの目は冷たく、そしてどこか満ち足りた光を宿した。それは、かつて騎士学校で将来を嘱望されたティナ・ロッドフォールとはかけ離れた、嗜虐的ですらある振る舞いだった。

「ひ、ひぃ……やめてくれ! もう、もう勘弁してくれ……!」

 ある日、鞭打ちの刑に処されていた男が、意識が朦朧としながら命乞いをした。ティナは無言で鞭を振り上げ、男の顔めがけて振り下ろそうとする。その眼差しは、最早、罪を憎む正義感などではなく、ただ単に苦痛を与えることを楽しんでいるかのようだった。
 広場を埋め尽くしていた民衆は、最初は彼女の徹底した正義に喝采を送っていた。しかし、徐々にその残虐さに戸惑い、沈黙するようになっていった。中には、顔を背けたり、広場を後にしたりする者も現れ始めた。一方でその過激なまでの刑罰執行に熱狂するものもいた。
 アネットは、そのすべての光景を無言で見ていた。彼女の感情の乏しい顔には、ティナへの怒りも、失望も、一切見て取れない。ただ、その静かな瞳の奥には、薄い氷が張ったかのような冷酷さが宿っていた。
 ティナの異常なまでの行動は、やがて騎士団内部でも問題視されるようになった。幾度かの警告にも耳を貸さず、むしろその行為はエスカレートしていくばかりだった。そしてついに、騎士団長からの呼び出しを受けることとなる。

「アネット・レイゼルならびにティナ・ロッドフォール――入ります」

 騎士団長であるサイモンの執務室は、重苦しい空気に満ちていた。サイモンの向かいに立つティナは、両の手を後ろに組み眉一つ動かさない。

「ロッドフォール処刑官。貴殿の度重なる過剰な刑罰執行、そして罪人への不必要な苦痛の付与について、多数の報告が挙がっている」

 サイモンの言葉は重く響いた。ティナは無言で団長を見つめ返す。

「王国の法とは、すなわち女王陛下のご意向である。それを上回る過剰な刑罰を罪人に与えるということは、すなわち女王陛下を軽視する不敬な行為である。これを理解しているのかね?」

 サイモンは、疲れたようにため息をついた。

「よって、ロッドフォール処刑官には、無期限の謹慎を命じる。その間に、己の行いを深く顧み、処刑官としての職責を再認識せよ。アネット、ロッドフォール君の騎士剣を」

 そこまで言われてようやくティナの顔に、わずかな動揺が走った。謹慎――それは、彼女から処刑という行為を奪い去ることを意味した。ティナは伏し目がちになりながら腰に佩いた騎士剣――女王より賜った騎士の象徴をアネットへと手渡した。

「処分を謹んで受け入れます」

 ティナが去り際にアネットへと向けた視線、そこに籠る感情をアネットは黙殺した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...