21 / 26
ファイル18 空き物件に○○ 4月24日日曜日
しおりを挟む
その日も通常通りの業務をこなしていたのだけれど、ふと変わった電話を取ったのだった。
「お電話ありがとうございます。リリィエステートの有働でございます」
「あぁ、今おたくの看板を見て電話しているのだけれど、ほらえっとガラス張りの空き店舗があるでしょう?」
電話をかけてきてくださったのは高齢女性っぽい方、ガラス張りの空き店舗……どこのことを言っているんだろう。
「どちらの店舗ですか? 周囲になにがありますか?」
「えっと、隣がレストランで、向かいは……カメラ屋さんかしら。この建物は多分、車屋さんだったと思うわ」
「隣がレストランで向かいがカメラ屋の元車屋さんですね……」
お婆さんが言った内容をメモしていると、三咲ちゃんが隣から声をかけてくれた。
「市場谷の元ディーラーの建物よ」
「えっと、場所は分かりました。どのようなご用件ですか?」
「そうそう、建物の中で鳥が飛びまわっているのよ。出してあげてほしいわ」
聞けばお電話されている方は散歩中らしく、ガラス張りの店舗内に鳥の姿が見えて驚いて電話してきたのだという。お名前を聞くと名乗るほどのものじゃないですよと言われ電話を終えた。一応、ナンバーディスプレイに電話番号が出ているが、まぁ、折り返すこともないかな。
「有働さん、見に行ってきてくれる?」
「あ、分かりました。行ってきます」
物件資料を手渡された私はシグネットの鍵を借りて事務所を飛び出した。
その物件は事務所から車で十五分ほどの距離にあって、かつては輸入車のディーラーとして使われていたようだ。現在は賃料三十五万で募集中、二階建てのそこそこ大きな建物だ。ディーラーということもあって、路面に向けてガラス張りで作られている。
鍵を開けて中に入ると、鳥の姿は見えない。……実はそんなに鳥が得意ではないので、少しビビっている自分がいる。なんとなく手を叩いて大きな音を出す。がらんどうの物件内では手を叩いた音がよく響く。ぐるっと上まで見渡すが、ショールーム内には鳥の姿はない。
「うーん、ピットの方かな」
この建物は道路側にショールームがあり、その裏にピットがある。ピットは一階と二階部分を吹き抜けにして作られており、二階には事務所も構えている。
おそるおそるピット部分へ行くと――
「いた! ハトとかカラスじゃないや」
青っぽいその鳥は全然こちらを警戒する様子もなく、むしろこちらに駆け寄ってくる始末だ。飼われている鳥なのだろうか……いや、そうでもないような。
「換気扇から入ってきちゃったのかな……」
工業的な施設でもあるピットには、そこそこ大きな換気扇が取り付けられている、ひょっとしたらそこから入ってきたのかもしれない。実際にそうかまでは分からないけど。
取り敢えず追い立ててピットから追い出すが、ショールームを飛び回ってなかなか外へは行ってくれない。
写真を撮りつつ音を出して追いかける。ほどなくして倉庫みたいな一室へ追い込むことに成功した。
「窓を、開けて、よし! あとは出て――いった! 良かったぁ」
鳥が出ていったことを確認してすぐ窓を閉める。
また入ってきたら大変だからね。
「よし、事務所に戻ろうっと」
かれこれ十五分ほど時間をかけてしまった。
事務所に戻って何の鳥なのか社長に聞かれたので、取り敢えず画像検索にかけたらところイソヒヨドリだと判明した。人懐っこい鳥と紹介されていた。
「なかなかないお問い合わせだったね、お疲れ様」
三咲ちゃんに頭を撫でてもらえたので私としてはいい仕事をしたと思えた。
「お電話ありがとうございます。リリィエステートの有働でございます」
「あぁ、今おたくの看板を見て電話しているのだけれど、ほらえっとガラス張りの空き店舗があるでしょう?」
電話をかけてきてくださったのは高齢女性っぽい方、ガラス張りの空き店舗……どこのことを言っているんだろう。
「どちらの店舗ですか? 周囲になにがありますか?」
「えっと、隣がレストランで、向かいは……カメラ屋さんかしら。この建物は多分、車屋さんだったと思うわ」
「隣がレストランで向かいがカメラ屋の元車屋さんですね……」
お婆さんが言った内容をメモしていると、三咲ちゃんが隣から声をかけてくれた。
「市場谷の元ディーラーの建物よ」
「えっと、場所は分かりました。どのようなご用件ですか?」
「そうそう、建物の中で鳥が飛びまわっているのよ。出してあげてほしいわ」
聞けばお電話されている方は散歩中らしく、ガラス張りの店舗内に鳥の姿が見えて驚いて電話してきたのだという。お名前を聞くと名乗るほどのものじゃないですよと言われ電話を終えた。一応、ナンバーディスプレイに電話番号が出ているが、まぁ、折り返すこともないかな。
「有働さん、見に行ってきてくれる?」
「あ、分かりました。行ってきます」
物件資料を手渡された私はシグネットの鍵を借りて事務所を飛び出した。
その物件は事務所から車で十五分ほどの距離にあって、かつては輸入車のディーラーとして使われていたようだ。現在は賃料三十五万で募集中、二階建てのそこそこ大きな建物だ。ディーラーということもあって、路面に向けてガラス張りで作られている。
鍵を開けて中に入ると、鳥の姿は見えない。……実はそんなに鳥が得意ではないので、少しビビっている自分がいる。なんとなく手を叩いて大きな音を出す。がらんどうの物件内では手を叩いた音がよく響く。ぐるっと上まで見渡すが、ショールーム内には鳥の姿はない。
「うーん、ピットの方かな」
この建物は道路側にショールームがあり、その裏にピットがある。ピットは一階と二階部分を吹き抜けにして作られており、二階には事務所も構えている。
おそるおそるピット部分へ行くと――
「いた! ハトとかカラスじゃないや」
青っぽいその鳥は全然こちらを警戒する様子もなく、むしろこちらに駆け寄ってくる始末だ。飼われている鳥なのだろうか……いや、そうでもないような。
「換気扇から入ってきちゃったのかな……」
工業的な施設でもあるピットには、そこそこ大きな換気扇が取り付けられている、ひょっとしたらそこから入ってきたのかもしれない。実際にそうかまでは分からないけど。
取り敢えず追い立ててピットから追い出すが、ショールームを飛び回ってなかなか外へは行ってくれない。
写真を撮りつつ音を出して追いかける。ほどなくして倉庫みたいな一室へ追い込むことに成功した。
「窓を、開けて、よし! あとは出て――いった! 良かったぁ」
鳥が出ていったことを確認してすぐ窓を閉める。
また入ってきたら大変だからね。
「よし、事務所に戻ろうっと」
かれこれ十五分ほど時間をかけてしまった。
事務所に戻って何の鳥なのか社長に聞かれたので、取り敢えず画像検索にかけたらところイソヒヨドリだと判明した。人懐っこい鳥と紹介されていた。
「なかなかないお問い合わせだったね、お疲れ様」
三咲ちゃんに頭を撫でてもらえたので私としてはいい仕事をしたと思えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
ゆりいろリレーション
楠富 つかさ
青春
中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。
てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。
二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる