恋の泉の温もりよ

楠富 つかさ

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「あーお客さん増えてきたね」

 脱衣所には私たちの他にも何人かお客さんがいた。着替えた場所で服を着直して、ドライヤーで髪をかわかす。髪はけっこう伸ばしている方で、結い方がいろいろ試せて楽しいけれど、こういう時は意外と手間に感じることがある。

「そろそろ切ろうかなぁ……」
「えぇ、もったいないよ。そんな綺麗な髪」
「あ、ゆもりちゃん。早いね。髪……かわかさないの?」

 浴衣姿の私と違って、ゆもりちゃんが着ているのは作務衣? かな。少し淡いオレンジっぽい色で、元気なゆもりちゃんによく似合っていた。

「うーん、あたしドライヤー苦手でさ。頭の上に向けてると腕重くならない?」
「分かるけど……ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ。ほら、そこ座って」

 そう言ってゆもりちゃんを洗面台の前にある椅子へ座らせ、ドライヤーをかける。わしゃわしゃとしたゆもりちゃんの髪はクセがあり自然と外はねになっちゃうらしい。でもそんな髪型がゆもりちゃんらしくて違和感はない。

「うん。OK、乾いたよ」
「ありがとう、心」

 くるっと一周回ってからお礼を言うゆもりちゃん。

「この後ご飯なんだっけ?」
「そう、あたしが客室に持って行くから一緒に食べようね。ま、あたしのはまかないの簡単なものだけどさ」

 そう言って脱衣所を出て行くゆもりちゃん。厨房方向へ駆け出す彼女を見送って、私は自分が泊まってる桐の間に戻った。少し散らかってる荷物を部屋の隅に寄せて、お茶を二人分用意して待つ。少ししてから襖の外からゆもりちゃんの声がした。

「お待たせ、心。入って大丈夫?」
「大丈夫だよ、入って」

 ゆもりちゃんが持ってきたお盆の上にはご飯や味噌汁に焼き魚に卵焼き、味のりが並んでいた。あと、ちょっと大きな丼が乗ってるけど、

「ゆもりちゃん、朝から結構食べるんだね」
「うん。まぁ、お茶漬けだけどね。食べよ」
「いただきます」
「ふぉおいえはふぉふぉろ」
「飲み込んでからでいいよ」

 もごもごと喋るゆもりちゃんに飲み込むよう促すと、一拍おいてからゆもりちゃんが口を開いた。

「なんでセーラー服着てるの?」

 今、私が着ているは黒い冬服のセーラー服。コートや膝掛けみたいな防寒具はあれこれ持ってきたけれど、私服は荷物になっちゃうから置いてきた。

「街を見て回ろうと思って。高校も気になるし」
「なるほど」

 また少し食べ進めてからゆもりちゃんが思い出したかのように話しを切り出した。

「あちこち見て回るんだったら岸辺商店っていうお土産屋さんに行くといいよ。あそこにお風呂でも話した幼馴染みがいるんだけど、多分悩みを共有できるんじゃないかな……」

 少し遠い目をしながら言うゆもりちゃん。悩み……そゆことかしら。

「取り敢えずあたしから連絡しておくけどあいつメッセ見ないからなぁ。あ、心もID交換しよー」

 そう言ってスマートフォンを取り出すゆもりちゃん。

「あ、えっと、私、ケータイ持ってなくて。高校に受かったら買ってもらえるんだけどね……」

 持ってないと不便だなぁって思うけど、私もお母さんも中学生で持つには早いかなぁって考えてたからまだ持ってないのだ。

「なるほどねぇ。まぁ場所も近いし大丈夫か」
「これ、簡単だけど地図。食べ終えたら膳を外に出しておいて。回収に来るから。じゃあ、ごゆっくり」

 そう言って部屋から出て行くゆもりちゃん。取り敢えずゆっくり食べて後から行ってみようかな。お土産屋さんらしいし気になるもんね。

「うーん、ごちそうさま。お腹いっぱい」

 さて、動こっか。ゆもりちゃんに言われたようにお膳を部屋の外に置いておいて、必要最低限の荷物だけ持って旅館を後にする。もらった簡単な地図で分かるのか最初は不安だったけれども、街の構造が碁盤の目に似たものだから道は分かりやすいのだ。しばらく歩いていると川岸商店の看板が見えてきた。
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