恋の泉の温もりよ

楠富 つかさ

文字の大きさ
7 / 7

#7

しおりを挟む
 夢みたいな時間はあっという間に過ぎて行って、三月中旬。この辺りにはすっかり桜が咲いている時期になった。高校の合格発表が送られてきた。
 私は制服を作るために再び温泉街へとやってきた。お疲れ様会を兼ねたお泊り会以降、週に二回くらいは電話で話す日々を過ごしていた。ゆもりちゃんと彩織ちゃんも無事に合格していて、私たち三人は四月から晴れて湯乃宮高校の高校生になるのだ。制服を仕立てるためのお店は、ゆもりちゃんたちに紹介してもらうのでこのあと合流することになっている。会うのは二か月ぶり……だね。

「お久しぶりです!」
「おっす!」
「元気だった?」
「はい! 二人は?」
「あたしは元気! 彩織もな」
「そうそう、元気だよ~。心ちゃん、なんかちょっと大人っぽくなった?」
「あはは、そうかな? そうだと、ちょっと嬉しいかな」

 他愛もない会話をしながら歩くこと数分、目的の場所にたどり着いた。
 お店の中に入ると、カウンターにいたおばあさんが声をかけてきた。

「あら、いらっしゃい。これから高校生になるお嬢さんかしら?」
「はい! よろしくお願いします!」
「えぇえぇ、それでは採寸するわね。ささ皆さん、どうぞこちらへ」

 私たちは案内されるがままに採寸から生地選びを冬服、夏服、それぞれこなしていく。制服は受け取りにこなくてはならないが、支払いは銀行での払い込みらしいのでこの辺りはお母さんに任せて大丈夫そうだ。

「ねえ、この後さ心の家に行ってみようよ。場所知っておきたいし」
「え? まだ鍵もらってないし引っ越しもしてないよ? 確か、二十七日に鍵もらって荷物も入れてもらうはず」
「けっこうギリギリじゃん。でもほら、場所だけでもさ」

 うーん、確かに。お母さんからもらった地図を見る限りだと、ここから十分くらいで着くみたいだし、ちょっとだけ見てみるのも良いかもしれない。内見の時に一回行ったきりだから、まだ引っ越し先から学校までの距離とかも確認してないし。お店を出た後の予定もないから、私はゆもりちゃんの提案に乗っかって、アパートを目指すことにした。

「あれ? ねぇゆもり。一昨日だからにこの辺りで火事なかったっけ?」
「そういえばあったっけね……確か、木造の古いアパートで大家さんのうっかりで出火したんじゃなかったっけ?」

 歩きながら話していると、ゆもりちゃんがそんなことを言い出した。たしかに、このあたりは木造のアパートが多いとは聞いていたけど、まさか……ねぇ?

「私の記憶がよっぽど間違ってなければ、引っ越し先……あそこなんだよね」

 遠目に見える規制線に慌てて駆け寄ってみれば、内見の時に目印にしていた円筒型の懐かしいポストが近くにあり、私はがっくりと項垂れてしまった。

「心――うちにおいでよ」
「ゆもりちゃん……うん! 一緒に、働きたい!」
「心ぉ! えへへ、よろしくね!!」

 花菱心15歳、期待と不安の一人暮らしはふいになっちゃったけど、高校入学前から友達ができて、その友達の家が旅館で、住み込みで働くことになりました! やっぱり不安は少しあるけれど、それ以上に楽しみで……いつか、ゆもりちゃんに好きだって伝えられるように、私、頑張ります!!




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

名もなき春に解ける雪

天継 理恵
恋愛
春。 新しい制服、新しいクラス、新しい友達。 どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。 そんな羽澄が、図書室で出会ったのは—— 輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。 その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。 名前を呼ばれたこと。 目を見て、話を聞いてもらえたこと。 偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと—— 小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。 この気持ちは憧れなのか、恋なのか? 迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく—— 春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...