特別な私と貴女の特別な花

楠富 つかさ

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第11話

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「……あぁ、本当に、変な子ね。空凪は。……ぐす、人前で泣くなんて、いつ振りかしら……」

 結心さんの涙が静かに頬を伝う。きっとその涙は、これまで凍っていた心が溶けたから。
 公園の街灯が、揺れる彼女の横顔を淡く照らしていた。私はまだ彼女の手を握っている。彼女も、もう振り払おうとしなかった。

「……空凪」

 震える声だった。

「私……どうしたらいいのか、分からない」

 結心さんが見せる、初めての弱さ。
 その瞳には、不安と、迷いと、そして、ほんの少しの希望が滲んでいるように見えた。
 私は、もう決めていた。
 この人を、もっと知りたい。
 この人と、もっと一緒にいたい。
 結心さんの過去も、痛みも、全部抱きしめてあげたい。
 だから——

「……私ね」

 私は、ぎゅっと彼女の手を握りしめる。

「結心さんのことが好き」

 夕方の秋風が、木々をざわめかせる。
 でも、私の声は、その音に負けなかった。

「ただの興味とか、憧れとか、そんなんじゃないよ。貴女がどんな過去を持っていても、どんな風に見られていても……私は、貴女が好き」

 結心さんの目が、大きく見開かれる。

「だから、これからも貴女のそばにいたい。もっと、貴女のことを知りたいし、貴女に私のことも知ってほしい」

 彼女の唇が、かすかに震える。

「……そんなこと、言われたの……初めて」

 ぽつりと零れた声が、静寂に溶けていく。

「私はずっと……誰にも求められないと思ってた」
「そんなことないよ」

 私は強く首を振った。

「私は、貴女を求めてる。貴女がどんな人でも、どんな過去を持っていても」

 私の言葉に、結心さんは息を呑んだ。
 そして——
 次の瞬間、彼女の腕がそっと私の肩に回された。
 優しく、でも、確かに。

「……私も」

 結心さんの囁きが、耳元に届く。

「私も、貴女が好き。目が離せないの」

 私は、驚いたように彼女を見つめた。
 彼女は、泣きながら微笑んでいた。

「こんな私でも……いいの?」
「ううん」

 私はそっと、彼女の頬に触れる。

「“こんな”とかじゃなくて、結心さんだから好きなの」

 彼女の瞳から、また涙が零れた。
 でも、それはもう、悲しみだけの涙じゃなかった。
 静かな公園のベンチで、私たちはそっと抱きしめ合った。

「ねえ空凪、コスモスの花言葉を知ってる?」
「え、ううん」
「色によっても違うけど、あそこに咲いているピンクだったら――乙女の純潔」
「そ、そうなんだ」
「だから……あげる」
「え?」

 ポカンとする私を引き寄せて、結心さんがそっとキスをしてきた。視界一杯に結心さんの綺麗な顔があって、目をぱちくりさせてしまう。

「あらためて、よろしく……空凪」
「は、はい。結心さん……」

 それが、私たちの始まりだった。
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