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第12話
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結心さんとお付き合いするようになって、あっという間に日々が過ぎていき――春が近づいていた。
そうはいっても、この街の冬は長くて、まだまだ寒い日が続いている。桜前線のニュースが連日報道されているけれど、この街に植えられた桜はまだ寒そうに過ごしている。
「空凪? どうかしたの?」
私の横にいる結心さんは、初めて出会った頃より本当に柔らかな表情を浮かべることが増えた。私以外のクラスメイトと話す機会はまだまだ少ないけど、葵ちゃんや唯菜ちゃんとはたまに話している。
そういえば、葵ちゃんが結心さんのことを薔薇に喩えていたけど、私のことを空色の薔薇って言ってったっけ。青いバラの花言葉はこれまで不可能とか存在しないだったけれど、実現してからは可能性とか奇跡とか、そんなポジティブな花言葉が付け加えられていた。
「この街は三月でもまだまだ寒いね」
両親の仕事の都合で転校ばかりの人生で、人との別れには慣れているつもりだった。でも、今だけは、その未来を想像したくなかった。結心さんと離れることを考えるだけで、胸が痛くなる。
——私は、また一人になるのだろうか。
「空凪」
不意に名前を呼ばれて、私は顔を上げた。
放課後の校舎。窓から差し込む夕日が、結心さんの横顔をオレンジ色に染めている。彼女は小さく息を吸い込んで、それから、まっすぐに私を見つめた。
「空凪はもう、高校選び……始めた?」
「……え?」
「もしよかったら、同じ高校を受けない?」
——一緒の高校に行く。
そんな発想をしたことがなかった。私はただ、別れの不安に怯えて、どうしようもないと思っていたのに。
「……そんな、こと……」
喉の奥が詰まる。言葉にならない想いが、胸の中で溢れそうになる。
「だ、だったらさ!」
問いかけられて、私はようやく気づいた。
結心さんは、私に「選ぶ」ことを与えてくれたんだ。これまで、私は流されるだけだった。転校も、別れも、仕方のないことだと諦めてきた。
でも、今——
「ちょっと、興味がある学校があるの。前の前に通ってた、小学校のある街にね、すごい女子校があるの。なんか、人気でね。制服も可愛くって……きっと、結心さんにも似合うと思うの。でも――」
「でも?」
「……遠いの。多分500キロくらい離れてる」
結心さんがこの街にどれくらい思い入れがあるかは分からない。私のわがままで、遠い場所まで一緒に来てくれるだろうか。
「そこ、寮とかないの?」
「あるよ。でも……いいの?」
もともと、寮のある学校に行けば転校についていかなくてもいいんじゃないかと思って調べ始めた学校だけど、中学受験の壁は高くて、諦めてしまった。
「受験に行くのも一苦労だよ」
「私は……離れたくない。空凪にもし、まだ転校の可能性があるなら、寮のある高校に一緒に行くのはいい選択肢だと思う。あとは、その学校じゃなきゃダメな理由をでっち上げて親と先生に理解を取り付ければいいんでしょう?」
そう微笑む結心さんがあまりに優しくて――
「好き」
思わず、口からこぼれた。
結心さんの瞳が、驚いたように見開かれる。つい口からこぼれた言葉だったけど、結心さんもしっかり応えてくれた。
「……私、空凪のことが好き。ずっと一緒にいたい」
言葉にすればするほど、心が熱くなる。結心さんは、ふっと微笑んで、それから——私の手を取った。指先に伝わる温もりが、私たちの未来を確かに繋いでいく気がした。
遠くの学校で、私たちはまた新しい日々を歩み始めるのだろう。
それは、たぶん不安なこともあるだろうし、決して楽しいことばかりではないかもしれない。
それでも。
——この手を、離さない限り。
私は、もう一人じゃない。私の心で春のつぼみがほころび始めていた。
そうはいっても、この街の冬は長くて、まだまだ寒い日が続いている。桜前線のニュースが連日報道されているけれど、この街に植えられた桜はまだ寒そうに過ごしている。
「空凪? どうかしたの?」
私の横にいる結心さんは、初めて出会った頃より本当に柔らかな表情を浮かべることが増えた。私以外のクラスメイトと話す機会はまだまだ少ないけど、葵ちゃんや唯菜ちゃんとはたまに話している。
そういえば、葵ちゃんが結心さんのことを薔薇に喩えていたけど、私のことを空色の薔薇って言ってったっけ。青いバラの花言葉はこれまで不可能とか存在しないだったけれど、実現してからは可能性とか奇跡とか、そんなポジティブな花言葉が付け加えられていた。
「この街は三月でもまだまだ寒いね」
両親の仕事の都合で転校ばかりの人生で、人との別れには慣れているつもりだった。でも、今だけは、その未来を想像したくなかった。結心さんと離れることを考えるだけで、胸が痛くなる。
——私は、また一人になるのだろうか。
「空凪」
不意に名前を呼ばれて、私は顔を上げた。
放課後の校舎。窓から差し込む夕日が、結心さんの横顔をオレンジ色に染めている。彼女は小さく息を吸い込んで、それから、まっすぐに私を見つめた。
「空凪はもう、高校選び……始めた?」
「……え?」
「もしよかったら、同じ高校を受けない?」
——一緒の高校に行く。
そんな発想をしたことがなかった。私はただ、別れの不安に怯えて、どうしようもないと思っていたのに。
「……そんな、こと……」
喉の奥が詰まる。言葉にならない想いが、胸の中で溢れそうになる。
「だ、だったらさ!」
問いかけられて、私はようやく気づいた。
結心さんは、私に「選ぶ」ことを与えてくれたんだ。これまで、私は流されるだけだった。転校も、別れも、仕方のないことだと諦めてきた。
でも、今——
「ちょっと、興味がある学校があるの。前の前に通ってた、小学校のある街にね、すごい女子校があるの。なんか、人気でね。制服も可愛くって……きっと、結心さんにも似合うと思うの。でも――」
「でも?」
「……遠いの。多分500キロくらい離れてる」
結心さんがこの街にどれくらい思い入れがあるかは分からない。私のわがままで、遠い場所まで一緒に来てくれるだろうか。
「そこ、寮とかないの?」
「あるよ。でも……いいの?」
もともと、寮のある学校に行けば転校についていかなくてもいいんじゃないかと思って調べ始めた学校だけど、中学受験の壁は高くて、諦めてしまった。
「受験に行くのも一苦労だよ」
「私は……離れたくない。空凪にもし、まだ転校の可能性があるなら、寮のある高校に一緒に行くのはいい選択肢だと思う。あとは、その学校じゃなきゃダメな理由をでっち上げて親と先生に理解を取り付ければいいんでしょう?」
そう微笑む結心さんがあまりに優しくて――
「好き」
思わず、口からこぼれた。
結心さんの瞳が、驚いたように見開かれる。つい口からこぼれた言葉だったけど、結心さんもしっかり応えてくれた。
「……私、空凪のことが好き。ずっと一緒にいたい」
言葉にすればするほど、心が熱くなる。結心さんは、ふっと微笑んで、それから——私の手を取った。指先に伝わる温もりが、私たちの未来を確かに繋いでいく気がした。
遠くの学校で、私たちはまた新しい日々を歩み始めるのだろう。
それは、たぶん不安なこともあるだろうし、決して楽しいことばかりではないかもしれない。
それでも。
——この手を、離さない限り。
私は、もう一人じゃない。私の心で春のつぼみがほころび始めていた。
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