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「真っ二つ……ブイ」
「そうだね」
雨月がVサインを私に見せてくる。ドラゴンは尻尾こそ多少繋がっているが、頭から胴体はぱっくり真っ二つだ。イメージ的にはアジフライに近い。
外側が上に倒れてくれたおかげで、ドラゴンの中身は見えていない。流石に内臓とか見たくないし。気づけば包丁はすっかり元の姿に戻っていて、雨月の手にも握られていた。剣(包丁)と魔法の世界、不思議なことだらけだ。
「お見事です!! さすがは英雄様方ですね」
エレノアもようやく安心したのかテンションが上がってきた。
「ありがとう! エレノアのおかげだよ」
「うん……。ありがと」
二人でエレノアにお礼を言った後、
「さてと、やろっか」
「うん」
私と雨月はドラゴンの解体を始めた。
「……これでよし」
鱗や皮、肉を切り取り、血抜きをする。ドラゴンの血を浴びると不死になるなんて伝説が地球にはあるが、普通にドラゴンが存在するこちら側ではそんなことはないらしい。昨日のうちにエレノアから教わったことだ。とはいえ、エレノアがくれたポーションのようにマジカルなアイテムを作る上ではかなりいい素材になるらしい。ポーションの空き瓶に血を流し込む。立派な三本角や牙もドラゴンが絶命した影響かあっさり回収できた。
「あの……このドラゴンは素材であっても食材ではありませんよ?」
「分かってるよ。でも、私達は食べたいから」
ドラゴンの肉を食べたという話は聞いたことがないけど、それでも私達には必要なのだ。
うちの食堂は以前、テレビ番組の企画で増えすぎた外来種を調理したことがあるお店なのだ。その時、せっかくなのでということで私たちも食べさせてもらった。その時の食材はカミツキガメとソウギョだった。どちらも驚くほど美味しかった。こうして命をいただいた以上、食べられる部分は食べるのが料理人としての流儀なのだ。手持ち無沙汰そうに解体の光景を眺めるエレノアに一つお願いをすることにした。
「解体に時間かかりそうだから、エレノアは洞窟の外にいる兵士さんたちに報告をお願い。ついでに、運び出すための人手も借りたい」
「分かりました。……その、初めて解体するのに手際がいいですね」
「うーん、生物の構造って超大雑把に言えばほぼ同じだし。どこに筋肉があって、どこが可食部位か、とか。じゃあ、よろしく」
洞窟を後にするエレノアを見送りながら、二人きりになったことで改めて雨月に問う。
「キスの時にさ……大好きって言ってくれたじゃん。その、どうしてかなーって」
「ずっと言いたかったから……。今だって思って。それでどうだった? 初めての感想は」
恥ずかしいから答えにくい質問をさらっとしてくる雨月。
「……よかった、かも」
「そっかぁ。じゃあさ、もう一回……」
「えっ!?もうちょっと待って……!」
雨月が私の首に腕を回してきて、ぐいっと引き寄せられる。そのまま唇を重ねようとした瞬間、
「お二人ともー。洞窟内が静かになったから兵士の皆さんけっこう近くまで来てました……よ?」
思ったより早く兵士さんたちを連れてエレノアが戻ってきてしまった。
「「あっ」」
お互いに顔を真っ赤にして離れる私達に、エレノアと兵士達はしばらくぽかんとしていた。
「ごめんなさい」
「すみません」
「いえ、その、大丈夫ですよ。皆さん、これがあの氷龍だったんですよ。ハルヒとウヅキが倒してくれたんです!!」
話を逸らすように、エレノアが解体途中のドラゴンを兵士たちに改めて見せる。あのドラゴンが討伐されたことを再認識した兵士の皆さんが勝どきを挙げる。
ふらっとやってきた異世界で、けっこうすごいことを成し遂げて、これだけの人の生活を守ったんだと、そういう実感がやっと私にも沸いてきた。
さて、解体ももうひと踏ん張りだし、頑張ろうか!
「そうだね」
雨月がVサインを私に見せてくる。ドラゴンは尻尾こそ多少繋がっているが、頭から胴体はぱっくり真っ二つだ。イメージ的にはアジフライに近い。
外側が上に倒れてくれたおかげで、ドラゴンの中身は見えていない。流石に内臓とか見たくないし。気づけば包丁はすっかり元の姿に戻っていて、雨月の手にも握られていた。剣(包丁)と魔法の世界、不思議なことだらけだ。
「お見事です!! さすがは英雄様方ですね」
エレノアもようやく安心したのかテンションが上がってきた。
「ありがとう! エレノアのおかげだよ」
「うん……。ありがと」
二人でエレノアにお礼を言った後、
「さてと、やろっか」
「うん」
私と雨月はドラゴンの解体を始めた。
「……これでよし」
鱗や皮、肉を切り取り、血抜きをする。ドラゴンの血を浴びると不死になるなんて伝説が地球にはあるが、普通にドラゴンが存在するこちら側ではそんなことはないらしい。昨日のうちにエレノアから教わったことだ。とはいえ、エレノアがくれたポーションのようにマジカルなアイテムを作る上ではかなりいい素材になるらしい。ポーションの空き瓶に血を流し込む。立派な三本角や牙もドラゴンが絶命した影響かあっさり回収できた。
「あの……このドラゴンは素材であっても食材ではありませんよ?」
「分かってるよ。でも、私達は食べたいから」
ドラゴンの肉を食べたという話は聞いたことがないけど、それでも私達には必要なのだ。
うちの食堂は以前、テレビ番組の企画で増えすぎた外来種を調理したことがあるお店なのだ。その時、せっかくなのでということで私たちも食べさせてもらった。その時の食材はカミツキガメとソウギョだった。どちらも驚くほど美味しかった。こうして命をいただいた以上、食べられる部分は食べるのが料理人としての流儀なのだ。手持ち無沙汰そうに解体の光景を眺めるエレノアに一つお願いをすることにした。
「解体に時間かかりそうだから、エレノアは洞窟の外にいる兵士さんたちに報告をお願い。ついでに、運び出すための人手も借りたい」
「分かりました。……その、初めて解体するのに手際がいいですね」
「うーん、生物の構造って超大雑把に言えばほぼ同じだし。どこに筋肉があって、どこが可食部位か、とか。じゃあ、よろしく」
洞窟を後にするエレノアを見送りながら、二人きりになったことで改めて雨月に問う。
「キスの時にさ……大好きって言ってくれたじゃん。その、どうしてかなーって」
「ずっと言いたかったから……。今だって思って。それでどうだった? 初めての感想は」
恥ずかしいから答えにくい質問をさらっとしてくる雨月。
「……よかった、かも」
「そっかぁ。じゃあさ、もう一回……」
「えっ!?もうちょっと待って……!」
雨月が私の首に腕を回してきて、ぐいっと引き寄せられる。そのまま唇を重ねようとした瞬間、
「お二人ともー。洞窟内が静かになったから兵士の皆さんけっこう近くまで来てました……よ?」
思ったより早く兵士さんたちを連れてエレノアが戻ってきてしまった。
「「あっ」」
お互いに顔を真っ赤にして離れる私達に、エレノアと兵士達はしばらくぽかんとしていた。
「ごめんなさい」
「すみません」
「いえ、その、大丈夫ですよ。皆さん、これがあの氷龍だったんですよ。ハルヒとウヅキが倒してくれたんです!!」
話を逸らすように、エレノアが解体途中のドラゴンを兵士たちに改めて見せる。あのドラゴンが討伐されたことを再認識した兵士の皆さんが勝どきを挙げる。
ふらっとやってきた異世界で、けっこうすごいことを成し遂げて、これだけの人の生活を守ったんだと、そういう実感がやっと私にも沸いてきた。
さて、解体ももうひと踏ん張りだし、頑張ろうか!
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