13 / 20
#12
しおりを挟む
昨日はパーティの立食形式だったが、今夜は王様もいる場での食事だ。お風呂上りの私たちは学生服を着て行儀よく食卓についた。
王様から簡易的ではあるがドラゴン討伐のお褒めをいただき、それと同時に明日の宴では私と雨月がドラゴンを調理して振る舞う許しを得た。
「ワシもまさかこの年でドラゴンを食すことになろうとは。長生きしてみるものじゃな。さて、明日の食事も楽しみだが今夜は宮廷料理をとくと堪能するといい。英雄殿はまだお酒を飲めないんだったな」
王様の言葉に私たちが頷くと、シャンパングラスのように細いグラスに注がれた炭酸水がサーブされた。味なしの炭酸水ならジンジャーエールの方がよかった……とは口にしないが。ともあれ乾杯をすると、まずは突き出しとして出された生ハムを挟んだ薄切りの黒パンを口にする。ほどよい塩気がこれからの食事を楽しみにさせる。黒パンもさほど固くなく、呼び水になったかのようにお腹が空いてくる。
次に出てきたのはシンプルなサラダだ。ただ、使われている野菜はおそらく地球上にはないもの。白菜の芯くらい黄色いが柔らかそうな葉物野菜にオイリーなドレッシングがかかっている。
「おいしい!」
「……いい歯ざわり」
少ない一皿で多くの種類を食べるというのが、こちらの世界での贅沢なのだろう。ドレッシングも風味豊かでオリーブオイルより少し甘いのが野菜と相性がよくてもう少し欲しくなるが、ここはぐっとこらえて次の料理を待つ。次に出てきたのはテリーヌみたいな、ボローニャソーセージのような、そんな感じの肉料理。肉の味わい深さはありつつ、意外と脂はきつくない。鶏肉に近い印象だ。
「おや、オードブルで三品かぁ」
「格式高いね」
「当然ですよ、宮廷料理ですもの」
三品目はフリットだった。おそらく、エビっぽいもの。なお食卓についているのは王様や王家の方々と私たちにエレノアとエリックさん。王家の方々とのおしゃべりはほぼエリックさんが請け負ってくれているおかげで、私と雨月は料理の味を覚えることに専念できる。このフリットは味こそ甲殻類系な感じだが、実は虫とかだったらそれはそれで困るなぁ。
ふと水に手を伸ばしそうになったが、慌てて引っ込める。フレンチと同じ順番であれば次はスープだ。
「こちら、カロットとセリッシュのスープになります」
給仕さんが持ってきたのは黄金色のスープ、浮いている野菜は黄色い人参みたいなものと、赤みがかったセロリみたいな野菜。スプーンを奥から手前に引きスープを掬う。匂いはコンソメほど明確ではないが、かすかに海鮮系のものを感じる。この国が海辺なのかどうかすら知らないけれど、さっきのフリットがエビ系であれば仕入れのルートがちゃんとあるのだろう。
「……いい味」
雨月も気に入ったようだ。鯛出汁ラーメンのスープをすごく優しくした感じの味わいだろうか。もう少しガツンときてくれてもいいが、格調高い料理なのであれば、こういうものだろう。
続いて出てきたのは魚介のパイ包み焼きのようなものだ。魚の身自体は淡泊ながらもしっかりと旨みがあり、バターとハーブで味付けされているのかほのかな酸味がある。添えられたソースはシチューのようにコクがあり、これもまた地球の食材で再現しがいのあるクオリティだ。
「この魚ってなんていうの?」
言語を翻訳する都合が、こちらの世界で使われる固有名詞は地球の言葉と少しだけ近しい時がある。そこにヒントがあるかもしれない。
「シビックフィッシュといいます。魚としては中くらいのサイズで、季節を問わず安価で私も好きな魚です。今回食べてもらったパイ包み焼きは家庭料理でもあり宮廷料理でもある……まぁ、国民食みたいなものです」
なるほど、名前からヒントは得られなかったし地球上の料理に喩えるのは難しいけど……サーモンに近いかな。色に囚われず味に集中すればちょっとそれっぽい気がしてきた。
続いて出されたのはソルベ、どうやらこっちの世界は魔法のおかげで氷の保存も用意らしい。柑橘っぽいさわやかな味わいで口がさっぱりする。さぁて、次はいよいよ肉料理ってことだね。
王様から簡易的ではあるがドラゴン討伐のお褒めをいただき、それと同時に明日の宴では私と雨月がドラゴンを調理して振る舞う許しを得た。
「ワシもまさかこの年でドラゴンを食すことになろうとは。長生きしてみるものじゃな。さて、明日の食事も楽しみだが今夜は宮廷料理をとくと堪能するといい。英雄殿はまだお酒を飲めないんだったな」
王様の言葉に私たちが頷くと、シャンパングラスのように細いグラスに注がれた炭酸水がサーブされた。味なしの炭酸水ならジンジャーエールの方がよかった……とは口にしないが。ともあれ乾杯をすると、まずは突き出しとして出された生ハムを挟んだ薄切りの黒パンを口にする。ほどよい塩気がこれからの食事を楽しみにさせる。黒パンもさほど固くなく、呼び水になったかのようにお腹が空いてくる。
次に出てきたのはシンプルなサラダだ。ただ、使われている野菜はおそらく地球上にはないもの。白菜の芯くらい黄色いが柔らかそうな葉物野菜にオイリーなドレッシングがかかっている。
「おいしい!」
「……いい歯ざわり」
少ない一皿で多くの種類を食べるというのが、こちらの世界での贅沢なのだろう。ドレッシングも風味豊かでオリーブオイルより少し甘いのが野菜と相性がよくてもう少し欲しくなるが、ここはぐっとこらえて次の料理を待つ。次に出てきたのはテリーヌみたいな、ボローニャソーセージのような、そんな感じの肉料理。肉の味わい深さはありつつ、意外と脂はきつくない。鶏肉に近い印象だ。
「おや、オードブルで三品かぁ」
「格式高いね」
「当然ですよ、宮廷料理ですもの」
三品目はフリットだった。おそらく、エビっぽいもの。なお食卓についているのは王様や王家の方々と私たちにエレノアとエリックさん。王家の方々とのおしゃべりはほぼエリックさんが請け負ってくれているおかげで、私と雨月は料理の味を覚えることに専念できる。このフリットは味こそ甲殻類系な感じだが、実は虫とかだったらそれはそれで困るなぁ。
ふと水に手を伸ばしそうになったが、慌てて引っ込める。フレンチと同じ順番であれば次はスープだ。
「こちら、カロットとセリッシュのスープになります」
給仕さんが持ってきたのは黄金色のスープ、浮いている野菜は黄色い人参みたいなものと、赤みがかったセロリみたいな野菜。スプーンを奥から手前に引きスープを掬う。匂いはコンソメほど明確ではないが、かすかに海鮮系のものを感じる。この国が海辺なのかどうかすら知らないけれど、さっきのフリットがエビ系であれば仕入れのルートがちゃんとあるのだろう。
「……いい味」
雨月も気に入ったようだ。鯛出汁ラーメンのスープをすごく優しくした感じの味わいだろうか。もう少しガツンときてくれてもいいが、格調高い料理なのであれば、こういうものだろう。
続いて出てきたのは魚介のパイ包み焼きのようなものだ。魚の身自体は淡泊ながらもしっかりと旨みがあり、バターとハーブで味付けされているのかほのかな酸味がある。添えられたソースはシチューのようにコクがあり、これもまた地球の食材で再現しがいのあるクオリティだ。
「この魚ってなんていうの?」
言語を翻訳する都合が、こちらの世界で使われる固有名詞は地球の言葉と少しだけ近しい時がある。そこにヒントがあるかもしれない。
「シビックフィッシュといいます。魚としては中くらいのサイズで、季節を問わず安価で私も好きな魚です。今回食べてもらったパイ包み焼きは家庭料理でもあり宮廷料理でもある……まぁ、国民食みたいなものです」
なるほど、名前からヒントは得られなかったし地球上の料理に喩えるのは難しいけど……サーモンに近いかな。色に囚われず味に集中すればちょっとそれっぽい気がしてきた。
続いて出されたのはソルベ、どうやらこっちの世界は魔法のおかげで氷の保存も用意らしい。柑橘っぽいさわやかな味わいで口がさっぱりする。さぁて、次はいよいよ肉料理ってことだね。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる